Clear Color

松山秋ノブ

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Clear Color.6(Side B)

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    仕事場に着くと、看板の出し入れや転送電話の解除など一定の作業を行い、受付のオフィスチェアに腰を下ろした。イスには昨年卒業していった生徒が置いていったクッションが敷いてある。おそらく持って帰るのが面倒だったというのが一番の理由のようだが、丁度良い具合のふかふかさであるこのクッションを置いていくのは本当に勿体ない気持ちになる。どういう神経をしてこのクッションを置いていったのだろうか。ずっと座っていて、段々と飽きてしまったのか、愛着はないのか、そもそも親が買ってあげたものだろうに、親は何も言わないのか。そこまで考えると、僕はいつも思考を停止させる。もうその生徒はいないのだから、答えなんて出やしないのだ。そもそもそこまで色々考えるような人間がモノをぞんざいに扱うはずがない。きっと何も考えてはいないのだ。多少なりの考えの中で出した結論が「クッションを置いていく」ということなのである。大体、世の中には考えることは他にもたくさんある。たかがクッションごときでそんなに考えることはない。僕は昔から色々と考え過ぎるのだ。このクッションを毎日使っている受付の山中さんからもよく「そこまで考える人なんていませんよ」と釘を刺される。僕よりも1才年上とはいえ同年代の山中さんが言うのだから、本当に僕は余計な事まで考えてしまうのだろう。そんな自分に嫌気がさして、最近では適当に思考を止めてしまっている。

 金曜はこうして至極適当に仕事が進んでいく。山中さんは夕方前まで来ないし、金曜は教室長が休みの曜日。つまり僕以外には誰もいない。受付のイスである程度の時間を過ごし、来客の気配が無いとわかると、講師室に引っ込む。講師室と言っても長期の講習の時には教室に変わる仮教室で、専用の机も無いし、イスも生徒が座る木の硬いものだ。これに長時間好んで座っている生徒たちは変な性癖を持っているのではないかと感じてしまう。それもあり、特に女生徒はクッションを持参するのだ。そんなイスに座るのは嫌なのだが、講師室は入り口から死角となっていて、外からは全く見えない。講師室に籠って好き勝手時間を過ごすことが金曜日の日課だ。とは言っても、結局やることなんか限られていて、だらだらと飯を食ったり、携帯ゲーム機で遊んだりするくらいしかない。それでも大の大人が勤務時間中に誰からも咎められずにサボタージュできることをストレスの発散場所にしていた。人に見える努力だけに精を出して、乗せられて偉くなってしまった僕の真骨頂なのかもしれない。別に受付のイスでもサボろうと思えばサボれる。そこそこ流行っていているけれど、爆発的な人気がある訳ではないから昼間の早い時間から客が来ることはほぼない。来ても宅配系の人くらいだ。それでもそこでサボらないのは、用心のためだからなのか、それとも少しの罪悪感を感じられるほどの良心が残っているのか、今の僕には分からない。それも考えて途中で止める。考え過ぎは良くないのだ。

 今日もいつもの金曜日と同じように講師室に引っ込んでゲームをしていた。少し前に流行った推理ゲームはもうクリアするのは4回目だったけれど、定期的に無性にやりたくなる。ゲーマーなのに飽きっぽくないところは経済的にも助かっている。ゲームのキャラがまた事件の真相を解き明かそうとしている時、珍しくドアが開く音がした。僕は慌ててゲーム機をしまう。一瞬で表情を作り変えて入り口に出ると、そこに立っていたのは、見知らぬ高校生くらいの女の子だった。
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