172 / 252
172
しおりを挟む
「どうした?楽しかったのだろう?」
クリストファーが怪訝そうな顔をしてミルアージュを覗き込んだ。
レンドランドと義母を訪ねた後、ミルアージュはクリストファーとワインを飲みながら今日の出来事を話していた。
その途中でミルアージュが難しい顔をして考え込むのをみてクリストファーは口を挟んだ。
「楽しかったわ。すごく歓迎してくれたし。」
「うん、関係が修復できて良かったな。」
少し沈んだ声のミルアージュにクリストファーはミルアージュの手を握った。
「お母様もレンドランドも私を誤解していたと何度も謝ってくれたのよ。でもそう見せていたのは私だわ。」
「そうだな、ミアは嫌われるように振る舞っていたな。」
「そう、あの時はそれが当然だと思っていたの…だけど、間違っていたのかもしれない…きちんと話しておけば、レンドランドやお母様を苦しめる事はなかったのかもしれない。」
ミルアージュはクリストファーの手を握り返した。
ミルアージュは義母に歓迎された。
だが、それ以上に何度も謝罪を受けた。
「本当にごめんなさい。私はあなたもレンドランドの事も理解していなかった。王族として生まれ育ったのに王族の責任と義務について何も考えてこなかった私は愚かだったわ…」
そう言って涙を流しながら謝罪する義母の姿を見てミルアージュは心を痛めていた。
大国で父王に愛され育てられた元アンロック女王は争いや政治に疎かった。
ミルアージュはレンドランドと後継者争いをしたくなかった。
義母には政治に巻き込まれないところで穏やかに過ごしてほしかった。
だからこそ、悪役に徹して距離を取ったのに。
結果、レンドランドは自殺未遂、義母は引退後も自責の念を持ち続ける事になってしまった。
「ミアが責任を感じる必要はないと思うがな。表面しかみていなかった奴らが悪い。」
クリストファーはそう言い切ったが、ミルアージュはそう思わなかった。
きちんと話をしていれば、レンドランドへの引き継ぎだってスムーズにいっただろうし、義母があそこまでミルアージュに対して自責の念を持たなくてもよかったかもしれない。
そんなミルアージュを見透かすようにクリストファーはため息をつく。
「ミア、この世には自己中心的な奴らも多い。だが、そうじゃない者たちも同じくらいいる。そういう者たちは人を不幸にして幸せにはなれない。レンドランド殿や義母上のようにな。」
「私が勝手にした事なのに…」
「じゃあ、レンドランド殿が自殺しミアが王位についていたらミアは幸せになったか?レンドランド殿はあの時、それが最善だと思っていたはずだ。」
ミルアージュは首を横に振った。
クリストファーはミルアージュに知っていて欲しかった。
自分の命を粗末にするミルアージュもそんなレンドランドと同じだと。
そう何度、念押しをしてもクリストファーは全く安心できなかった。
「この世は綺麗事だけではない。だが、人の犠牲の上で手に入れたものでは、人は本当の意味で幸せになんかなれない。だからミアも考えていこう、誰かを犠牲にする最善ではなくて、その他の選択肢を探そう。もちろんミアも犠牲にしない選択だ。」
ミルアージュは黙って話を聞いていた。
今日のレンドランドと義母の様子がよほど堪えたのだろう。
徐々にだが、ミルアージュも考えを変えてきている。
あと一押しか?落ち込みすぎたら困るが…
これでミルアージュが考え方を変えてくれれば儲け物だとクリストファーは思った。
クリストファーは口では他者の幸せについて言っていたが、心の中では他者などどうでもよかった。
ミルアージュが幸せになるなら誰を犠牲にしても罪悪感など抱かない自信があった。
だが、ミルアージュが幸せになる為には皆が幸せでいる必要がある。
だからこそ、クリストファーは皆の幸せを願うだけだ。
クリストファーが怪訝そうな顔をしてミルアージュを覗き込んだ。
レンドランドと義母を訪ねた後、ミルアージュはクリストファーとワインを飲みながら今日の出来事を話していた。
その途中でミルアージュが難しい顔をして考え込むのをみてクリストファーは口を挟んだ。
「楽しかったわ。すごく歓迎してくれたし。」
「うん、関係が修復できて良かったな。」
少し沈んだ声のミルアージュにクリストファーはミルアージュの手を握った。
「お母様もレンドランドも私を誤解していたと何度も謝ってくれたのよ。でもそう見せていたのは私だわ。」
「そうだな、ミアは嫌われるように振る舞っていたな。」
「そう、あの時はそれが当然だと思っていたの…だけど、間違っていたのかもしれない…きちんと話しておけば、レンドランドやお母様を苦しめる事はなかったのかもしれない。」
ミルアージュはクリストファーの手を握り返した。
ミルアージュは義母に歓迎された。
だが、それ以上に何度も謝罪を受けた。
「本当にごめんなさい。私はあなたもレンドランドの事も理解していなかった。王族として生まれ育ったのに王族の責任と義務について何も考えてこなかった私は愚かだったわ…」
そう言って涙を流しながら謝罪する義母の姿を見てミルアージュは心を痛めていた。
大国で父王に愛され育てられた元アンロック女王は争いや政治に疎かった。
ミルアージュはレンドランドと後継者争いをしたくなかった。
義母には政治に巻き込まれないところで穏やかに過ごしてほしかった。
だからこそ、悪役に徹して距離を取ったのに。
結果、レンドランドは自殺未遂、義母は引退後も自責の念を持ち続ける事になってしまった。
「ミアが責任を感じる必要はないと思うがな。表面しかみていなかった奴らが悪い。」
クリストファーはそう言い切ったが、ミルアージュはそう思わなかった。
きちんと話をしていれば、レンドランドへの引き継ぎだってスムーズにいっただろうし、義母があそこまでミルアージュに対して自責の念を持たなくてもよかったかもしれない。
そんなミルアージュを見透かすようにクリストファーはため息をつく。
「ミア、この世には自己中心的な奴らも多い。だが、そうじゃない者たちも同じくらいいる。そういう者たちは人を不幸にして幸せにはなれない。レンドランド殿や義母上のようにな。」
「私が勝手にした事なのに…」
「じゃあ、レンドランド殿が自殺しミアが王位についていたらミアは幸せになったか?レンドランド殿はあの時、それが最善だと思っていたはずだ。」
ミルアージュは首を横に振った。
クリストファーはミルアージュに知っていて欲しかった。
自分の命を粗末にするミルアージュもそんなレンドランドと同じだと。
そう何度、念押しをしてもクリストファーは全く安心できなかった。
「この世は綺麗事だけではない。だが、人の犠牲の上で手に入れたものでは、人は本当の意味で幸せになんかなれない。だからミアも考えていこう、誰かを犠牲にする最善ではなくて、その他の選択肢を探そう。もちろんミアも犠牲にしない選択だ。」
ミルアージュは黙って話を聞いていた。
今日のレンドランドと義母の様子がよほど堪えたのだろう。
徐々にだが、ミルアージュも考えを変えてきている。
あと一押しか?落ち込みすぎたら困るが…
これでミルアージュが考え方を変えてくれれば儲け物だとクリストファーは思った。
クリストファーは口では他者の幸せについて言っていたが、心の中では他者などどうでもよかった。
ミルアージュが幸せになるなら誰を犠牲にしても罪悪感など抱かない自信があった。
だが、ミルアージュが幸せになる為には皆が幸せでいる必要がある。
だからこそ、クリストファーは皆の幸せを願うだけだ。
1
あなたにおすすめの小説
貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ
凜
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます!
貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。
前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
嘘はあなたから教わりました
菜花
ファンタジー
公爵令嬢オリガは王太子ネストルの婚約者だった。だがノンナという令嬢が現れてから全てが変わった。平気で嘘をつかれ、約束を破られ、オリガは恋心を失った。カクヨム様でも公開中。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる