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Clear Color.17(Side B)
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「それで、結局モリーは来週の火曜日も行くの?」
日曜日の午後にビール缶を片手に仲元が尋ねた。こうして日曜日にまだ陽が明るい内から飲むことが僕らの楽しみになっていた。今日もいつものように僕は昼からビールを飲んでいた。大抵はひとりで飲んでいるのだが、今日は先日のことを話したくて仲元を呼んでいた。仲元は不思議そうな顔をしながらも終始ニコニコして話を聞いていた。何か話をする時には仲元に限る。仲元は本当に聞き上手だと思う。こちらが話しているときに集中して話を聞いていることは少ない。話を聞いているのかと疑いたくなる時もある。しかし、こちらが話したことを正確に反復して相槌を打つし、こちらが返してほしい相槌も打てる。むしろ集中して聞かれている方が、話のオチは大丈夫かなど心配しなくちゃいけないので大変に感じてしまう。仲元くらいのスタンスが一番楽だし良かった。
その仲元が逆に質問をしてきた。それも僕が予想もしないところから。不意すぎて、冷静に質問の答えを考えてしまった。
彼女と公園に行ったあの日、僕は不思議でしょうがなかった。この公園に来たところで絶対にミサは見つかることはないし、手がかりもないだろう。だから、どうしてこの場所に来たのかを彼女に訊きたかった。何か考えがあるのか、それとも本当にこんな場所にでも手がかりが残っているのか、それとも僕をからかっているのか。そもそもミサは何で失踪をしてしまったのか、それも全く分からなかった。訊きたいことが山ほどあったのに、言葉が出なかった。その代わりにブランコに乗るときに笑ってしまった。蚕の話をしながら、今度こそ訊こうと思ったけれど、飛べない蚕蛾の話をしながら、彼女が少し震えていることに気付いた。泣いているのかもしれなかった。いや、泣いていないかもしれなかった。春とはいえ、まだ完全に暖かいとはいえない。ただ震えていただけかもしれない。でも僕には分らなかった。今まで泣いた女性を見たことがなかったから。けれど、やっぱり理由はどうであれ、震えている彼女を前に言葉が全て喉の奥へと消えていった。もう何も訊けないと思ったのだ。ついでにだけど、震えていた彼女は蚕蛾が飛べない翅を震わせている姿に似ているかもしれなかった。これも見たことがないから分からないけれど、ちょっとそう思ってしまった。無言で僕らは駅に向かい、途中で彼女が来週も付き合ってもらえるか、という確認だけをしてきた。不思議なことはたくさんあったけれど、やはり彼女のことを放っておけない。それにミサのことも放ってはおけない。
「あぁ、うん、一応ね」
僕はちょっと言葉に引っ掛かりながら答えた。あぁ、そう。と言いながら仲元はまた少しビールを含んだ。窓際で飲んでいた僕のビール瓶からは水滴が浮いてきて、床が少し濡れていた。
「まぁ、モリーは昔から変に優しさを見せる時があるからね」
『変に』という部分が若干引っ掛かったが、まぁ優しいと誉められているので悪い気はしなかった。濡れた床の部分を手で触れながら、次こそはきっとミサのことや彼女のことを訊かなくちゃいけない、と思った。
日曜日の午後にビール缶を片手に仲元が尋ねた。こうして日曜日にまだ陽が明るい内から飲むことが僕らの楽しみになっていた。今日もいつものように僕は昼からビールを飲んでいた。大抵はひとりで飲んでいるのだが、今日は先日のことを話したくて仲元を呼んでいた。仲元は不思議そうな顔をしながらも終始ニコニコして話を聞いていた。何か話をする時には仲元に限る。仲元は本当に聞き上手だと思う。こちらが話しているときに集中して話を聞いていることは少ない。話を聞いているのかと疑いたくなる時もある。しかし、こちらが話したことを正確に反復して相槌を打つし、こちらが返してほしい相槌も打てる。むしろ集中して聞かれている方が、話のオチは大丈夫かなど心配しなくちゃいけないので大変に感じてしまう。仲元くらいのスタンスが一番楽だし良かった。
その仲元が逆に質問をしてきた。それも僕が予想もしないところから。不意すぎて、冷静に質問の答えを考えてしまった。
彼女と公園に行ったあの日、僕は不思議でしょうがなかった。この公園に来たところで絶対にミサは見つかることはないし、手がかりもないだろう。だから、どうしてこの場所に来たのかを彼女に訊きたかった。何か考えがあるのか、それとも本当にこんな場所にでも手がかりが残っているのか、それとも僕をからかっているのか。そもそもミサは何で失踪をしてしまったのか、それも全く分からなかった。訊きたいことが山ほどあったのに、言葉が出なかった。その代わりにブランコに乗るときに笑ってしまった。蚕の話をしながら、今度こそ訊こうと思ったけれど、飛べない蚕蛾の話をしながら、彼女が少し震えていることに気付いた。泣いているのかもしれなかった。いや、泣いていないかもしれなかった。春とはいえ、まだ完全に暖かいとはいえない。ただ震えていただけかもしれない。でも僕には分らなかった。今まで泣いた女性を見たことがなかったから。けれど、やっぱり理由はどうであれ、震えている彼女を前に言葉が全て喉の奥へと消えていった。もう何も訊けないと思ったのだ。ついでにだけど、震えていた彼女は蚕蛾が飛べない翅を震わせている姿に似ているかもしれなかった。これも見たことがないから分からないけれど、ちょっとそう思ってしまった。無言で僕らは駅に向かい、途中で彼女が来週も付き合ってもらえるか、という確認だけをしてきた。不思議なことはたくさんあったけれど、やはり彼女のことを放っておけない。それにミサのことも放ってはおけない。
「あぁ、うん、一応ね」
僕はちょっと言葉に引っ掛かりながら答えた。あぁ、そう。と言いながら仲元はまた少しビールを含んだ。窓際で飲んでいた僕のビール瓶からは水滴が浮いてきて、床が少し濡れていた。
「まぁ、モリーは昔から変に優しさを見せる時があるからね」
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