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第3章

希望の神の役割

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「神様、ノルアの信頼をまず得ましょう。お互いに信頼関係がなければどうにもできません。」
リーナは神様と緊急会議を開く。
お父さんと仲が良かったマークバルダ様も呼んである。

「信頼関係‥どうすればできるのだ?」
神様は真剣に聞いている。

「えっと、話をしたり、一緒にご飯を食べたり一緒の時間を過ごしたりして心を開いてもらえたら‥いいなと。」
リーナも神様とノルアの関係性があまり良くないのはわかった。まずは仲良くならないといけない。

マークバルダ様はため息をつく。
「リーナ様、ヴォルティス様は神々とも必要がなければ自分から話しかけた事もない。今のノルアの状況でヴォルティス様から働きかけるのは無理だろう。」

「必要がなければ話しかける事がない?ではいつもどうやって過ごしていたのですか?」
一番古い神なら永い時間生きてきたはずなのに‥神々とも関わって来なかった?

「穢れで常に体調も悪かったしな、命の泉に浮かんでいたな。」
神様は当たり前のように答える。

「つまり、独りでずっと過ごしてきたと‥」
マークバルダ様を見た。

「ここ2年の方が数千年の会話量より多いと思うぞ?数年一言もしゃべらない事もあったな。私もこんなに話しているヴォルティス様を初めて見た。」
神様、今でも無口な方ですよね?
これでも数千年の間よりしゃべってるって。
もう声の出し方すら忘れそうですね、それ‥

「会話ってそもそも必要なのか?なくても困らないぞ。」
うん、神様ならそうかもしれないけど‥ノルアは違う。
今助けを求めているのだから、応えてあげないといけない。

「神様、マークバルダ様!ノルアと一緒に村や町を回りましょう。実際の人の様子を見たらもっと身近に考えられると思います。」
もう信頼関係を飛ばして希望の神の役割を一緒に考えていった方が良いと思った。





「で、こういうメンバーになりました!」
私と神様、お父さんの親友のマークバルダ様、人の情報に関してはルーマ様が詳しい。

ノルアは見るからに嫌そうな顔をしている。
「お前な、俺はお前に聞いただろう?何でこいつらが来るんだ?」
ノルアはため息をつく。

「何、こいつ。うまれたばかりの神のくせに‥」
ルーマ様がそこまでいうとマークバルダ様に止められた。

そのルーマ様の一言でノルアの表情が険しくなる。
「ノルア、確かにうまれたばっかりが悪いわけじゃない。でもノルアの態度にも問題がある。神様達はノルアよりずっと昔から生きているノルアの先輩達なんだよ。ちゃんと敬わないといけないの。敬語を使って。」

「何で俺が!」
ノルアは納得できないのだろう。リーナを睨みつけて怒鳴る。

「ノルアを助けてくれる神様達だから。ノルアはまだ独りでは生きていけないんだよ。誰かの助けが今はいる。きちんと挨拶をして。」

ノルアだってわかっている。独りで希望の神になる事などできないと‥
悔しそうにうつむいたまま、小さな声が出る。
「おはようございます‥」
ノルアは強がっているだけで根は真面目なんだろう。

「やればできるね!」
リーナはノルアの頭をグリグリ撫でた。

リーナの手を両手で握ったノルアは顔を真っ赤にしていた。
「やめろ、恥ずかしい!こんな事されたので初めてだ!」

「なら、抱きしめる方が良い?」
いい子ってギュッと抱きしめるのもありだ。そうするとネマはエヘヘと嬉しそうに笑っていた。

「はぁ?いや、それも無理だって。」
ノルアが慌てまくる様子が可愛かった。

その様子をヴォルティスは静かに見ている。
「ヴォルティス様、我慢です。相手は子どもです、警戒対象ではありません。」

「‥そんな事はわかっている。私もリーナにああいう事をされたいと思っただけだ。」
ヴォルティスはボソリという。

リーナ様に撫でられたいのか?
ヴォルティス様が頭を撫でられている姿を想像できない‥とマークバルダは思った。

「じゃあ、行こうか。」
神様が歩き出す。

「ルーマ、じゃあ打ち合わせ通りに頼む。」
神様はルーマに声をかけた。
そう前もって見せたい場所をピックアップしていたのだ。

「はい、承知しました!」

最初は活気のある街の市場、人々が希望に溢れていて活き活きと生活していた。
こういう場は穢れをうみにくい。
ノルアも人の世界が初めてであり、キョロキョロしながら楽しそうに見ていた。

次はある王国に向かった。王家の散財がひどく人々は持っていかれる税に疲れ果てていた。
耐えきれなくなり、クーデターを起こし王城に向かっている。
王達の贅沢ぶりもルーマ様の映像で見えている。
「どちらが悪いと思う?王に逆らう民?国民をかえりみない王?」
神様は静かに聞く。

その次に行ったのは日照りで作物が枯れ人々が倒れている村。
今日食べる物もない、後は死んでいくしかない状態だ。
誰の目も絶望の色をしていた。

「こんな事が‥」
ノルアは初めて人々の様子をみてショックを受けていた。
希望の神としての力を発揮できていないから世界に絶望が増えているらしい。
それによる死者や穢れの増加など問題となっている。
神々がいう神の役割と生態系の変化はそれが絡んでいるのだろう。

「絶望している人々に希望を与え導く。それは希望の神にしかできない大切な役割だ。」
神様はノルアに言う。

リーナだって目の前の光景が辛い。自分にできる事があればしたいと思う。
だけど、浄化しかできないリーナには穢れがうまれた後の対処しかできない。
希望の神はそうなる前に人々を救う。

「キースは言っていた。全ての者に希望を与える事などできないとな。」
マークバルダ様がお父さんの言葉を伝えてくれている。

「お前は選ばなければならない。誰に希望を与えるのかを。それにより他の誰かは不幸になる可能性がある。どうしたい?それを考えるのが希望の神の役割だ。」

ノルアは黙って真っ直ぐにマークバルダ様を見つめている。

「俺は‥」
ノルアは言葉が出てこない。

「正解なんてない。お前が人々の希望なんだから、お前が決めればいい。ヴォルティス様はお前にルーマをしばらく付けてくれるそうだ。もっと学べ、調べろ、誰の希望を叶えるのがお前の役割なのか考えろ。」

マークバルダ様の言葉は幼いノルアにはきついように聞こえるが、ノルアが神としてのやっていく為に必要な事なのだろう。

「キースもいつも悩んでいた。自分の出した結論が本当に正しかったのかと。そして、間違いに気づいた時の落ち込みもすごかった。」

マークバルダ様は昔の親友について昔を思い返しているように語る。
「だが、人々にはそんな顔を見せない。いつでも笑顔で任せておけと言っていた。キースは皆の希望の神なのだから、人々を明るく照らさなければならなかったんだ。」

「キースは強いのだな。」
ノルアはボソリと呟くように言う。

「お前も強いだろう。不安の中、誰かに助けを求めず、神になろうとする。わからない事だらけなのだろう?」
マークバルダ様はノルアを決して否定しない。優しく諭している。

「わからなければ皆に聞け。希望の神の役割は代われないが、一緒に考える事はできる。」
マークバルダ様は優しくノルアに言う。

「マークバルダ様はお父さんみたいですね。」
その様子を見ながら目に涙が浮かぶ。

「マークバルダがお父さんなのか?」
神様は驚きながら聞いてきた。

「そうですよ。厳しい事を言っているけど、ノルアの事を思って言っていますよね。ちゃんとフォローもしている。完璧なお父さんです。」
マークバルダ様を連れてきて正解だった。

「そんな‥リーナと私の深い絆が‥マークバルダに取られた。」
ブツブツと神様はつぶやいているが、ほっておこう。
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