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chapter 3
1話 チート
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「と、いうわけで。暫く旅に出る」
戦争も無事終わり、帰ってみれば学校は残り数日となっていた。別に卒業というわけではなく、ただ長期休暇に入るだけだ。
確かに学園では魔法など色々な事を学べるが、人によってはその先を学ばなくてはならない。この学園には大公や公爵も在籍しており、そんな人間に王やそれに準ずる存在の在り方を教えられる人間は居ない。となると必然的に帰省が必要となるため、前世同様に長期休暇は存在する。
そういうわけで長期休暇に入る以上、前から約束していた『神の座』の探索に向かわなければならない。既にミサは呼んでおり、今から半刻後に学園の門で待ち合わせとしている。無論フィーにその事は伝えていない。というか、俺自身すっかり忘れていた。
「またぁ!?」
突然の事に驚くフィーだが、何故か予想していた驚き方とは異なるようだ。…………まぁ、確かにいつも突然いなくなっている自覚はある。自覚はあるが、ちゃんと報告しているだけまだましだと思って欲しいところだ。
ちなみに前回いなくなる原因であった戦争は無事終わり、今はアシュラが東奔西走として事後処理にあたっている。一応、他国が攻めて来たわけだから王宮から直々に隊が組まれ、南の国に赴いている。兵を撃退したに過ぎないが、人数が人数であるため敵国には殆ど余剰部隊しか残っていないだろう。我が軍の軍隊を追い返せる兵力は無いはずで、こちらに有利な条約が締結されるはずだ。
問題は敵国から身代金があまり取れず、戦死した人間の遺族に払う金が無い事くらいか。敵国はかなり無理な税を強いたらしく、日夜国境を越えてこちらに流れる人間が跡を絶たないらしい。そこまでして敵のお偉いさんは何をしたかったのだろうか。流石に我が国を攻め滅ぼせるとは思って無いだろうし――――
「ちょっとルカ君っ! 聞いてるの!?」
「うぉ!?」
肩を揺さぶられ、止むを得ず思考を中断する。キス出来る程近付いた顔をまじまじと見つめながら、今回は本当に怒っているんだなと考える。
まぁ確かにフィーには悪いなとは思う。停学になった時も先生に掛け合ってくれたみたいだし、戦争の時も心配をかけた。しかしそれでも、男にはやらねばならない事がある。…………嗚呼でも、もし『神の座』が本物だとして、願い事が叶うとしたら俺は何を願うのか。前世に戻りたいという願望もあるが、そうするとフィーたちは――――いや、そこはまだ考えないでおこう。『神の座』が本物だという証拠も無いのだし、辿り着けるかも分からない。
「悪い、聞いてなかった」
と悪びれた様子を見せない俺に嘆息すると、背を向けて自分のベッドに上る。そしてそのまま布団を頭まで被る。なんて分かりやすい反応だ。
「悪かったって」
喧嘩したまま旅立つのも気分が悪いし、なんとかフィーの機嫌を良くしようと試みる。しかしフィーは物で釣られるタイプじゃないため、こういう時に困る。いやまぁ、物で釣られる程度の人間ならそもそもご機嫌取りなんてしないが。
俺は整理中の荷物をそのままにフィーのベッドに上る。反応は無い。面白くないので俺も布団の中に入る。予想以上の女の匂いにくらくらするが、なんとか理性を保ったまま抱き締める。今度は僅かに反応があった。
「前回も前々回もちゃんと帰って来ただろ? 今回も帰ってくるって」
もちろん約束は出来ない。前世に戻ってやりたいゲームとか、読みたい漫画は数え切れない程ある。……まぁ、こっちだと好きなだけ女は抱けるし、金も腐る程あるわけだから悩み所だな。
「でもっ……!」
振り返ってこっちを見るフィーの瞳には涙が浮かんでいた。そんな大袈裟な……と思うかも知れないが、基本的に長距離を旅する事なんて無い世界だから仕方がない。特に俺のような不自由民(農民など、職業選択が出来ない人間)は一生に一度、旅に出るか出ないかぐらいの頻度だ。旅に出るとしても村の代表として聖地の巡礼に行く……とかそんなレベル。
しかし戦争とは違い、今回は新しいダンジョンを目指すだけだ。ダンジョンも危険かも知れないが、そこは伏せて説明すれば何とかなるだろう。北に無かった宿駅も、新ダンジョンの恩恵を与ろうとする付近の村が作ったらしいし、移動自体苦にはならないはずだ。
――――なんて事を説明しようと思ったが、うるうると涙腺を緩ませるフィーの破壊力が高すぎて、俺の僅かな理性が崩壊した。
戦争から帰ってから『籠』に行ってない所為か、溜まるものが溜まってる。ましてや処理しようにもこの部屋にはフィーが居る。それに、『籠』に行けばいくらでも女を抱けるのに自分で処理するのは虚しい……という理由もあったりする。
「ちょ、ルカ君!?」
手の平に収まる程度の胸に手を這わせる。小さい所為かあまり弾力は無いが、その分軟らかさが手に馴染む。喚き立てる口に吸い付き黙らせ、ショートスカートを捲り上げる。
この世界、一応下着という物はある。コルセットとかガーターとか…………しかし、俗に言う『パンツ』は未だ普及していない。存在はするものの、上流貴族しか履いていない状態だ。つまり――――フィーは履いていなかった。
当初は興奮したが、やはり下着はあった方が良い。今度プレゼントしようか…………なんて馬鹿な事を考えつつ、フィーの軟らかな太股に手を這わせる。冷たくすべすべとした肌を楽しみつつ、その手を更に上へと――――
「ルカさんのお部屋はここで間違いないでしょうか!」
ガチャ、と。そんな声と共に何者かが扉を開け、内部へと侵入した。その銀髪を靡かせる何者かはベッドの上で抱き合う俺たちを視界に収めると、引くわけでも申し訳なさそうにするわけでもなく、瞳をキラキラと輝かせながら口を開いた。
「衆道、ってやつですね!」
それだけを言うと、扉はパタンと閉じられた。フィーと目が合うが、最早そんな雰囲気じゃない。俺は近くにあった枕を掴み、扉へとぶん投げた。
「誰が男色だッ!?」
衆道……つまり男色、ホモ。これから旅をする仲間が腐女子であると判明した俺は、一体どうすればいいのか。
一応約束の時間をすっかり忘れていた俺にも非はあるわけで。取り敢えず準備がまだ終わっていないため、ベッドから降りて最終的な荷物チェックに入る。
一日に大体六十キロ移動出来ると仮定して、宿駅がおよそ二十キロ毎にあるため、ぶっちゃけた話金さえあればどうとでもなる。しかし『神の座』に向かう人間が複数居たとすると、下手すれば宿駅に泊まれない可能性がある。宿駅自体村の物資を売るために設けられているため、最悪村が飢饉になっている場合食料が買えない事もある。そのため、一応鍋なども持っていく。
食料が無ければ自然の動植物を狩ればいいし、最悪魔物を食えばいい。魔物の肉は不味いらしいが、香辛料をたっぷり使えばある程度は誤魔化せるだろう。無論香辛料は比較的高価な部類だが、そこは金に物を言わせて買い占めた。最近市場に於ける香辛料の価値が高騰しているが、大体俺の所為だったりする。
「――――そうだ」
前から思っていたが、俺の戦い方には決め手という物が欠けている。もちろん銃の弾丸を弾くような化け物はそう居ないが、あまり居ないというだけで存在する可能性は高い。そうなると対物狙撃銃の出番だが、魔法で飛ばすと実はあまり威力が高くない。
前回の戦争で火薬入りの弾を創ってみたが、反動や音が半端ない分何故か威力も桁違いだった。一応数発奥の手というか、必殺技みたいなノリで創ってみたが、如何せん数が少ないため心許ない。
ここは優等生のフィーに弾丸を創って貰うべきだろう。ミサに創って貰ってもいいが、本音を言うならあまり信用出来ない。その点フィーなら安心だ。
「フィー、創造魔法でこれを創ってくれ」
言って、弾を投げる。一瞬暴発の可能性を考えたが、そんなに柔な造りではなかったようだ。無事に弧を描いてフィーの手の中に収まる。
「いいけど……これ、何で出来てるの?」
問われ、考えてみるが……なんだろう。魔力、とか言ったらシカトされそうなので黙っておく。しかし弾っていったら鉛なイメージがある。火薬は……硫黄とか硝石だよな。硫黄は火山で取れるんだっけ? 硝石糞と死体で作れたような…………。
「……考えてみたが、よく分からん」
転生するって知っていたら、火薬の作り方とか調べておいたというのに。
…………ん? いや、その前にフィーは何故そんな事を聞いたんだ? ただ目の前にある物体を創造すればいいのだから、構成物質なんて理解しなくても――――
「えー、細部まで分からないと創りようがないよー」
…………は?
それは、どういう意味だ? こうやって目の前に本物が存在するというのに、細部まで分からないと創れないのか?
そんな疑問が顔にも出ていたのか、フィーは「先生の話を聞いてなかったの?」と呆れつつも説明をしてくれた。
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