Clear Color

松山秋ノブ

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Clear Color.33(Side B)

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「何も残らなかったんですか。面白かったんですよね」

そうだね. . .と僕はいつの間にか仕事の時に小学生に話すような口調になる。

「例えばね、今まで観た中で一番印象に残った映画を浮かべてみて」

はい、と言うと、彼女は上を向いて想像を始めた。一瞬止まったと思うと、軽く頷いたので、僕は彼女が何かを思い浮かべたのを悟った。

「思い浮かんだかな」
「えっ、あっ、はい。」
「それは有名な映画?」

すると彼女は答えた。

「多分有名じゃないと思います。」

彼女の答えに僕はしめた、と思った。

「ということは、派手な映画というよりも地味な映画だ」

彼女は目を閉じたまま驚いた表情をした。

「はい、そうです!」
「じゃぁ、次は一番好きなクラシック音楽を浮かべてみて」

さっきよりは選びにくそうだった。確かにそうだろう、この歳でクラシックに詳しい子はそうはいない。けれども彼女は僕の想像以上に聡明だった。

「大丈夫です、浮かびましたよ。」

「その曲はピアノ中心の音楽か、若しくはオーケストラ意外の曲だね」
「はい、間違いないです!」

彼女の興奮は絶頂に来たようで、それは語調からも分かった。でもその後すぐに彼女はいぶかしげに

「でも何で分かったんですか。」

と答えた。

「人間って不思議なもので、派手なものや大掛かりのものを観たり聴いたりしていると、その時は圧倒されたり印象に残ったりするけれども、記憶には残らないものなんだ」

へぇ、と彼女は納得したような声を出す。

「あとは日本人は何となく何でも恵まれている環境のものよりは、限りがある中で最大限の魅力を出そうとしている方が好きなんだよ」

「だからオーケストラを選ばなかったんですね。」

「そう、だからこの劇団の劇も、大掛かりで、音楽も迫力があって、登場人物も多くて楽しいんだけどさ」

「一番印象に残ったり、何かが残るものではないということですね。」

そう、僕は窓の外に目をやった。意外と慣れたら怖くはないらしい。

「でも、すごいですね。全部当てちゃいましたよ。」
「いや、それはそれで僕も驚いてるよ」
「そうなんですか?」
「まぁ、でも当たると思ってたけど」

「それは私が妹だからですよね?」

そうだよ、というと彼女はにこりと笑って答えた。

「ちなみに、姉はあのお芝居をどう言っていたと思いますか。」

僕はマズいと思って、さぁね、とかわすように言うとやはり彼女は意地悪そうに笑って言った。

「森下さんとほとんど同じことを言ってたんですよ。」
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