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松山秋ノブ

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「平河さん、映画って好き。」

「うん、好きだよ。よく家族で観に行ってた。」

「そしたらさ、映画館があるから、観に行こうよ。」

今思えば、何とまぁ大胆な誘いだっただろう。橋本はそんなことは全く考えもしないで、ただ思いついた自分の名案に興奮して言った。そうだ、映画館があるじゃないか。ちょっと潰れかけていて、空いているけれど、確かに映画館がある。橋本は子どもの頃によく両親に連れられて映画に行ったことを思い出した。自分から行きたいと言っていたのか、両親の画策だったのかは分からない。橋本は兄弟がおらず、友達も少なく、両親も手を余したのかもしれない。子どもなら誰もが好きなキャラクターの毎年ある映画を観に行っていた。その映画は小さなキャラクターの景品がもらえるものだった。いつ使うかもわからないような景品の手押し車やスタンプ、もしかすると橋本はこれが目当てだったかもしれない。橋本は映画の中身を余り覚えていなかった。それに当時は映画よりも本が好きで、暇さえあれば読んでいた。映画に行ってもパンフレットばかり読んでいたから、それも目当てだったかもしれない。



とにかく映画館とその周辺なら橋本には案内ができた。あとは平河さんが同意してくれるだけだった。

「いいよ。」

その返事は意外と素早く返ってきた。

「今、何の映画やってるの。」

橋本はもちろんそんなこと知らなかった。なにせつい今浮かんだのだ。今やっている映画なんて知るはずもない。

「ごめん、知らないや。」

「そっか。私も特にこれっていうものはないけど、そしたら、映画を選んでもらっていい。」

橋本はその問いに二つ返事で答えた。この時はまだ分かっていなかった。何を観るか、こんなに悩むことになろうとは、こんなことなら好きな映画とかもっと訊いておけば良かった、と。

「分かった。それじゃ、映画を決めて連絡するよ。もちろんみんなも行く感じでいいよね。」

橋本は本当にお人好しで素直な人間だと思う。別に何も言わなければ2人で行けたかもしれないのに、橋本は自分からみんなも誘おう、と切り出した。もちろん平河さんもOKしてくれた。橋本にとっては誰と、何を観ようが全く関係が無かった。ただ、平河さんと一緒にどこかに行けるという事実だけで完全に舞い上がってしまったのだ。
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