魔女占いのミミー

緑川らあず

文字の大きさ
15 / 15

15.エピローグ~ミミーの魔女占い

しおりを挟む
 クセングロッドの町からは魔女が消えた。
 女王と領主の話し合いにより、ミミーの罪は取り下げられた。その代わりに、この町に魔女が足を踏み入れることは二度と許されなくなった。
 カブンの家族たちと再会したミミーは、泣きながら一人一人と抱き合った。
 デュールは見つからなかった。城の周りをいくら探しても、その姿はどこにもなかった。塔の上から飛んでしまったデュール……かわいそうなデュール。でもきっと、デュールは本当に楽園へ行ったのだと、ミミーはそう信じた。
 仲間とともに王国に戻ったミミーは、しばらくの休息を許された。シルヴァーのカブンの家で、姉や妹たちに囲まれて、小さな魔女は少しずつ、その心の疲れを癒していった。
 ときおり、町でのこと、城でのこと、そしてデュールのことを思い返し、涙にくれることもあった。本当の心の傷は決して消えはしない。ただ、それは深い沼に沈んでゆくように、少しずつ、少しずつ水面の波紋は小さくなる。時間とともに、ただゆっくりと。
 ソーウィンの祭りを仲間たちと王国で過ごし、次のユールを迎える頃になると、しだいにミミーはかつての明るさを取り戻していった。そして、その心に安らぎをもたらしてくれる仲間、カブンの家族たち、そして王国のすべての魔女たちに、心からの感謝を感じるようになった。
 ミミーはいつかまた、女王に会い、自分の心のうちに大きな喜びと輝きを与えたくれたことに、お礼を述べたいと思った。そして、自分はこのことでまた強くなれると思った。
 十五歳で迎えた翌年の春分の祭りで、ミミーは春の女王に選ばれた。祝福する仲間たちの前で、花の冠をかぶったミミーは晴れやかに微笑んだ。
 彼女はひとつまた大人になり、優しさと強さを、まとっていった。
 そして、ミミーはまた旅立った。

 ビョールティナ、ルーナサー、そしてまたソーウィンと、季節はめぐり、
 ミミーは十六歳になっていた。


            Ending BGM “Silent Rain”   by TEN








 きらきらと光る海辺と、いくつもの船が停泊する港を見下ろすように、緑に囲まれた高台があった。
 「ミミー・シルヴァー、占います」という看板のかかげられた、赤いレンガ作りの家。
 通りをゆく人々がついつい覗き込まずにはいられない、楽しそうな飾り文字の下がった窓から覗くと、ハーブの香りが漂う店内には、パステットという名の大きな黒猫がいる。ふだんは窓辺のバスケットの中であくびをしているが、占いの客が来ればさっと耳を立て、その緑色の目をきらきらと輝かせる。
「いらっしゃい。なにを占いでしょう?」
 店に入ると、心踊るような明るい声で、すらりとした少女が出迎える。長い手足に、綺麗な白い肌、かつては土のような茶色だった髪は、今では黒みがかった美しい栗色になり、まっすぐに背中に垂らしている。
 一級魔女の資格をもつものが着ることを許される、真っ白のローブに身を包み、その手に水晶のペンデュラムを光らせて。喜びも悲しみも知ったようなそのまなざしと、やわらかに微笑む口元に魅了されていると、細くしなやかな指先が文字盤をなぞり、もう占いが始まっている。
「大いなるアラディアの名のもとに」
 神秘的な、澄んだ美しい声が告げる。
「過去と未来を摘み集め、ときのおりなすタペストリーを、ほんのひととき垣間見ん。汝の求めるさだめし相手、さだめし行い、さだめし言葉はここにあり」
 水晶玉の向こうで、遠くを見つめている少女の目が、なにかをとらえたように光った。
「さあ、分かりました」
 その手のペンデュラムを揺らめかせ、
「そう……きっと、あなたの望みはかなうでしょう」
 占い魔女のミミー・シルヴァーがまっすぐにこちらを見る。
 そして、やわらかな微笑みを浮かべるのだ。
「未来を、信じてください」


  (完)
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

可愛らしい人

はるきりょう
恋愛
「でも、ライアン様には、エレナ様がいらっしゃるのでは?」 「ああ、エレナね。よく勘違いされるんだけど、エレナとは婚約者でも何でもないんだ。ただの幼馴染み」 「それにあいつはひとりで生きていけるから」 女性ながらに剣術を学ぶエレナは可愛げがないという理由で、ほとんど婚約者同然の幼馴染から捨てられる。 けれど、 「エレナ嬢」 「なんでしょうか?」 「今日の夜会のパートナーはお決まりですか?」  その言葉でパートナー同伴の夜会に招待されていたことを思い出した。いつものとおりライアンと一緒に行くと思っていたので参加の返事を出していたのだ。 「……いいえ」  当日の欠席は著しく評価を下げる。今後、家庭教師として仕事をしていきたいと考えるのであれば、父親か兄に頼んででも行った方がいいだろう。 「よければ僕と一緒に行きませんか?」

〖完結〗終着駅のパッセージ

苺迷音
恋愛
分厚い眼鏡と、ひっつめた髪を毛糸帽で覆う女性・カレン。 彼女はとある想いを胸に北へ向かう蒸気機関車に乗っていた。 王都から離れてゆく車窓を眺めながら、カレンは振り返る。 夫と婚姻してから三年という長い時間。 その間に夫が帰宅したのは数えるほどだった。 ※ご覧いただけましたらとても嬉しいです。よろしくお願いいたします。

処理中です...