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松山秋ノブ

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Clear Color.23 (Side B)

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 金曜日の待ち合わせは浜松町だった。この間仲元には「一応行くつもり」と言ってはみたものの、僕には行くという選択肢しかなかった。僕は彼女の連絡先を知らなかった。そう言えばこれまでの約束は全て口約束で済ませていた。初めて職場で会ったときに約束をし、先日公園に行ったときに今日の約束をした。それで済んだから、連絡先を知るという発想もなかったし、相手は大学生とはいえ女性だから、何となく連絡先を訊くタイミングを逃していたということもあった。だからもし今回の待ち合わせに行く気がしなくても、断る術を知らなかったのだ。待ち合わせの時間ちょうどに着くように浜松町に行った。ビジネス街ということもあり、昼前の駅前はそんなに人が多くはなかった。若い団体や逆に年を取った団体が駅を出てワイワイ言いながら左手に進んでいる。恐らくもうしばらくして休憩時になれば、ビジネスマンやOLでいっぱいになるのだろう。一般企業とはいえ、少し特殊な仕事をしている僕にとっては想像しがたい世界だった。以前も来たことがあったけれど、それは休日だったから想像の足しにはならなかったのだ。

 駅を見渡すとやはり改札の外で彼女はもう待っていた。こっちですよ、と無邪気に手を振る彼女に少し照れながら近付くと、御休みなのに朝からごめんなさい、と今度は丁寧にお辞儀をした。一人時間差攻撃を受けたような気がして戸惑うと、彼女は、それじゃ行きましょう、と左手に向かって歩き出した。

「こっち側に行くってことは、今日はあそこに行くの」

僕はその先に見える電波塔を指差した。すると彼女はにっこりと笑って

「そうですよ」

と答えた。

「そうそう、森下さん。私に連絡先を教えてくれませんか」

彼女は僕に自然に言った。これまでもたくさん連絡先を交換してきたけれど、こんなにも自然に訊かれたことが無かったから、逆に戸惑ってしまった。それが彼女に伝わってしまったのだろう。彼女は僕の戸惑いに、僕が連絡先を教えたくないのだと、と解釈すると、

「いえ、ほら、こうした待ち合わせも急用ができたりアクシデントが起こったりするかもしれないし。それに急に姉から連絡が入った時は知らせたいので」

と慌てて理由を言いだした。僕は、いやいや、ちょっと慣れてなくて戸惑っただけだよ、と適当に理由をつけて、携帯電話を取りだした。

「そしたら私がメールを送るんで、登録してください」と言い、僕の携帯電話を見ながらアドレスを入力し始めた。さすが女子大生になるたての若い女性ということもあってか、その手つきはとても慣れたものだった。ささっと入力を済ませると、僕にメールを送った。

「今送りました。携帯を貸してください、私、登録するんで」

本来ならばそこまでやってもらうことはないんだけれども、さっきの手つきを見ても、とても慣れているようだったので、やってもらった。メーカーが違うらしく、若干手間取っているようだったけれども、もうそれは彼女に任せて、僕は何も言わずにいた。はい、これで完了です、と携帯電話を僕に返すと、また僕らは目的地に向かって歩き出した。昼が段々と近付いてきて、歩いている層も若干変わってきたような気がした。さっき先に出発していた団体もすぐに抜いてしまった。まぁ、2人だけだから仕方ない。増えていくビジネスマンの歩調に合わせて、僕らの歩調も自然と速くなっているような気がした。

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