ポインセチアの咲く頃に

白石華

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それぞれのことと、それからのこと

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「今日も買ったなー。」
「お疲れさまでした、正さん。」

 商店街を歩きながら帰路に就くのだが今日も結構な買い物になったため、ぽくぽくと荷物を持って歩いていく。

「あと一週間しないうちに正月だし、そろそろ年越しだし。
 クリスマスが終わったら、あっという間に新年だね。」
「そうですね。今年は参拝は三が日過ぎてからにしましょう。」

 ミズキはすでに年越しの後の新年のことまで頭にあるらしい。

「そういえばミズキ。」
「何ですか?」
「俺がミズキと離れていた間、何していたの?」
「何って……。稲荷神社に戻って、藤さんに挨拶をして。」
「藤さん?」
「向こうの神社にいる藤の妖精です。前に言いませんでしたっけ?」
「ああ……藤の妖精なら聞いたことある。向こうはどうだった?」
「……ほぼ一年、姿を消していた間に大変なことになっていました。」
「えっ!? 大丈夫だったの!?」
「これはもう、向こうで何とかして貰うとしか言いようがなく。
 ひょっとしたら今年は私と正さんで初詣にも行かない方が。」

 事態はどうなっているのかさっぱりだったが、大変なことになっているのは伝わった。

「とりあえず、帰りましょう。」
「う、うん。そうだね……。」

 稲荷神社でどうなっているかが気がかりだが、触らぬ神に祟りなしというし、俺たちは何も触れないことにした。

 ・・・・・・。

 ―その頃、再び稲荷神社前では―

「どうも、ありがとうございました。」
「ありがとうございました。」

 穏やかそうな青年と、ツインテールの女の子が、ガイドとして案内していた青年に礼を言う。

「いえ。大丈夫です。来てくださってありがとうございました。」
「こちらこそ。旅館まで紹介していただけて。
 こういうところの昔ながらの旅館って、一度泊まってみたかったからよかったです。」
「ビスケットも美味しかったですよ。」
「それは何よりです。
 俺も……修行ばかりしていたから、こういう事に戻れてよかったなと。」
「修行……俺も修行した方がいいのかな。これからどうなるかもサッパリで。」
「あなたには自分の時間と仕事があるのでしょう。
 俺みたいな暇人と同じには見られないです。」
「そういっていただけると。俺も、そろそろなのかな。」
「何がです?」
「どっちにしてもいい、って言われたけど。
 最終的にはどちらにするのかを決める日が来るって。」
「……ふむ。どっちにしてもいい、ですか。」

 青年の沈んだような表情にガイドの青年は何かを見ていたようだったが、見ているだけで、それを口にはしなかった。

「まあ、そろそろ山登りも遭難が洒落にならない事になりそうですし。
 しばらくはそちらのお嬢さんに来ていただいてもいいんじゃないですか?」
「はい。新年のこと、茂樹さんの方でも知っておきたいです。」
「うーん……。ホノカちゃんにはまだ早いこととかあるし。
 俺が新年の里帰りから帰ってきてからね。」
「はいっ。」

 先のことはどうなるかは分からないけど。

「でも、そうですね。ここに来ると、妖精でも人間でも。相手が妖精の人間でも。
 やっていけるような気がして、ここに来たくなっちゃうんですよ。」
「そうですね。跡取り問題さえなければ、ここはいいところだと思いますよ。」
「住むのはまた、その時になったら選択肢の候補に入れておきます。」
「はい。」
「それじゃあ。」

 青年はガイドの青年に挨拶すると、駅の中に入っていった。

「……俺も、戻るとするか。」

 ガイドの青年は自分の腕をぎゅっと握ると、市街地の方へ戻っていった。
 
 俺がこれから経験するであろうことを、ここで先に過ごした人たちのそれぞれだった。

 ・・・・・・。

「ふー。帰った帰った。」
「ですね。」

 アパートの一室に戻ると、再び買ったものを片付けてリビング兼寝室に行く。 

「お茶、飲む?」
「はい。」

 今日もお茶を飲んで、今日買ったものをレンチンして温めては出していき、手元にあった買い物袋はポイ捨て袋として置いておく。これでなるべく、部屋に溜めておかないようにしていたのだった。

「今日も美味しかったですし、美味しいですね、正さん。」
「そうだねー。出来立てのものを買い食いするのは商店街とか観光地とかでやるけど。
 やっぱりいいものだね。」
「はい。」

 今日は店先の屋台料理も食べたし。持ち帰った料理でもすっかり、うまいもの充したと言えよう。

「んんー。」

 俺は一通り、クリスマスを終えた達成感で大きく伸びをする。

「お疲れさまでした、正さん。」
「ありがとう。ミズキも俺に付き合ってくれて、ありがとうね。」
「いえ、私はご相伴に預かっただけですから。」
「堅苦しいなー。大丈夫だって。
 クリスマスをだれかと暮らせるって、それだけでいいんだから。」
「正さんに、前にもそういう事、言われましたね。」
「ああ……うん、そうかな。そんなことを言ったような。」

 俺は記憶があやふやだが、確かにそう思っているから、俺のことだから酔った勢いで本音をポロリしたのだろう。きっと俺のことは寂しそうに見えたに違いない。

「何というか。」
「うん。」
「妖精の私でも、そういう風に言ってくださる方がいらっしゃるんだなと。」
「え、そう思ったの?」

 全然違っていた意見で俺は驚いた。

「はい。クリスマスに連れて回ってくださったり。
 誰かと過ごせるだけでいいって言ってくださったり。
 妖精に対しても、そう思ってくださるんだなって。」

 俺は酔った勢いの話だったが。ミズキはとても真剣である。自分にとって吐露する言葉でも他の人(妖精)には違って聞こえるんだなと思った。ミズキの場合も、ずっと眺めているだけだったって言っていたもんな。

「ははは。ありがとう、ミズキ。それならまた、乾杯する?」
「はい。」

 俺は気が大きくなって日本酒を開けて。ぐびぐびと飲んでいる内に。

「正さん。」
「んんー。なに?」

 またベロンベロンに酔っぱらっていた俺にミズキが声をかける。

「まだ、最後のイベントが残っています。」
「うんうん。……え?」
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