終わる恋と知っていても

早桃 氷魚(さもも ひお)

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第10話 突然の訪問客

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「なんで!? だって、会いたいんだろ?」
「……あの人に迷惑かけたくない」
小さな声で、ささやくようにシキが答える。
いつでも相手の都合にばかり合わせて……そんな恋をしてるって分かってたのに。
こんなにもシキが苦しんでたなんて……。
ねえ、シキ。
毎日、たった一人きりで、朝までずっと泣いてたの?
会いたいのにガマンして……連絡が来るのを、泣きながら待ってたの?
「ごめん……シキ」
こんなことなら、もっと早く話を聞いてあげればよかった。
泣いてるシキをぎゅっと抱きしめて、背中をなでる。
シキはオレの肩を涙で濡らしながら耐えるように嗚咽をもらした。
「っ……ぅ……」
「シキ……」
「……会いたいよっ」
そう言って泣き続けるシキを、慰める言葉がみつからない。
シキを幸せにできない恋人なんて、早く別れたらいいのにって。
ずっとそう思っていたけど、そんなこと、泣いてるシキには言えなかった。
だから。
「泣かないで。シキ」
やせ細ってしまった体を強く抱きしめて。
シキが幸せになりますようにって、それだけを願っていた。



◆ 詩季 ◆



どんなに悲しくても、時間は止まってくれない。
毎日、当たり前に朝がきて、バイトに行って、家に帰ってきてもたった一人だ。
食器棚に並んだお揃いのカップとか、洗面所に立ててある二つの歯ブラシとか。
テーブルに置きっぱなしの速水さんの煙草の箱も。
タンスの中にしまってある、速水さんが置いていった服も。
家のどこを見渡しても、速水さんの気配が残ったままだ。
目につくたびに悲しくなって、涙が滲んでくる。
いっそ、捨ててしまえたらいいのに。
もしかしたら、また、速水さんが来てくれるかもしれないって……そんなことあるわけないのに、淡い期待を捨てられない。
速水さんから連絡がこなくなって、テレビで報道を目にした。それでもまだ、現実を直視できない弱さが自分でも嫌になる。
どんなにわずかな可能性でも、会えるかもしれないって、そう信じなければ心が折れそうだった。
食欲が落ち込んで、何をする気力もなくなって、かろうじてバイトだけは続けたけど、家に帰れば速水さんを思い出して泣くだけの日々。
バイトに行くと、店長や同僚にも体調を心配された。
「お前、大丈夫か? ムリするなよ」
「夜勤はしばらく無しにした方がいいわよ」
そう言ってシフトも変えてくれたりして、たくさん迷惑をかけた。
久しぶりに会ったたっちゃんにも、心配をかけてしまった。
たっちゃんは、あれから時々コンビニに顔を出して、よくご飯に誘ってくれる。
みんな、心配してくれるのに。
僕の心を占めるのは、速水さんだけなんだ。
速水さんだけがすべて。
初めて、速水さんに出会った時から、ずっと。
「速水さん……会いたいよっ」
付き合うときに、覚悟してたはずなんだ。
僕は男だから、速水さんとは一緒になれないって。
そのうえフリーターで、見た目も冴えなくて、アイドルの速水さんには釣り合わない。
僕みたいな人間は、本当は、速水さんの側にいちゃいけないんだ。
だから、いつかお別れのときが来るって分かってた。
戯れでも良いから「好き」って言ってもらえるだけで、十分幸せで。
それ以上は望んだらいけないって、言い聞かせてたはずなのに。
「……はやみさんっ」
ベッドに入っても眠れずに、朝まで過ごすことも当たり前になってしまった。
速水さんのことを考えて泣くのはもう嫌なのに、胸が痛くて、やっぱり涙がこぼれる。
寂しくて、目を瞑っても速水さんの顔が頭から離れない。
今日もまた眠れずに朝日が昇るのを見届けるんだろうか。
そんな風に考えて、ため息を吐いた。
――ピンポーン。
チャイムの音に、目を開ける。
部屋の中は暗かったけど、リビングに明かりがついてるのを見て、電気を消し忘れたことに気づいた。
―――ピンポン! ピンポン!
連続で鳴るチャイムに、ベッドから起き上がって玄関へ向かう。
こんなチャイムの鳴らし方をするのは、たっちゃんしかいない。
無視しようかとも思ったけど、放っておいたら絶対に電話を掛けてくるし、電話に出なかったらメールをうざいほど送りつけてくるから、出た方が早い。
一応、出る前に鏡を見て、涙が残っていないのを確認して。
瞼が腫れてるのは、もう今さらなので隠さない。
ピンポーン……ピンポン。
「はいはい。うるさいよ、たっちゃん」
玄関の鍵を外して、ドアを開ける。
「こんな夜中に、何なの……」
文句を続けようとしたのに、声が途切れた。
「詩季。いた」
そこにいたのは、速水さんだった。
いつもの黒いキャップに、Tシャツにジーンズのラフな格好で、僕の目の前に立っている。
「えっ?」
「詩季、中に入ってもいい?」
「あ……ど、どうぞ」
突然のことに、思考がついていかない。
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