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慌てて電話を取ろうとしたけれども、取ろうとして躊躇してしまった。あれだけ楽しみにしたはずだったのに、いざ電話が鳴ると、平河さんと何を話したらいいのかが分からない。まぁ、向こうが用事があるのだから別に躊躇する必要なんてないのだけれど、それでもボタンを押す勇気が橋本にはなかったのだ。しばらく戸惑っていると、遠くから大きな母親の声が聞こえた。何してるの、早く電話に出なさいっ!と。何も事情を知らない母親に橋本はムッとしたけれども、段々と部屋に近づく足音に、橋本は今度は慌てて電話に出た。
「もしもし」
しっかりと芯のある、でも少し高い女の子らしい声は間違いなく平河さんのものだった。電話越しだとちょっと鼻掛かって聞こえたけれども、でも間違えようがなかった。橋本はもしもしの代わりに、うん、と答えた。
「橋本くんだよね」
という返事には、橋本は、そうだよ。と答えた。さっきまで近づいていた足音はもう聞こえなかった。どうやら橋本が電話に出たことで、母親は台所へ戻ったらしい。橋本はしばらく平河さんと取り留めのない話をした。夏休みはどう?とか、宿題は終わった?とか。会話は基本的に平河さんの主導だった。平河さんが訊いて、橋本が答える。そして橋本は平河さんに同じ質問をする。所々で同じ答えが返ってくると、だよね。と言って笑いも起こった。一番笑いが起こったのは、先週放送された長時間の番組の話だった。一日中やっている番組だったのに、一番笑った場面が2人は一緒だった。しかもそれが盛り上がりどころではなくて、テレビに出ていた一般人の秋田県民の名前が春畑さんだったというところだったのだ。橋本は実際にテレビでその様子を見ながら、テレビに向かって突っ込みを入れていた。秋も田もどっちも違うじゃねぇかよって、そこに気付いた自分を誉めながらも笑っていた。テレビの中でも誰も触れなかったところに気付いている自分はとてもすごいと思った。砂漠に埋もれた飴を探し当てたような気分だった。それは優越感にも似ていた。やっぱり自分は人とは違う。違う感性を持っていると確信していた。大川も言ったように、橋本はちょっと変わった中学生だった。いや、中学生ならだれでも自分が世界の中心にいるような気分になると思う。自分は映画の主人公で、いざというときには世界の平和すら守ることができる、そんなスタンス。橋本はちょっとそれが強い人間だったと思う。自分は最高で、いろんな才能を持っていて、将来を約束されていると完全に信じていたのだ。そんな自分の感性と同じ感性の持ち主がいた。奇跡だと思った。もう多分自分がもし両親の子どもじゃなかったとしても、すれ違いに探し当てられるかもしれないと思うほどだった。そんな奇跡もあって、橋本は意外と饒舌だった。話せば話すほど話は盛り上がり、もっと橋本は饒舌になった。なんだ、意外と上手くいくじゃないか、と思った。電話を取る前の不安はもう消えてしまっていた。ずっと長い間仲良しの幼馴染みたいだった。橋本も大声で笑い、平河さんも笑った。そんなやり取りは相当続いた。
しばらく続いたところで、一瞬の沈黙が訪れた。電話を取る前はその沈黙が怖くて怖くて仕方がなかった。でも実際に沈黙が来ると、考えていたものとは違うことに驚いた。会話が盛り上がって、すごく自然に訪れるものが沈黙だった。沈黙は悪いものではない、本当に一瞬の空気が合った瞬間に沈黙。それは相手との呼吸が合った印だった。もうもはや心地よいものでもあった。このままもう何も話さなくてもいいと思った。砂漠のオアシスの真ん中にゆったると漂っている具合。少し聞こえる平河さんの吐息に橋本は包まれていた。しばらくの沈黙の後、平河さんが口を開いた。
「それでさ、今日電話した理由なんだけど」
そんなことは橋本も忘れていた。きっと何か用事があって平河さんは電話をしたはずだったのだ。
「橋本くん、来週どこか空いてる?」
「もしもし」
しっかりと芯のある、でも少し高い女の子らしい声は間違いなく平河さんのものだった。電話越しだとちょっと鼻掛かって聞こえたけれども、でも間違えようがなかった。橋本はもしもしの代わりに、うん、と答えた。
「橋本くんだよね」
という返事には、橋本は、そうだよ。と答えた。さっきまで近づいていた足音はもう聞こえなかった。どうやら橋本が電話に出たことで、母親は台所へ戻ったらしい。橋本はしばらく平河さんと取り留めのない話をした。夏休みはどう?とか、宿題は終わった?とか。会話は基本的に平河さんの主導だった。平河さんが訊いて、橋本が答える。そして橋本は平河さんに同じ質問をする。所々で同じ答えが返ってくると、だよね。と言って笑いも起こった。一番笑いが起こったのは、先週放送された長時間の番組の話だった。一日中やっている番組だったのに、一番笑った場面が2人は一緒だった。しかもそれが盛り上がりどころではなくて、テレビに出ていた一般人の秋田県民の名前が春畑さんだったというところだったのだ。橋本は実際にテレビでその様子を見ながら、テレビに向かって突っ込みを入れていた。秋も田もどっちも違うじゃねぇかよって、そこに気付いた自分を誉めながらも笑っていた。テレビの中でも誰も触れなかったところに気付いている自分はとてもすごいと思った。砂漠に埋もれた飴を探し当てたような気分だった。それは優越感にも似ていた。やっぱり自分は人とは違う。違う感性を持っていると確信していた。大川も言ったように、橋本はちょっと変わった中学生だった。いや、中学生ならだれでも自分が世界の中心にいるような気分になると思う。自分は映画の主人公で、いざというときには世界の平和すら守ることができる、そんなスタンス。橋本はちょっとそれが強い人間だったと思う。自分は最高で、いろんな才能を持っていて、将来を約束されていると完全に信じていたのだ。そんな自分の感性と同じ感性の持ち主がいた。奇跡だと思った。もう多分自分がもし両親の子どもじゃなかったとしても、すれ違いに探し当てられるかもしれないと思うほどだった。そんな奇跡もあって、橋本は意外と饒舌だった。話せば話すほど話は盛り上がり、もっと橋本は饒舌になった。なんだ、意外と上手くいくじゃないか、と思った。電話を取る前の不安はもう消えてしまっていた。ずっと長い間仲良しの幼馴染みたいだった。橋本も大声で笑い、平河さんも笑った。そんなやり取りは相当続いた。
しばらく続いたところで、一瞬の沈黙が訪れた。電話を取る前はその沈黙が怖くて怖くて仕方がなかった。でも実際に沈黙が来ると、考えていたものとは違うことに驚いた。会話が盛り上がって、すごく自然に訪れるものが沈黙だった。沈黙は悪いものではない、本当に一瞬の空気が合った瞬間に沈黙。それは相手との呼吸が合った印だった。もうもはや心地よいものでもあった。このままもう何も話さなくてもいいと思った。砂漠のオアシスの真ん中にゆったると漂っている具合。少し聞こえる平河さんの吐息に橋本は包まれていた。しばらくの沈黙の後、平河さんが口を開いた。
「それでさ、今日電話した理由なんだけど」
そんなことは橋本も忘れていた。きっと何か用事があって平河さんは電話をしたはずだったのだ。
「橋本くん、来週どこか空いてる?」
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