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第8話 会いたい
しおりを挟む朝起きて一番にコーヒーを沸かす。
顔を洗ってテレビをつけて、できたてのコーヒーをカップに注いでから、ソファーに座った。
朝食はとらないけど、代わりにコーヒーを飲みながらテレビを見るのが毎朝の日課だ。
リモコンを持ってチャンネルを変えながら、面白い情報がないか探す。
いつもと同じ、何も変わらない朝。
そのはずだった。
「彗星の速水景さんが……」
聞き慣れた名前に、ハッとしてチャンネルを止める。
テレビには、速水さんの顔と名前が大きく映っていた。
『彗星・速水景、深夜に美女と密会!』
衝撃的な見出しとともに、速水さんの写真が大きく映し出されていた。速水さんが、美人のタレントに笑いかけている写真。
「関係者の話では、お二人は数年前から交際を続けており、早ければ年内にも婚約発表があるのではないかと……」
ガチャンッ!
「熱っ!」
一瞬、床に視線を落とせば、転がったカップからこぼれたコーヒーが、カーペットに染み込んでいくのが見える。
けれどすぐに、意識はテレビへ向いた。
「うそ……」
衝撃が大きすぎて、熱さを感じることも忘れてテレビから目が離せない。
司会者の、熱愛を語る内容は次々と耳を通り抜けていって。
速水さんの写真だけを食い入るように見つめた。
「速水さん……」
フラフラとテレビの前に座り込む。
体中から力が抜けていくのに、心臓はドクドクと激しく嫌な鼓動を刻み出す。
冷や汗が出てきて、知らず体が震えた。
「っ……速水、さん……ッ」
胸が苦しくなって、勝手に涙がこぼれていく。
速水さん……。
だから、なの?
連絡をくれなかったのは……この人が、速水さんの本命だから?
「……ッ……ぅぅっ」
速水さんは、僕のものじゃないのに。
それでも、誰かの隣に立っている速水さんを見るのは、ひどくつらい。
おねがい。
他の人のものにならないで。
「……速水、さん」
嘘だって信じたい。
こんな報道はデマで、速水さんにはまた会えるんだって。
待っていれば、速水さんから連絡が来るって……。
「……バカみたいだ」
涙を拭っても、後からあふれ出て止まらない。
僕がこんな風に女々しいから、速水さんだって嫌になったんだ。
この前、ワガママを言って困らせたから。
速水さんが会いたいって言ってくれたのに、断ったりしたから。
「っ……ごめんなさいッ」
僕みたいな人間が、速水さんにつり合うわけがないのに……。
側にいたいなんて、図々しく望んだりするから。
「……はやみさん」
本当は、出逢えるはずのなかった人だ。
僕の苦しみと虚しさを救ってくれた、優しい天使。
でも。
優しい速水さんは、僕に付き合ってくれただけなんだ。
何年も、一緒にいてくれたのに……これ以上望むなんて罰当たりだ。
たとえ、お別れの言葉すらなくても。
「ッ……」
いつかは、別れなくちゃいけないって……分かってたはずなのに。
あふれる涙は、止まることを忘れたみたいに流れ続ける。
「ぅ……はやみ、さん……ッ」
一緒に過ごした時間が幸せすぎて。
速水さんの声を。
速水さんの笑顔を。
僕にくれた、たくさんの言葉と温もりを。
一つ一つ、思い出すごとに、胸がはり裂けそうに苦しくて。
「……ぁッ……はやみ……さんっ」
呼吸すらうまくできずに、ただ速水さんの名前を呼び続ける。
速水さんに会いたい。
いつもみたいに抱きしめて、名前を呼んでくれたら。
僕はもう、それだけで幸せになれるのに。
だけど、それは絶対に叶わない。
速水さんがここに来ることは、もう二度と無いんだ。
頭では分かっているのに、弱い心は現実を受け入れられなくて。
「ッ……はやみ、……さん」
両手で耳を塞いで、ぎゅっと目を閉じて。
『好きだよ。詩季』
速水さんの笑顔を思い出して。
今はただ、記憶の中の優しい言葉に縋るしかなかった。
◆ 竜樹 ◆
久しぶりにシキの顔を見たときに、おかしいって思った。
シキは不健康だから肌が白いし顔色がよくないこともあるけど。
あんなにひどい顔色してるのは初めて見た。
「シキ、だいじょうぶ?」
「……何で、こんな時間にココにいるの?」
「仕事が終わったからだよ」
「お客さん多いんだから、邪魔しないで早く帰って」
「ね、シキ何時まで?」
「あと二時間で終わり……でも、遊びには行かないから」
釘を刺してくるシキは、口調だけならいつもと変わらない。
でも、疲れてるみたい。
何かあったのかな?
「終わったら、ご飯食べに行こ! シキが終わるころに、また来るから!」
「え? 僕、帰って寝たいんだけど」
「だめ~! シキ、ご飯食べてないだろ? オレがおごってあげるからさ」
「……分かった」
あれ?
いつもならもっと言ってくるのに、今日は大人しい。
元気がないし。
「じゃー後でくるね!」
シキに手を振って、混みあってきたコンビニを出る。
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