異世界チートで遠距離最強~銃は運命すらも撃ち抜く~

佐々木 篠

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chapter 3

5話 地図を持つ人間

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「長い、ですね」

 暗雲を断ち切るような鈴とした声。それだけで仄暗い空間に清涼な風が吹き込んだかのような感情を抱かせる。

 ミサも精神的な疲れからか、どうも歯切れが悪い。それでもその声が摩耗した精神を回復させてくれたのだから、やはりシスターというのは侮れ無い。単純にミサにはそういう素質がある、というだけかも知れないが。

「そろそろ一時間か。情報によるともう少しで一層目に到着するはずだ」

 話を聞いていたのか、周囲の人間の表情が若干和らぐ。やはり冒険者としても、ひたすら景色の変わらない階段を降り続けるのは苦痛なのだろう。俺も何度ゲシュタルト崩壊を起こしそうになった事か。

 俺は口を開いた分余計に消費した体力を取り戻すため、腰にぶら提げている水袋を取り出した。水筒が存在しないわけでも無いが、やはり仕舞う場所を考えると革袋に水を入れた方が良い。

 渇いた喉を潤すと隣を歩くミサに差し出す。ミサは短く礼を言い、口を付けてあおった。

 長い間一緒に居ると間接キスなんて事は気にしなくなる。俺は受け取った水袋を腰に戻し、再び階段を降りる事だけに意識を費やす。

 そうして無言で降りる事十分。ようやく出口が見えて来た。正確に言えばここは入口であるのだが、長かった入口の終わりという点では間違えなく出口だった。ひたすらに続く、一本道の迷宮をようやく踏破した面々はにわかに活気付き、互いに労いの声を掛け合う。

 そんな人々を嘲笑うかのように、血の臭いを漂わせる風が吹き込む。

 流石に血の臭い程度で吐き気を催すような輩は居ないが、それでも上がったテンションを下げるのには十分だったようで、後ろで騒ぐ連中も次々に口を噤んでいく。

 隣を見やるが、ミサは出口が近い事を喜んでいるようだ。道中魔物と出会す事が無かったため判断は出来なかったが、やはりミサは血の臭いに慣れている様子。

「ようやく出口ですねっ」

 笑いかけるミサは何よりも美しく、だからこそ何よりも不気味だった。俺はそれから意図的に視線を背け、一層の入口である出口を見た。

 ぞろぞろと並ぶ列が呑み込まれていく。その例に漏れず、俺とミサも一層へと足を踏み入れた。

「これが…………」

 隣でミサがぼそりと呟く。

 一層は広かった。しかしそれは先程までと比較しての話であり、想像にあるような広大な迷宮では無かった。

 高さは三メートル程だろうか。低くは無いが、決して高くは無い。横幅は五メートルも無く、闇雲に武器を振り回したら隣の味方を斬ってしまいそうだ。あまり激しい動きは出来なさそうで、軽業師のようなタイプには厳しい地形だ。逆にガチガチの鎧で全身を固めている人間の方が戦い易いだろう。…………最も、ここに魔物は出現しないが。

 地図を広げる。一層から五層までは一本道で、枝分かれする道は一つも無い。

 周りを見渡すと地図を広げていない人間がちらほら居る。五層までは一本道だと知った人間が節約のために買わなかったのだろう。もちろん俺もその考えに至った。いや、例え一本道じゃないとしても、今この場で地図を持っていない大半の人間は地図を買わなかっただろう。正しい道を知りたければ、大勢居る地図を持った人間に付いて行けばいい。――――そんな甘え考え方では、この先は生きていられない。

「ミサ」

 腰を抱き、歩くミサを止める。

 後ろから付いて来ていた『地図を持たない人間』は、いきなり止まった俺たちを怪訝な表情で一瞥し、しかし先を急ぐために何の警戒心も抱かぬまま隣を通った。

 そしてカチャリと作動音。先程隣を通った男は、側面から頭を矢で貫かれ、即死した。

「――――なっ!?」

 『地図を持たない人間』が総じて驚愕する。しかしそれ以外の人間は予定調和だというかのように、何の反応も見せずに先を急ぐ。地図を持たない者はその周囲とのズレに、より一層の混乱をきたす。

 俺は再び地図を見ながら歩き出す。そして地図に書いてあるトラップの位置に、身を曝さないよう気を付けながら歩く。辺りでは、トラップに引っかかったが即死出来なかった人間の苦悶の声や、断末魔が響き渡っている。

 一層から十層までの地図は安い所だと銀貨三枚で売っているのだから、こいつらは自分自身で自分の価値を銀貨三枚以下に落とした間抜けだ。まぁ、俺も金が有り余ってなければ同じ事をしていたため人の事は笑えないが。

「階段です」

 ミサの言う通り、一層は既に終わりを見せていた。大体長さとしては百メートルくらいか。本気で走れば十数秒の距離で、何十もの人間死んだのだから恐ろしい。流石はダンジョン……いや、迷宮? …………どちらも大して変わらないか。

 前の人間に続いて階段を降りるが、今回はすぐ二層に到着した。時間にして一分も経っていない。これで二層まで一時間とかかかるのだったら、完全に心が折れていた。
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