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第11話 愛する人
しおりを挟むあんなに会いたいと焦がれていた人が、目の前にいる。
だけど、まだ寝ぼけて夢を見てるのかと思った。
混乱しながらリビングまで来ると、速水さんが振り返る。
「ひょっとして……寝てたの? 起こしてごめんな」
「いえ……あの、……」
「詩季、明日は仕事?」
「は、はい。午後から……」
「そっか。ならよかった」
「あ、あのっ……速水、さん?」
「ん?」
「……本物?」
「うん。本物だよ」
馬鹿げたことを聞いた僕に、速水さんはにっこり笑って頷いた。
「ずっと会いに来れなくて、ごめんな」
申し訳なさそうに言いながら、頭をなでてくれる。
その手の温もりが、間違いなく速水さんのものだと理解した瞬間、堪えきれずに抱きついた。
「っ……速水さんっ……速水さん!」
「詩季……」
「速水さん、会いたかった!」
「オレも。ごめんな。連絡もできなくて」
「いいよっ……来てくれたから、嬉しい」
首を振って、速水さんを見上げる。
久しぶりにみる速水さんは、相変わらず優しい目をしていて、嬉しかった。
懐かしい香水の匂いに、ドキドキしてくる。
本物の、速水さん。
もう二度と会えないと思っていた、愛する人。
「……詩季」
速水さんが悲しそうな顔をして、僕の目元に指で触れてきた。
「速水さん?」
「詩季、痩せたね……ちゃんと食べてる?」
「あっ……ちょっと、食欲がなくて」
「顔色も良くないし。こんなんじゃ倒れちゃうよ」
「……大丈夫、だから」
「瞼も、腫れてる」
「ッ……」
「さっきまで、泣いてたの?」
「……違うっ」
「詩季……俺のせい?」
「違っ……これは、ただ……」
うまい言い訳を思いつけずに、俯いてしまう。
「ね、詩季。ここに座って」
「……はい」
速水さんに促されるまま、ソファーに腰かける。
隣に速水さんが座るのかと思ったけど、速水さんは僕の前に来ると床に膝をついて、それから僕の両手をぎゅっと握ってきた。
「詩季」
「速水さん?」
「ごめんな。詩季」
「……謝らなくていいよ」
速水さんが来てくれたから、もういいんだ。
今こうして、目の前に速水さんがいるだけで十分。
だけど速水さんは、まだ悲しそうな顔をして、僕をじっと見上げてくる。
ああ、今日は……お別れを言いに来たのかな?
あの女の人と付き合ってるんだから……僕のことも、ちゃんと整理しなくちゃって思って来たのかもしれない。
そのことにようやく思い至って、じわりと涙が滲んできた。
「詩季? どうして泣くの?」
「だ、だって……」
「泣かないで」
眦にたまった涙を、そっと拭ってくれる。
優しい仕草にまた涙があふれてきた。
「詩季。寂しい思いをさせて、ごめんな」
「僕は、大丈夫っ」
「嘘言うなよ。そんな顔して」
「速水さん……」
「ガマンされると、こっちもつらいよ」
「ぇ?」
「詩季を一人で泣かせて……俺が、平気でいられると思う?」
「速水さん……優しいね」
いつでも、僕のことを気遣ってくれる。
優しい速水さん。
大好き。
そう言って微笑んだら、握っていた手を放されて。
そのままソファーに膝をかけた速水さんが、ぎゅうっと体ごと抱きしめてくる。
「は、速水さんっ?」
「……俺が優しくするのは、詩季だけだよ」
「?」
「俺がこうやって抱きしめるのも、詩季だけだから」
「……いいよ。今さら嘘を言わなくても」
「ウソなんかじゃない」
「っ……だって」
「なに?」
「速水さん、あの女の人と付き合ってるんでしょ?」
だから、僕のことなんか忘れていいよ。
速水さんの邪魔なんてしないから。
こうやって会いに来てくれただけで、本当に嬉しいから。
矢継ぎ早にそう言って、泣きそうになる顔を伏せた。
けど。
「詩季」
速水さんに顎を捉えられて、無理やり上向かされる。
「ッ……やだっ!」
「泣くなよ」
「ぅ……っ」
こんなみっともない顔を見られるなんて、情けなくて仕方ない。
もうこれ以上、速水さんに嫌われたくないのに。
「ちゃんと、諦めるからっ」
「詩季」
「分かってるから……速水さんの迷惑にならないように……んんっ……ぁっ」
いきなり、速水さんに唇を奪われる。
遠慮なく舌が割りこんできて、口腔を貪られる。
久しぶりのキスに目眩がした。
深くなるキスに応えるだけで精一杯で。
やっと唇が離れた頃には体に力が入らなくて、ぐったりと速水さんの胸に寄りかかっていた。
「ぁ……はやみさんっ」
「好きだよ。詩季」
甘い声で囁かれて、ぼうっとしたまま頷く。
「……僕も、速水さんが、好き」
「うん」
すると速水さんはニコニコと笑顔になって、僕の頭をなでた。
「あのね、詩季。俺が好きなのは、詩季だけだよ」
また、そうやって嬉しい言葉をかけてくれる。
でも、少しずつはっきりしてきた頭で現実を思い出して、また悲しくなった。
「……あの女の人は?」
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