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番外編 第1話 初めて会ったときから
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◆ 速水 ◆
暑いな、と思って瞼をわずかに開けると、薄暗く天井がみえた。
オレンジの小さな灯りがぼんやりと部屋を照らしている。
顔を横にむけると、すぐ目の前に詩季の寝顔があった。
すうすうと寝息をたてて、気持ちよさそうに眠っている。
暑いと思ったのは、詩季が胸元に身をよせてきたからだ。
詩季の頬に触ってみる。
やわらけぇな。
でもちょっとつめたい。
詩季、寒いのかな?
よくよく目を凝らして見れば、詩季の体には毛布がかかってない。
「やべっ」
どうやら、俺が詩季の分の毛布まで取ってしまったらしい。
慌てて詩季の肩まで毛布をかける。
でもぴったりとくっついて離れない詩季を見ていると愛おしくて、起こさないようにそっと頭をなでた。
詩季はいつでもかわいいけど、寝顔もかわいいなぁ。
子供みたいにあどけなくて、手を握ってやるときゅっと握りかえしてくるんだ。
かわいい、かわいい詩季。
笑ってくれると、ホントに嬉しいんだ。
「速水さん」って甘えた声も。「好き」って言うときの、はにかむ顔も。
白い肌も、ながい睫も、潤んだ瞳も。
ちっちゃな唇で、必死になってキスを受け入れてくれるところも。
ぜんぶ好き。
詩季といると、すげぇ幸せなんだ。
こうやって、安心しきった顔で眠る詩季を見つめているだけで、心が満たされる。
どんなに嫌なことがあっても、詩季と一緒にいる時間が俺を癒してくれる。
初めて会ったときからそうだった。
+ + +
詩季に初めて会ったのは、彗星としてデビューしてから数年経った頃だった。
俺は元々、人付き合いもトークも得意じゃない。だから、歌う以外の仕事が嫌で嫌でしょうがなかった。
売れない時期だったから、いろんな仕事をさせられる。
そんなの、新人なら当たり前のことだ。
だけどその頃は、辛抱できるほど、大人じゃなかったんだ。
そのうち、歌うことさえ嫌になった。
スランプっていうのかな。
レコーディングをしなくちゃいけないのに、歌えなくなったんだ。
そのせいで、たっちゃんと天馬にも迷惑をかけた。
もう芸能界なんて辞めよう……そう思ってた頃に、詩季に会ったんだ。
たぶん、何かの打ち上げの席だったと思う。
本当は、参加しないで帰ろうと思ってたんだけど、たっちゃんに頼まれたんだ。
「おねがい! 今日は参加して!」
必死に頼まれて、しぶしぶ参加した。
メンバーに迷惑を掛けてる自覚もあったしな。
けど、無愛想な顔で、一人きりで酒をあおってた。
周りのみんなも、俺がスランプで歌えないのは知ってたから、声をかけづらかったんだろう。
ふつうに話しかけてくれるのは、たっちゃんくらいだ。
天馬はメンバーだったけど、まだ今みたいに仲良くなかったから、心配そうな顔をしながらも話しかけてくることはなかった。
「ねえ景! 飲んでる?」
「んー、飲んでるよ」
「一人じゃつまんなくない?」
「ううん。へーき」
誰かと一緒に飲んだって、グチしか言わない気がするし。
一人の方が気楽なんだよ。
そう言ったのに、たっちゃんは俺の話なんか聞いてなくて、部屋の隅っこの方を差して耳打ちしてきた。
「あのね、景。あの子、分かる?」
「ん? どの子?」
「あそこ。すみっこで、一人でいる子」
「んん? 男の子?」
「そう! あの子ね、景の大ファンなの! ちょっと話してあげてほしんだよね~」
「ええ~」
「おねがい! オレ、景に会わせてあげるって、約束しちゃったの!」
「ヤダよ~俺は一人のほうが……」
「おねがい景!!」
両手を合わせて必死に頼むたっちゃんに、何回もヤダって言ったんだけど。
たっちゃんって、けっこう強引なんだよな。
断るのが面倒くさくなって、仕方なしにその子の席まで移動した。
女の子だったら、ゼッタイ行かなかったけど。
男だし、いっか。
その程度の気持ちで。
でも。
「となり、座ってもいい?」
つまらなそうにうつむいてお酒を飲んでたその子に、声をかけたとき。
「えっ!?」
バッと勢いよく顔を上げたその子が、俺をみて目を輝かせたのが、すごく印象的だった。
「は、……はやみ、さん?」
「うん。さっきたっちゃんから、俺のファンがいるって聞いてさ」
「あのバカ! ……すみません! たっちゃんが勝手に言ってるだけでっ……あの、僕のことなんて、気にしなくていいんでっ……皆さんがいるお席に……」
「? 俺のファンじゃなかったの?」
「いえっ! そうじゃなくて! ……僕、速水さんのファンなんです! でもお話したいとか、そういうんじゃなくて……ただ、速水さんの顔を見られたらいいなって、本当に、それだけで……!」
顔を赤くして、茶色の瞳をうるうると潤ませる。
泣きそうな顔で耳朶まで真っ赤になったその子を、かわいいと思った。
勝手に隣に座って、それから、頭をよしよしってなでた。
暑いな、と思って瞼をわずかに開けると、薄暗く天井がみえた。
オレンジの小さな灯りがぼんやりと部屋を照らしている。
顔を横にむけると、すぐ目の前に詩季の寝顔があった。
すうすうと寝息をたてて、気持ちよさそうに眠っている。
暑いと思ったのは、詩季が胸元に身をよせてきたからだ。
詩季の頬に触ってみる。
やわらけぇな。
でもちょっとつめたい。
詩季、寒いのかな?
よくよく目を凝らして見れば、詩季の体には毛布がかかってない。
「やべっ」
どうやら、俺が詩季の分の毛布まで取ってしまったらしい。
慌てて詩季の肩まで毛布をかける。
でもぴったりとくっついて離れない詩季を見ていると愛おしくて、起こさないようにそっと頭をなでた。
詩季はいつでもかわいいけど、寝顔もかわいいなぁ。
子供みたいにあどけなくて、手を握ってやるときゅっと握りかえしてくるんだ。
かわいい、かわいい詩季。
笑ってくれると、ホントに嬉しいんだ。
「速水さん」って甘えた声も。「好き」って言うときの、はにかむ顔も。
白い肌も、ながい睫も、潤んだ瞳も。
ちっちゃな唇で、必死になってキスを受け入れてくれるところも。
ぜんぶ好き。
詩季といると、すげぇ幸せなんだ。
こうやって、安心しきった顔で眠る詩季を見つめているだけで、心が満たされる。
どんなに嫌なことがあっても、詩季と一緒にいる時間が俺を癒してくれる。
初めて会ったときからそうだった。
+ + +
詩季に初めて会ったのは、彗星としてデビューしてから数年経った頃だった。
俺は元々、人付き合いもトークも得意じゃない。だから、歌う以外の仕事が嫌で嫌でしょうがなかった。
売れない時期だったから、いろんな仕事をさせられる。
そんなの、新人なら当たり前のことだ。
だけどその頃は、辛抱できるほど、大人じゃなかったんだ。
そのうち、歌うことさえ嫌になった。
スランプっていうのかな。
レコーディングをしなくちゃいけないのに、歌えなくなったんだ。
そのせいで、たっちゃんと天馬にも迷惑をかけた。
もう芸能界なんて辞めよう……そう思ってた頃に、詩季に会ったんだ。
たぶん、何かの打ち上げの席だったと思う。
本当は、参加しないで帰ろうと思ってたんだけど、たっちゃんに頼まれたんだ。
「おねがい! 今日は参加して!」
必死に頼まれて、しぶしぶ参加した。
メンバーに迷惑を掛けてる自覚もあったしな。
けど、無愛想な顔で、一人きりで酒をあおってた。
周りのみんなも、俺がスランプで歌えないのは知ってたから、声をかけづらかったんだろう。
ふつうに話しかけてくれるのは、たっちゃんくらいだ。
天馬はメンバーだったけど、まだ今みたいに仲良くなかったから、心配そうな顔をしながらも話しかけてくることはなかった。
「ねえ景! 飲んでる?」
「んー、飲んでるよ」
「一人じゃつまんなくない?」
「ううん。へーき」
誰かと一緒に飲んだって、グチしか言わない気がするし。
一人の方が気楽なんだよ。
そう言ったのに、たっちゃんは俺の話なんか聞いてなくて、部屋の隅っこの方を差して耳打ちしてきた。
「あのね、景。あの子、分かる?」
「ん? どの子?」
「あそこ。すみっこで、一人でいる子」
「んん? 男の子?」
「そう! あの子ね、景の大ファンなの! ちょっと話してあげてほしんだよね~」
「ええ~」
「おねがい! オレ、景に会わせてあげるって、約束しちゃったの!」
「ヤダよ~俺は一人のほうが……」
「おねがい景!!」
両手を合わせて必死に頼むたっちゃんに、何回もヤダって言ったんだけど。
たっちゃんって、けっこう強引なんだよな。
断るのが面倒くさくなって、仕方なしにその子の席まで移動した。
女の子だったら、ゼッタイ行かなかったけど。
男だし、いっか。
その程度の気持ちで。
でも。
「となり、座ってもいい?」
つまらなそうにうつむいてお酒を飲んでたその子に、声をかけたとき。
「えっ!?」
バッと勢いよく顔を上げたその子が、俺をみて目を輝かせたのが、すごく印象的だった。
「は、……はやみ、さん?」
「うん。さっきたっちゃんから、俺のファンがいるって聞いてさ」
「あのバカ! ……すみません! たっちゃんが勝手に言ってるだけでっ……あの、僕のことなんて、気にしなくていいんでっ……皆さんがいるお席に……」
「? 俺のファンじゃなかったの?」
「いえっ! そうじゃなくて! ……僕、速水さんのファンなんです! でもお話したいとか、そういうんじゃなくて……ただ、速水さんの顔を見られたらいいなって、本当に、それだけで……!」
顔を赤くして、茶色の瞳をうるうると潤ませる。
泣きそうな顔で耳朶まで真っ赤になったその子を、かわいいと思った。
勝手に隣に座って、それから、頭をよしよしってなでた。
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