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第1章

アリーティナの穢れ2

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叩かれると思って目を閉じた瞬間、胸からパァと光が出てアリーティナは弾き飛ばされた。

何が起こったのかわからない。
だけど、光はペンダントから出ていた。

ペンダントを引っ張り出すと、まだ光り輝いている。
護るように私を包んだその光はとてもあたたかい神気を感じる。

「神様‥」
ポソリと呟く。
神様が私を護ってくれたのだとわかった。

弾かれたアリーティナはよろめいたが、頭を振って視線をあげた。

「それ、マークバルダ様にもらったの?あなたみたいな卑しい身分の者が神様から贈り物されるなんて間違いよ!!それは私の物だわ!」

渦巻いていた負の感情が一気をどす黒い穢れに変わってアリーティナを覆った。

どんな時も公爵令嬢としてのプライドをもつアリーティナはもういない。
悪意をむき出しにし、怒鳴り散らしながら手を伸ばしてくる彼女は別人だった。

リーナは初めて穢れをうんだ人を見た。
対処方法など本で習った程度。
まだ、神様とも結ばれていない不完全な力だ。

アリーティナの事は嫌いだけど‥
目の前の穢れを放置する事はできない。

私がアリーティナに手を伸ばしたのを見たラリーン先生は叫ぶ。

「やめなさい!力のない者が浄化すると穢れに巻き込まれるわ!穢れに気づいた聖女が来るわ、それまで待ちなさい!」

それがこの場の対応としては正解だ。
でもどんどん大きくなる穢れをみてアリーティナの闇落ちもそう時間はかからないとわかってしまう。
聖女が今から来たのでは間に合わない‥
そうなるとアリーティナは処刑されるしかなくなる。
嫌な奴だけど、見捨てられない。見捨てたくない。

ラリーン先生の方をみて笑う。

闇落ちすれば、もう取り返しはつかない。
今ならまだ穢れを浄化できるはずだ。

アリーティナの方をみて、もう一度手を伸ばす。
私の力で少しでも闇落ちを遅らせる事ができれば‥聖女が駆けつけてくれるまでもてば、アリーティナは助けられる。

私がアリーティナに触れた瞬間、黒い穢れは消え、アリーティナは優しい光に包まれた。

「何、このあたたかいものは‥」
アリーティナは涙を流し、その場に倒れこんだ。
アリーティナが意識をなくした事により負の感情がどの程度まで落ちたのかはわからない。
だけど、穢れはもう出ていない。

ホッとした私もその場に膝から崩れ落ちた。

「リーナさん!大丈夫ですか?」
ラリーン先生が駆け寄る。

私は大丈夫です。先生こそ顔色が真っ青ですが、大丈夫ですか?

そう言いたかったが、声もまともに出ないし体に力も入らず指すら動かせない。
私も限界を迎えていて、一言も言えないまま意識を失った。

「リーナさん!」
そのまま、倒れるリーナをラリーンは抱きかかえる。
スースーと眠っているだけのリーナをみてラリーンはホッと胸をなでおろした。

「まずい事態になってしまったわ。彼女達の事を隠しきれない。」
ラリーンはどうしようもできない事態に頭をかかえるしかなかった。

マークバルダ様から苦情がきた‥とアリーティナ嬢は言った。

なぜ、マークバルダ様はそんな事をしたのかとラリーンは初めて神に憤りを覚えた。
注意すれば、いじめはおさまると本気で思っていたのか。
マークバルダ様は神の中でもまっすぐな性格をしている。
アリーティナ嬢の性格や感情など全くふまえていないし、追い詰める事になるなんて考えなかったのだろう。
追い詰められた人がどうなるのか‥

穢れをうんだ事によりアリーティナ嬢はここを追われる。
そうなればリーナさんへの恨みはさらに強くなるだろう。
一時的に穢れを浄化しただけだ。アリーティナ嬢の気持ちが変わらなければ、すぐに穢れをうむ。

意識を失っているリーナとアリーティナを見て、ラリーンはこのまま何も起こらない事を祈るしかできなかった。

ラリーンがもっとリーナとアリーティナに注意して見ていれば‥
マークバルダが神官長に言いつけなければ‥
ここでアリーティナが闇落ちし、処刑されていれば‥
そもそも、こんな事件が起こっていなければ‥
そんな「たられば」を考えてもどうしようもないが、半年後に皆は考えずにいられない状況に陥る。

この事件をきっかけに最悪な未来へ向かう扉は開かれた。
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