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松山秋ノブ

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 その日から、橋本の毎日は変わっていった。まだ平河さんと話すことは出来なかったけれど、目の前にいる彼女の姿や仕草を追うことが楽しみでならなかった。どんな淀んだ灰色の世界も、嘘か本当か分からないクラスメートの顔も、そんなものの憂鬱は全て飛んで行ってしまった。カンセイの改革?えっ?それってミズノ?それともマツダイラ?アホみたいなクラスメートの会話は宙に浮いていって、振り向いたら平河さんだけが残った。いつの間にか橋本は学校に行くことが好きになっていった。それに連れて毎朝学校に行く時間も早くなった。クラスの最後の方に登校していた橋本が、真ん中に、10番以内に、3番目に、そしてクラスの誰よりも早く登校するのがもはや当たり前になった。誰よりも早く登校するようになって分かったことがある。朝の学校の空気。朝もやがかった風に光が差すと、空気が透き通って見える。透き通った空気に鼻を突きだすと、自分が透明になった気分になった。どんなものも見透かせる気がした。一番に登校して後ろの棚に腰をかける。窓際に体を寄せて、校門の辺りをじっと見つめていた。こうして高い場所から眠そうな目の生徒を見ていると、何だか誰も嘘をついていないような気がした。不思議と授業が始まるとまた嘘が渦巻いているような感覚になったが、あの眠そうな顔だけは何よりも真実を映し出している。その瞬間を見ることが好きだった。その内、大川を始めとして橋本のグループのメンバーも早く登校するようになって、ゆっくりと観察できることはなくなったけれど、あの嘘の無い顔を見れたことは橋本にとって大きかった。今まで斜に構えていた気持ちが解けていくのが分かった。自分でも驚くほどに優しくなっていくのも感じていた。これもすべて平河さんのおかげだった。相変わらずまだ話すことは出来なかったけれど、いつか絶対にお礼を言おうと思った。優しい顔で平河さんを見ていると、もう自分は聖母を見つめる神になったような気がする。神も仏も信じてはいなかったけれど、そう思った。世界の始まりの日はきっとこういう日だったのだろう。


 平河さんのことは未だに良く分からなかった。クラスメートはおろか、部活動が同じ女子も平河さんと話すことは緊張するみたいだった。授業も真面目に受けているし、遊んでいるようにも見えない。普通、ここまでの女子であれば、むしろいけすかないとか何とか言って嫌ってもいいようなものなのに、その神聖な空気に、みんなは嫌うどころか、何か近寄ってはいけない綺麗なもののように彼女のことを見ているだけだった。あんなに社交性のある大川も隣に座る平河さんに話しかけることは出来なかったのだ。もちろん橋本もそうだった。ただ、橋本が一番最初に登校すると、二番目に登校するのは決まって平河さんだった。だから毎朝、おはよう、という挨拶だけは交わした。そんなことをしている男子はきっと橋本だけだったから、橋本はそれだけで十分だった。


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