終わる恋と知っていても

早桃 氷魚(さもも ひお)

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番外編 第2話 ムダじゃなかった

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「ッ! ……は、はやみ、さんっ!!」
「あ、ごめん。なんかかわいくて」
「いえ、あの……」
びっくりした顔で俺を見つめて、また頬を赤くしてうつむいちゃう。
かわいいなぁ。
今もかわいいけど、笑ったら、もっとかわいいだろうな。
「ねえ、名前なんていうの?」
「……香川です」
「かがわ……下の名前は?」
「詩季です」
「じゃ、詩季って呼んでもいい?」
「え!?」
「だめ?」
「い、いえ。ダメじゃないですけど……」
詩季が困った顔で見つめてくる。
でも決めちゃった。
名前で呼んだ方が、親しみがわくしね。
「じゃあ、詩季。よろしくね」
「はい。速水さん」
とても嬉しそうなその笑顔が、めちゃくちゃかわいかった。



それから、詩季と二人でお酒を飲みながらずっとおしゃべりした。
詩季はたっちゃんの友達で、今日はホントは来る予定じゃなかったって言うからびっくりした。
「急に誘われて……僕なんかがいたら迷惑だって思ったんですけど、たっちゃんが、どうしてもってしつこくて」
「そうなの?」
たっちゃんの口ぶりだと、詩季が頼んで連れてきてもらったのかなって思ってたけど。
俺のファンだって言ってたし、たっちゃんが気を利かせてくれたのかな。
「すみません……図々しくお邪魔しちゃって」
詩季が小さくなって申し訳なさそうに謝る。
そんな顔もかわいくて、頭をよしよしってなでた。
「っ……速水さん」
「たっちゃんが連れてきたんなら、だれも文句いわないよ」
「でも……」
「俺、今日は詩季に会えて嬉しいよ」
「……」
そう言うと、詩季は顔を真っ赤にして、潤んだ瞳を隠すようにうつむく。
「……僕も。速水さんと、こうしてお話できるなんて……っ」
「詩季?」
「本当に、嬉しいですっ……お礼を言いたかったから」
「お礼?」
「はい……僕、速水さんの歌声に救われたんですよ」
 ゆっくりと顔を上げた詩季が、眩しいものをみるように目を細めた。
俺を見て、嬉しそうに微笑む。
「僕、速水さんの歌が好きです」
小さいけれど、はっきりとそう言った。
その言葉にドキッとして、頬が熱くなる。
「『天使の抱擁』で、速水さんの歌を聴いたときから、ずっと……速水さんの、ファンなんです」
「あ……ありがと」
胸がドキドキしてきて、返事もろくにできない。
素っ気ない言い方になっちゃったけど、詩季はそれも気にならないみたいに、笑顔を見せてくれた。
俺の歌が本当に好きだって、嬉しそうに教えてくれる。
「速水さんの歌声はね、心に深く染み込むんです。ラジオから聞こえてきただけなのに、本当に、貴方が隣にいてくれたような気がした……」
詩季は瞳をキラキラさせて、言ったのだ。
「あの日、速水さんは……僕に愛を降らせてくれました。こういうの、ちょっとくさいですけど……僕は、貴方の愛に救われたんです」
詩季のまっすぐな想いに、胸を打たれる。
俺の歌が、誰かの希望になれたのだと知って、目頭が熱くなった。
ムダじゃなかったんだ……。
今まで自分が頑張ってきたことも、大好きな歌に情熱を注いだことも。
誰かの勇気や光になることがあるんだって分かって、信じられないくらい嬉しかった。
「そっかぁ」
「はいっ。本当に、ありがとうございました」
「いや……俺の方こそ、ありがとうな」
詩季に礼を言うと、幸せそうな顔で笑ってくれた。
かわいくて、頭をなでたら、詩季は耳朶まで真っ赤にしてうつむいた。
このまま、ぎゅってしたら、怒るかな?
手を伸ばしかけたけど……何とか思いとどまる。
詩季って、たっちゃんの友達なんだよな。
さすがに……まずいよなぁ。
初対面だし、嫌われたらやだし。
でも、これで終わりにするのはもっとイヤだ。
「詩季。連絡先教えてよ」
「え?」
「また、詩季に会いたい。……ダメ?」
「い、いえっ……あの、……」
びっくりしたように目を見開いた詩季が、きょろきょろと周りを見渡してから、また俺を見た。
「僕で……いいんですか?」
何でか、泣きそうな顔で聞いてくるから、
「うん。詩季がいいんだよ。今日、すげー楽しかったもん」
「……っ」
「これが俺の番号」
その場で、電話番号を交換した。
ついでに、アプリにも登録する。
「これで、いつでも連絡とれるな」
俺がそう言うと、詩季はスマホの画面を見つめて、泣きそうな顔をした。
「あの……」
「ん?」
「速水さんの番号……本当に、いいんですか?」
おずおずと尋ねてくる詩季に「うん」ってうなずいたら、詩季は涙をうかべてスマホをぎゅっと握りしめた。
「詩季?」
「ありがとうございますっ」
うつむいた詩季は、スマホを握りしめたまま動かなくて。
どうしたんだろうって思ったけど、とにかく詩季がかわいかったのでずっと頭をなでていた。
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