雨の小径

白石華

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雨の小径

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梅雨も真っ盛りのじめっとした日々。あたしは傘を差しながら友人のナツミちゃんと下校途中の道を歩いていた。

「はー。毎日、こうも雨だと靴も靴下も制服もビショビショになっちゃうね。」

「うん……。」

ナツミちゃんは無口な子で、いつも私が喋る方。でも相づちは必ず打ってくれるし、ゆっくりだけど返事もしてくれる。

「髪の毛もセットしがいがないね。」

人の話を聞くのが上手い子なのだった。言いながら、コッソリ縮毛矯正を掛けているセミロングの茶髪を撫でる。ナツミちゃんは自分の髪の毛にはうるさい。

「ねえ。アマミヤ。」

あたしの名字は雨宮。ナツミちゃんは私のことを名字で言う。

「なあにー?ナツミちゃん。」

「道、そろそろ曲がらないと。」

「あ。そうだ。」

お喋りに夢中になっていて気が付かなかったけど。大通りを曲がって小道に入らないと住宅街へ行けない。
あたしたちは家の帰り道が同じでマンションのお隣さん。
所謂、幼なじみなのである。

「ねえ。アマミヤ。」

「んー?」

珍しくナツミちゃんから声を掛けてきた。

「キスってしたことある?」

「へっ?」

いきなりの発言で目が丸くなってしまう。

「あたしはある。」

「ええええっ!?」

しかも爆弾発言。

どゆこと。

あたし、登下校は防犯上の意味もあって、いつも2人だったのに。

「だ……誰としたの?」

とりあえず確認してみる。ひょっとしたらマセて言ってみたとかだったりと、淡い期待も。

「家庭教師の先生。」

「……。」

ナツミちゃんは淡々と語る。低く、落ち着いた声がやけに大人っぽく聞こえてしまう。あたしは身体から力がどんどん抜けていくのを感じていた。

「試験でいい成績取れたから、ご褒美くださいって言ったらキスされた。」

「そんなアッサリしちゃっていいの!?」

「だって彼女いるし、先生。」

「……。」

二度目の絶句。

「先生も女の人でさ。教育学部通ってる女子大生。」

「へ?」

「で、帰国子女。キスは挨拶なんだって。」

「あ、ああ~。なるほどなるほど。」

理解したあたしはロックライブでのヘッドバッキング並みに頭を振る。

「という訳であたしはキスを経験済み。」

「そんなの経験に入らないって。」

「でもやり方、知ってるもん。」

「あー、うん、そうだけどさ。」

「それでアマミヤは経験ある?」

「う……。」

また話が戻ってきた。あるかないかと聞かれたら。

「ないけど。」

でもナツミちゃんだってそんなに変わらないじゃないか。言う相手が経験済みでも割と簡単に言うことができた。

「じゃあ、してみる?やり方、教えてあげる。」

「ふぇっ!?」

「やり方、下手だと甘く見られるよ。」

「ふえええっ!?」

ナツミちゃんがニヤリと笑って言ってくる。やっぱりあたしとは違っていた。経験済みだとこんなに変わるの?

「ほら。すっごい動揺してる。」

「だ、だって。知らないよそんなの。」

「うん。だからさ。」

「?」

「してみない?あたしとキス。」

そのとき。あたしは、今まで大人の階段を亀のように確実に、ゆっくりと上がっていたところを。
後ろからロケットに乗ったウサギに秒殺で追い抜かれ、月まで到達されたような表情をしていたのかもしれない。
例えも意味不明だった。

・・・・・・。

「それじゃ、してみるね。」

「う、うん。あんまり変なことはしないでね。」

いつの間にかナツミちゃんとキスすることになったあたし。
身体を縮み込ませてナツミちゃんが来るのを待っていた。

「ん……目、瞑って。やりづらい。」

「うん。」

頷き、目を閉じると肩にナツミちゃんの手が乗る。

「あ……む、ん。」

唇がくっつくのと同時にナツミちゃんの髪が揺れて毛先が首に当たる。ツヤツヤでサラサラで、雨の匂いがした。
唇が当たったことより驚いたな、と思う。

「んっ、んっ、ん……っ。」

「やっ、あっ。んん……あっ。」

唇だけなのに何度も動かして逃げるあたしを追い詰めてくる。

「ん……。」

あたしが逃げなくなったら動きも止まり、合わせるだけになった。
そうして、しばらくの間、くっつけていると。ナツミちゃんの方から唇を離してきた。

「お疲れ様、アマミヤ。」

「う……うん。」

声を掛けられても何と返答していいものやら。

「うん。アマミヤとのは追い掛けたくなるキスだった。」

「あんまり感想、言わないでよ~。」

「ん、ゴメン。先生にされたときはあたしがマグロだったからさ。」

「マグロ?」

「知らないならいいや。とにかく帰ろう?」

言うと傘を自分に寄せてスタスタと歩き出す。

「待って、1人にしないで~。」

あたしは慌てて追うことに。

「アマミヤ。キスのやる気って本人の経験とあんま関係ないんだね。アマミヤとだからしたくなるんだ。」

「何言ってるのー!?」

もうあたしはどうしたらいいのか分からなかった。
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