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第12話 オフレコ
しおりを挟む「彼女は、ただの友達だよ」
「……付き合ってるんでしょ?」
「違うって」
否定しながら、速水さんは困ったように頭を掻く。
「あ、あの……僕は、本当に気にしてないから」
速水さんが僕を好きだって言ってくれるなら、二番目でも構わない。
本命がいたって、僕を見てくれるなら。
「僕は、ちゃんと……立場をわきまえてるつもりだからっ」
ぎゅっと拳を握って、精いっぱいの笑顔を向ける。
速水さんを困らせたくなかったから、そうしたけど。
「あー! もうっ!」
苛立ったように、速水さんが自分の髪をぐしゃぐしゃにかきむしる。
「は、速水さん?」
「詩季!」
「はいっ」
「ホントは、言っちゃいけないんだけど。詩季は、誰にも言わないよね?」
「……はい」
よく分からないけど、口が堅いことには自信があったから、素直に頷く。
すると速水さんは深呼吸をして、何かを決心したかのように、僕を見下ろした。
「?」
「彼女ね、もう結婚してるんだよ」
「え?」
「表向き、独身ってなってるけど。彼女の旦那が、俺の友達なの」
「……え?」
「あの報道の写真だって、二人で映ってるように見えるけど、ちゃんと旦那もいたからな?」
「……え? そうなの?」
「そう。これ、オフレコだから」
内緒な?って唇に指をあてて笑う速水さんは、嘘を言ってるようには見えない。
だから、本当の話なんだろうけど。
「あの人……結婚してるんだ」
「そうだよ。あの写真のせいで、俺、友達にすげー怒られてさぁ。とばっちりだよなぁ」
「……そうだったんだ」
でも。
速水さんの話が、本当だとしても。
「……連絡」
「ん?」
「……ずっと、連絡くれなかったから……他に、付き合ってる人がいるんじゃないの?」
「他なんていねーよ?」
「じゃあ、なんで?」
「……ごめんな」
僕の頭をなでる速水さんが、眉尻を下げて情けない顔をする。
そして、ポケットから黒いカバーのスマホを取りだすと、僕に見せてくれた。
「新しいスマホ? 買ったの?」
初めて見るスマホは、最新の機種で、僕も欲しいなって思ってたデザインのやつだ。
いいなぁって場違いなことを思ってたら、
「前のやつ、ダメにしちゃったんだ」
「あ、だから新しいやつなんだ」
「うん。それでさ。……最後に詩季にメールしたの、いつか覚えてる?」
「たしか……僕が、夜勤で会えなかった時?」
「そう。あの日さ……急にオフになって、詩季に会いに行こうって思ってたけど、詩季に会えなかっただろ?」
「うん」
「元々その日は、友達の誕生日パーティーに誘われてて……あ、友達って、彼女の旦那だからな?」
「うん」
「で、予定が空いたから、行くことにしたんだ」
はあ、とため息を吐く速水さんはすごく落ち込んだ様子で心配になる。
何かあったのかな?
速水さんの背中をなでると、情けない顔で僕を見た。
「パーティーはホテルの屋上であったんだけど、俺、スマホをテラスから落としちゃってさ」
「ああ、それで、新しいスマホになったんだ?」
「そう。詩季と連絡とってたアプリ、IDとパスワードを前のスマホにしかメモしてなくて、ログインできなくなって……あれしか連絡先を登録してなかったから、詩季にメッセージが送れなくなったんだ」
速水さんは、本当に申し訳なさそうな顔で謝った。
「ごめんな。すぐ会いに行こうって思ってたけど、ドラマの撮影も始まって、時間取れなくて……何度か、詩季の家まで来たけど、留守で……ホントに、ごめん」
頭を下げる速水さんに、慌てて首を横に振る。
「速水さん、顔あげてよ」
「詩季……」
ゆっくりと顔を上げた速水さんは「ごめん」って何度も謝ってくる。
速水さんの態度を見れば、それが言い訳なんかじゃないって分かる。
本当に、連絡できなかっただけなんだ。
「速水さんっ!」
たまらず、速水さんに抱きついた。
僕のこと、嫌いになったわけじゃないんだ!
今でも、こうして僕のことを想ってくれてるって知って、心から安堵した。
嬉しくて、涙があふれてくる。
「詩季……許してくれる?」
「っ……うん!」
「ありがと。詩季」
速水さんが、おでこにキスしてくれた。
瞼に、鼻に、頬に、唇に。
啄むように、そっとキスを落として。
それから。
「好きだよ。詩季」
何度も囁いて、唇を重ねた。
速水さんの温もりを肌で感じる。
夢じゃない……速水さんは、まだ僕を見てくれてるんだ。
……いつか、速水さんが他の人を選ぶ時がきたら、また苦しい思いをするって分かっている。
だけど、自分からこの恋を手放せない。
一秒でも長く、速水さんの側に居られますように……。
「詩季。好き」
「速水、さん……ぁっ、好き……っ」
速水さんの腕に抱かれながら、息もできないくらい激しいキスをする。
熱くて、とろけそうで。
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