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松山秋ノブ

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「でも、映画なんて、大概一本くらい面白いのやってるでしょ」
「それはそうだけど、映画選びは大切だぞ」

橋本はこれまで映画というものを深く考えたことがなかった。基本的に映画といえば、年に1回必ず新作が上映されるアニメくらいにしか縁がなかった。後は話題のアイドルが主演するような薄っぺらい作品しか観に行ったことがない。もちろんレンタルビデオではいろんな作品を観ていた。専ら邦画の単館系の暗いやつだった。しかしこの寂れた街の映画館ではそうした映画しかやっていない。急に映画という名案を出した自分が失敗したような気分になった。

「大川、何か良い映画あるか」

大川は写し終わったプリントを机の隅に置いて、大袈裟に考える素振りを見せた。大川が物事を楽しんでいる証拠だ。こんな時の大川はとても頼りになる。橋本は自分の欠点を「行動力」だと思っている。結局何だかんだで成り行きで行動に移せはするのだが、もっと早くに決断出来ていれば良かったということは少なくない。もちろん慎重で良かったということもあるが、そうでないことの方がちょっと多いような気がした。実際には分からないが、気持ちの上でそう思っているのならそうだった。その点、大川の行動力は目を見張るものがあった。確か半年くらい前のことだったか、大川が良いと思っていた女の子の自転車が盗まれるという事件があった。その時たまたま居合わせていた大川は、「街中探してくる」と言って、本当に街中走り回ってしまったのだ。そして見事に探し当てた。もちろんその子と大川が付き合うことは無かったのだが、橋本はその大川の行動力に素直に感服していた。映画の件も大川に任せておけば大丈夫だと思った。

「とりあえず探しておくよ。行くのはいつだ」

「夏休み中がいいよな」

「そしたら1週間後だな。急でもないし、約束から遠くもない」

「メンバーは任せるよ、いつものメンバーでいいと思う」

「そうだな。初めての遊びだから、変にハードルを上げない方がいいだろう」

大川は冷静に決めておいた方が良いことを決めていった。映画を観た後、お昼御飯を食べる予定も付け加えたが、行く店も大分候補が絞られた。たくさん話をするのにカレー店はだめだ、とか、スパゲッティも口の周りと歯に色がついてしまうからだめだ、とか。でも安っぽいチェーン店のレストランはだめだ、とか。最終的にはいろいろなバリエーションもあり、チェーン店でもなく、値段もあまり高くない、映画館近くのイタリアンレストランに決まった。あとはグループの友人を誘って、映画を決めてしまえば大丈夫。ちょうど奥の講師室から先生がやってきた。橋本はよしっ、と小さな声をだすと、ペンを動かすふりをしながら、平河さんと出かける日のことを想像していた。
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