わがまま妃はもう止まらない

みやちゃん

文字の大きさ
45 / 252

45

しおりを挟む
「冗談だ。話を聞こう。」
クリストファーは真顔になり、ブランに話を進めるように言った。

「本気だっただろうに、今更取り繕ってもカッコつかんぞ。」

「いいから早く話せ。」
クリストファーはこれ以上ミルアージュの機嫌を損ねるわけにはいかなかった。

「はいはい。まずレンラグス王家の関係性から説明しようか。現王には三人の王子と二人の王女がいる。正確にはいただろうが…第一王女、第三王子は亡くなっている。」

ブランが乾いた笑いをした。
第三王子が後継者争いの末、暗殺された事をクリストファーとミルアージュも知っていた。だからこそ、第二王女マリアはルーマンに避難していたのだから。

「実質、俺が第一王子である兄と後継者争いをしているが、マリアも王位継承権を持っている。」

「放棄はしなかったのか?」
王位継承権さえ放棄していれば命を狙われる恐れは減るはずだ。

「…できなかったのだ。王にとって子などただの道具に過ぎない。王位継承権を放棄するのと同時に他国へ嫁ぐ事になる。金で売られる為、その国での待遇など期待できない。」
ブランは淡々と話してはいるが、その静かさに怖さを感じる。
思うところも色々とあるのだろう。

「第一王女アミリーは嫁いだ先で暗殺されている。金と引き換えに売られたが、飽きてしまえば利益のない他国の王女という身分は邪魔なものだ。王にとっては娘の命など金が手に入ればどうでも良いのだろうがな。」

ブランからは憎しみすら感じる。
公式の場でもなくてもブランは一度も王と父とは呼ばなかった理由だろう。

「マリアは母が同じ私の実妹だ。マリアには王位継承権を放棄しないように言っていた。持っている間は他国へ出す事はできないからな。」

「…なぜマリア王女はルーマンに来たの?クリストファーへの関わりを見ても放棄が前提となる気がするんだけど。」

「王は病でもう長くない。その事に焦った第一王子が第三王子を暗殺したんだ。私はともかく自分を守るすべがないマリアが危険だったから、とりあえず逃した。王位継承権の放棄とクリストファーの側妃を狙っていると匂わせてな。」

「そんなものに私を利用するな。」

ミルアージュに距離を置かれるところだった。
クリストファーは勝手に巻き込まれた事にイラついていた。

ブランはクリストファーを無視して話を進める。いちいち反応していたら全く進まない。
「第一王子はもう王位継承権を奪われる事はないと油断する。なぜらなら継承権にはもしもの為にスペアがいるんだ。第一王子には子がおり私が死んでも困らないが、私にはいないからマリアがいなくなれば彼を生かすしかなくなる。」

「お兄様の子が継承権ではダメなの?」

「第一王子が継承権を外れる時点で子にも継承権はなくなる。」

レンラグス王家は子をたくさん作る意味が分かる気がする…
争うことが前提だからこそ、負けた者の一族も含め王位につけない仕組みになっているのだろう。

クリストファーをチラッと見て
「クリストファーならいくらマリアが誘惑しても、ミルアージュ以外目に入らないからただの時間稼ぎだけどな。そこまでは良かったのだが…」

ハァと息を吐いてからブランは話を続けた。

「マリアに毒をとらさせたのはミルアージュを巻き込む為だ。普通に依頼してもクリストファーは反発するだろうし、そもそも第一王子の介入を受けず、ミルアージュに頼む機会などないからな。」

「私?」
ミルアージュはキョトンとする。

「そう。うまくいけばミルアージュを手に入れられると思ったのも嘘ではないが、そうでなくてもマリアのルーマン滞在を伸ばし、私がルーマンに入る言い訳ができる。想定外だったのはマリアが口に入れたのがランケットだったという事だ。」

ブランはミルアージュを見て悲しそうにつぶやいた。

「本当はレンラグスの後継者となって堂々とミルアージュを迎えに来たかった…兄としてもマリアも守りきれなかったし、本当に情けないな…」

「ブラン…」
ミルアージュも何で返せばいいのかわからなかった。

「ミルアージュへの頼みとはなんだ?それともう一つ、マリアが摂取した毒を誰が入れたのかという事だが、心当たりはあるのか?」
クリストファーはブランとミルアージュが見つめあっているのに割り込んで質問した。

弱さを見せてミルアージュの気を引こうとするなんて…許さん。
メラメラとクリストファーからは殺気が出ている。

ブランも慣れたものでサラッと流した。

「心当たりはある…」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

嘘はあなたから教わりました

菜花
ファンタジー
公爵令嬢オリガは王太子ネストルの婚約者だった。だがノンナという令嬢が現れてから全てが変わった。平気で嘘をつかれ、約束を破られ、オリガは恋心を失った。カクヨム様でも公開中。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

私たちの離婚幸福論

桔梗
ファンタジー
ヴェルディア帝国の皇后として、順風満帆な人生を歩んでいたルシェル。 しかし、彼女の平穏な日々は、ノアの突然の記憶喪失によって崩れ去る。 彼はルシェルとの記憶だけを失い、代わりに”愛する女性”としてイザベルを迎え入れたのだった。 信じていた愛が消え、冷たく突き放されるルシェル。 だがそこに、隣国アンダルシア王国の皇太子ゼノンが現れ、驚くべき提案を持ちかける。 それは救済か、あるいは—— 真実を覆う闇の中、ルシェルの新たな運命が幕を開ける。

処理中です...