Clear Color

松山秋ノブ

文字の大きさ
33 / 42

Clear Color.31(Side B)

しおりを挟む
「森下さん、見てください。すごい景色ですよ。」

彼女の言葉で目線を初めてメロンソーダから移すことになった。東京タワーから見える景色は以前来た時とほとんど変わりはしなかった。ただ前に来た時はすごく天気が良くて遠くまで見渡せるくらいに綺麗に見えた。けれど今日の天気は雨さえ降っていないけれども雲がどんよりと広がっている。でもまぁ曇りとまではいかないか。ただすごく嫌な天気だった。ふと、そういえば前回来た時ももしかするとこれくらいの天気だったかもしれないと思った。すごく綺麗に見えたと記憶しているのは、田舎者が東京タワーに上ったということの高揚感からではなかったろうか。今ではそんなことも思い出せない。



「あっ、あれ。」

彼女が指を差したのは武道館だった。

「本当にたまねぎの形をしてますね。」

そうだね、と言うと僕は再びメロンソーダを口にした。少し時間が経ったメロンソーダのカップには水滴が目立ち始めていた。早く飲まなくてはいけない。彼女はそんな僕にはお構いなしにぐるりと回りながらいろんな建物を見つけ出した。目立ちはするけれども有名でないビルは僕に尋ねた。僕もそんなに詳しくはなかったけれども、幸い彼女が訊いてくるのは簡単なものばかりだった。彼女はすぐ近くにあったセンタービルを指差すと、僕はその名前も難なく答えた。

「そっか、あれに突っ込んだのか。」

彼女は感慨深そうに頷いている。多分だとは思うが、きっと彼女はどこかの国に飛行機が突っ込んだことを言ったのだと思う。けど随分昔の話だ、違うかもしれない。僕にとってはちょっと前の話でも、もう20年も前の話だ。彼女は恐らく生まれていない。きっと教科書かニュースで見たんだろう。時間というのは残酷だ。まぁもちろん、目の前にあるそのビルは名前が同じというだけで別のビルだ。想像を膨らませているのだろう。その行動も含めて彼女はとても無邪気に景色に見入っていた。初めて僕がここに来た時も同じようにしていたのだと思う。そしてきっとミサもそうだったのだろう。田舎者にこの景色は刺激が強すぎる。

「はぁ、すごい景色ですね。いつまで見ても飽きない。」

彼女の笑顔がまたミサに見えた。

「森下さんは余り驚かないんですね。」

「いや、すごいとは思っているよ。初めての新鮮味が無いだけで」

「そっか、森下さんは何回か来てるんですもんね。」

彼女は納得してまた景色を見だした。あっ、向こうに国会が見える、とはしゃいでいる。

「お姉さんもさ、こんな風に楽しんでいたのかな」

「どうでしょうか、多分はしゃいでいると思いますが。」

「今みたいに?」

「そうですね。そして初めて来たときの森下さんみたいに。」

彼女の笑みはちょっと意地悪だった。またあの笑顔だ。やっぱり彼女やミサには敵わない。

「ちなみにミサはこの後どこに行ったの」

僕には話を変えるので精いっぱいだった。ミサと彼女の違うところは、ミサは話を変えようとしても全く動じないけれども、彼女はちゃんと僕の話題転換についてくる。そういった部分はさすが妹。姉の方が一枚上手のようだ。

「この後ですか。」

思わせぶりな笑顔を見せると、彼女はちょっと僕を覗き込むように言った。

「知りたいですか。」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...