永遠の夢を見たかった

早桃 氷魚(さもも ひお)

文字の大きさ
16 / 26

16話 独占欲

しおりを挟む




「そんなことはない……」
 迅は曖昧に頷いた。
 ハッキリしない態度に、元村が不審な目を向ける。
「お前ら、性格も違うし趣味も合いそうにねーのに、いったい何の話ししてんだよ」
 共通の話題が思いつかない。
 そう言われて、迅は言葉に詰まった。月読と話すのは、瑠璃のことだけだ。しかし、迅も月読も、瑠璃のことは隠しておきたいので、説明のしようがない。
 もし、瑠璃が人前に出たら……誰もが、一目で虜になってしまう。
 そんな想いが渦巻いて、迅は独占欲に心を動かされた。
「……」
「俺には言えねぇのか」
 元村が、気分を害したように睨み付けてくる。
 迅は慌てて首を振ると、咄嗟にこう言った。
「ば、薔薇をっ」
「ばら?」
「ああっ、薔薇を……その、もらったんだ。月読の家に咲いてる薔薇は、見事で……」
 しどろもどろになりながら、迅は言い訳する。
「俺に薔薇なんて似合わないだろ? だから、その……黙ってたんだ」
 笑われると思った。迅がそう付け足せば、あり得ないことではないと元村は納得する。
 だが隠し方が怪しいと、疑惑の目はそのままだ。
「俺には、嘘吐くなよ」
 元村は迅を睨み付けると、自分の席へ戻っていった。





 放課後になると、月読は級友達と寄り道して帰るのが日課になっていた。
 この見目麗しい月読と友人になれることが彼らには誇らしいことのようだ。成績も良く人当たりの良い性格のため、誰もが月読に好感を持っている。
「月読!」
 その日、教室を出ようとした月読を、誰かが呼び止めた。
 振り返ると、険しい顔をした元村が立っている。
「元村君?」
 普段から、月読を毛嫌いしている元村だ。
 訝しげに首を傾げたのは月読だけでなく、一緒に帰ろうとしていた取り巻き達も足を止めて、怪訝そうに振り返った。
「話しがある。俺に付き合え」
 周りの生徒など目に入っていないのか、月読だけを真っ直ぐに見据えて元村は言った。
「ちょっと待てよ!」
「いきなり何だ。俺たちの方が先約だぞ」
 突然のことに不満の募った彼らは、元村に文句を言い始める。
 約束していたのは自分たちが先だという言い分は分かるが、元村は承知の上で言っているのだ。
「俺は、お前らと違って、大事な用があるんだよ!」
 怒鳴るような声に空気が震える。
 睨み付ける双眸は鋭く、級友達は恐れて一歩下がった。
「分かったよ」
 月読は、元村に頷いた。
 そして、にこやかな笑みで、級友達をぐるっと見回す。
「皆、今日の用事は、明日でもいいかな?」
 月読の、ふわふわとした柔らかな声でそう言われては、誰も反論する者などいない。それどころか、顔を真っ赤にして俯く者さえいた。
「じゃ、じゃあ月読君。また明日っ」
「ああ。元村君と楽しんで!」
 四人はいた取り巻き達が、そそくさと離れていく。
 元村の時とは違い、あっさり退いた。そのことに、元村また不機嫌な顔をする。
「どいつもこいつも、騙されやがって」
 小さく舌打ちした言葉は、しっかり月読に届いていた。
「心外だな。誰が騙すって?」
 にこにこと笑いながら、月読は黒髪を掻き上げた。鞄を手に持ち、行こうと肩で示す。
「ああ」
 元村は釈然としなかったが、月読の後をついて教室を出た。
「今日は、どこへ連れて行ってくれるんだい?」
 月読は、からかうような口調で尋ねる。
 だが元村は、眉を顰めたまま何も答えない。
 仕方なく、月読は黙って元村の後をついていった。
 どういうつもりで連れ出したのかは分からないが、月読を疑っていることは確かなようだ。
 本能的な嫌悪もあるのだろうが、それが月読にはたまらなく可笑しい。
 瑠璃の弱った体には血が必要だ。
 それなのに、狩りを嫌う優しい瑠璃は、気に入った男が目の前にいても、手を出すことが出来ない。
 だからこそ、餌は多い方が良いのだ。
「うまそうだな」
 独り言を漏らして月読は微笑む。
「何か言ったか?」
「いや。あそこの家の庭になってる柿。熟れたら美味しそうだなと思って」
 にっこりと笑顔を浮かべる。
 元村はますます眉間に皺を寄せて、月読から顔を背けた。



 元村が月読を連れてきたのは、ひと気のない神社だった。
 周りを木々が鬱そうと覆い茂っていて、真夏でも薄暗さを感じさせることだろう。境内はひんやりと涼んだ空気だった。
「ここ、俺ん家」
 後ろの方を指差して、元村は月読を見る。古い建物ではあったが、今も使われているようだ。
「ふぅん」
 月読は意味ありげな笑みを浮かべ、珍しそうに境内を見遣った。
「それで、俺に何か用でも?」
 元村が階段に腰掛けたので、月読はその隣りに座った。
 そして、無邪気さを装って尋ねてみる。





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

バズる間取り

福澤ゆき
BL
元人気子役&アイドルだった伊織は成長すると「劣化した」と叩かれて人気が急落し、世間から忘れられかけていた。ある日、「事故物件に住む」というネットTVの企画の仕事が舞い込んでくる。仕事を選べない伊織は事故物件に住むことになるが、配信中に本当に怪奇現象が起こったことにより、一気にバズり、再び注目を浴びることに。 自称視える隣人イケメン大学生狗飼に「これ以上住まない方がいい」と忠告を受けるが、伊織は芸能界生き残りをかけて、この企画を続行する。やがて怪異はエスカレートしていき…… すでに完結済みの話のため一気に投稿させていただきますmm

切なくて、恋しくて〜zielstrebige Liebe〜

水無瀬 蒼
BL
カフェオーナーである松倉湊斗(まつくらみなと)は高校生の頃から1人の人をずっと思い続けている。その相手は横家大輝(よこやだいき)で、大輝は大学を中退してドイツへサッカー留学をしていた。その後湊斗は一度も会っていないし、連絡もない。それでも、引退を決めたら迎えに来るという言葉を信じてずっと待っている。 そんなある誕生日、お店の常連であるファッションデザイナーの吉澤優馬(よしざわゆうま)に告白されーー ------------------------------- 松倉湊斗(まつくらみなと) 27歳 カフェ・ルーシェのオーナー 横家大輝(よこやだいき) 27歳 サッカー選手 吉澤優馬(よしざわゆうま) 31歳 ファッションデザイナー ------------------------------- 2024.12.21~

はじまりの朝

さくら乃
BL
子どもの頃は仲が良かった幼なじみ。 ある出来事をきっかけに離れてしまう。 中学は別の学校へ、そして、高校で再会するが、あの頃の彼とはいろいろ違いすぎて……。 これから始まる恋物語の、それは、“はじまりの朝”。 ✳『番外編〜はじまりの裏側で』  『はじまりの朝』はナナ目線。しかし、その裏側では他キャラもいろいろ思っているはず。そんな彼ら目線のエピソード。

今日は少し、遠回りして帰ろう【完】

新羽梅衣
BL
「どうしようもない」 そんな言葉がお似合いの、この感情。 捨ててしまいたいと何度も思って、 結局それができずに、 大事にだいじにしまいこんでいる。 だからどうかせめて、バレないで。 君さえも、気づかないでいてほしい。 ・ ・ 真面目で先生からも頼りにされている枢木一織は、学校一の問題児・三枝頼と同じクラスになる。正反対すぎて関わることなんてないと思っていた一織だったが、何かにつけて頼は一織のことを構ってきて……。 愛が重たい美形×少しひねくれ者のクラス委員長、青春ラブストーリー。

真空ベータの最強執事は辞職したい~フェロモン無効体質でアルファの王子様たちの精神安定剤になってしまった結果、執着溺愛されています~

水凪しおん
BL
フェロモンの影響を受けない「ベータ」の執事ルシアンは、前世の記憶を持つ転生者。 アルファ至上主義の荒れた王城で、彼はその特異な「無臭」体質ゆえに、フェロモン過多で情緒不安定な三人の王子たちにとって唯一の「精神安定剤」となってしまう。 氷の第一王子、野獣の第二王子、知略の第三王子――最強のアルファ兄弟から、匂いを嗅がれ、抱きつかれ、執着される日々。 「私はただの執事です。平穏に仕事をさせてください」 辞表を出せば即却下、他国へ逃げれば奪還作戦。 これは、無自覚に王子たちを癒やしてしまった最強執事が、国ぐるみで溺愛され、外堀を埋められていくお仕事&逆ハーレムBLファンタジー!

雪を溶かすように

春野ひつじ
BL
人間と獣人の争いが終わった。 和平の条件で人間の国へ人質としていった獣人国の第八王子、薫(ゆき)。そして、薫を助けた人間国の第一王子、悠(はる)。二人の距離は次第に近づいていくが、実は薫が人間国に行くことになったのには理由があった……。 溺愛・甘々です。 *物語の進み方がゆっくりです。エブリスタにも掲載しています

Promised Happiness

春夏
BL
【完結しました】 没入型ゲームの世界で知り合った理久(ティエラ)と海未(マール)。2人の想いの行方は…。 Rは13章から。※つけます。 このところ短期完結の話でしたが、この話はわりと長めになりました。

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

処理中です...