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第14話 信じてない
しおりを挟む速水さんが何て答えるのか分からなくて、心臓がドクドクと早鐘を打つ。
じわり、と手のひらに汗を掻いた。
ぎゅっと目を瞑ると、速水さんはハッキリ言ったのだ。
「詩季とは、別れないよ」
迷いのない声だった。
さらに、ぎゅっと僕を強く抱きしめてくる。
思わず顔を上げると、速水さんと目が合った。
「あっ」
「詩季」
優しい眼差しに見つめられて、顔がカァッと熱くなる。
期待したら、駄目なのに……。
こんなに優しくて素敵な人が、僕なんかに本気になるはずない。
嬉しくて、いたたまれなくて、また俯いた。
でも速水さんが頭を撫でてくれたから、おそるおそる速水さんの背中に腕を回す。
「景」
「なに?」
「絶対、シキを泣かせないって、約束して」
「うん。約束する」
即答した速水さんが、どんな顔をしてたかなんて分からない。
けど、何度も頭をなでる手のひらが優しくて、ぽろぽろと涙がこぼれた。
「シキ!」
たっちゃんの、いつもの明るい声がする。
ゆっくりと首だけ振り返れば、笑顔で僕を見ていた。
「シキ! また電話するからね!」
にっこりと笑って、僕に手を振る。
さっきまでの怒った顔が、嘘みたいだ。
「あ、そうだ景。今日は撮影あるんだから、遅刻するなよ~」
「そうだっけ?」
「も~! しっかりしろよ、景!」
スケジュールを把握していない速水さんに、たっちゃんが呆れた顔をする。
けど、僕を見てにっこり笑った。
「じゃあね、シキ!」
明るい笑顔で、出ていってしまった。
多分、気を利かせて二人きりにしてくれたんだろう。
僕を心配して来てくれたのに、申し訳ない気持ちになる。
「詩季」
「え……なに? 速水さん」
ぼんやりと玄関の扉を眺めていたら、速水さんに呼ばれた。
顔を上げると、速水さんが抱きしめていた腕を離して、僕の手を握ってくる。
「速水さん?」
「詩季。朝ご飯たべよ」
いつもと変わらない笑顔で、速水さんが言う。
手を繋いだままキッチンへ行って、お米がなかったので食パンを焼いて、目玉焼きを作って、冷蔵庫に残ってた野菜でサラダを作って、二人で朝ご飯を食べた。
何事も無かったかのように、いつも通りで。
さっきまでの出来事が夢みたいに思えた。
……きっと、そうだ。
速水さんは、たくさん嬉しいことを言ってくれたけど、それは全部、速水さんが誰か他の人と結婚するまでの話なんだ。
今は、きっと僕だけだよね?
いつか速水さんが他の人を選ぶまでの、繋ぎの間だけは……一緒にいられるってことだよね?
そう思ったら胸が少し痛んだけど、すっきりと納得した。
それまで側においてもらえるなら。
僕は……それでも、幸せなんだ。
+ + +
「詩季。こっちにきて」
朝食を済ませて、片付けも終わらせたところで、ソファーに座ってテレビを見てたはずの速水さんが、僕を呼んだ。
リビングへ行くと、速水さんはテレビを消して自分の膝をポンッと叩いた。
何だろうと思って速水さんの隣に座る。
「そこじゃなくて、ここ」
速水さんが、自分の太股をポンポンと叩く。
「え、でも」
「いいから。おいで」
速水さんの手に引かれて、そのまま無理やり膝の上に座らせられる。
横抱きにされると落ち着かなくて、速水さんの首に両手を回した。
「速水さん」
「詩季」
間近で見つめられてドキドキしていると、速水さんがちゅっとキスをしてくる。
「ん、速水さん……っ」
「詩季……ちゃんと言っておきたいことがあるんだ」
「……なに?」
真剣な眼差しに見つめられて、鼓動が跳ね上がる。
何を言われるのか予想できなくて、また悪い方向に考えてしまうけど。
速水さんは僕をじっと見つめたまま、ほんの少し悲しそうに眉尻を下げた。
「速水さん?」
「……前から思ってたけど。詩季、俺のことあんまり信じてないよね」
「?」
「俺がいくら『好きだ』って言っても、信じてないだろ?」
まるで責めるみたいに言われる。
どうして、そんなことを言うんだろう。
速水さんが僕を好きだって言ってくれる言葉は、疑ってないのに。
……いつまで好きでいてくれるのかは、分からないけど。
それを聞くのは厚かましい気がして、小さく否定した。
「……そんなこと、ないよ」
「じゃあ、何で詩季から連絡くれなかったの?」
「え?」
「俺がスマホをダメにして詩季に連絡できなかった時……詩季から電話してくれたら、すぐに事情を説明できたのに」
「あっ」
言われてみればそうだ。
速水さんの番号は変わったわけじゃない。
いつもアプリで連絡を取り合っていたけど、僕は速水さんの電話番号を知っている。
僕から電話すれば、すぐ解決した話なのだ。
でも僕は、自分から連絡はしないって決めてたから……。
「速水さんから、しばらく連絡がない時もあったし。仕事の邪魔をしたくなかったんだ」
「邪魔だなんて思ったことないよ」
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