永遠の夢を見たかった

早桃 氷魚(さもも ひお)

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17話 問い詰める

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 相手が油断しているなら、それを最大限に利用するべきだ。餌にするなら、ひと気のないところで狩った方が良い。
 初めて見た時から気になっていた、元村の味。
 きっと素敵なものに違いない。
「お前さ」
「月読」
「あ?」
「俺の名前、月読だよ。お前じゃない」
 月読がそう言うと、元村は口をへの字に曲げた。
「……月読」
「なに?」
 月読は、機嫌よく返事をする。
 元村の顔を覗き込んで、わざと誘うような声を出す。
「どうしたの?」
 月読の甘い声に、元村は不覚にも胸が高鳴った。忌々しい心臓を押さえつけるように拳を握り、月読を睨み付ける。
「っ……加佐見のこと、好きなのか?」
 顔をしかめたまま、月読に問う。
 しかし、自分で尋ねておきながら、好きだと言われたら死ぬほど不愉快だと思った。
「ふふ、どうして?」
 月読は、くすっと笑って元村を見る。
「よく加佐見と話してるだろ」
 元村が見る限り、ほんの短い間のことだ。
 だが、月読はよく加佐見の居る方を見つめているし、ときおり人目を盗むように話しかけている。
 その様子を見れば、元村だって、勘ぐるのは当然だ。
「ああ。加佐見とは、ちょっとね」
 月読は笑顔を貼り付けたまま、隙を見せない。
「……薔薇の話、してるのか?」
 元村は、裏付けを取るように月読に尋ねる。
 すると、月読が表情を消した。
「薔薇?」
「加佐見は、そう言ったぜ?」
 違うのなら、本当のことを言え。
 元村は問い詰めるように月読を見た。
 そこへ、冷たい風が吹き抜ける。
 日が暮れて、辺りが急に薄暗くなってきた。向かい合う二人の顔も、徐々にぼやけていく。
 元村は、月読の反応を見逃すまいと目をこらした。
 どれだけ経ったのか。
 月読が、くすくす笑いながら答えた。
「俺は、加佐見のことが好きな訳じゃないよ」
 続けて、月読は歌うように答える。
「薔薇の話も、嘘」
「だったら!」
「なに?」
 にこにこと微笑む月読は、美しかった。
 思わず見惚れそうになるが、元村の目は誤魔化されない。
 元村は生まれのせいか、異形のものに敏感だ。月読の異様な雰囲気に気圧されながらも、キッと睨みつけた。
「加佐見に近づくな!」
「どうして?」
「俺が、気に入らねぇんだッ。理由はそれで十分だ!」
 本能が、告げるのだ。
 目の前にいる男は危険だと、総毛立つような悪寒が走る。
 だが、いくら元村が警戒心を剥き出しにしても月読は笑みを崩さない。
「構ってくるのは、加佐見の方だよ」
 優しげな声で月読は言う。
「そんな訳ねぇっ! あいつは、ちょっと顔がいいからってフラフラ近づくような奴じゃねぇんだ!」
 幼少の頃から迅を知っている元村は、絶対にそんなことはないと言い張る。
「へえ。加佐見のこと、よく知っているんだな」
 月読は感心したような声も、元村の勘に障った。
「てめぇッ!!」
 胸ぐらを掴み、月読を殴りかかろうと拳を振り上げた。
 その瞬間、月読が元村の首筋に手をかける。
 グッと首を掴むと、元村の顔が強張った。
「く……ぅッ……」
 月読の手が触れたとたん、体が痺れたように動かない。
 冷や汗を流しながら、元村は月読を射殺しそうな勢いで睨み付ける。
「物騒なことしないで」
 月読は、片手を元村の首にかけたまま静かに言った。
 凍えるような瞳で、元村を見つめる。表情はなく、唇だけが妙に艶めかしい。
「ッ……!」
 元村よりも小柄な月読に、どうしても力で敵わない。
 それが信じられなかった。
「元村くん」
 名を呼ぶ声は、甘く痺れるような響きだ。
 硬直したまま動けない元村の唇に、月読はそっと接吻けた。
「ッ!?」
 冷たい唇に、体が凍るようだった。
 ブワッと鳥肌が立ち、月読を突き飛ばそうとする。
「なっ……くそッ!」
 しかし、腕に力が入らない。
 みっともなく震えていて、思うように動かせないのだ。
 コイツ……何者だ!?
 元村は、化け物でも見るように月読を凝視した。
「なッ……なに、しやがった……ッ!?」
 元村が問えば、月読は氷の微笑みを浮かべて、元村をうっとりと見つめる。
「好きだよ、元村」
 突然の告白に目を見開く。
 何を言うのかと、口を開いたとたん、また月読が接吻けた。
「ンッ……ぐぅッ!」
 まるで、何かを吸い取られているような感覚だ。
 目の前の男は、人間ではない。
 元村の本能が、警鐘を鳴らした。
「ふふ。ねぇ……俺のこと、好き?」
 ふわふわと笑みをたたながら、月読は元村を抱きしめる。
 触れ合う肌の温度が低いことに、ゾッとした。
 このままじゃ、殺される……!?
「離せッ!!」
 胸に仕舞い込んだお守りは、邪を払うためのもの。
 元村は、渾身の力を振り絞って月読を突き飛ばした。 
「この野郎ッ!」




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