Clear Color

松山秋ノブ

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Clear Color.34(Side B)

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「けれど」

彼女は一瞬言いかけて止めた。その表情はちょっと言ってはいけないことをつい言い過ぎてどきりとしたようなものだった。だから僕は、何?と敢えて訊いてみた。

「いや、ちょっと思っただけです。」

何を?と言うと、僕の返答が予想の範囲内だったからだろうか、さっきまでのどきりとした顔が嘘のように、また意地悪な顔で言った。

「姉と森下さんって言ってることがほとんど一緒だなって。」

あぁ、確かにね。と僕も思い返してみたけれども、確かに僕はミサと言い合いをしたことがない。どちらかと言うと、お互いが言いたいことを言っているのに、どちらもうんうんと相手の話を聞いている。何かを提案しても拒否されたことがないし、僕も拒否をしたことがなかった。

「昔から、そんな感じなんですか?」

「まぁ、昔って言うほどの長い付き合いじゃないけどね」

へぇ、と言うと、彼女は外の景色を見ながら言った。

「気が合うんですね、姉と森下さんは。」

 それからも他愛ない話が続いた。しばらくすると展望台から下に降りることにした。降りるときは僕もエレベータを使った。これまでと話のトーンも会話の調子も違わないはずなのに、ちょっと彼女のテンションがさっきまでとは違うと思った。幽かにだけど下がっている具合。返答の言葉が少し減った気がする。語尾が2回に1回は上がっていたのに、4回に1度になった。きっかけは間違いなくさっきのやり取りだった。ミサと僕の気が合うという話をしてからだ。けれどもその理由が分からない。彼女はミサの妹であり、彼女は僕を頼ってミサ捜しを依頼してきた。その時点で僕とミサが友人であることは知っていたはずだ。むしろ仲良くなければ頼ってはこないし、僕も承諾しなかっただろう。恋愛感情とか、そういうものは無かったけれども、ミサは僕のことを良く知っているし、僕もミサのことを知りたいと思っていた。気も合っていた。もし、そのことで彼女の気持ちが下がっているとしたら、僕とミサは気が合ってはならなかったことになる。何故?会った頃からそうだったけれども、彼女は分からない部分が多い。ミサも掴みどころがなかったけれども、彼女はそれ以上だ。ミサが大海を泳ぐイルカのように流線型をしている性格ならば、彼女は流線型をしながら深海で密かに暮らす竜のようなものなのかもしれない。ただ、その下がり具合が余りに幽かすぎて、僕はそれを追求することができなかった。ずっと先を走っている三輪車みたい。僕が懸命に走れば追いつくんだけど、それをしてしまうには罪悪感が大きすぎる。僕は彼女とちょうど良い距離を保ちながら、幽かな変化を確信に変える作業に従事した。彼女は僕が気づいていると思っているのだろうか。もしかすると、僕が分かっているということを知っていながら、敢えて少しずつヒントを出しているのかもしれない。何か僕がまだ知らないモノを知らせるために。

 今度は東京タワーを見上げる側に立った時、さっきは大きくて、圧倒されながらも親近感を感じていた。実際にその親近感から上ってみた訳だし。でも、今回は違う。その大きさが不気味な秘密を持っているように見えてならなかった。

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