30 / 43

【第30話】 秘密の密談と兄たちの本音

しおりを挟む
密談場所は、市民が使っている古びた寺院の一室。

木の柱や古びた壁に囲まれ、かすかな蝋燭の灯りが揺れている。

外の世界の喧騒は届かず、静寂だけが支配する空間だった。

城や公爵邸では目立つため、慎重に行動しなければならなかった。





---



前夜、私は息を弾ませながら、急ぎ足でグラヴィスの元へ駆け込んだ。



「今回の密談、私も参加させてください――!」



グラヴィスは静かに首を振る。

「このような政は女性が関わるべきではありません。待っていてください」



でも私は負けずに食い下がった。

「この問題は、私の国と家族の問題でもあります!兄上達にもどうしても聞きたいことがあるのです!」



しばらくの沈黙。

部屋の空気が重く張りつめる中、グラヴィスは深いため息を吐き、肩を少し落とした。

「……確かに、今回はお母上も関わっていること。ジェニエットも知るべきかもしれない。……いいでしょう。同席させます」



胸が跳ね、心臓が痛いほど高鳴った。

「ありがとう、グラヴィス様!本当に大好きです♡ こんなに理解ある旦那様で幸せです。好き好き好き♡」

(あっ、ヤバっ!姫らしくないよね……?)と、冷や汗をかきながらそっと顔を上げる。



グラヴィスは私の頬にそっと手を添え、低く息を漏らした。

「……ッ。貴方という人は!なぜそんなに可愛らしいのです!私をこれ以上駄目な男にするつもりですかっ!」



ギュッと抱きしめられ、私は思わず体を委ねる。

(きゃぁぁぁ♡嬉しい♡ 頭がクラクラする…幸せすぎる…)



逞しい胸の温もりと、静かに香る香りに包まれながらも、私は明日の密談への覚悟を心に刻んだ。





---



翌日――



フードを深くかぶり、平民の衣装に変装した私たちは、古びた寺院に静かに到着した。

ドアを押すと、薄暗い室内にはすでに三人の兄上が待っていた。

私の姿を見た彼らの目が大きく見開かれる。



「ジェニエット!?なぜこんな所にいるんだい?危ないから帰りなさい!」

カーティス兄上の声は驚きと心配で震えていた。



「グラヴィス!何のつもりだ!?妹を巻き込むな!」

ドミニク兄上の視線は鋭く、怒りの色を帯びている。



「そうだ!ここは危険だ。すぐに帰るんだ!」

アドニス兄上も力強く言い放つ。



グラヴィスは静かに頭を下げ、落ち着いた声で答えた。

「皇子殿下、ジェニエット様を勝手に同席させたこと、申し訳ありません。しかし、今回の出来事はジェニエット様にも関わることです。お三人方にも伺いたいことがあるようです」



三皇子は一瞬、困惑の表情を浮かべ、互いに視線を交わす。

寺院の静寂に、微かな息遣いだけが響いた。



カーティスがゆっくりと口を開く。

「ここまで来てしまったなら、仕方ない…。ジェニエット、いったい何を話したいんだい?」



私は深く息を吸い、決意を込めて目を見据える。

「今回私がここに来たのは、お兄様達の本心を聞きたかったからです。母上は今回の戦の指揮権をドミニクお兄様に取らせようとしています。それは皇太子に据えるため…。お兄様方は、皇太子になりたいのですか?」



三人は一瞬沈黙。互いの視線が交錯する。

空気が張りつめ、寺院の蝋燭の炎さえも揺れるように思えた。



口火を切ったのはカーティス。

「本当に唐突だね。そんなことを僕に言っても良いのかい? お母上を裏切る事になるよ?」



私はしっかりと目を見据え、強い声で答える。

「はい。私はもう母上の言いなりにはなりません! お兄様達とずっと仲良くしていたい。そのためには本音で話し合います」



その決意を聞き、三皇子は順に本音を明かした。





---



カーティス

「……僕は皇帝になりたいと思っている。そのため日々努力してきた。しかし、兄弟を蹴落とすつもりはない」



ドミニク

「僕は……皇太子になりたくない。争いも嫌いだ。兄上が誠実で皇太子に相応しいことを知っている。将来は知識を生かして兄上を支えたい」



アドニス

「俺も皇太子にはならない。騎士として、カーティス兄上を武で支えたい」



三人の本音に、私の胸は熱くなる。

グラヴィスも静かに頷き、言葉を添えた。

「私も、今回の指揮権を任せるなら、戦の経験もあるカーティス殿下が最適だと考えています。いくら勝ち戦でも、戦経験の少ないドミニク殿下では現場判断が難しいでしょう」



カーティスは驚きつつ、皮肉げに笑った。

「意外だな。お前はてっきりアマデル皇妃側の人間だと思っていたが?」



グラヴィスは静かに答える。

「確かに、私はかつてアマデル皇妃側の人間でした。しかし、それはジェニエット様あればこそ…。そのジェニエット様が望むのであれば、私はアマデル皇妃を裏切ります」



驚く三皇子。私は思わずパンっと手を叩く。

「それでは、皆さんの意見は一致しましたね! これから私たちは同志です。母上の好きにはさせません!」



三兄弟は笑みを浮かべ、力強く頷いた。





---



カーティス

「ジェニエット、君はこんなに強い子だったのか。賛成だ、指揮権は私が取ろう」



ドミニク

「僕もそれでいい。ジェニエット、話し合う場を設けてくれてありがとう」



アドニス

「俺も賛成!皆で力を合わせよう!」



グラヴィスは私に微笑みながら、静かに付け加えた。

「明日、皇帝にカーティス殿下に指揮権をと進言します。私も側でお支えしますので、ご安心ください」



こうして、密やかな誓いが、私たちの絆を強くした。



母上の策略を乗り越えた、特別な夜――静かで、熱く、確かな決意に満ちた夜だった。





---



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

本の虫令嬢ですが「君が番だ! 間違いない」と、竜騎士様が迫ってきます

氷雨そら
恋愛
 本の虫として社交界に出ることもなく、婚約者もいないミリア。 「君が番だ! 間違いない」 (番とは……!)  今日も読書にいそしむミリアの前に現れたのは、王都にたった一人の竜騎士様。  本好き令嬢が、強引な竜騎士様に振り回される竜人の番ラブコメ。 小説家になろう様にも投稿しています。

婚活をがんばる枯葉令嬢は薔薇狼の執着にきづかない~なんで溺愛されてるの!?~

白井
恋愛
「我が伯爵家に貴様は相応しくない! 婚約は解消させてもらう」  枯葉のような地味な容姿が原因で家族から疎まれ、婚約者を姉に奪われたステラ。  土下座を強要され自分が悪いと納得しようとしたその時、謎の美形が跪いて手に口づけをする。  「美しき我が光……。やっと、お会いできましたね」  あなた誰!?  やたら綺麗な怪しい男から逃げようとするが、彼の執着は枯葉令嬢ステラの想像以上だった!  虐げられていた令嬢が男の正体を知り、幸せになる話。

【完結】身分を隠して恋文相談屋をしていたら、子犬系騎士様が毎日通ってくるんですが?

エス
恋愛
前世で日本の文房具好き書店員だった記憶を持つ伯爵令嬢ミリアンヌは、父との約束で、絶対に身分を明かさないことを条件に、変装してオリジナル文具を扱うお店《ことのは堂》を開店することに。  文具の販売はもちろん、手紙の代筆や添削を通して、ささやかながら誰かの想いを届ける手助けをしていた。  そんなある日、イケメン騎士レイが突然来店し、ミリアンヌにいきなり愛の告白!? 聞けば、以前ミリアンヌが代筆したラブレターに感動し、本当の筆者である彼女を探して、告白しに来たのだとか。  もちろんキッパリ断りましたが、それ以来、彼は毎日ミリアンヌ宛ての恋文を抱えてやって来るようになりまして。 「あなた宛の恋文の、添削お願いします!」  ......って言われましても、ねぇ?  レイの一途なアプローチに振り回されつつも、大好きな文房具に囲まれ、店主としての仕事を楽しむ日々。  お客様の相談にのったり、前世の知識を活かして、この世界にはない文房具を開発したり。  気づけば店は、騎士達から、果ては王城の使者までが買いに来る人気店に。お願いだから、身バレだけは勘弁してほしい!!  しかしついに、ミリアンヌの正体を知る者が、店にやって来て......!?  恋文から始まる、秘密だらけの恋とお仕事。果たしてその結末は!? ※ほかサイトで投稿していたものを、少し修正して投稿しています。

もう長くは生きられないので好きに行動したら、大好きな公爵令息に溺愛されました

Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユリアは、8歳の時に両親を亡くして以降、叔父に引き取られたものの、厄介者として虐げられて生きてきた。さらにこの世界では命を削る魔法と言われている、治癒魔法も長年強要され続けてきた。 そのせいで体はボロボロ、髪も真っ白になり、老婆の様な見た目になってしまったユリア。家の外にも出してもらえず、メイド以下の生活を強いられてきた。まさに、この世の地獄を味わっているユリアだが、“どんな時でも笑顔を忘れないで”という亡き母の言葉を胸に、どんなに辛くても笑顔を絶やすことはない。 そんな辛い生活の中、15歳になったユリアは貴族学院に入学する日を心待ちにしていた。なぜなら、昔自分を助けてくれた公爵令息、ブラックに会えるからだ。 「どうせもう私は長くは生きられない。それなら、ブラック様との思い出を作りたい」 そんな思いで、意気揚々と貴族学院の入学式に向かったユリア。そこで久しぶりに、ブラックとの再会を果たした。相変わらず自分に優しくしてくれるブラックに、ユリアはどんどん惹かれていく。 かつての友人達とも再開し、楽しい学院生活をスタートさせたかのように見えたのだが… ※虐げられてきたユリアが、幸せを掴むまでのお話しです。 ザ・王道シンデレラストーリーが書きたくて書いてみました。 よろしくお願いしますm(__)m

料理スキルしか取り柄がない令嬢ですが、冷徹騎士団長の胃袋を掴んだら国一番の寵姫になってしまいました

さくら
恋愛
婚約破棄された伯爵令嬢クラリッサ。 裁縫も舞踏も楽器も壊滅的、唯一の取り柄は――料理だけ。 「貴族の娘が台所仕事など恥だ」と笑われ、家からも見放され、辺境の冷徹騎士団長のもとへ“料理番”として嫁入りすることに。 恐れられる団長レオンハルトは無表情で冷徹。けれど、彼の皿はいつも空っぽで……? 温かいシチューで兵の心を癒し、香草の香りで団長の孤独を溶かす。気づけば彼の灰色の瞳は、わたしだけを見つめていた。 ――料理しかできないはずの私が、いつの間にか「国一番の寵姫」と呼ばれている!? 胃袋から始まるシンデレラストーリー、ここに開幕!

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

【完結】竜王の息子のお世話係なのですが、気付いたら正妻候補になっていました

七鳳
恋愛
竜王が治める王国で、落ちこぼれのエルフである主人公は、次代の竜王となる王子の乳母として仕えることになる。わがままで甘えん坊な彼に振り回されながらも、成長を見守る日々。しかし、王族の結婚制度が明かされるにつれ、彼女の立場は次第に変化していく。  「お前は俺のものだろ?」  次第に強まる独占欲、そして彼の真意に気づいたとき、主人公の運命は大きく動き出す。異種族の壁を超えたロマンスが紡ぐ、ほのぼのファンタジー! ※恋愛系、女主人公で書くのが初めてです。変な表現などがあったらコメント、感想で教えてください。 ※全60話程度で完結の予定です。 ※いいね&お気に入り登録励みになります!

【完結】戸籍ごと売られた無能令嬢ですが、子供になった冷徹魔導師の契約妻になりました

水都 ミナト
恋愛
最高峰の魔法の研究施設である魔塔。 そこでは、生活に不可欠な魔導具の生産や開発を行われている。 最愛の父と母を失い、継母に生家を乗っ取られ居場所を失ったシルファは、ついには戸籍ごと魔塔に売り飛ばされてしまった。 そんなシルファが配属されたのは、魔導具の『メンテナンス部』であった。 上層階ほど尊ばれ、難解な技術を必要とする部署が配置される魔塔において、メンテナンス部は最底辺の地下に位置している。 貴族の生まれながらも、魔法を発動することができないシルファは、唯一の取り柄である周囲の魔力を吸収して体内で中和する力を活かし、日々魔導具のメンテナンスに従事していた。 実家の後ろ盾を無くし、一人で粛々と生きていくと誓っていたシルファであったが、 上司に愛人になれと言い寄られて困り果てていたところ、突然魔塔の最高責任者ルーカスに呼びつけられる。 そこで知ったルーカスの秘密。 彼はとある事件で自分自身を守るために退行魔法で少年の姿になっていたのだ。 元の姿に戻るためには、シルファの力が必要だという。 戸惑うシルファに提案されたのは、互いの利のために結ぶ契約結婚であった。 シルファはルーカスに協力するため、そして自らの利のためにその提案に頷いた。 所詮はお飾りの妻。役目を果たすまでの仮の妻。 そう覚悟を決めようとしていたシルファに、ルーカスは「俺は、この先誰でもない、君だけを大切にすると誓う」と言う。 心が追いつかないまま始まったルーカスとの生活は温かく幸せに満ちていて、シルファは少しずつ失ったものを取り戻していく。 けれど、継母や上司の男の手が忍び寄り、シルファがようやく見つけた居場所が脅かされることになる。 シルファは自分の居場所を守り抜き、ルーカスの退行魔法を解除することができるのか―― ※他サイトでも公開しています

処理中です...