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4.婚約者

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僕は一足先に教室へ入った。

「わあー!広ー…くはないけどまぁいいや!」

僕は黒板に書いてあった自分の席に荷物を投げ置き、グルグルとあちこちを回る。

「へぇー。ふぅーん。ほぉー!」

先生の机の席の中を覗いたり、黒板に前世の高校生のときに親友の黒木から教えてもらったドラ○モンを書いたりしている。
そしてふと思いついて学校で習ったすべての公式やその公式に適当な数字を当てはめて解いたりしている。
黒板の隅から隅まで数字や文字や絵に埋め尽くされたときだった。

ずっと僕しかいなかった教室へ歩いてくるたくさんの足音。

「お、みんな来た!」

僕は嬉しそうに叫びつつ、慌ててそれをすべて消す。
そして風のようなスピードで自分の席に着席したその時、

「校門の前にイケメンなお兄さんがいたねー!」

と話しながら歩いてくる仲のいいらしい女子のグループ。

「そうだね!誰かを待ってたのかな?」
「私、あの人知ってるよ!」
「え?誰なの?!」

すると聞かれた一人の可愛らしい女の子が僕のもとにやってきて

「この子のお兄さんだよ、ね!」
「へ?」

突然の僕が注目される出来事が起きた。

「今朝、一緒に歩いてたでしょ?私見たもん!」

とニッコニコの笑顔で胸を張る女の子。
そんな女の子が僕に向き直ると、ニッコリと笑って手を差し出してくる。

「私、スィーファリア・エンジュ!よろしくね!」

僕はこの世界では同世代の友達が悲しい事に男女共にいなかったので、テンパってしまう。

「あ、あ…。レ……ソラ・オーマチです。」

あ、危なかった~。本名出すとこだった…。
デュラにあんなこと言ったのに…自分が虚しい…。

しかし、内心汗だくの僕に気づくことはなく、スィーファリアは人懐こい笑みを浮かべ、僕の手を無理やり取る。

その時、僕はスィーファリアに誰かの面影を感じたが、思い出せなかった。

すると、スィーファリアは僕の手を握りながら引っ張る。

「ねぇ、お花畑があったの!一緒に見に行こうよ!」

とスィーファリアは無邪気に教室から走り出る。
そこから長らく走ったあと、本当にお花畑…いや、庭に着いた。

「エ、エンジュさん…?」

と僕が声をかけると、フワリ、とこちらを振り向いたスィーファリア。
そして優雅に笑いかけてくる。

その笑顔にはやはり見覚えがあって。
見惚れと思考にぼぅっとしていると、

「殿下!」

と僕の敬称を呼び、抱きついてきたスィーファリア。

「へ?」

僕は慌てて受け止めた。
スィーファリアは僕の胸から見上げてきた。
そして不満そうな表情。

「覚えておいておられないのですか?昔はスィーと名乗っておりました。殿下の婚約者にございます!」
「え?スィー……って、あ、ああああ!」

そうだ!
だから見覚えがあったのか!

こんな僕だが、友達は居なかったが婚約者は居る。
その子の名前はスィー・レンジェ。

義父が連れてきた、ものすごい美少女で、金髪、青い瞳、おとなしい性格、甘えん坊、文武両道というすべてが揃った完璧少女である。

しかし、5年前から全く会っていないため、すっかり忘れていた。

ちなみに僕より1歳年下である。

「え、スィーって、本当は僕と同じ歳なの?」


聞いてみる。スィーファリア…いや、スィーはフルフルと首を横に振る。

「いいえ。今は9歳ですよ?」
「え?じゃあ、なんで…。」
「もちろん!殿下に会うためです!まぁ、警備が薄い学校の中での護衛ということもありますが…。」

 と言いながらスィーはちらりと腰につけているレイピアを見せる。

「何かあったら私が身を呈して殿下をお守りします!この命に替えてもっ!」

と言い放つスィーに僕は肩を落とす。

「いや、命だけは替えないで…。」

なんで僕の周りにはこういう情熱的な人ばっかりなのだろうか。

でも、前世ではこんな扱いはされなかったから少しだけ嬉しい僕であった。

(まぁ、使い捨ての日用品扱いだったしねぇ…。)

そう考えていると、スィーがこちらを見てニッコリと笑う。
僕は思わず笑い返す。

やっべぇぇ、可愛いっ……!

自分の婚約者が可愛すぎる件について。
思わず悶える僕である。

結局、その後に僕らは急いで教室へ戻ると無邪気に話しかけてくるスィーが可愛かった。

「ソラくんって、どこに住んでるの?」
「ん?ランヴァース協会のあたりかなー。」
「へぇ!」
「エンジュさんもなんで剣を持ってるの?ここは魔法学校でしょ?」
「私ね、単体で魔法使うより、剣を媒介にして魔法使う方が得意なの!」
「付与魔法ってこと?」
「それそれ!」
「凄いね…!」

子供の頃に少しだけ戻れたようでとても楽しい。

昔は僕もわがままを言う王子様だったんだよな…。そんな僕のわがままをスィーは軽くいなしてくれた。
でも、暗殺者を始めてからわがままを言ったのは手のひらの中で収まる程度しかない…かも。

ニコニコと笑い話し続けるスィーを見て僕はなんだか寂しい気持ちになった。

(君だけはこんな気持ちにさせはしない。君が僕を守るのなら、僕は君を守ろう。)

その刹那、

「あーい。席に座れー!」

と入ってきたのは…門を開いていた先生。
先生も僕を見て驚いていたが、すぐに笑いかけてくれた。

「えー。今日から君たちの担当となった、ダンガース・ディオガーだ。ダン先生って呼んでくれ。」

そんなことを言う先生だが、相手はいたずら好きの小僧共。

「はーい、しっつもーん!」

と手を上げた生徒は

「モテますか?」

という容赦ない質問とともに

「ダンガース!」

と呼び捨ての始末。
僕は目を見開いてポカーンとしていたのだが、その様子を見て、隣の席に座っているスィーはクスクスと笑い始める。

「殿下、これが普通なのですよ。」

小声で教えてくれた。
これが…普通…。
先生を、呼び捨てで呼ぶのが…普通…。

…………あ、無理だ。

どうしても敬語使っちゃうし、先生って呼んじゃう。
僕は普通じゃない…!!

泣きそうになる僕を見てスィーはニッコリと笑う。

「でも、人それぞれですから。殿下は殿下の接し方でいいんですよ。」

僕は小さく頷いた。

優しい…。かわいい…。やばい、最強っ…!

あまりの可愛さに夢見心地な僕であった。
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