バラのおうち

氷魚(ひお)

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第4話 二人のケンカ

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「ノアはかわいいね」
 そう言ってクリスはよくオレを抱きしめる。
 クリスの体はいつもオレより冷たい。
 それを少しでも温めてあげたくて、夜一緒に寝るときにはクリスにぴったりくっついて眠った。
「クリス、あったかい?」
「うん。あったかいよ。ノア」
「えへへ」
 クリスが笑ってくれると、すごく嬉しい。
 オレはクリスが大好きで、料理ができなくても不器用でもかまわなかった。





 4歳になっても5歳になっても、三人での生活は変わらなかったけど、オレはクリスにばかりくっついていた。
 もちろんオリヴァーのことも好きだったけど、クリスにべったりだったのは理由がある。
 クリスの方が優しくて、オリヴァーは怖かったから。
 そして、二人はよく口ケンカをしたけど、必ずクリスが負けちゃうからだ。
 クリスが何かを頼んでも、オリヴァーは許さなかった。

「ダメだ」

 キッパリと断るオリヴァーに、クリスが必死に言い返す。
「なんで? どうしていつも、ダメっていうんだよ!」
「当たり前だろ。お前にできるわけがない」
「僕だって、それくらいできるよ!」
「うるせぇな。お前は足手まといなんだよ」
「っ……そんなの、やってみないと分からないだろ?」
「分かるから言ってるんだ」
 まったく聞く耳を持たないオリヴァーに、クリスはいつも食い下がる。
「オリヴァーに何が分かるんだよ!」
「はあ? 何もできないくせに、偉そうな口きくんじゃねぇ!」
「でもっ!」
「いいから黙ってろ!」
「……」
 オリヴァーに睨まれて、クリスが唇をかみしめる。
 眦に涙を浮かべて、そのままリビングを飛び出して行った。
 こうなると、クリスは部屋に閉じこもってしまう。
 オレがいくら呼んでも、出てこなくなっちゃうんだ。
「オリヴァー、クリスをいじめないでよぉ!」
「ふんっ、あいつが勝手に泣いてんだろ」
「オリヴァーのせいだよ!」
 ちっとも悪いと思ってないオリヴァーの背中を、ポカポカとたたく。
 でもオリヴァーにはまったく効かない。
 青い目でジロッとにらまれて、オレは悔しくて涙があふれてくる。

「うわぁぁんっ! オリヴァーのバカぁぁ!」

「うるせぇ。お前まで泣くんじゃねーよ」
「クリスにあやまってよー!」
「めんどくせぇな」
 顔をしかめながら、オリヴァーはティッシュをつかんで、オレの鼻をかんでくれる。
 でも、オレの言うことなんて、聞いてくれないし、まともに相手もしてくれない。
 オリヴァーがクリスに謝ったことは、一度もなかった。
 だからいつも、目元を赤くはらしたクリスが部屋から出てくるのを待つしかない。
 オレは、クリスのいない、オリヴァーと二人きりの時間が嫌いだ。
 クリスが部屋から出てくるまで、オリヴァーがひどく憎たらしくて、しかたない。
「ノア、ホットミルク飲むか?」
「いらない!」
「飲まないと寝れないんだろ?」
「ねむれるもん!」
 言い返すけど、オリヴァーは気にした様子もない。
 ぐずぐず言ってるオレにブランケットを巻いて、ソファーに座らせる。
 そしてキッチンに向かうと、あっという間にホットミルクを作って持ってきてくれた。
「ほら」
「……」
「落とすなよ、ノア」
 湯気の立つホットミルクは、とても美味しそうだ。
 オリヴァーの作る物は何でも美味しいから、オレは黙ってブランケットのすき間から手を伸ばす。
 めいっぱい頬をふくらませて、マグカップを受けとると、オリヴァーをにらんだ。
 でも、オリヴァーは口元に笑みを浮かべると、オレの髪をぐしゃぐしゃっとかき混ぜて、キッチンに戻っていった。

「……おいしい」

 ちょうどいい温度で、飲みやすくて、ちょっといい香りがして、コクがある。
 飲み終わるころには、お腹がいっぱいで、そのままソファーで眠ってしまう。
 クリスに謝ってくれないオリヴァーは嫌いなのに、オレはいつもそうやってごまかされるんだ。








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