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16話 独占欲
しおりを挟む「そんなことはない……」
迅は曖昧に頷いた。
ハッキリしない態度に、元村が不審な目を向ける。
「お前ら、性格も違うし趣味も合いそうにねーのに、いったい何の話ししてんだよ」
共通の話題が思いつかない。
そう言われて、迅は言葉に詰まった。月読と話すのは、瑠璃のことだけだ。しかし、迅も月読も、瑠璃のことは隠しておきたいので、説明のしようがない。
もし、瑠璃が人前に出たら……誰もが、一目で虜になってしまう。
そんな想いが渦巻いて、迅は独占欲に心を動かされた。
「……」
「俺には言えねぇのか」
元村が、気分を害したように睨み付けてくる。
迅は慌てて首を振ると、咄嗟にこう言った。
「ば、薔薇をっ」
「ばら?」
「ああっ、薔薇を……その、もらったんだ。月読の家に咲いてる薔薇は、見事で……」
しどろもどろになりながら、迅は言い訳する。
「俺に薔薇なんて似合わないだろ? だから、その……黙ってたんだ」
笑われると思った。迅がそう付け足せば、あり得ないことではないと元村は納得する。
だが隠し方が怪しいと、疑惑の目はそのままだ。
「俺には、嘘吐くなよ」
元村は迅を睨み付けると、自分の席へ戻っていった。
放課後になると、月読は級友達と寄り道して帰るのが日課になっていた。
この見目麗しい月読と友人になれることが彼らには誇らしいことのようだ。成績も良く人当たりの良い性格のため、誰もが月読に好感を持っている。
「月読!」
その日、教室を出ようとした月読を、誰かが呼び止めた。
振り返ると、険しい顔をした元村が立っている。
「元村君?」
普段から、月読を毛嫌いしている元村だ。
訝しげに首を傾げたのは月読だけでなく、一緒に帰ろうとしていた取り巻き達も足を止めて、怪訝そうに振り返った。
「話しがある。俺に付き合え」
周りの生徒など目に入っていないのか、月読だけを真っ直ぐに見据えて元村は言った。
「ちょっと待てよ!」
「いきなり何だ。俺たちの方が先約だぞ」
突然のことに不満の募った彼らは、元村に文句を言い始める。
約束していたのは自分たちが先だという言い分は分かるが、元村は承知の上で言っているのだ。
「俺は、お前らと違って、大事な用があるんだよ!」
怒鳴るような声に空気が震える。
睨み付ける双眸は鋭く、級友達は恐れて一歩下がった。
「分かったよ」
月読は、元村に頷いた。
そして、にこやかな笑みで、級友達をぐるっと見回す。
「皆、今日の用事は、明日でもいいかな?」
月読の、ふわふわとした柔らかな声でそう言われては、誰も反論する者などいない。それどころか、顔を真っ赤にして俯く者さえいた。
「じゃ、じゃあ月読君。また明日っ」
「ああ。元村君と楽しんで!」
四人はいた取り巻き達が、そそくさと離れていく。
元村の時とは違い、あっさり退いた。そのことに、元村また不機嫌な顔をする。
「どいつもこいつも、騙されやがって」
小さく舌打ちした言葉は、しっかり月読に届いていた。
「心外だな。誰が騙すって?」
にこにこと笑いながら、月読は黒髪を掻き上げた。鞄を手に持ち、行こうと肩で示す。
「ああ」
元村は釈然としなかったが、月読の後をついて教室を出た。
「今日は、どこへ連れて行ってくれるんだい?」
月読は、からかうような口調で尋ねる。
だが元村は、眉を顰めたまま何も答えない。
仕方なく、月読は黙って元村の後をついていった。
どういうつもりで連れ出したのかは分からないが、月読を疑っていることは確かなようだ。
本能的な嫌悪もあるのだろうが、それが月読にはたまらなく可笑しい。
瑠璃の弱った体には血が必要だ。
それなのに、狩りを嫌う優しい瑠璃は、気に入った男が目の前にいても、手を出すことが出来ない。
だからこそ、餌は多い方が良いのだ。
「うまそうだな」
独り言を漏らして月読は微笑む。
「何か言ったか?」
「いや。あそこの家の庭になってる柿。熟れたら美味しそうだなと思って」
にっこりと笑顔を浮かべる。
元村はますます眉間に皺を寄せて、月読から顔を背けた。
元村が月読を連れてきたのは、ひと気のない神社だった。
周りを木々が鬱そうと覆い茂っていて、真夏でも薄暗さを感じさせることだろう。境内はひんやりと涼んだ空気だった。
「ここ、俺ん家」
後ろの方を指差して、元村は月読を見る。古い建物ではあったが、今も使われているようだ。
「ふぅん」
月読は意味ありげな笑みを浮かべ、珍しそうに境内を見遣った。
「それで、俺に何か用でも?」
元村が階段に腰掛けたので、月読はその隣りに座った。
そして、無邪気さを装って尋ねてみる。
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