恋花火

中原真琴

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恋花火

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恋花火


プロローグ


 初めてのキスはほんのりタバコの味がした。少し苦くて切ない味だった。
 その瞬間は一瞬だったけど永遠に感じた。
 俺はやがて唇を離し二人の口から銀色の糸が引かれた。
 大輔(だいすけ)は茫然(ぼうぜん)とし口を押さえて顔を赤らめている。ただ今は先程のことで混乱しているようだった。
 やがて、俺はぐしゃぐしゃの気持ちを整理する為に家に閉じこもり玄関に蹲(うずくま)りぐすぐす泣き始めた。そして「最低だ……俺……」と呟いた。
 ふと、雨音が聞こえたので外を見るとぽつりぽつりと雨が降り始めておりやがて土砂降(どしゃぶ)りになり俺の泣き声は雨音に消えた。




「ハァ……」
 俺は昼休み教室の机に突っ伏して深い溜息をついた。俺の名は宮野(みやの)誠一(せいいち)。東蒼(ひがしあおい)高校の二年生だ。俗に云(い)うチャラ男キャラで今はそのチャラ男キャラが原因で悩んでいる。
「オイ、誠一聞いているのか?」と金髪の青年が俺に聞いた。金髪の青年の名は中川(なかがわ)大輔(だいすけ)。強面(こわもて)の青年だが面倒見がよくスポーツ万能で学年トップクラスの頭を持ちその為男女問わず人気者だ。そんな彼は今俺の勉強を見ていてくれている。理由は簡単。俺が追試(ついし)だからだ。
「オイ、そこ間違えてるぞ」大輔の言葉に俺は「ハァ……」と溜息を吐き「お前やる気あるのか? オレが貴重な昼休みを割(さ)いているんだ。少しはやる気を見せてくれないと……」大輔の言葉に俺は尚(なお)も溜息をつき「やる気がないならいい。オレも忙しいから……」と言い大輔が席を立とうすると俺は「あぁ! 待って待って~!」と必死になって言い引き止めて勉強を再開するがやはり俺はハァと溜息を吐き「なぁ、頼みがあるんだけど……大輔……」俺はそう言い大輔に頼む。しかし大輔は無表情で「断る」とバッサリと一刀両断(いっとうりょうだん)した。
「え? 俺まだ何も言ってないよ!?」俺の言葉に大輔は「お前のこういう時のフレーズは大抵(たいてい)殆(ほとん)どが厄介(やっかい)ごとだ……頼むからオレを巻き込むな」と尚も平然と言いペットボトルの緑茶(りょくちゃ)を口に流し込んだ。そして「どうせお前のことだ。女関連だろ?」大輔の言葉に「凄(すご)い大輔! なんで解るの!?」俺は感心した。すると大輔は「何年お前の幼馴染(おさななじみ)をやっていると思ってるんだ? 大体想像つくわ」と言った。「そこまで解ってるんなら相談に乗って~! 乗って乗って乗って~!」と俺が駄々(だだ)をこねて大輔の肩を揺らすと俺のスマホがベートヴェンの第九運命の着メロが鳴った。
「!」俺は青ざめた。「出ないでいいのか?」大輔の言葉に「……大輔出て……」と俺が言ったので大輔は渋々(しぶしぶ)出たが電話は切れやがてラインが送られて来て『誠一くん、どうして電話出てくれないの?』というメッセージが送られてきた。
「彼女からか……?」と大輔が聞くと俺は泣きながら「助けて~!」と大輔に泣きついて来た。「解ったから抱き着くな、暑苦しい……」大輔は心底(しんそこ)めんどくさそうな表情で言った。「本当大輔~、ありがとう!」と俺はコロッと泣き止み「ゲンキンな奴……」と大輔がボヤいた。
「実は今俺ストーカーされてるんだよ……」
 俺達は話を始めた。大輔は俺の話を聞きながら興味なさそうに「ふ~ん」と言った。「それで今大変困ってて……って聞いてる!? 大輔!?」俺の問いに「あ~、聞いてるから続けてみ……」と言い先を促(うなが)した。
 事の発端は二ヶ月前の合コンだった。隣町の女子校との合コンで俺のもろタイプのかわいい子がいたので自分から積極的にアプローチをかけた。彼女の名は夢(ゆめ)川(かわ)夏樹(なつき)で相手も満更(まんざら)でもなく俺達は会話に華(はな)を咲かせて盛り上がり俺は夏樹の電話番号とラインをゲットし俺は有頂天(うちょうてん)になり早速デートの予約を取り付けた。
「――でさぁ俺達はデートしたんだけどさぁ……って聞いてる? 大輔……」俺が大輔に聞くと「あ~、聞いてるから続けろ」大輔はペットボトルの緑茶を飲みながら言った。「ホント聞いてんのかよ?」と俺は頬を膨(ふく)らましプンスカしたが続けた。
「最初はさ、サラサラの髪に奇抜(きばつ)なメイクはしてない清楚(せいそ)なお嬢様って感じでちょっとやきもち焼きな所が可愛(かわい)かったんだよ……」
 俺は昔を懐(なつ)かしむようにうっとりして言った。それを聞いた大輔は「そうかのろけか……よかったな。じゃあこの話は終わりだ」と大輔が切り上げようとすると俺は「待って待ってぇ! 本題はこの次ぃ~!」と大輔の腕を掴んだ。
 夏樹は容姿(ようし)端麗(たんれい)、成績(せいせき)優秀(ゆうしゅう)。実家も金持ち、と絵に書いたお嬢様だ。ハッキリ言って落ち度がどこにもない。ある一点を覗(のぞ)けば。その一点とは――、
「夏樹……スゲー嫉妬(しっと)深いんだ……」と俺はげんなり顔で言った。
「嫉妬深い? いいんじゃないのか? ほっとかれるよりは愛が深くて……」大輔の言葉に俺は泣きながら「俺も最初はそう思ったよ! 現にニュースでストーカー事件起こった時はアイス片手に『愛が深いなぁ』なんて気軽に思ってたくらいだよ!」と言い大輔の肩をぐらぐら揺らした。「落ち着けって……」と大輔はうんざり顔で言い話しを聞いた。
「事の発端(ほったん)は最初のデートの時独自(どくじ)に調べたちょっといい雰囲気(ふんいき)のある喫茶店(きっさてん)に入店したことから始まったんだ」と言ってその時を思い返した。
「入店してウエィトレスが席へ案内し俺達が席へ着き俺が店内(てんない)を見て『ここイイよな……俺ここでバイトしようかな?』と呟いた瞬間(しゅんかん)夏樹は呼び出しボタンを物凄い顔で連打し店員を呼び出し『店長を呼んでっ!』と急に言い店長が出て来て夏樹が『さっきの店員さん私の彼氏に色目(いろめ)使って誘惑(ゆうわく)したの! だからクビにして!』と言ってきたんだ……」俺は溜息を吐き思い返した。
「この後俺達はすぐに店を出て夏樹に『どうしたんだ?』と俺が夏樹に聞くと夏樹は『だって誠一くん……あのウェイトレスさんいいなって……』」と控(ひか)えめに言い「はぁ? 俺はこの店イイなでウェイトレスのことは一言も言ってない!」と言うと夏樹は慌(あわ)てふためき「えっ? 私てっきり……」と顔を赤面(せきめん)させこの時の俺は「『やきもち焼いてくれたのか……かわいいな』ぐらいにしか思わなかったんだ。その時はな……」
 ある日、夏樹からラインが来た時公園でバスケ中で今忙(いそが)しいから後にしようとラインを放置し一時間後再度ラインを見るとメッセージがびっしりでメールも百通超えていた。更に留守電も一分おきに入っており俺は怖くなってスマホの電源を切った。その日は、それで事なきを得たが翌日どこから撮(と)ったのか分からない昨日のバスケの練習風景の写真が入った封筒が入っており次の瞬間俺のスマホが鳴り俺は恐る恐る電話に出『届いた?』と夏樹から電話が入って俺はあまりの怖さにすぐさま電話を切りその日は部屋に引き込もりこれはヤバいと思い『暫(しばら)く会えないと』と夏樹にメッセージを送ると夏樹から電話が入り『どうして?』と矢継(やつ)ぎ早に質問がきて俺は黙って切ったがそれがいけなかったのかそれ以降執拗(しつよう)かつ異常に電話やメール。ライン。果てはいつ撮ったのか分からない自分の写真が家のポストに入っており俺は参(まい)っていた。
 そう、嫉妬深いのだ。それに対し大輔は「嫉妬深い通してヤンデレだな……」と冷静に言った。
「助けてくれよ~、大輔~! このままじゃあ俺の青春ドス黒い色で染まっちゃうよぉ~!」と俺は泣きながら言うと大輔は溜息を吐き「なんで俺がお前の尻拭(しりぬぐ)いをしなきゃならないんだっ? どう考えても自分で蒔(ま)いた種だろ! 自分で摘(つ)み取れっ!」と言った。確かにごもっともだ。今回の俺の彼女夏樹のストーカー事件の発端(ほったん)は俺が夏樹を可愛いと思いアピールした俺にある。正(まさ)にそれは自分で蒔いた種だ。それを人にどうにかしてもらうのは大きな間違いだ。けど――
「大輔~」
 俺が泣き始めると大輔が「泣くなっ! とりあえず話は聞いたんだから後は自分で何とかしろ!」そう言うと席を立とうとしたが俺が大輔の腰を掴(つか)み「待って~、大輔~! 見捨てないで~」と泣きながら言い「お前しかいないんだよ~! 俺のこと捨てないで~!」と言うと周囲がざわついた。
「おいっ、誤解(ごかい)されるようなことを言うなっ!」と怒りながら大輔は言い俺は「どうしてもダメ?」と涙目(なみだめ)で言い「泣き落としに掛けてもダメだから……」と大輔が言ったので「……解った」と俺はそう言い手を離し「そうか、解ったか」と大輔はホッとし再び席へ着こうとした時「皆さ~ん! 俺は中川君に弄(もてあそ)ばれました~!」俺が教室全体に聞こえるように大声で言い大輔は吹(ふ)いた。「昨日の――ムグッ!」大輔が慌てて俺の口を塞(ふさ)ぎ「失礼しましたー!」と言い教室を出て廊下(ろうか)で「お前なんてことを言うんだっ!?」大輔は怒り心頭(しんとう)で聞くと「だって大輔が~」と俺は泣きながら言い「俺が学校に居づらくなるだろ!」大輔の言葉に俺が「じゃあ協力してくれる?」と言い大輔はげんなりしながら「あ~、ったくしょうがない……解ったよ! 協力してやるよ! その代わり一つ貸しだかんな!」と大輔がいうと「やったー! ありがとう、大輔!」と飛びついた。「わ~、バカっ! やめろ! ここ公衆(こうしゅう)の面前(めんぜん)だ!」と大輔は言った。
「――で具体的(ぐたいてき)にはどうすればいい?」大輔の言葉に俺は「え? どうすればって?」と聞き返し「だから案(あん)だ。案。何かあるんだろ?」と言いそれに対し俺は「勿論(もちろん)!」と言い自信満々(じしんまんまん)に胸を張って答えた。
「じゃあ、一応聞くが内容は?」と大輔が聞くと俺は「ズバリドキドキ偽物(にせもの)恋人(こいびと)作戦(さくせん)!」と人差し指を指して言った。「名前長いな……」と大輔はツッコんだ。
 俺の作戦はこうだ。
 先(ま)ず偽物の恋人を作りその恋人を夏樹に紹介(しょうかい)し自分はこの新しい恋人を好きになったから夏樹とは別れたい、と言い別れるのが大まかな流れだ。
「――っての、どう?」俺の言葉に大輔が「どうって?」と難色(なんしょく)を示した。「それヤバくないか? だって相手はストーカー行為(こうい)を犯(おか)しているヤンデレ彼女だろ? 今度は相手が危険(きけん)だろ?」と大輔が言ってきた。が「だから並(なみ)みの相手じゃなきゃいいんだよ!」と俺はノリノリに言い「並の相手じゃなきゃいい?」大輔は困惑(こんわく)して聞き返し「そいつより可愛い子を紹介するのか? オレが? ムリに決まってるだろ。そんなパーフェクト女子がこの一般校にいるわけないだろ!」と言うと俺は「ちっちっちっ!」とかぶりを振り「甘いなぁ。相手は恋人=(イコール)異性(いせい)とは限らないよ!」と言い「要するに同性(どうせい)カップル! 俺がゲイって言えばいいんだよ!」俺の提案(ていあん)に大輔は嫌な予感が的中したという表情をし「絶対無理だろ……」とツッコんだ。
「え~、なんでぇ?」俺の問いに大輔は「じゃあ聞くがその相手はどうやって探す?」と言うと「もう見つかってるから!」と俺はあっけらかんと言い「どんな奴だ。容姿(ようし)は年齢(ねんれい)は年収(ねんしゅう)は?」
「娘の婚約相手を確かめるような質問やめろっか、年収って……」と俺はツッコんだ。
「あ~。すまん取(と)り乱(みだ)した。とりあえず誰だ!?幼馴染として見極(みきわ)めてやる。お前にふさわしい相手かどうか!?」と俺が言うと「大輔って父親キャラ?」と言い俺は大輔を指さして「大輔。お前……」と言った。
「そうか、オレか……ってオレッ!?」と大輔は驚(おどろ)き「イヤイヤ無理(むり)だって! だってオレノーマルだしっ!」とパニックになって言い「だからフリッだって!」と俺が言うが「イヤッ、無理だっ!」と言い「なんで?」俺の問いに「常識的(じょうしきてき)に考えろ! お前の場合思い立ったが仏滅(ぶつめつ)だ! 他(ほか)当たれ!」と俺と大輔と押し問答(もんどう)が続き「じゃあ解った。ファミレスココアの期間(きかん)限定(げんてい)のデザートフェスタの招待券(しょうたいけん)あげるから」と言った。「なっ?」大輔が言葉に詰(つ)まった。ファミレスココアのデザートフェスタ。それはココアの新作デザートをタダで食べられる人数(にんずう)制限(せいげん)限定(げんてい)のプラチナイベント。ココアはデザートが美味(おい)しくよくグルメ雑誌でも取り扱われる為デザートフェスタのチケットは甘党(あまとう)の人にとっては喉(のど)から手が出るほど欲しいチケットだ。
「何故(なぜ)お前がそれを!?」大輔の言葉に「俺の従弟(いとこ)がこのファミレスでバイトしてるんだ」と言った。そう、俺の従弟がこの春からココアでバイトしている。その時運よく店のくじ引きに当たりデザートフェスタのチケットをゲットしたらしい。しかし、従弟は辛党(からとう)で、あっても無用の長物(ちょうぶつ)。その為俺にチケットを押し付けた。(デザートフェスタを狙っている人達からは血の涙が出る事必須だ……)。
 大輔は毎年(まいとし)ココアのデザートフェスタに応募(おうぼ)してるが全(まった)く当たらず悔し涙を流している。そんな人間に今デザートフェスタというプラチナチケットがあるのだ。大輔は葛藤(かっとう)しやがて「解った。とりあえずやるだけやってみる。ただし失敗しても文句は言うなよ?」と言い「大輔! ありがと~!」と言い俺は大輔に飛びついた。「だ~、いちいち引っ付くなっ!」

――後日――。
 俺は夏樹に『放課後(ほうかご)会えない?』とラインを送るとすぐさま既読(きどく)が付き『O・K』というメッセージと共に可愛らしいキャラのスタンプが送信された。
(これだけだったら可愛んだけどなぁ……)と授業中俺はぼんやり思いスマホを見ていた。その時担任に注意され罰(ばつ)として当てられたが俺は授業を上(うわ)の空(そら)で聞いていたので「解りません」と答えた。
 放課後になり俺は約束した喫茶店に行くとすでに夏樹は来ており「久しぶり、誠一くん!」と花がほころぶような笑顔で出迎えた。
(相変わらずかわいい)と思ったが(イカンイカン!)と自制(じせい)し「でも驚いた。誠一くんからラインが来るなんて。ここ最近(さいきん)会えてなかったから!」と夏樹はきゃあきゃあと上機嫌(じょうきげん)に話し俺は黙(だま)って聞きやがて夏樹が一(ひと)通(とお)り話し終えると「夏樹……」と俺は重く口を開きそして「別れてほしいんだ……」と言った。
「え?」
「俺他に好きな奴が出来たんだ……だから、もうお前とは付き合えない」と俺は言い「え!? なんで!? どうして!? その人は私より魅力的(みりょくてき)なの!?」と夏樹はパニックを起こしている。「もうすぐ来るんだ。だから会わせたい」と言い程(ほど)無くして大輔が入店(にゅうてん)して来た。
「コイツが俺の新しい恋人」と言い俺は夏樹に大輔を紹介した。
(もう後には引けない! 頑張ってくれ! 大輔!)と俺は心の中で大輔にエールを送った。
 大輔はいつもの仏頂面(ぶっちょうづら)で「よう」と言い「お……男ぉ!?」夏樹は更(さら)にパニックを起こしている。当たり前だ。自分の好きな奴が同性(どうせい)愛者(あいしゃ)だなんて知ったら誰だって驚く。
「その……俺……実はゲイで……男が好きなんだ……」
 言ってて悲しくなる。一応(いちおう)誤解(ごかい)のないように言っておくが俺は断(だん)じてノーマルだ。女の子が好きだ。何が悲しくてヤローと恋人のフリをしなきゃならない。(提案したのは俺だけど)
「み……認めないわ! そんなの! それなら恋人の証拠(しょうこ)見せてよ!」と言い俺は大輔に抱き着いた。
「オイ……」大輔の言葉に俺は「ごめん……」と小声(こごえ)で言い謝った。夏樹は更にパニックを起こし「う……嘘よ。嘘嘘嘘っ! そうよ! これは挨拶(あいさつ)なのよ! どこかの外国じゃあ抱きついて挨拶する国があるもの!」と叫んだ。確かにそんな国があったような気がする。俺はぼんやりそう思いながらもこのままじゃ埒(らち)が明かないと思いそして――、
 俺は大輔に口づけをした。ただし寸(すん)止めだけど。その瞬間(しゅんかん)店内(てんない)は静まり返った。
「……もういいわ……」と夏樹が後ろを向き「もういいわ! 悪あがきしてサイってー! まさか男にとられるなんて思ってもみなかったわっ!」と怒りながら言い最後に涙声で「お幸せに……」と言い店から出て行った。その瞬間何故か店から拍手(はくしゅ)が起こり「お二人(ふたり)さんおめでとう!」という声と歓声(かんせい)が店内(てんない)に響(ひび)き渡(わた)った。大輔は無言(むごん)で唇(くちびる)を押さえていた。
 帰り道にて俺は大輔に散々(さんざん)文句(もんく)を言われた。
「お前何してくてんの!? 本当ぶっちゃけ何してくれてんの!?」と言いながら唇を制服の袖(そで)でごしごし吹いていた。
「だからごめんって謝ってんじゃん……それに寸止めだったんだからイイじゃん?」俺の言葉に「そういう状況(じょうきょう)じゃねぇよ! あれ学校の奴らに見られてたらどうするつもりなんだよ!?」と大輔は激怒(げきど)して「あ~、こんなことならデザートフェスタチケット欲しさにやるんじゃなかった……」と脱力(だつりょく)して言った。
「あ~、なんかごめん……」と俺は言い何とか話題(わだい)を替えようと頭をフル回転させ「そういえばデザートフェスタのチケットは一枚につき四人までなんだよな……」と俺は言い「あ……あぁそうだな」と大輔が相槌(あいづち)を打った。
 そうデザートフェスタのチケットは一枚につき四人までだ。
「やっぱ連れて行くの? 千佳(ちか)ちゃん達?」
 千佳ちゃんと言うのは大輔の兄弟だ。大輔の家は大輔を筆頭(ひっとう)に小学生の妹千佳ちゃんといつも家で留守番している双子姉弟(きょうだい)の姉綾音(あやね)と弟の飛鳥(あすか)がいる。そのせいか大輔は年甲斐(としがい)も無くしっかりしている。
「千佳達喜ぶだろうな! なんたってずっと前からデザートフェスタ行きたいって言ってたからな」と少し大輔は微笑(ほほえ)んで言い「え? じゃお前がずっとデザートフェスタに応募してんのって!」俺の言葉に「ん? あぁ、妹達にせがまれてててな」と言い「お前イイ兄ちゃんだよな……」
 俺はそう言い大輔に約束の報酬(ほうしゅう)ココアのデザートフェスタのチケットを渡しこの日は事(こと)無(な)きを得た。





 月曜日。俺達は学校に着くとクラス中からお祝いされお賽銭(さいせん)の如(ごと)くお菓子が献上(けんじょう)され黒板には『祝! カップル成立!』とでかでかと描かれ俺と大輔はどういう事かと思ったがクラスメイトはそんなことお構いなしに「やっぱお前らそういう仲(なか)だったんだな~。うんうん、解るるぜ~。大輔面倒見いいもんな!」やら「おめでとう! 結婚式には私達も呼んでね!」やらこのカップルはワシが育てたと言わんばかりに歓声が起こった。俺が困惑していると大輔が「ちょっと待て。何がどうなったのかオレ達に解るように説明してくれないか?」と聞いた。するとクラスメイトが「照れんな照れんな!」と二カッと笑い「いや本当になんなんだ?」俺の言葉にクラス中はポカンとし「あれ? 知らない?」とクラスメイトが聞いて来て「だから何が?」俺が不機嫌(ふきげん)全開(ぜんかい)で聞くとクラスメイトの一人が「ほら、ここ」とあるものを見せて来た。それは校内(こうない)新聞(しんぶん)だった。そこにある一文を見て俺と大輔は目を見張(みは)った。そこには『必見(ひっけん)! 男子学生の恋!』とデカデカと表示され写真の目元にはモザイクがかかっていたものの誰だか一目(いちもく)瞭然(りょうぜん)で解り俺と大輔のキスしたシーンが写っていた。
「な……な……な……なんじゃこりゃ~!?」俺の叫びがクラスに響き渡り俺は新聞をクラスメイトからひったくるように奪い取りそれを持って新聞部部長のクラスに殴り込みに行った。突然の来訪者(らいほうしゃ)に部長の滝川(たきがわ)が「やぁ! 新婚(しんこん)さん! どう俺の新聞の出来は?」と呑気(のんき)に俺に聞いて来た。俺は怒りの形相(ぎょうそう)で「良く出来たガセネタで……」と最大限(さいだいげん)の嫌みを言い大輔が「実はこれは……いいにくいが嘘なんだ」と気まずそうに言い滝川が「へ?」と言い大輔の話しを聞いてた滝川が次第(しだい)に頭を抱え大輔の話が終わった後顔を青ざめさせて「嘘だろー!? じゃあ何か? 俺は嘘の報道(ほうどう)しちゃったわけか!?」と言い「ああ」と大輔が言い滝川が「あぁ、嘘だろ……俺ジャーナリスト希望なのに……嘘って。俺はジャーナリスト失格だ」と言い床に膝(ひざ)をついた。(その前に俺達の心配をしろ……)俺は心の中でツッコんだが滝川があまりにも気の毒なので「ま、まぁ間違いなんて誰でも起こるし……」とフォローすると「え? うん! だよな!」と立ち直った。(こ……コイツ……)俺は内心怒りでワナワナ震えた。が大輔がすかさず「落ち着け誠一」と抑え「新聞の訂正(ていせい)出来ないか?」と聞くと「え~? そんなの無理に決まってるじゃん! そんなことしたら新聞部の信用がなくなるよ」と言い「じゃあ、俺達はホモ疑惑(ぎわく)持たれたままでいいのか!?」俺は抗議(こうぎ)し俺と滝川はギャースカ揉めて「まぁ人の噂なんて何とやら……ほっとけば消えるって」と滝川は開き直り更に「それともいっそのこと本当に付き合ってみたら!?」とも言い「もういい! バカッ!」と俺達は滝川のクラスを出て自分のクラスに戻る道中(どうちゅう)俺は「さっき滝川が言ってたことだけど……」「うん?」「いっそのこと本当にする?」俺の言葉に大輔は「はぁっ!?」と驚きの声を上げ「お前何言ってんだ!?」と俺に聞き俺は「冷静に聞いてくれ! 俺は女と付き合ったことが沢山(たくさん)あるし数々(かずかず)のプレイも果敢(かかん)にこなしてきたが男とはやったことがないっ! 今ここでやらなかったら俺はチキン野郎(やろう)だ!」俺の力説(りきせつ)に大輔は「変な強迫(きょうはく)観念(かんねん)にかられるな!」と言い「大体(だいたい)日本(にほん)は同性婚(どうせいこん)を認めていない……無理に決まってるだろ……」大輔が溜息交(ま)じりに言うと俺は「同性カップルは、でもいるよ!」と言い大輔が「まぁ人が誰と付き合おうと自由だし……」と言い結果――
「ダーリン!」俺の言葉に「……なんだハニー」と大輔が相も変わらずの仏頂面で言うと「もうダーリンたら折角(せっかく)の彼女が来たんだからもうちょっと――ってちょっと待てぇっー!」と俺は言いツッコんだ。
「なんだ?」大輔の言葉に俺は「『なんだ?』じゃねぇよ! なんで俺が女役! この(自称(じしょう))イケメンがっ!」と言うと大輔が「お前の方が女っぽいだろ……」と平然と言い俺は「う……」と言葉に詰まり「でも違~う! 俺はクールビューティな例えるならるろ剣の巴(ともえ)みたいな彼女がいいんだよ!」と言うと大輔が「お前が巴だったらギャグだな……」と俺にツッコんだ。
「仕方ないだろ……俺だって最大限(さいだいげん)の譲歩(じょうほ)をしたんだ。これくらいは呑(の)んでほしいんだが……」大輔の言葉に「え~、でも俺は(自称)イケメンなのっ! いつでも皆からカッコいいことを求められてるのっ!」と俺が子供みたいに駄々をこねると「お前なぁ……十七にもなって子供みたいな駄々をこねるなよ」と大輔が溜息交じりに言い終(しま)いには「あんまり駄々をこねると恋人ごっこ止めるぞ……」と脅し俺は渋々「は~い」と言いチャイムが鳴り席に着いた。
 授業は退屈だ。俺は頬(ほお)杖(づえ)を付きながらぼんやり思った。何言ってるか解らないしハッキリ言ってお経(きょう)を聞いてるようだ。俺は勉強が嫌いだ。なのに進(しん)学校(がくこう)のこの高校に進学した。きっかけは大輔がこの高校受けると言いじゃあ俺も受けると言い大輔が『誠一には無理だ』と呆(あき)れ顔で言った。それなのに大輔も忙(いそが)しいのに俺の勉強を見てくれて俺は大輔の期待(きたい)にに応(こた)えるべく猛勉して見事二人して合格して同じクラスになった。
 俺はヨコ目でチラリと大輔を見る。金髪の髪ウルフカットに首筋にかかる髪。切れ長の目。くっきりした鼻筋。健康的(けんこうてき)に日焼けした肌。整(ととの)ったガタイのいい体格(たいかく)。挙句(あげく)に勉強もスポーツも出来面倒見がいい。
(確かに女子がほっとかない……)と俺はぼんやり思った。すると大輔は俺が見ていることに気付き俺のほうをみて俺はすぐさま視線を教科書に戻した。実はこの(一応)恋人ごっこを持ち掛けた俺はある事を確認したくて持ちかけた。それは、俺が同性愛者じゃないことを確かめたくて。実は夏樹の時寸止めとはいえキスをしようとした時本当にキスしようかどうか迷った。そして、スゴイ胸がドキドキした。そして、あの一件以来大輔の顔をまともに見れない。そして、俺はもしかして大輔のことが恋愛(れんあい)対象(たいしょう)として好きなのかどうか試したかった。しかし、大輔に聞くわけにはいかないしクラスメイトに聞くわけにもいかないし……と迷っている中例の校内新聞が流れ滝川が『本当に付き合って見たら?』という提案に俺はチャンスと思い滝川にキレた後何かしら理由を付けて大輔を説得した。大輔は昔から押しに弱くよく厄介ごとを頼まれる。俺はそれを見越(みこ)して頼んだ。案(あん)の定(じょう)大輔は渋々ながら承諾(しょうだく)し今現在――、
「はい、あーん」と俺は大輔の弁当の唐揚げを大輔の口に運ぶ。それに対し大輔は「どうも」と言い俺の箸に挟まっていた唐揚げを口に入れた。
「どう? おいしい?」俺の言葉に「美味(うま)い……っていうか俺が作ったんだけどな……」と大輔は言い口に入れた唐揚げを飲み込んだ。
「ちっげぇよ! ムードだよ! ムード! よく恋人達がデートの時にやっていて恋人が『はいあ~ん』するとおいしさが増すってネットに書いてあった」俺の言葉に大輔は「さも興味なさそうに「ふーん」と言い制服のズボンのポケットからタバコを取り出した。
「大輔、またタバコ……いい加減禁煙しなよ……」俺の言葉に大輔は「あぁ、まぁ解っちゃいるんだけどつい癖(くせ)で……」と言いベランダに行きタバコに火をつけた。
 この学校は進学校だが結構校則(こうそく)は緩(ゆる)い。制服は着崩(きくず)している男子は多いし化粧(けしょう)をしている女子も多い。学業に関しても自由な校風だからさぼれるだけさぼって落ちこぼれる奴も多い。そして、東大行くのがいる一方でどこにも行けないのもいる……って(ん?)と俺は思い(それ俺じゃね?)と俺は思い返した。赤点ギリギリで教師から滑(すべ)り止めの大学も危ういとよく言われる。(俺どうしよう?)と密(ひそ)かに悩む。進路は決まってなくやりたいこともこれといってない。大輔は決まっているのだろうか? 俺は大輔にそれとなく聞いてみた。
「大輔は進路決まった?」というと大輔は「オレは就職」と言い「ふーん就職……って、ええっ!? お前成績いいのになんで!? もったいねぇ~!」俺の言葉に「そういうお前は?」大輔の言葉に「俺? まだ……」と口ごもって言うと大輔は「まだ親父さんの事許してないのか?」大輔の言葉に俺は「あんな薄情(はくじょう)野郎(やろう)なんか親でもなんでもねぇよ……」と低く言い「次言ったらいくら大輔でも怒るから……」俺はそう言い自分の席に戻った。
(あんな奴父親じゃない……)俺はそう思い残りの昼休みを昼寝で過ごそうとした時クラス委員長が「あ、誠一君。これ」と言い俺にプリントを渡した。内容は職業(しょくぎょう)体験(たいけん)の割り振り先だった。

「じゃあ今日は体験学習でこの二人が一日先生を務めるからね!」と保育士が俺達を紹介した。園児達は明るく元気よく「はーい!」と返事をした。
 俺の通う学校は二年と三年に職業体験があって俺と大輔は近くの保育園に割り振られた。
ぎこちない笑顔の俺に対して大輔は家で四人兄弟の一番上ということと兄弟の面倒を見ているせいか自然な態度で「よろしく」とソフトに言いすぐさま園児達に懐(なつ)かれた。
 保育園の先生はやることがいっぱいでハードだ。だから、今保育士になる人が少ないらしい。実際俺も身をもって知った。今日のプログラムを作ったり子供達が園内で怪我(けが)をしたりしないかとか体調の悪い子とかいないか……。ヒヤヒヤもんだ。これを毎日やっている保育士は称賛者(しょうさんもの)だ。しかも子供達はやたら体力がある。俺は午前中だけでへとへとだ。しかし子供達は俺に遊んで欲しいのかおんぶや抱っこをせがみ終(しま)いにはダウンし砂場でうつ伏せになっている俺に登り「せーいちせんせいのぼり!」と俺を山に見立てて登山家(とざんか)気取り。いい気なもんだ。一方の大輔は少しも疲れた素振(そぶ)りを見せず子供達の相手をして子供達は上機嫌で大輔の腕に捕まっている。
(強い……)俺はぼんやりとそう思っていると一人の男の児童がが「せーいちせんせーってホモ?」と俺に聞いて来た。
「はぁ?」俺は疑問(ぎもん)詞(し)で聞き「何で?」俺の問いに男子児童が「だってさっきからだいすけせんせーみてるから」と図星をつかれた。「それでね、そういう人はおねえちゃんがもっているマンガぼんに好きって出てた!」と言い(BL本か……)俺がそう思っていると園児の一人が「ねーねーホモって何?」と女子児童が聞きに来て男子児童は「んーとねー、おとことおとこのこいびとだよ!」と得意気に言った。確かに俺達は今恋人ごっこをしているからあながち間違いでもない。だけど、いざ言われるとかなり傷つく。しかもそれが悪意(あくい)のない言葉だから余計にタチが悪い。流石(さすが)園児。するとわらわらと児童が集まり「えー? なになに?」「せーいちせんせいおとこのこがすきなの?」「へんなのー」と思い思い好き勝手に言い俺は完全にパニックになり「うるせー!」と怒鳴ると園児達はますます悪(わる)乗(の)りし「おこったおこったー!」と言い「おこるってことはほんとだってママがいってたー!」と言い俺は完全に冷静な判断が出来なくなり拳骨(げんこつ)をくらわしてやろうかと思った。その時大輔は「残念ながら俺達はままごとをしている。役柄(やくがら)は俺がパパで誠一先生はママだ」と冷静に言い園児たちはがっかりした様子で「え~? ウソォ。つまないの……」と児童達はがっかりした様子で言い児童が去った後大輔が小声で「何園児相手にムキになってるんだ」と言われた。確かにそうだと俺はそう思い反省した。
 午前中は終わりお昼ご飯の時間になった。お昼ご飯の時間も大変だ。子供達がちゃんとうがいと手洗いを出来ているか見なければならないし子供達の様子を見ながら自分達の食事をしなければならないしあと後片付けに歯磨きをさせ布団を敷いて子供達が寝るまで読み聞かせをする。血気(けっき)盛んな子供達が寝るまで休む時間は無かった。
「ん~、ようやく一息ついたぁ~」俺が伸びをして言うと大輔がシーッと口元に人差し指を立てて言った。俺は「あ……」と言い抜き足差し足で教室を出た。
「お疲れぇー! どう? 実習は? やっぱりキツイ」と保育士が聞くと俺は「へとへとです……」と机に突っ伏して言い大輔は「やっぱ家でするのとは違いますね……」と言い額の汗を拭った。すると保育士が「誠一君はアレだけど大輔君の方は結構手馴れてるのねぇ。下に弟か妹がいるの?」と聞くと「え? あぁ、下に妹二人と弟がいます」と答えた。すると「あら? じゃあ長子(ちょうし)なのね」と言った。「長子って何?」俺の質問に大輔が「一番上って意味だ」と言い俺は「ふ~ん」と興味なさげ言うと保育士が「貴方(あなた)達ってほんと仲いいのね!」と言うと「まぁ幼馴染ってやつですから……」と大輔は言い「なんか兄弟みたいですね」と別の保育士が言うと「え~! 俺こんなでかい弟いらないよ!」というと保育士の一人が「いや、キミの方が弟……」というと俺は「俺の方が誕生日先ですけどー!」と言うと保育士の一人が大輔の肩をポンと叩き「頑張りなさい!」と言っていた。
 昼寝の時間が終わり俺達は児童を起こすとやはりぐずる子もいるが俺は心を鬼にして起こすと大輔が「怒るな」と言い優しく慣れた手つきで起こすと児童はすぐさま起きて屋外(おくがい)へ遊びに行った。
「すげー……あんなにぐずってた子が一瞬で……」俺の言葉に大輔が「あぁ綾音と飛鳥も良くぐずるからな。あぁいうタイプには怒るんじゃなくてちゃんとした有効な方法がある」と言い「だいすけせんせー! あそぼー!」と女子児童が言い大輔が「あぁ、解った! 今行く!」と言い大輔が出て行き俺は思った。(パーフェクト保父(ほふ)さん……)と。
 先程まで静かだった園内は昼寝から覚めた児童達でたちまち賑(にぎ)やかになり児童達は思い思いに遊んでいた。子供というのはスゴイ。昼間あんなに元気よく遊んで電池切れかけだったのにもう復活している。
(俺もああだったのかな……)としみじみ思っていると突然園内に女児の泣き声が響いた。俺達は何事と思い外に出ると庭の隅で大声で泣いている女子児童とふて腐(くさ)れた男子児童がいた。どう見ても男子児童が泣かしたのは明白(めいはく)だが俺達は一応理由を聞いてみた。すると女子児童が泣きながら「ようたくんがあたしのことブスっていったの……」と女子児童が言うとようたと言われた男子児童は「だってよー! コイツが大きくなったらだいすけせんせーのお嫁さんになりたいったから……」
 俺は直感(ちょっかん)で解った。ハハーン、これはあれだな。好きな子ほどイジメちゃうツンデレ的な奴だな。
(ここは恋愛マスターの俺の出番だな!)俺はそう思い「ようたくん。イケてるお兄さんの俺からしてみたらキミの方が遙かにイケてないよ」と言った。その瞬間ようたくんの動きが止まり「女の子を泣かすのは男としてサイテーだ! それは人をツンデレ……」「こら……」と後ろから声がし後ろからチョップを喰らった。「な……なにすんだよ~?」と俺が振り向くと大輔は物凄い形相で立っていた。
「子供に何教えてんだ?」と聞いて来た。「え? 何って女の扱い方」俺の言葉に「尚(なお)悪いわ……」と言い「とりあえずお前は引っ込んでろ」と言い大輔は屈(かが)み男子児童と目線を合わせ「なんでこの子が俺と結婚したいと言ったらブスって言ったのかな?」と優しく聞くと「……だって……その……」ようたくんが口ごもった。「それでこの子がもの凄くようたくんのこと嫌いになって口も聞いてくれなくなったら?」というとようたくんは「やだ! やだっ!」と駄々をこね「じゃあ謝ろう」それで仲直りだ」と言いようたくんは女子児童にごめんなさいと謝ると大輔は「許してくれるかな?」と聞くと女子児童は「うん……ゆるす……」と言い一緒に遊びに行った。
「ひゃー、凄いぜ大輔。魔法使い!」俺の言葉に「は? なんで俺が魔法使いなんだ?」と大輔が聞くと「だってあんな怪獣の相手が出来るんだからスゲーじゃん! 俺は無理!」と俺は片手をブンブンと左右に振った。
「……だな。お前の注意の仕方は人からしてみたらよく解らん発言だ……」と大輔は先程を思い浮かべたような仕草(しぐさ)をして俺を見た。
「しかし、なんでようたはあの子のことをブスって言ったのか? 別にブスでも無かろう……」大輔の言葉に「あー、あの子大輔のことが好きで将来お前の嫁になるって……淡(あわ)い初恋だわ」と俺は両手をお手上げポーズにして首をヨコに振った。「初恋? 何言ってるんだ? 相手は園児だぞ……」と大輔の言葉に俺は「大輔おじいちゃ~ん! ふる~い! 恋に性別が関係ないように年齢も関係ないんだよ~!」と言い大輔の肩肘を肘でつついた。
「やめろ……」
 大輔はそう言い保育士の人が帰りの会を始める為児童達を教室に入れ俺達もお別れの挨拶(あいさつ)をして連絡帳(れんらくちょう)を配った。
 親子が迎えに来て一緒に帰る姿を見て「イイよな……あぁいうの……」俺はぼんやり呟き親父のことを思い出した。





「ナイスシュート!」と体育館は熱気に包まれていた。今俺は体育館の応援席にいる。それは大輔を応援する為だ。大輔は特定の部活には所属していない。しかし運動(うんどう)神経(しんけい)抜群(ばつぐん)の為よく運動部の助っ人に頼まれる。何故所属しないのか。それは幼い兄弟がいるからだ。じゃあ何故今回バスケの試合に出ているかというと母親の仕事が休みだからだ。その為今回は助っ人として参加した。
 試合は佳境(かきょう)に入り残り一分を切り相手チームにボールが渡る瞬間大輔が颯爽(さっそう)とボールを奪いスリーポイントシュートからボールを放ちゴールしそれと同時に試合終了の電子得点版のビーっと音が鳴り大輔の達のチーム。俺達の学校のバスケ部が逆転勝利した。
 俺が大輔に労(ねぎら)いの言葉を掛けに行くと「お疲れ」とバスケ部の灰色の髪をした好青。年監督(コーチ)、笹倉(ささくら)雪人(ゆきと)先生が選手達に労いの言葉を掛けていた。選手達はへとへとで完全にダウンしていた。勿論大輔も。
「皆今日はお疲れ様。奇跡(きせき)だよ! あの名成(めいせい)校に勝つなんて!」というと選手の一人が監督の教えがいいんすよ!」と言った。笹倉雪人先生は教師になってまだ三年のらしいが彼が来てから俺の高校のバスケ部は格段(かくだん)に強くなり弱小(じゃくしょう)のバスケ部が強豪校(きょうごうこう)にまで昇り詰めた。要するに敏腕(びんわん)コーチだ。何故彼がバスケを強豪校に出来たかは大学の頃名のあるバスケ部のマネージャーをやっていたからだ。といっても偉(えら)ぶらず誰とでも対等に接し教師というよりも生徒達からは近所のお兄さん的な存在(ポジション)だった。「あと大輔の運動神経も」というと「いや……オレは指示通りに動いただけだから……」と大輔が言うと部長らしき先輩が「謙遜(けんそん)しな~い!」と言い笹倉先生が「そうそう! ぜひ我がバスケ部に欲しい逸材(いつざい)だ! ねぇ、バスケ部に入部しない!」とマジ顔で勧誘(かんゆう)するが大輔は「すいません……」と言い控室(ひかえしつ)に戻った。俺は大輔の後を追い「大輔~!」と声を掛けると大輔が振りむいた。辛(つら)そうな顔をしていた。
「大輔」俺はなんで大輔が辛そうな顔をしているのか分からなかった。試合に勝って皆からも称賛され何が辛いのか分からなかった。
 俺は制服に着替えた大輔にジュースを一本奢(おご)りベンチに腰掛(こしか)けた。
 六月の初夏。例年より早く梅雨(つゆ)明けした空は清々(すがすが)しいほど青く晴れており太陽が眩(まぶ)しい。
「あーっ、やっぱコーラは上手い!」と俺は言い大輔を見た。大輔は俯(うつむ)き黙っている。「なぁ、お前どうしたわけ? 試合に勝ったんだしいいじゃん?」と俺が言うと「……オレ、サイテーなんだ……」と呟いた。「は?」俺は気の抜けた返事を漏らした。
「オレ、さっき……試合中凄い楽しかったんだ。だから、試合中まだ終わるなってずっと思ってたんだ……だけど、すぐに終わって……あぁ、現実に戻って来たんだってがっくりしたんだ。兄弟達の世話よりもっとバスケがしたいって……でもそれは無理な願いなんだよな。だって俺が面倒見なきゃ母さんに益々(ますます)負担(ふたん)がかかるし……」そう言いポケットからタバコを一本取り出し吸った。
「なんでオレだけが自分の好きなものを犠牲(ぎせい)にしてるんだろう……って思って……」大輔はタバコの煙を吐きながら言った。
 大輔は中学生の頃バスケ部のエースでバスケの名門校の推薦(すいせん)も夢じゃなく周囲からも将来はプロ入り間違いないと言われた。だけど、中二の夏。大輔は突然バスケを止めた。周囲は驚き騒然(そうぜん)とし理由を問いただした。大輔は受験に専念(せんねん)したいと言いそれ以来バスケから遠ざかったが俺は大輔がバスケを止めた本当の理由を知っている。それは、大輔の父親が死んだからだ。事故だった。話によれば大輔の父親は横断歩道で信号待ちをしている最中飲酒運転の車が大輔の父親達の列に突っ込み大輔の父親に直撃したらしい。父親は即死だったらしくそれを機(き)に大輔の母親は働こうと決心したが問題は幼い兄弟だ。大輔は問題ないが下の三人はまだ幼く小学生の千佳ちゃんは児童館(じどうかん)という手もあるが綾音ちゃんと飛鳥君はそうもいかない。そこで大輔は大好きなバスケを止め幼い兄弟の世話をすることに決めたからだ。
(でもやっぱり未練(みれん)はあったんだなぁ)と俺は溜息を吐き「お前さ……無理してない?」俺の言葉に大輔はタバコを吸い「……かもな」というとタバコの煙を吐いた。
 駅に着くと大輔はパスモが無く体育館の控室に忘れたと言い俺達は体育館の引き返し控室に行くとやはりパスモはそこにあり俺達は急いで帰ろうとすると床に何か落ちていたので拾うとパスケースで中には車の免許証(めんきょしょう)と教員免許だった。名前は笹倉雪人と書かれており「笹倉先生の……これやばくね」俺の言葉に「届けるか……」と大輔は言い俺達は電車に乗って笹倉先生の住んでいる町まで行った。
 笹倉先生の住んでいる町は俺達の住んでいる町より二駅行ったところで駅前は賑やかな街だったが暫(しばら)くすると閑静(かんせい)な住宅街(じゅうたくがい)に出た。俺は免許証を見て「え~と……この辺りの筈(はず)なんだよなぁ……」と言い俺は周囲を見渡した。その時一台の車がある家の前に止まり中から笹倉先生が現れ家に中に入った。笹倉の入った家は二階建てに白い家で郵便受けには笹倉と書かれていた。
「こんなところに住んでるんだぁ」俺の言葉に大輔は「そう言えば先生って結婚してんのか?」と言いインターホンを押した。すると中から「はーい!」と返事がした。「結婚してんだ……」と大輔は呟いたが俺は何か違和感(いわかん)を覚えた。声が女性にしては太い気がする。俺は女性の声に聞き慣れているから言うが女性の声はもっときゃぴきゃぴしている。しかしさっきの声は何というか落ち着いた男性の声だった。やがて、玄関のドアが開き中から眼鏡をかけた三十代後半くらいの眼鏡をかけた美男子が現れやがて「どちらさまでしょうか?」と怪訝(けげん)な顔で男性は言った。
(そう! この声だよ! 俺がさっき聞いた声は!)俺が動揺していると大輔が平然と「あの、俺達笹倉先生の生徒で忘れ物を届けに来ました」と冷静に言った。(イヤ大輔。少し動揺しろよお前!)俺は心のなかでツッコんだ。すると男性が「あ! そうなんですね!」と笑顔で言い「あ、雪人―、生徒さんが見えたよー!」すると、二階から笹倉先生が現れ「あれ? 宮野君に中川君。どうしたの?」と俺達に聞いて来た。
「いや……それこっちのセリフだよ……」と俺がツッコむと笹倉先生は「あ、そうだね」と言い「この人は鹿沼(かぬま)岬(みさき)と言って俺の伴侶(はんりょ)なんだ!」と照れながら言い「雪人がいつもお世話になっています!」とこちらも少し恥ずかしそうに顔を赤くして俺に握手(あくしゅ)してきた。「あ!? そうだ! 折角(せっかく)来たんだからお茶でも飲んでいきなよ!」と言い俺達は戸惑いながらもお邪魔(じゃま)することにした。
 部屋の中は白で統一され広々としたリビングに大型テレビがありその隣にダイニングがあり笹倉は鼻歌を歌いながらノリノリでお茶を淹(い)れ鹿沼と紹介された男性は棚から御茶菓子(おちゃがし)を取り出し俺達にふるまった。その様子を見ながら俺は先程の笹倉先生の言葉を思い返した。先程笹倉先生は鹿沼さんの事を自分の伴侶と言い鹿沼さんも否定しなかった。俺は困惑し大輔を見た。大輔は我関(われかん)せずと言った感じで出されたお茶菓子のクッキーを食べ「これ手作りですか?」と聞き「え? うん。僕が作ったんだよ!」と鹿沼さんは笑顔で言い(オネェか?)と俺はツッコんだ。それに対して大輔はノーリアクションで「料理上手なんですね……」と言うと鹿沼さんは「そ……そんなに褒(ほ)めないで下さいよ~! 照れちゃいますから!」と言い顔を赤らめた。(そんなに褒めたか?)と俺は思い手作りクッキーを一口齧(かじ)った。すると口の中に芳醇(ほうじゅん)なバニラの風味が漂(ただよ)った。「これ、バニラ入り?」俺の質問に「え? はい……もしかしてお口に合いませんでした?」と鹿沼さんが不安そうに聞いて来たので俺は「めめめ滅相(めっそう)もございません! 滅茶苦茶美味しいです!」と俺は素直な感想を言った。するとリビングに紅茶を持って来た笹倉先生が「岬は昔から手先が器用で料理とか好きなんだよ」と言い俺等に紅茶を出した。「成程、良妻(りょうさい)賢母(けんぼ)ってやつですか……」大輔の言葉に笹倉先生と鹿沼さんはボンッと! 顔を赤くし二人揃(そろ)って「いやそれほどでも……」と言った。
(褒めてねーっの!)と俺は心の中でツッコんだ。
「そう言えば笹倉先生って結婚してたんですね」大輔の言葉に「え? うん!」と笹倉先生は言い「でも日本は同性婚認めてないからカナダで式挙げたんだ!」と言った。心の中で(誰もそこまで聞いてねぇよ!)俺は更にツッコむと大輔が「じゃあ二人にも馴れ初(そ)めってあるんですか?」と珍しく喰いついた。すると笹倉先生が「ん~、馴れ初めって程じゃないけど……」と口ごもり「僕達趣味が同じだったんですよ!」と鹿沼さんが言った。
 鹿沼が言うには最初鹿沼さんはギターを一人で弾いていたがイマイチだった。軽音楽部に入ろうにもその高校にはなく作ろうにも部員は四人いなければ部として認められない。鹿沼が途方(とほう)に暮れていると音楽教室で一人でベースを弾いている少年がいた。鹿沼が声を掛け何となくセッションするとそれが意外にも良く合い二人はメンバーを組んだ。それが当時高校生の笹倉先生だった。それでも、メンバーはあと二人足りない。困った二人は勝手に校内オーディションを開催(かいさい)し新聞部に頼んで校内新聞にも載せてもらったが集まらず更に挙句(あげく)の果てには教師にバレて怒らたが二人は懲(こ)りず学内(がくない)がダメなら学外(がくがい)だ! と意気込んだ。その時後ろから「あの……」と声を掛けられ振り向くと二人組の少年が立っていて声を掛けた少年が「まだオーディションやってる?」と聞いて来たらしい。其れが後にバンドのボーカルとドラム担当になる少年達だったらしい。
「そこから俺達はライブハウスに行ってライブをしまくっていつか四人でメジャーデビューしようー! って夢を語り合ってたくらいだ! まぁバンドは解散(かいさん)してその夢は叶わなくなったけど……」笹倉先生の言葉に「え? なんで?」と俺が聞くと大輔が俺の脇腹(わきばら)を小突(こづ)き「大人には大人の事情があるんだ誠一……」というと鹿沼さんが「うん……多分想像してるのとは違うからね……」と言い「んで、解散しちゃったんだけど心にぽっかり穴が開いて大学に進学してバンドのサークルに入ったんだけどどうも上手くいかなくてすぐ解散して……結局大学生活は何も無いまま終わる予定だったんだけど大学の合同パーティでまた雪人と再会してまた意気投合(いきとうごう)して自分はバンドじゃなくて雪人と一緒に居たいんだって気付いて本当に大切なものに気付いたんだ」と鹿沼さんは言った。
「卒業してから僕達は暫く同棲(どうせい)を始めて一年程経って真剣に結婚を考えて岬にプロポーズしてO・Kは貰えたんだけど……周りを説得するのに一苦労だったわ……」笹倉先生はうんざりした様子で言った。「岬の両親は何気にすぐ了承してくれたんだけど俺の父親が全然認めなくて終いには『どうしても結婚するなら勘当(かんどう)だっ! って言って……俺の父さんは頭が固い!」と言い額を押さえた。当たり前だ。いきなり自分の息子が男連れて来て男と結婚しますなんて言ったら親は困惑する。
(相当な親子喧嘩をしたんだな……)俺は紅茶を一口飲み「でも同性同士って変な目で見られません」俺の問いに笹倉先生は「そうだね。中にはそういう人もいるけど俺そういうのあんま気にしないから!」と笹倉先生が言うと鹿沼さんが「以下同文」と言った。「それに宮野君と中川君だってそうじゃん!」と言うと俺はぼっと顔を赤くし「いや……あれはそのっ!」と俺が慌てふためくと「そういえばボーカルとドラムの人は?」と大輔が聞いた。(ナイス! 大輔!)俺は大輔に心中(しんちゅう)感謝した。すると鹿沼さんが「ああ、ボーカルのセージ君の方は医大に進んで医者になってドラムのアキ君の方は医療事務関係の学校に進んでセージ君の秘書をやってるよ」と言い「ふ~ん、医者……ね」と俺は興味なさげに呟くように言った。俺は医者が嫌いだ。理由は親父が医者だからだ。
 俺達はお茶とお菓子をご馳走になった後帰路に着き「すごい秘密知ったわ」俺の言葉に大輔が「そうだな」と相槌を打った。まさかあの爽やかイケメン教師の笹倉先生がゲイだったとは。最早学校中が震撼(しんかん)もしくは保護者説明会モンだわ。俺達はそう思い公園に通りかかるとクレープ屋のキッチンカーが出ていた。「あ? クレープ屋!」と大輔が黙りしばしクレープ屋を無言で見「よし!」と言い苺(いちご)のクレープを買って来た。
「さっきあんなに菓子食ったろ? デブるぞ……」俺の言葉に「ほい!」と大輔が俺の前にクレープを差し出し「一口やる! これでおあいこだ」と言い俺は「何があいこなんだよ? しょ……しょうがねぇなぁ」と言い一口齧った。すると口の中は生クリームとチョコレートの芳醇(ほうじゅん)な口当たりと苺の甘酸っぱさが程よいアクセントとなって口の中で弾けた。
「めっちゃおいしー!」と俺は言い「もう一口(ひとくち)頂戴(ちょうだい)!」と俺はおねだりしたが当然大輔は「ダメだ」と言い俺の齧ったクレープの所を齧った。すると俺はドキッとして「ね……ねぇ大輔……」と大輔に呼びかけると「ん? なんだ?」と言い「さっきのそこ……俺が食べたとこ……」というと大輔は平然と「あぁ。そうだな」と言い「……気付かない?」俺の言葉に「何が?」と大輔が尚も平然と言い「……もうイイッ!」俺はむくれてそっぽ向いた。
(間接キスだよ……)と俺は思い小声で「大輔のバーカ」と呟くように言った。





「ナイスシュート!」
 体育館は歓声に包まれ沸き上がった。誠一の学校のバスケ部員は喜び合い勝利を分かち合った。
 今日は地区大会でバスケ部の決勝だった。相手はバスケの名門校西守(にしかみ)校でこの高校は毎年インターハイに名を連ねる名門校で大輔の行きたかった高校だ。
「お疲れ!」と笹倉先生と選手達が上機嫌でハイタッチをし「よし! 今日は優勝記念にジュースでも奢ろう!」と笹倉先生が言うと部員が「やったぁ!」と喜び臨時(りんじ)マネの俺に対し「誠一君もね!」と俺も誘った。
 俺は今男子バスケ部のマネージャーをしている。理由は大輔の試合を毎日見ておりそれに対し笹倉先生が「マネージャーやってみない?」と声を掛けたからだった。そこで俺は「大輔がいる間だけ」という条件を出し臨時でマネージャーになった。しかし、マネージャーと言うのも大変でタイムを計ったり練習メニューを考えたりと結構ハードだ。といえ、俺はちゃんとマネージャー業務をし部員達からは「宮野ってたただのチャラ男じゃなかったんだな……」と見直される始末だ。(つまり俺は底辺(ていへん)な人間という事か?)。まぁ、何はともあれ試合には勝ち俺達は清々(すがすが)しい気持ちで笹倉からジュースを奢ってもらい俺達は帰路に着き腹が減ったからファミレスシャンゼリアに行き何か食べようと俺は提案し店に着くと店員は気まずそうに「あのすいません。ただいま店内は満席でして相席で宜しければ……」と言い俺は「大輔は?」と聞くと「別に」と言い「じゃあ相席で!」と言い俺は席に通された時「そんなの父さんの勝手の言い分じゃないか!」ともの凄い怒鳴り声が聞こえた。そこには笹倉先生と老人がおり笹倉先生は物凄い形相で店を出て行き後には俺と大輔と老人が残された。
「……」「……」「……」
 先程笹倉先生に怒鳴られた老人と相席になった。
(こりゃあんまりだろ……)俺はそう思い注文したオレンジシャーベットを食べながら思った。
 老人は下を向き溜息を吐き「何故こうなるんだ……」呟いた。俺はいたたまれなくなり「あの……笹倉……先生と何かあったんですか?」と俺の問いに老人が「ん? キミ達は?」と老人は落ち込みながら俺に聞いた。「あぁ、俺達先生の生徒で(一応)部活とかで世話になってるんですよ」俺の言葉に老人は「そうか……あの子……雪人はどんな先生かな?」老人の言葉に俺は「どんなって言うと……う~ん。先生らしくなくどちらかっていうと近所のお兄さん的存在(ポジション)の人だから結構親しみやすいかな? なっ! 大輔?」俺の言葉に大輔は「え? あぁ……」と言いそれを聞いた老人は「そうか……あの子は私とは違う先生になったのか……」と呟くように言った。
「? もしかして教師?」俺の問いに「あぁ、申し遅れた。私の名は笹倉(ささくら)文人(あやと)。元教師であの子(雪人)の父親だ……」と言い俺は驚き「えっ! 父親!」手を止めた。
(全然似てねぇ……)と俺は思い老人を見た。老人はいかにも見た感じ頑固でいかつい系統の人だった。(笹倉先生は母親似なのかな?)と俺はぼんやり思った。俺達もつられて一応簡単な自己紹介をし「あの……何があったんですか? 良ければ俺等に話してくれませんか?」と俺が言うと文人は「まぁ、キミ達はあの子教え子らしいから言うけどちょっと親子喧嘩をしてしまって……」と気まずそうに言った。
(さっきの剣幕がちょっと……?)俺はそう思い先程の光景を思い返した。どう見てもちょっとじゃない。
「ちょっと親子喧嘩……ねぇ……」俺はどう対応すべきか解らず複雑な対応をした。すると大輔が「ちょっと待って下さい。オレ等は前に先生は父親に勘当されたと聞きました……」と言った。それにより俺も思い出した。確かに笹倉先生は父親に勘当されたと言った。俺達は疑問の目で文人は見た。「ちょっとそんなあからさまに不審者(ふしんしゃ)を見るような目で見ないでくれ……」と文人は言い「謝ろうと思ったんだが遂(つい)意地を張ってしまい喧嘩になってしまうんだ……」と文人は溜息を吐き俺は少しいたたまれなくなり「よしっ! 俺等が仲を取り持ってやるよ!」と言い大輔が「え? オレも……?」と言い「モチのロンよ!」と俺は胸を張って言うと「なんで胸を張って言うんだ?」大輔が言い文人に至っては「キミで平気なのかい?」と不安げに言い「任せて下さい! この合コンで培(つちか)った(自称)口先の魔術師のトークレベルを甘く見ないで下さい!」と俺は堂々と言った。
「なんでお前はこう厄介ごとに口を出すのかねぇ~?」帰り道大輔が溜息を吐きながら言い「だってよー」と俺は言った。「そう言うのはお節介って言うんだ……親子の問題なんて他人が口出ししていいもんじゃないとオレはそう思うんだがね……」大輔の言葉に俺は「でもなんかモヤモヤするんだよ」と言い大輔が「は?」と言葉を漏らした。「どういう意味だ?」大輔の言葉に俺は「なんか誰かに似てるんだよ……」と俺は言い思い返したが思い浮かばず困惑した。
 翌日俺は早速行動を開始した。
 まず笹倉先生にそれとなく父親のことをどう思ってるか聞き悪かったら父親のイメージアップをし頃合いを見て入手した連絡先に連絡しもう一度腹を割って話をさせる。
「ん! 完璧!」俺の言葉に大輔が「そんなに上手くいくかねぇ?」とツッコんだ。
 翌日俺は学校で笹倉先生に会うと元気よく挨拶をし、まずは「そう言えば大輔ってバスケ上手いですよね?」と笹倉先生は「え? あぁ……うん」と相槌を打ち「本当に我が部に欲しいくらいだよ……ねぇ、宮野君から言ってやってくれないか?」というと「イイっすよ!」と言うと先生は俺の手を握り「本当かい! ありがとう!」と涙ながらに言うと「じゃあ、俺の頼みも聞いてくれないかなぁ?」と言い俺は放課後笹倉先生を近所のファミレスへ連れて行き大輔の父親のことを話した。大輔の父親はバスケの日本代表選手で金メダルを何枚も獲得していて凄腕(すごうで)プレイヤーだったこと。よく子供の面倒を見てくれたことや俺とも遊んでくれたこと。懐かしいことばかりだ。俺が懐かしんで話していると笹倉先生が「ねぇ……宮野君は何が話したいの?」と俺に言い俺は「要するに父親は必要ってことですよ!」というと笹倉先生の雰囲気が変わり「成程……要するに父さんの入れ知恵(ぢえ)か……」と冷たく言い「中川君と父さんそこにいるんでしょ?」と言い後ろを振り向くと大輔と文人さんが現れ「なんですか? 今度は私情(しじょう)で俺の生徒を使うんですか?」文人さんは小さく「ちが……」と言おうとしたら笹倉先生は聞く耳を持たず「違わないさ! 父さんは昔から俺のやることが気に食わないだけだろ!」と言うと文人は黙り笹倉先生は冷たい瞳と声で「二度と姿を見せるないで下さいっ!」と吐き捨てるように言いファミレスを出て行った。
 その後俺達は反省会を開いた。大輔がガラスコップをスプーンでチーンと叩いて「はい……ご愁傷(しゅうしょう)様(さま)……」と呟くように言った。俺達は沈みどよ~んとし「なんでっ!? 俺の!? どこが悪かったの!? 思いっきり父親像アップ(当社比)の話をしたのにっ!?」俺は泣きながら文人さんの奢りで注文したオレンジフロートの生クリームの部分を口に頬張った。それに対し文人は「食べながら喋るな! 行儀悪い!」と怒り「あ……すいません」と俺は謝り「っていうかオレの親父の話してどうなるんだよ? って言うか誠一こっち向け」と言い俺が大輔の方へ顔を向けると大輔が「生クリームついてるぞ……」と言い指で俺の口元についている生クリームを親指で救いそれを舐めた。俺はボッ! と赤くなり「な……ななななにしてんだ大輔?」俺の問いに大輔は平然と「は? 何ってクリーム舐めただけだろ?」と言った。
(それ彼氏が彼女にやることだよ~!)と俺は脳内はパンク寸前になり破裂(はれつ)しそうだった。するとそれを見ていた文人さんが「なんだ? キミ達もそういう関係なのか?」と怪訝の顔で言うと俺は「どういう関係?」と聞き大輔は「違います」と言い文人さんは「はぁ……」と溜息をついた。それを見ていた大輔は「あの……一ついいですか?」と文人さんに尋ねた。「あの嫌われっぷり相当のものだと思いますけど……一体何があったんですか?」大輔の問いに文人が出されたアイスコーヒーを啜(すす)り「全ては私が悪かったんだ……」と後悔するように言い語り始めた。
 笹倉先生の家は代々教育者の家系でかなり有名だった。そこに笹倉先生は生まれ育ったらしい。最も自由はなく幼い頃から英才教育(えいさいきょういく)を受けて来たらしくある日笹倉先生が遠くの高校に行きたいと言い出し父親である文人さんは学業をおろそかにしないという条件で一人暮らしを許した。ところが久しぶりに会った笹倉先生はベースにのめり込んでおり学業なんかそっちのけ。当然成績も下降(かこう)の一途(いっと)をたどり文人さんは激怒した。当時文人さんは高校の校長をやっており堅物(かたぶつ)でまた地元の名士(めいし)だったこともあり権力もあった為笹倉のバンドメンの将来を潰すと脅して圧力をかけ解散させた。これが第一の亀裂(きれつ)だ。
 親の薦めで入った大学に笹倉先生は行き大学生活をそれなりに楽しくやっていた……と文人さんは思っていたらしい。
「……でも雪人はつまんなかったんだろうな。当たり前だ。家は窮屈(きゅうくつ)で挙句に好きなものを取り上げられて……」と文人さんはアイスコーヒを啜りながら言い続けた。
 結局、笹倉先生は大学生活はなにもなかったらしくやがて大学主催(しゅさい)の交流パーティに行きそこでまた鹿沼さんと再会し後は鹿沼さんの話し通りだった。
 当初笹倉先生には女の婚約者(こんやくしゃ)がいたが笹倉がそれを蹴り「俺は鹿沼と結婚する!」と言って来て文人さんはマグマが噴出さん限り怒り笹倉と口論(こうろん)になった。日本は同性婚を認めてないとか子供を産めないとか。結果、勘当してしまったらしい。これが、最大の亀裂だ。
「バカだったんだよなぁ、私。私の幸せは雪人とは違うって気付けなかったんだ……」と恐らくぬるくなったであろうアイスコーヒーを啜り「息子が幸せな人生を歩めればそれでいいのに私が孫の顔が見たいと自分勝手な我儘(わがまま)なことを考えてそれを優先してあの子の幸せをちっとも考えなかった……向き合わなかったんだ」と文人さんは溜息を吐き、すると大輔は「別に我儘(わがまま)じゃないですよ……というか人間我儘な生き物ですから……」と言いモンブランをひとくち口に入れた。「ん! やっぱり美味い!」と言いこの日はお開きになった。
「向き合う……か……」
 俺は家に帰ると自室に向かいベッド寝そべった。俺はふと親父のことを考えた。医者で仕事ばかりで家には滅多(めった)に帰って来ず家庭のことはお袋に任せっきりの親父を。そして、胸のモヤモヤの原因が分かった。それは笹倉が自分と同じ境遇だからだ。父親に対して喧嘩しているから。だけど、喧嘩出来るって言うのは俺は羨ましい。俺の親父は医者で仕事にかまけて碌(ろく)に家にいない。だから本音(ほんね)で話したことがない。
「俺も同じか……」とゴロンと寝返りを打ちその日はそのまま寝てしまった。
 翌朝はしんどかった。理由は昨夜あまり寝られなかった事と七月特有の蒸し暑い暑さのせいだ。加えて「もうすぐ期末だ。赤点取った奴は夏休み補習だからなぁ」と言い俺はげんなりした。そう、俺は赤点常連キャラ。つまり要するに勉強が出来ない。
「はぁ~」俺は溜息をつき憂鬱(ゆううつ)な気分になった。「どうした?」俺と向かい合う形で座っていた大輔が俺に聞いた。「ちょっと……」と俺が言いかけると大輔は「笹倉先生のことは気にするな。今はテストに集中しろ」と言い数学の教科書を開き俺に勉強を教えたが俺は朝倉のことが気になり勉強に身が入らずしびれを切らした大輔が「お前なぁ、いい加減にしろ……どうして他人のお前がそこまでする必要があるんだ?」と少しイラついた口調で俺に聞いた。確かにそうだ。俺は笹倉先生の教え子。一生徒でしかない。ほっとくのが一番だ。だけど――「でもほっとけないんだ……」と俺は言うと大輔は黙りやがて「今日の勉強はここまでだ……」と諦めた感じで言い「綾音と飛鳥を迎えに行かなきゃならないし」と言い教室から出て行き俺はぽつんと一人残された。
 俺は一人考えた。確かに大輔が言うように他人の俺がどうこう言えることじゃない。これは笹倉先生と笹倉(父)の家庭の問題だ。俺が考える事じゃない。俺はそう思い自販機の前に行くと「「あ?」」と手がかち合い見ると「宮野君」「笹倉先生」と鉢(はち)合わせた。
「その昨日は御免(ごめん)……なんか気を使わせて……」先生は苦笑いで言い「いいっすよ。俺も余計なお節介だったから……」と言い気まずい空気が流れた。俺達は自販機から離れ渡り廊下を歩き俺は沈黙に耐えている。(この沈黙は耐えられない……)と俺が思っていると先生が「父さんから俺のこと聞いた?」と不意に俺に聞いて来た。笹倉先生の突然の質問に「え……あ。はい」と俺は動揺しながら答えた。「じゃあ俺の家のこともある程度知ってるよね?」と俺に聞き俺は小さく頷き「俺さ……自由が無かったんだ。子供頃から勉強だーやら礼儀作法やらで自由が無かったんだ。俺の父さんは非常に教育に凄く厳しく神経質で俺がちょっとでも反抗すると怒鳴り散らして暴力を振るうんだ。母さんはそれに耐えきれずに離婚して家に俺と父さんだけになった時俺はいつも父さんにビクビクしてたんだ。だから俺はいつもいイイ子でいなきゃいけないって思って毎日肩肘(かたひじ)張ってたんだ。でも、それって結構辛くて、だから父さんの目が届かない高校選んで漸く自由を掴んだんだ。だけど父さんにバンドのことがバレて滅茶苦茶にされて俺の自由も終わってまた人形に戻るしかなかった。そうこうしているうちに岬に再会して人形になってから笑うことを忘れた俺の心を氷解(ひょうかい)してくれて『あ……俺は岬が好きなんだ』って自覚して父さんに岬と結婚するって言って父さんが当然怒って岬を悪く言ったんだ。それに対して俺はキレて生まれて初めて父さんに反抗したんだ。あの時岬が止めなければ俺は父さんを殴ってた。バンドのことも学校のことも黙って従っていて何も言わなかった流されてばかりの俺が……。俺から母さんを奪ってバンドも奪ってこれ以上俺から何を奪うんだって!」と言うと笹倉先生はアイスコーヒーを一口飲み「でもそれよりも一番許せなかったのは岬のことを悪く言ったことだ。よく知りもしないで悪く言って勝手な風潮(ふうちょう)をして岬を傷つけたことだ。誰だって好きな人のことを悪く言われたらいい気分はしないだろ?」と笹倉先生の言葉に俺はもし大輔にあらぬ噂を立てられて悪口を言われた時を想像すると「あ、俺そいつのことをすごく殴りたくなりました」俺の言葉に笹倉は「だろ」と言い「だから俺は父さんのことが許せないんだ」と言いアイスコーヒーを飲み干すと「じゃ、俺これから職員会議だから」と言い笹倉先生は職員室に向かって行ってしまった。俺は「両方ともすれ違い……か」と小さく呟き自販機で買ったメロンソーダを飲んだ。

「いってぇーっ!」俺は階段を一段踏(ふ)み外(はず)し盛大(せいだい)に転んだ。「お前平気か? ここのところボーっとしてるぞ」と大輔が言い「わりぃわりぃ……イテッ!」と俺は保健室に行き靴下を脱ぐと足首が腫れていた。
「捻挫(ねんざ)ね……今日はもう早退して病院に行きなさい」と保険医は言い俺は早退して病院に行くことにした。この病院は小里(こさと)病院といって比較的午後は空(す)いててすぐに番が来て俺は診(み)てもらうとやはり捻挫で全治二週間と言われた。俺は会計を済ます為待合室で待っていると喉が渇いたのでジュースを買おうと売店へ向かうと誰かと手がかち合った。俺はすぐ手を引っ込めて謝ろうとすると「宮野君?」と言われたので俺は相手の顔を見ると入院着姿の文人さんがいた。
「奇遇(きぐう)ですねー」俺の言葉に文人さんは「私達はつくづく会う運命の様だな」と言い「で、宮野君……キミ学校は? まだこの時間じゃやってるんじゃないか? もしかしてさぼりかい?」と探る様に言うと「ち、違いますよ! 怪我(けが)で早退したんですよ! っていうか、さぼるなら病院なんかに来ませんよ!」俺は慌てふためき言い「あぁ、確かに。成程!」と理解して手をポンッ! と叩いた。「そういえば文人さんはこの病院に入院してるんですか?」俺の問いに文人さんは「あぁ、まぁ……」と気まずそうな顔で言った。「早く良くなるといいですね!」俺の言葉に文人さんは表情を曇(くも)らせて「……それは無理なんだ……」と言った。「え?」俺は意味が解らずポカンとした。すると文人さんは言葉を続けた。「無理なんだ……実は私は末期の胃癌(いがん)で医師から持って三ヶ月。早ければひと月と持たない……」と深刻(しんこく)な顔で言い「末期癌と解った時せめて和解(わかい)しようと病院から外出許可を貰い会いに行ったが駄目だった。天罰(てんばつ)が喰らったんだな。私はあの子にとって最低の父親だった。だからこれは神からの罰だ……」と文人さんは辛(つら)そうに言い俺は「諦めるんですか?」と文人さんに聞いた。「仕方なかろう……あの子は氷のように私に心を閉ざしているんだから……」文人さんの言葉に俺はキレ「よくないっ!」と大声で言い「よくないよっ! そんなのっ!」と俺は言い「病室教えて!」と言い呆気(あっけ)に取られている文人さんは俺のただならぬ気迫の押され病室の番号を教え俺は猛ダッシュで病院を出て学校へ笹倉先生の元へ向かった。足首は捻挫しているのに不思議と痛さは感じなかった。学校に着くと学校はもう放課後で下校する生徒で溢れているがそんなこと気にせず俺は職員室へ向かった。
「笹倉先生!」
 俺は勢いよく職員室のドアを開け笹倉先生の姿を探したがおらず笹倉先生の隣の席の教師が「笹倉先生ならもう帰ったよ」と言い「んなっ!」と俺は声を上げ俺は笹倉先生の自宅へ向かった。
 俺は駅に着くと急いで電車に乗ったが電車が人身事故を起こし止まっており復旧の目途が立たず仕方なく俺は走って笹倉先生の家へ向かった。
 笹倉先生の家はほぼ学校から隣町なので行くのはそれほど難しいことではないので苦ではなかったがこうしている間にも病院の面会時間は過ぎてしまう。俺は急いで笹倉先生の自宅に着きインターホンを鳴らした。すると笹倉先生が出て来て「あれ? 宮野君じゃないか? そんなに慌ててどうしたんだい?」と聞き俺は息を切らしながら「今から……小里病院に……来て……下さい……」と言い笹倉は困惑しやがて鹿沼さんも出て来て俺は中に通され事情を話した。
 俺は息を整えて笹倉先生に事情を話した。しかし、笹倉先生は険しい表情をして頑(かたく)なに会いたくないと言い会おうとしない。確かに嫌な思い出しかない奴には会いたいとは思わない。でも俺から見たら文人さんは必死で謝ろうとしている気がした。だからほっとけない。俺は業(ごう)を煮やし「本当は笹倉先生は逃げてるんじゃありませんか?」と俺は言った。笹倉先生と鹿沼さんは俺を見て笹倉先生は「逃げてなんか……」と言い淀(よど)むと「いいえ。俺には逃げているようにしか見えません!」と俺は言い「俺にも父親がいますけど仕事で滅多に会えないから本音でぶつかったことがありませんし機会もありません、でも笹倉先生は違う! 今会えるじゃないですか!」と言い「逃げないで下さい……」と俺は言い、すると今まで黙っていた鹿沼さんが「雪人……」と言い「僕に気を使わないでイイよ」と言った。すると笹倉が「だけどアイツはお前を悪く言って……」と言うと鹿沼は「ううん。それは雪人の為に言ったんだと思う。多分……ううん普通の親だったら息子が素敵な女性と結婚してカワイイ子供を作ってその子供を親に見せて幸せな家庭を築くのが普通だ。だけど、僕達は男同士だから子供は出来ない。それでも僕は幸せだよ。好きな人と一緒に居られるんだから……雪人は幸せじゃないの?」と聞き笹倉先生は黙り「それに僕は結婚の時の話はもう怒ってないよ……」と言った。「……」笹倉先生は黙りやがて「車出すから二人とも乗って!」と言い「じゃあ!」俺の言葉に笹倉先生は笑顔で「あのバカに言ってやらなきゃ! 俺達は幸せだって!」と言い俺達は車に乗って小里病院へ向かい文人さんの病室へ向かった。すると文人さんの病室が騒がしかった。何事かと俺は思うと病室を覗くと文人さんが人工呼吸器をつけて虫の息だった。
「父さん!」と笹倉先生は驚き駆け付けて文人さんが少し意識を取り戻したのか「ゆき……と……?」と言い「父さんっ! しっかりして!」笹倉先生は文人さんの片方の手をしっかり握り涙ながらに言った。「ゆき……と……あのとき……ほんとうに……すまない……」と言い「おまえたちは……いま……しあわあせかい?」と聞くと笹倉先生は「父さん……俺達は今幸せだ」と言い「岬も今ここにいるんだ」と言い岬が「文人さん……」と言い文人がたどたどしく「かぬまさん……ゆきとを……もらってくれて……ありがとう……」と言い「こんな……むすこ……だけど……これからも……よろしく……たのむ……」と言った。「文人さん……はい……」と言い鹿沼さんの瞳から涙が溢れた。そして、文人さんは安心したように微笑みやがて生命維持装置がピーッと音を立て医者が気の毒そうに「残念ですが……」と言い笹倉先生が「いえ……ありがとうございます」と涙ながらに言い俺達は待合室に座り笹倉がやがて笹倉先生は「俺、父さんから逃げてたんだ……」と言い「本気で向き合う気もなくて……」と涙ながらに言い「俺バカだよな……もっと早くから向き合えばよかったのに……」と後悔したように言った。その時鹿沼さんが缶コーヒーを持ってきてそのうちの一本を笹倉先生に手渡して「でも最後は文人さん幸せだったんじゃないかな? 雪人と和解できたから……」と言うと笹倉先生が「そうかもね……俺達が幸せということを知らせることが出来たしね」と少し弱弱しい笑みを浮かべて缶コーヒーを飲んだ。
 その時俺は和解した笹倉先生と鹿沼さんを見て羨(うらや)ましいな、と思うと同時に自分の親父のことを思い出した。医者で滅多に家に帰らずいつも本音で向き合うことが出来ない。先生にあれだけ言ったのに自分はどうかと思った。





 俺の親父、宮野(みやの)誠司(せいじ)は最低なクソ野郎だ。病院の院長だかなんだか知らねぇが家には滅多に帰らず家庭のことはお袋に任せっきりで学校の行事にもいつも顔を出したことはない。なりより許せないのがお袋が病気で入院し禄(ろく)に見舞いにも来ず仕事ばかりでお袋が死んだ時にも病院の患者の状態が悪化したからと言い葬儀(そうぎ)にも出なかったことだ。だから俺は親父が嫌いだ。人にばかりイイツラして自分の奥さんを助けないなんてそんなバカな話あるか? その事で俺はあまり医者というのが嫌いだ。そして、親父に頼みごとをするのも嫌だ。だが――、
「もうすぐ三者(さんしゃ)面談(めんだん)の時期だ。期限までにプリントを提出するようにー」と担任は言った。
 三者面談。それは親子で担任と進路を話すある意味地獄の儀式だ。
 俺は溜息と吐き「どうするよ? これ……」 と呟いた。「なにって父親に頼めばいいんじゃないか?」大輔の言葉に「だってよ~」と俺は言い淀んだ。そう。お袋が死んだ今身内は親父しかおらず親父に頼むということは俺にとって苦痛だ。嫌いな親父に負けた感じがして。
「別にただ面談に出てくれって言えばいいだけじゃん。なんでそれが負けた感じになるんだ?」大輔の質問に「負けってことは頭を下げるってことだから……」と言い大輔は「お前なぁ……」と溜息を吐き「あんまり意地を張るなよ。笹倉先生みたいな関係になるぞ」と言った。
 笹倉先生は親子喧嘩をして長年絶縁(ぜつえん)状態(じょうたい)だったが最後は和解してこの間俺と大輔は笹倉先生の父親の文人さんの葬式に出席した。
 俺は黙った。
「親はいつまでも元気でいると思うなってよく言うだろ?」と大輔が言い「親孝行したい時に親は無しってことわざはあるけど……」俺の言葉に大輔は「全然ちげぇしことわざでもねぇよ」とツッコんだ。
「ま、何はともあれ親父さんに頼んでみることだな」と大輔は言った。
(俺が親父に会う……? 一人で……?無理だ……!)俺はそう悟り大輔のワイシャツの裾を掴み「付いて来て」と俺がそう懇願(こんがん)すると「なんで?」と大輔は言い「俺苦手なんだよ。こういうの……だから??」「無理だ」俺が言いかけてると大輔が即座(そくざ)に断った。「綾音と飛鳥を迎えに行かなきゃいけないからだ」と言い最後に「自分で行け!」と言われた。
 放課後になり俺は親父が院長を務めている病院へ向かっていた。病院の名は宮野(みやの)クリニックと言って心療(しんりょう)内科(ないか)専門の病院で病院としてはつい最近出来たらしい。俺はてっきり親父は外科とか内科とか思っていたがまさか心療内科とはと驚き俺は親父が務めている科すらなく改めて親父のことを何も知らなかったんだなと思い知らされた。 
 俺は病院に向かい受付に行き受付係の人に「院長……宮野誠司さんに用件があってきました。会えませんか?」と尋ねると受付係の人は「失礼ながらどのようなご用件で?」と尋ね返され俺は「俺院長の息子で学校のプリントを渡しに……」と言うと受付の人は困り顔で「少々お待ち下さい」と言い電話をかけそして電話を終えると「院長は忙しいので代理の者が来ます。少々お待ち下さい」と言い暫くするとスーツ姿の男性が現れた。男性は三十代後半ぐらいで左の目の下には泣きぼくろが付いておりほっそりした痩せ型の落ち着いた感じの男性だった。
「失礼します。院長になにか御用(ごよう)と聞き伺(うかが)ったのですが……」
 男性が怪訝な顔で言うと俺の第一声は「あんた誰?」だ。すると男性は「あぁ、これは失礼しました。私の名は辻(つじ)嶋(しま)彰(あきら)と申します。院長の秘書です」と自己紹介をし名刺を手渡した。俺も「俺は宮野誠一。院長の息子だ」と言い自己紹介をした。辻嶋さんは「あぁ。院長の……」と顔色一つ変えずに正に大人の対応で余裕な顔だった。(なんか悔しい……)と俺が思っていると辻嶋さんは「院長は今忙しいので少しばかりお時間を頂きますがお待ちになられますか?」と辻嶋さんは言い俺は少し考え「……いや、いいです。代わりにこのプリント渡して下さい」と言い三者面談のプリントを渡した。すると辻嶋さんが「解りました。他にご用件は?」と聞いてきたので俺は「ありません!」と答え病院を出た。
 俺はなんか悲しくなった。何故なら実の息子が会いに来ても忙しいからと理由で顔も見せないことに。結局親父にとって俺はその程度の人間なのだ。それを今日改めて思い知らされた。
「ふーん、それで会わずに帰って来たってわけか……」と大輔は冷静に言った。俺は今大輔の家で夕飯をご馳走になっている。俺達の家は隣近所で料理が出来ない俺を大輔が心配してよく晩御飯を作ってくれる。
「だってよ~」
 俺が言い淀むとお前って色んな意味でツンデレだよな……」と大輔が言い「は?」俺は聞き返し「なんで俺がツンデレなわけ?」不機嫌全開に聞いた。「というか、かまってちゃんだな」と大輔は言い「だって父親が会ってくれないからむくれるって駄々(だだ)っ子だろ?」その言葉に「俺は別にむくれて……」
 確かにそうだ。俺は何に怒ってるんだ。そんなに怒ることではない筈だ。なのに俺はプンスカむくれて怒っている。これじゃあホントにただの駄々っ子だ。
「ま、そこがお前の短所(たんしょ)でもあり長所(ちょうしょ)だがな」と大輔が言うと綾音が「おにーちゃんごはんおかわりー!」と言うと飛鳥も続いて「おかわりー!」と続いた。「はいはい、待ってろー。千佳は?」と大輔が聞くと「お兄ちゃんは女心が解ってない」と言い大輔が「は?」と言い千佳ちゃんが「もういいっ!」と言いぴしゃりと部屋のドアを閉め「あいつなんで怒ってんだ?」大輔の言葉に俺は「大輔……千佳ちゃんももう小五だぞ。気付いてやれよ……」俺の言葉に大輔は「気付くって何にだよ?」と聞き返したので「あらかた好きな男子が出来てダイエット」と俺が言うと大輔が「なっ!」と言い「オレは許さないぞ! 千佳ちゃんに好きな奴が出来たなんて!」と怒り狂い「親バカならぬ兄バカだなぁ」と俺が言うと綾音と飛鳥が「おにーちゃんバカー」「バカー」と続けて言った。
 やがて、三面の日がやって来て俺の親父は約束の日、時間になっても来なかった。元から期待していなかったけど何故か腹が立った。こんな日まで仕事を優先(ゆうせん)する親父が俺は許せなかった。だけど、その反面内心ほっとしていた。親父に会ったらどんな顔をすればいいのか俺は解らないからだ。やがて、時間が来て担任が「日にちを改めるか……」と言うと俺は「俺三面無くてもイイです」と言うと担任が「ダメだ。お前は成績いつも最低だ。ちゃんと親御さんと話さないと――」と言うと「遅れましたっ!」とスーツ姿の男性が息を切らして走って来た。担任は「誰お兄さん?」と聞き俺は「親父?」茫然(ぼうぜん)とし固まり担任は「えっ? 宮野の父親?」と驚いた様子で言った。
 早速俺達は面談を始め担任は親父に俺の小テスト答案(とうあん)を見せた。そこには見事に七とか十の数字がオンパレードのように並んでいた。親父は黙り俺も黙った。やがて担任はコホンと咳ばらいをし「親御さん……ハッキリ言って宮野君の成績はほぼギリギリ進級できるレベルでかなり危ういです。早いうちから手を打たないと留年(りゅうねん)の可能性もあります……今からでも間に合うので一度よく話し合って下さい」と担任は気の毒そうに言い俺の三面は終わった。帰り道親父が「なんか外食しよっか?」と言い俺達は近くのファミレスへ向かった。
 ハッキリ言って俺はこの父親とは一刻も早く離れたいから一緒に食事をしたくなかった。しかし、ここで断ると昔からこの親父は駄々をこねるのでてっとり早く済ますには仕方なくこの提案を呑むことだった。
 俺はクリームソーダを注文して親父はフレンチトーストにアイスティーを注文した。俺は少しばかり緊張し固まった。思えば親父と二人きりで食事なんて生れてはじめてかもしれない。それに――……。
 俺はちらっと横目で店内を見た。客は俺等を注目している。しかも、ほぼ女性が。それは俺がカッコいいからだけではなく親父だ。親父は今年で三十九だが見た目が若いせいかまだ二十代に見える。そして腹立たしいが俺は親父と顔がかなり似ている。細モテの身体にぱっちりした目に琥珀色の瞳とか……。加えて美形二人。恐らく傍(はた)から見ると俺達は親子ではなく兄弟に映っているだろう。俺はとっととこの場から立ち去りたくて出されたクリームソーダのアイスクリームの部分を口に一心不乱に口に運んだ。そしたら、当然頭がキーンとした、それを見かねた親父が「ゆっくり食べなきゃ……」と言った。それに対し俺は「アンタと一緒じゃなきゃゆっくり食べてるよ……」と精一杯(せいいっぱい)の嫌みを言いそれを聞いた親父はこてんと首を傾げた。それに対し俺はこう思った。(オイ、クソ親父……首をこてんと傾げるな。三十九にもなって。可愛いとでも思ってんのか?)俺は色んな意味で殺意が湧(わ)いた。その時後ろから「あれ!? セージ君!?」と聞き覚えのある声がした。俺は振り返ると「やっ! セージ!」と笹倉先生と鹿沼さんがいて親父が「ユッキィにミッチー!? ひさかたぶりー!」と言い親父達は喜びあい俺は唖然(あぜん)とし「何!? アンタら知り合い?」と俺が聞くと笹倉先生ことユッキィが「昔話したバンド仲間」と平然と言った。
 それから、親父達は和気あいあいと昔を懐かしむように話した。今の仕事やら仲間のことやら。たまに愚痴(ぐち)が入ることもあるがそれでも今の仕事にやりがいを感じてるやらとか。
 三人は思い思いの時間を過ごしているが俺はもう何が何だか解らなかった。
(親父がなんだって!? っーか、バンドメン!? というか、セージって誰!?)
 俺の頭はグルグル回り鹿沼さんに「あの……セージって?」と聞くと「あぁ、誠司(せいじ)君のバンドネーム! 宮野誠司君だからセージ君!」と鹿沼は笑顔で言った。その時笹倉先生が「そう言えば紫音(しおん)さんは? 元気?」と聞いて来た。すると親父は黙った。紫音とは俺の死んだお袋の名前だ。乳癌(にゅうがん)でもう手の施(ほどこ)しようが無かった。俺は毎日欠かさずに見舞いも行った。だけど親父が来ていることを一回も見たことがない。いつも仕事にかまけて家族のことをほったらかしにしてお袋も何も言わず親父のことを一言も言わなかった。多分お袋は諦めてたんだと思う。親父のことを。俺はそう思うと怒りが込み上げて来た。
「紫苑は死んだんだ……」親父の言葉に笹倉先生は「そっか……」と言いそして鹿沼さんが「でも紫音さんは幸せだったのかもしれないよ……好きな人と一緒になれたんだから」と言い「何が幸せなもんか!」と俺は怒声(どせい)を上げた。親父と笹倉先生と鹿沼さんそしてその場にいた客が一斉に俺を見た。しかし俺はそんなことお構いなく怒鳴り散らした。「お袋はずっと病室にいて心細かった筈だ! なのにアンタは一回も見舞いに来ないでこういう時だけ父親面(づら)して!」俺は堰(せき)を切ったように怒り散らした。それに対し親父は冷静にアイスティーを啜り「俺が来ても母さんの病気は良くならない……もし俺が来てよくなるっていうなら俺はいくらでも行っているよ」と言った。その言葉に俺の中のなにかがキレた。そうだよな。アンタそうやってお袋を見捨てたよな。俺はガタンッ! と席を立ち「この薄情(はくじょう)野郎(やろう)!」と言い店内を出た。
「――で、大喧嘩して出てきたわけか……」大輔は茶碗にご飯をよそいながら言い飛鳥にご飯を渡した。俺は黙って頷き大輔が額を押さえ「はぁ……」と溜息をついた。「お前なぁ意地張ってないで見舞いはともかく三面に来てくれたんだからありがとうぐらい言えば……それだけじゃん」と言った。「アイツにお礼を言うとなんか負けた気がする」俺の言葉に大輔は「あのなぁ父親がいないオレからしてみりゃ誠一お前は我儘だぞ……オレは父親と親子喧嘩したこと無かったから親子喧嘩出来るお前が羨(うらや)ましいぞ」と言った。俺は黙り「父親なんてそんないいもんじゃねぇ」とポツリと言い(そう言えば来週お袋の命日だ)と俺はぼんやり思いながらご飯をもそもそと食べた。
 その日は朝からぐずついた天気だった。朝の天気予報では昼からにわか雨でお昼過ぎには雨が止(や)み晴れ間が見えるとのことだった。俺は墓に備える花を花屋で適当に見繕(みつくろ)いお袋が眠る墓地(ぼち)へ向かった。
 墓地は静かで俺は花束を携えてお参りをした。俺はお袋の墓地の前で(なんでお袋はあんな親父と結婚したんだ? あんな親父と結婚しなければお袋はきっと幸せな人生を歩めたかもしれないのに……)俺がそう思っていると雨が降って来たが俺はお袋の墓の前で立ち止まっていた。離れたくなかったのだ。こういうと小さい子だと思われるかもしれないけど俺には頼れる人がお袋しかいなかったからだ。俺がぼんやり考えているとふいに人影が出来雨が当たらなくなった。
(?)
 俺が顔を上げるとそこには「お風邪をおひきますよ」「アンタは辻嶋……さん?」がいた。

「着替え大きいですけど……」と辻嶋さんは俺に着替えを手渡し俺はシャワーを浴び辻嶋さんが手渡した服に着替えた。服は青のラインが入った灰色のパーカに黒のズボンといわゆるシンプルな服装で辻嶋さんは俺にホットココアを出した。俺はぶかぶかの服に身を包みホットココアをひとくち口につけた。そして口の中に芳醇(ほうじゅん)な甘さが広がりホッとした。「お口に合いましたか?」辻嶋さんの質問に俺は「ええ、はい」と答えると辻嶋さんはフッと少し笑い「やはり院長の情報通りですね」と言った。「この、牛乳多めのココアは貴方様の好みの味だと院長が言っておられましたので……」と言った。(なんで、親父が俺の好みの味知ってんだ? 俺は親父に話したことないのに……)俺は改めて辻嶋さんの部屋を見渡した。白で統一された部屋。本棚には難しそうな本がきっちりと並び整理整頓されておりいかにも秘書よろしくの部屋だった。(因みの俺の部屋は汚い)
 俺がソワソワしていると辻嶋さんが「そんなに人の部屋が気になりますか?」と聞いて来たので俺は図星(ずぼし)をつかれて黙った。
 俺はココアを飲み終えると洗濯物が乾くまでボーっとしていた。すると、一冊のアルバムが目に入った。すると、辻嶋さんが俺の意をくみ取ったのか「そのアルバムが気になるのですか?」と俺に聞き俺は少し頷き辻嶋さんが俺に見せた。そこには今より若い辻嶋さんと笹倉先生、鹿沼さん、そして親父が写っていた。四人とも笑顔で輝いていた。
「これ……?」
 俺は呟くと「これは私達(わたくしたち)がライブハウスで初ライブした時に紫音さんに撮(と)った写真です」と言った。
「お袋に!?」
 俺は驚き辻嶋さんを見た。辻嶋さんは表情一つ変えず「ええ」と言い「貴方(あなた)様の御父上(おちちうえ)誠司さんと笹倉さんと鹿沼さんとで四人でバンド活動していた時に撮った写真です」と言い「私(わたくし)のバンドネームはアキでドラムでした」と言い前に鹿沼が言っていたことを思い出した。「えっ? アキってアンタ?」俺は驚き口をパクパクさせた。そりゃそうだ。こんなお堅い職業をしている人が昔はバンドマンだったなんて。「少し昔をお話しします……」と言い「どこまで知ってるか知りませんけど私(わたくし)と貴方様の御父上誠司さん、笹倉さんと鹿沼さんはArcanaと言うバンドを組んでメジャーデビューしようと誓っていたんですが最初の頃は全く売れず路上ライブをやっていたのですが立ち止まってくれる人はいませんでした。ですが、いつも立ち止まってくれる女性が一人だけ居ました。それが紫音さんです」と言った。
 辻嶋さんが言うには俺のお袋は親父達がやるバンドに必ず顔を出しては歌を最後まで聞き無名だった親父達のバンドの最初のファンになり親父達と顔馴染(かおなじ)みになった。それからライブハウスでもちょくちょく歌を歌っていたが笹倉の父親にバレてバンドは解散した。しかし、この話にはまだ続きがあった。
「バンドは解散しましましたけど私(わたくし)と誠司さんは二人でバンドを続けてました。それがあるレコード会社の目に留まりデビュー目前(もくぜん)まで行ったんです。ですが、断念(だんねん)しました」
「え!? なんで!? 折角(せっかく)デビューできるチャンスなのに」
 俺の言葉に辻嶋さんが「紫苑さんに誠司さんの子供が……貴方が出来たからです」と言った。
「え!?」
「貴方様に聞きますが芸能関係で一番恐れるものは何だと思いますか?」と辻嶋さんは聞いて来た。「えっと……記事にされること?」と言うと「ええ」と辻嶋が言い「もし、新進気鋭(しんしんきえい)の若手しかももうすぐデビューのバンドに子供が出来たというニュースが飛び交ったらスキャンダルになりますし胎教(たいきょう)にもよくない……そう思い誠司さんはバンドを諦めました」
「俺のせいで……」俺は呆然と呟くように言った。知らなかった。親父にそんな過去があったなんて。いや、知ろうともしなかった。
「貴方の前で紫音さんどうだったか知りませんが一度でも誠司さん……御父上の悪口をおっしゃられましたか?」辻嶋さんの言葉に俺は思い返し俺はお袋の言葉を思い返した。すると「一度も……言ってない……」俺の言葉に辻嶋さんは「でしょうね」と言い乾燥機(かんそうき)がピーと音を立てたので辻嶋さんは洗濯物(せんたくもの)を取りに行った。俺は親父のことを知らない。何一つ。それなのに……。
 やがて、辻嶋さんが俺の服を持ってきて「行ってきたらどうです。親子喧嘩を出来るのは親が生きている間だけですよ」と言い俺は着替えて急いで親父の病院へ向かった。雨は止んで晴れ間が見えていた。
 俺は親父の病院へ向かうと受付に「親父に……宮野誠司に会いに来ました」と言い受付は困惑した表情をした。すると「通していいよ」と声が後ろからした。俺が後ろを振り向くとそこには親父がいた。
「ココアでいい?」と親父が聞くと「いや、それさっき辻嶋さんのうちで飲んだからイイ」と言うと親父は「そうか……」と言い俺は何を話せばいいのか解らず「そ……そうだ! なんで親父が俺の好きなココアの味知ってんだ?」とどうでもいい質問をした。すると親父は「あぁ、ココアね。 実は、あの味俺が考えたから!」とあっけらかんと言い「は?」と俺は間の抜けた言葉を漏らした。「昔お前が牛乳が嫌いで牛乳多めのココアにしたらお前がぐびぐび飲んで……だから、当然知っている」と親父が言い(嘘だろ……あれお袋が考えたと思ってた)と思い、また俺は石像の様に固まり何といえばいいのか解らず頭の中はパニック状態だった。頭の中では脳内(のうない)会議(かいぎ)が行われていて『簡単なことじゃないか? 一言親父と言ってこれまでのことを謝れば済むことだよ』と一人の俺が言うともう一人が『無理だよ、そんなのいきなり』と言いもう一人が『じゃあどうするの? このまま黙っているの』と言い俺はますますパニックを起こし頭がパンクしかけていると「誠一?」と親父が声を掛け来たので俺は「ぅひゃい!」と変な声を上げた。
「なっ、なんだよ?」俺の言葉に「なんだよはこっちのセリフだ……くるなりそうそう黙って……」親父は溜息を吐きながら言い「何か用があって俺の所に来たんじゃないのか?」と言い俺は黙りやがて「……俺はバカだし……多分親父のことを許せないと思うんだ。だけどお袋は親父のことを一回も悪く言わなかった。だから……要するに……あ~、もうその辺は許してやる!」と言うと親父はポカンとしやがて「なんで俺がお前から何の許しを貰うんだ?」と聞き俺は確かにと思った。そして「誠一お前は何か誤解しているようだが俺は確かに見舞いには行っていないが電話では毎日のように電話をしていた」と言った。更に「母さんが入院した時一回見舞いに行ったら『早く患者さんを助けなさい!』と散々怒られて行けなかったんだ」と言った。
「え? マジ?」親父の言葉に俺は驚き親父は最後に「俺は母さんのことも誠一お前のことを愛している」と言い「ただお前と向き合うのが怖くて逃げてたのは俺の方だ……」親父はそう言うと少しすまなさそう顔をして「こんな弱虫な父親だがそれでもいいか?」と言い俺はぽろぽろ涙を流し「当たり前だろ。俺の親父はアンタしかいないんだからな!」と俺は言い俺達は抱き着きわんわん泣いたそして悟った俺も弱虫なんだということを。自分は周りに愛してほしくて安っぽい愛に縋っていたことに。誰も本気で愛していなかったことに。だけど俺には無償(むしょう)で愛してくれる親がいる。その事を身をもって知った。

「へ~、じゃあ親父さんとは和解できたんだ?」
 昼休み俺達は窓辺にもたれ掛かりながら大輔に親父と一応和解したことを話した。大輔の言葉に俺は「まぁ、一応」と言い大輔は「こっちは進路のことで揉(も)めて更に家庭内のことで揉めてる」と言い「お袋がオレには大学に行って欲しいらしく更に千佳に好きな奴がいることが発覚した」と言い俺は「ふ~ん……え?」
 俺は(マジで?)と思った。





 大輔の家庭は今揉めていた。一つは大輔の進路のことで。前にも言った通り大輔は母子家庭で下に幼い兄弟が三人もいる。自分が大学に行けば母親に迷惑がかかるし兄弟達の今後も考えると将来学校に行けなくなるかもしれない。そう考え大輔は高校を卒業したら就職を希望しているが母親は大輔に大学に行って欲しくて揉めている。そして、もう一つは妹の千佳ちゃんに好きな奴が出来たらしい。きっかけは昨日の夕食大輔と千佳が大喧嘩したらしい。しかも内容は千佳ちゃんがクラスの男子からラブレターを貰い千佳ちゃんが好きな人がいるから断ると言ったというものだ。兄である大輔は妹にふさわしい相手かどうか見極(みきわ)める為詳しく聞こうとすると千佳ちゃんが『なんでお兄ちゃん話さなくちゃいけないのっ?』と言い終いには『お兄ちゃんのバカッ!』と言い部屋に籠(こも)り今朝(けさ)に至っては口も聞いてくれなかったらしい。
(ザ・反抗期……)俺はそう思い「まぁ仕方ないって。女は自分の好きな相手を男に知られたくないって……まして大輔は重いんだって」と大輔を宥(なだ)めると大輔は「俺のどこが重いんだ? 俺はただ兄として妹にふさわしい相手かどうか見極めようと……」大輔の言葉に(そう。そういうとこだよ!)俺は心の中でツッコんだ。
「俺はさ長子(ちょうし)として親父の分まで家のことを守んなきゃいけないのになんか空回りしてる気がするんだよな」大輔のボヤキに俺は「大輔、今二十一世紀だよ。令和だよ……」と言い「大輔は少し……というかかなり古いんだって。今時長子も末っ子もないよ。それに親が大学に行って欲しいなら好意に甘えやいいじゃん! 大輔成績いいんだし!」俺の言葉に「ばっ! んなことしたら妹達がっ!」と反論しようとすると『二年三組―、二年三組―。中川大輔―、中川大輔―。至急(しきゅう)進路(しんろ)指導室(しどうしつ)に来るようにー』と放送された。大輔は面倒臭そうな顔をし「ちょっと行ってくるわ」と言い教室を出て行った。
(進路のことか……)俺はそう思い紙パックのオレンジジュースを一気に飲んだ。
 昼休みが終わる頃大輔が教室に戻り何か資料を持っていたが興味なさそうに机に置いた。「なになに? 大輔これ何?」と言い俺が勝手に見ると資料は奨学(しょうがく)金(きん)の資料だった。
「奨学金って……やっぱり大輔大学に行くの?」俺の問いに「いかねぇ」と言い「え? だって奨学金の資料――」俺の言葉に大輔は「教師が進めて来たんだよ」と言った。
「だったら行けばいいじゃん! 進めてるんだし!」俺の言葉に大輔は面倒臭そうに「簡単に言うけどなぁ奨学金って返さなきゃなんないんだぞ……更に奨学金払えなくて奨学金破産する人間もいるんだぞ……」と言った。俺は言葉に詰まった。確かにそうだ。奨学金を借りて後に事故に巻き込まれて体が不自由になって奨学金を返せなくなった事例はたくさんある。だから大輔のいう事はもっともだ。だけど「やっぱり大輔は大学に行くべくだよ!」と俺が言うと遂に大輔は怒り「なんでお前にそんなこと言われなきゃなんねぇんだ? っーか、なんでお前はそんなに俺を大学に行かせようとするんだ?」と聞くと「見ていたから……」俺の言葉に大輔が「は?」と聞くと「この間大輔が親父さんの通っていた大学のパンフレット見てたから!」と俺は叫ぶように言いクラス中は何事かと俺等を見た。大輔は固まりその時予鈴が鳴り教室に教師が入って来て授業を始めた。
 授業が終わり俺が帰ろうと大輔に声を掛けるが大輔は何も言わず「暫く一人で帰る……」と言い教室を出て行った。「大輔……」俺は呆然と立ち尽くし一人でトボトボと歩き帰路に着いた。
(余計のお節介(せっかい)……だよな……)俺はそう思い自問自答(じもんじとう)した。あの時、父親が事故に遭い死んでバスケを止めた時バスケの高校からの推薦の話も上がっていたけどそれを蹴って引き換えに家庭に入った。だけど、俺は知っていた。その時の大輔の悔しそうな顔を。大輔は幼い頃から父親を尊敬(そんけい)していて小さな頃は父親の様なバスケの選手になると言いバスケ一色の人間だった。バスケの強豪校からの話が持ち上がった時きっと誰よりも喜んだのは他ならぬ大輔だ。だけど、父親が死にその高校に行けなくなり悔しかったのも又他ならぬ大輔だ。大輔はいつも自分を犠牲にしている。好きなバスケを諦めて高校も諦めて今度は大学まで諦めようとしている。俺は最初社会人チームもあるし平気かな? と楽観視(らっかんし)していたがそんな事は無かった。ある日大輔の部屋で珀(はく)明(めい)大のパンフレット見つけたからだ。大輔の父親はそこのOBでバスケの名門。何名もの世界で活躍するバスケの選手を輩出(はいしゅつ)している名門大だ。だが私大(しだい)で当然学費も高い。ハッキリ言って大輔の家の財力(ざいりょく)では(多分)到底無理だ。
「けどなぁ~」俺が項垂れていると「あら? 誠一くんじゃない」と後ろから声を掛けられた。後ろを振り向くと「おばさん!」大輔の母親が車を運転していた。
「いやぁ、驚いたわ。すっかり大人になっていて。今高二よね? 大輔と同じ年だし!」と軽快(けいかい)に笑いながら言った。「ハハ……」俺は大輔の母親が運転する車に乗りながら苦笑いで答えた。何故俺が大輔の母親の運手する車に乗っているのかというと帰る方向が同じだからと言う大輔の母親の提案で乗らせてもらっている。
 大輔の母親は看護師で殆(ほとん)ど家におらず俺も最近は見かけなかった。
「今日は早めに上がれたから今帰るとこなのよ! あの子どう? 学校で。全然喋らないから解んないのよね」とぼやくと「はぁ」俺は曖昧(あいまい)に返事をした。「やっぱ年頃の男の子の心は解んないわ。大学に行かないで就職するって言うし! もうっ!」とおばさんは愚痴(ぐち)った。(確かに大輔は言いそうにない……)俺は心中そう思った。
「……あのおばさ――」俺が言いかけると大輔の母親が「あの子ね……いつも我慢するの……」と不意に言った。
「え?」
「小さい頃から欲しいものがあっても我慢して下の子に譲るしバスケのこともしたいのに我慢して……」大輔の母親は辛そうに言い「この間進路の事で喧嘩になったのよ。あの子はいきなり就職するっていうし……多分私達に気を使ってたんだと思う。確かにそうね……私の家の財力じゃ珀明は無理だし……」大輔の母親の言葉に「おばさんも知ってたんですか……」俺の言葉に「まぁ大輔(あの子)の親だし」と言い「でも私はあの子にはやっぱり大学に行って欲しいな……」と言い「私はきっと悪い親ね……大輔の気持ちに甘えて大輔の好きなものを奪ちゃったから……」と言い俺は黙った。やがて家に着き俺はお礼を言い家に帰ると自分の部屋のベッドにダイブした。
「大学……かぁ」俺はぼんやりと呟き「俺はこれと言ってやりたいことが無いのに大学に受かったら行くで大輔はやりたことがあるのに行くのが困難(こんなん)で……」俺は溜息をつき「代われるもんなら代わってあげたい」と俺は呟き眠りに落ちた。
 数日後、俺は届いた大学のパンフレットを見て目を見張った。
「百七十万円!」
 俺は自宅で素(す)っ頓狂(とんきょう)な声を上げた。見ているのは珀明大のパンフレットだ。そこには入学金、学費、寄付金が詳細に書かれており俺は絶句した。
「マジかよ……」絶句の後の第一声。私立だから高いとは思ってたけどまさかここまでとは……。俺は深い溜息をついた。その時「どうかされましたか?」と後ろから声がした。俺が驚いて後ろを振り向くと「辻嶋さん……」がいた。
「成程。ご親友が珀明大に本当は行きたいのに経済的な理由で行けない……」と辻嶋さんは自分で淹(い)れたお茶を飲みながら落ち着いて言い俺にもお茶を進めた。ハッキリ言って美味い。「お茶の淹れ方上手ですね……」俺の言葉に辻嶋さんは「秘書ですから……」と答え俺達はお茶を飲んだ。「――って、そうじゃな~いっ!」と俺は言い本題に戻った。
 俺は辻嶋さんに一応かいつまんで話してみた。すると辻嶋さんは「一応聞きますがその方の成績は?」とおもむろに聞き「学年トップだよ」と俺は答え辻嶋さんは黙り「なら簡単です。奨学金制度と言うものがあります」と言い「大輔……あ~、もう! そいつは金を借りて奨学金破産するかもと考えると奨学金制度が使えないんだよ!」俺の言葉に辻嶋さんは「落ち着いて下さい。確かに奨学金のイメージは返済(へんさい)義務(ぎむ)のある貸与(たいよ)給付(きゅうふ)金(きん)ですが返済義務のない給付(きゅうふ)奨学(しょうがく)金(きん)というものもあります」と落ち着いて言い俺は「え?」と聞き返すと辻嶋さんは「要約すれば国や地方団体から給付奨学金の対象となっている大学ならば入学金やら授業料等を免除され返す必要がないということです」と言い「貴方様が言うのだからその人は本当の優秀のでしょう。なら十分奨学給付金の対象になれるでしょう。というより学校はその旨(むね)を伝えたのでしょうか?」。辻嶋さんの言葉に「そ―いやこの間大輔……じゃなくてそいつが奨学金がどうとか? 言っていたような……」と俺が言うと「成程。じゃ多分知ってますね」と言った。俺は考えた。知っているならどうして大輔は
給付何とかを受けないんだろうと。っていうか――……
「何で辻嶋さんがいるんですかっ?」俺の質問に辻嶋さんは「あぁ、そうでした」と言いアタッシュケースから大量の問題プリントを取り出し俺の前に置いた。
「何これ?」俺の問いに「貴方様の課題です」と辻嶋さんは冷静に言い「以前三者面談で貴方様の成績があまりに酷いと院長が嘆(なげ)いておられましたので私(わたくし)が空いた時間にという契約で貴方様の家庭教師をかって出ました」と言い「と言うわけでまずは歴史からです!」と言い俺に鉄仮面地獄の家庭教師がついた。

「あ~、だりぃ」俺は疲れた足取りで帰路を歩いていた。「お前平気か?」大輔の言葉に「聞いてよ~大輔~。最近家に帰るのが憂鬱(ゆううつ)なんだよ~。学校で勉強。家でも勉強。じゃあ俺はどこで休めばいいんだ!」と俺は主張した。それに対し大輔は「そりゃ勉強しないお前が悪いんだろ……」とツッコんだ。「うぅ~、大輔が冷たいよ~」と俺は泣いた。それに対して大輔は「泣くな。じゃあそんなに嫌ならフケればいいだろ?」と大輔の言葉に「それも考えたけど……何時間でも待ってるんだ」と俺は思い返した。
 数日前――、
 俺は勉強が嫌で無断で友人達と遊んで帰りが遅くなり流石に辻嶋さんも帰っているだろうと思い家に帰ると居たのだ。辻嶋さんが。しかも俺の部屋で正座をしながら。しかもすごい怒っている。俺はヤバいと思い固まると辻嶋はさんはプリントをドサッと出し「追加です」と言いその日は二時までかかった。
「辻嶋さんは鬼だ! 悪魔だ! 本来学生なら青春を謳歌(おうか)するべきだ!」俺は堂々と主張した。それに対し大輔は「っーか、お前の青春ってなんだよ?」と俺にツッコんだ。「そりゃやっぱり恋だろ?」というと大輔は「そういやお前最近女遊びしなくなったな」と言い俺は「俺のことを本気で愛してるくれる人がいいんだ。その場限りの恋愛じゃなくて……」俺の言葉に大輔は「お前大人なったな」と言った。その時公園のバスケコートから子供達の元気な声が聞こえた。見ると十一、二歳くらいの男子達五人がバスケをやっている。男子達は頻(しき)りにゴールを狙うが中々入らず苦戦していた。すると大輔はバスケットコートに入り「それじゃダメだ」と言い「ボールを持ってゴールをしっかり見て肩の力を抜いて……」とレクチャーし始めそして「今だ!」と言い少年の一人が投げるとボールは勢い良く投げられゴールに入った。ボールを投げた少年はとても嬉しそうにはしゃぎ少年達も大輔にレクチャーを頼み大輔は仕方ねぇなという感じながらもレクチャーし始めた。その時の大輔の表情はとても嬉しそうだった。
(バスケ好き、血は騒ぐかな、若人(わこうど)よ)俺は何故が心の中で俳句を詠(よ)んだ。その時、視線を感じ後ろを観ると茂みの陰に隠れながら大輔達を見つめる人物がいた。その人物とは、
「千佳ちゃん?」だった。
 千佳ちゃんは俺が声を掛けた事に驚き「ぅひゃっ!」と変な声を出した。そして「あれ? 誠一くんじゃない? どうしたの?」と俺に逆に聞いて来た。「どうしたのはこっちのセリフだよ……」と言い「もしかして意中(いちゅう)の相手があの中にいる……とか? なーんて!」俺の言葉に千佳ちゃんは「当たり」と顔をほんのり赤らめて言った。「だよな~、あの中に意中の人が……って、え?」俺は耳を疑った。そりゃあ千佳ちゃんも、もう小五だし好きな人の一人や二人は出来るとは勘(かん)で言ったけどまさか本当になるとは……。しかも意中の相手があのバスケをしている男子の誰か。
(誰だ!? 誰なんだ!? 気になる……)そう思い俺はあの中の男子を凝視(ぎょうし)した。そうこうしてるうち大輔が戻って来て「ワリ……待たせた、って千佳? なんでいるんだ?」大輔の言葉に千佳ちゃんはそっぽを向き「お兄ちゃんには関係ないっ!」と言いこの場から離れた。「なんだ……アイツ?」大輔が頭にクエスチョンマークを浮かべた表情をした。
(まぁそうだわな……)俺はそう思い心の中で合掌した。

 期末も終わり答案用紙が返却されると俺の答案用紙は平均よりかなり上で俺には見たことない点数だった。(因みに大輔は九十点代)
「よっしゃー、これで夏休みの補習は無くなるぞー!」俺はガッツポーズを取りこれから来る夏休みに思いを馳(は)せた。家に帰り鉄仮面こと辻嶋さんに点数を見せると辻嶋さんは少しくすっと笑い「お見事」と言いすぐに元の表情に戻り「では、私はこれでお役御免(ごめん)ですね」と言い帰り支度を始めると俺は辻嶋の手を掴み「今日親父も帰ってくるんだ! だからお礼もかねて今晩家で飯食ってけよ!」と俺は言い辻嶋は「しかし折角の親子水入らずを邪魔するわけには……」と辻嶋さんは困った顔をしたが俺は早速親父に電話して辻嶋さんは晩御飯に同席していいか? 聞いたら即O.Kを貰えたので俺は「カレーにしよう!」と言うと辻嶋が「なら私がお作りしましょう……貴方様だとなんか不安だから」と言い俺は買い物担当になった。
「え~と、人参、ジャガイモ、玉ねぎとあとは??」と俺は材料を復唱(ふくしょう)し「あ! あと茄子(なす)だ」と言い俺は茄子を買った。俺があまり野菜食べない為結局カレーは茄子カレーということに一致し俺は「美味しいのかなぁ? カレーに茄子って……」と俺は疑問形で独り言を呟いた。その時「あれ? 誠一くん」と後ろから声がした。振り向くと買い物袋を持った千佳ちゃんがいた。
「誠一君ち今日茄子カレーなんだ?」千佳ちゃんの言葉に「でもカレーに茄子って合うのかなぁ?」俺の言葉に千佳ちゃんが「うん! すごく美味しいよ! 私もこれで茄子嫌い治ったし!」確かに千佳ちゃんは小さい頃茄子が嫌いだった。それは俺もよく覚えてる。
「そう言えば千佳ちゃんちは?」と聞くと千佳ちゃんは「今日はお兄ちゃんの好きなマーボーナス!」と笑顔で答えた後少し表情を曇らせて「ねぇ、誠一くんをお兄ちゃんの親友と見込んで頼みがあるの……聞いて」と言い俺は「え? うん」と俺は一応返事をした。
 俺達は公園に行き喉(のど)が渇(かわ)いたので二本ジュースを買いもう片方を千佳ちゃんに渡した。
「ありがとう……」と言いながらも千佳ちゃんは表情を曇らせて俺は「一体どうしたんだ? もしかしてイジメか?」と俺が聞くと千佳ちゃんはブンブンと頭を振って「違うっ!」と言い「実は私好きな人がいて……でも、それって許されない愛って解ってるし……自分でも解ってる。自分はおかしいんだって!」と千佳ちゃんはまくし立てるように言い俺は「落ち着けって」と言い「いつも近くにいて、ずっと好きで……」と千佳ちゃんはやがて涙を流した。
 いつも近く? ずっと? まさかそれって……
(俺っ!?)
 確かに俺は一応近くにいたけどそれは大輔の傍だし……第一千佳ちゃんは俺の親友の妹だし。イヤ、だけど千佳ちゃんの気持ちを無下(むげ)には出来ない。
「千佳ちゃん……俺――」「お兄ちゃんが好きなのっ!」千佳ちゃんが俺の言葉を遮(さえぎ)り力いっぱい言った。
「は?」
 俺は間の抜けた返事をした。そして、千佳ちゃんは続ける。
「お兄ちゃんはスゴイしバスケも上手(うま)いし家事も上手だしきっと他人から見たら自慢(じまん)のお兄ちゃんなのかもしれない。実際(じっさい)その通りだし……だけど、私はそんなお兄ちゃんが嫌いなの!」と千佳ちゃんはまくし立てるように言い俺は困惑し「え……と……どこに嫌いになるポイントがあるの?」俺の言葉に千佳ちゃんは「私はバスケがしているお兄ちゃんが好きなの!」と言った。千佳ちゃん曰(いわ)くバスケで活躍して輝いている大輔が大好きだった。楽しそうで一生懸命(いっしょうけんめい)バスケに打ち込んでいる兄(大輔)が……。だが父親が死に大輔がバスケを止め自分の好きなことを犠牲にして自分達が負担になっていることに千佳ちゃん辛くそして遂素っ気ないない態度を取ってしまう。
「う~ん」俺は考えた。確かにバスケをしている大輔は輝いている。きっと誰よりも。それは俺も知っている。しかし、大輔は幼い兄弟の為に人生を棒(ぼう)に振ろうとしている。とはいえ俺はただの幼馴染。大輔の人生にとやかく言う資格はないz(でも言ったけど)。「そういえばさっき誠一くんはなんて言おうとしたの?」と千佳ちゃんは俺に聞くと俺は先程盛大(せいだい)な勘違いをしていたことをしていたなんて言えず「う……うん。解ってたよ」と言い千佳ちゃんは顔を赤らめ「嘘っ! バレてたっ!」と言い慌てふためき「いつから?」と聞き俺は適当に「いやカンで……」と言い千佳ちゃんは更に顔を真っ赤にした(ごめん、千佳ちゃん)やがて千佳ちゃんは「じゃ……じゃあ帰るね!」と顔を真っ赤にしながら言い俺と千佳ちゃんは別れ俺は帰路に着いた。
 家に着くと辻嶋さんがエプロン姿で仁王立(におうだ)ちで立って「遅かったですね」と言い「あ~、ちょっとしたお話を」と言い俺は晩飯(ばんめし)の食材を辻嶋さんに渡し辻嶋さんは手際(てぎわ)よく調理を始め程なくして茄子カレーが出来上がりそれと同時に親父も帰って来て三人で食事を始めた。
「うめー! カレーに茄子入れただけなのに無茶苦茶上手い!」俺の率直な感想に辻嶋さんはちょっと照れ頬を赤くした。「彰は昔から料理が得意なんだよ」と親父が言い辻嶋さんは「褒めても何も出ませんよ」と照れながら言い「もうカレー出てんじゃん」と俺がツッコんだ。
 やがて、食事が終わり俺と親父と辻嶋さん三人で後片づけをして食後のココアを飲んでいると「あの……さ、親父とかってどうやって進路決めたの?」と俺はおもむろに質問した。二人はきょとんとして「どうした? 急に?」と親父は俺に問いただし「あー、その俺の友人の話なんだけどそいつ長男で兄弟と家庭のせいではバスケの才能があるのにその才能を地に埋もれさせそうなんだよ!」
「はぁ……」親父と辻嶋さんが息を切らし「だけど俺も周りもバスケをやってるそいつが大好きだし輝いていて絶対コイツは地に埋もれさせちゃいけない存在だって解ってるんだけど……だけどそいつは自分のこと解ってなくて……」俺はまくし立てるように言うと親父は「なんでその人は才能もあるのにその才を地に埋もれさせようとしているのかな?」と俺に聞いて来た。「え? それは兄弟と家庭……」と俺が答えると「違うよそれは……」と親父は言い「もっとよくその人のことを見なきゃ」と言った。俺は疑問符(ぎもんふ)を浮かべた。

 体育館にバスケットボールの音がこだまする。やがて試合終了のホイッスルの音がこだまし選手達が整列し審判が「森(もり)ノ宮(のみや)校対東蒼校六十対五十九。よって森ノ宮校の勝利!」と審判が言い選手達は「ありがとうございました」と言い選手席へ戻り負けた俺等の高校東蒼校の選手達は泣いて笹倉先生は「キミ達はよく頑張った。これからはその悔しさをバネに頑張っていこう」と言い選手達は「ありがとうございました!」と言い選手達は帰路に着いた。俺は今日で最後のマネージャー業務を終え大輔を迎えに控室へ向かうと大輔が記者団にインタビューされていた。そう何故なら大輔は試合中スリーポイントシュートを十回も決めたからである。記者団は勝ったチームより有望(ゆうぼう)な大輔に目を付け終いにはどこぞの大学のコーチにまでスカウトされ大輔は何とか逃げようとしていた。そこで俺は「大輔―!」と言い大輔は「連れを待たせてるんで」と言いこの場から逃げ俺達は近くの公園に立ち寄った。空は曇っており蒸し暑かった。
「は~、やっぱすげぇなぁ……スポーツに熱中する奴は……」俺の言葉に「まぁスポーツは熱中しなきゃ長続きしないからな……」と大輔は言い「さっきのスカウトしてきたどこ大?」俺の問いに「駿河(するが)大……」と答え「ふ~ん。そこもバスケの名門だね」と俺は言った。「そうだな」大輔は苦笑いを浮かべて「でもオレには無縁(むえん)だから……」と言い「あ……あのさ、大輔世の中には返す必要のない奨学金制度があるって知ってる?」俺の問いに大輔は「え? あぁ、まぁ……」大輔は面食らった表情をし「じゃあ、それ使おうよ! 大輔だったら十分適用されるよ!」俺がそう言うと「いい。オレは就職だ」と答えた。「何で!?」
俺の言葉に大輔はキレ「なんでお前はそこまで俺を大学に行かせようとするんだ!?」と怒りながら聞くと」「大輔が好きだから!」と言い大輔は呆気に取られ「え?」と間の抜けた返事をした。それでも俺は続ける。「バスケをやっている大輔が好きなんだ! 輝いてて笑顔で……千佳ちゃんもそんな大輔が……好き……なんだ……うわぁぁぁぁぁん!」俺は堰(せき)を切って大泣きをし大輔は「あ~、解った解ったから泣くな!」と言い俺達はとりあえず近くの東屋(あずまや)に来た。
「よし、治(おさ)まったか?」と大輔が聞くと俺は小さく頷き大輔が俺に缶ジュースを一本手渡して「これでも飲んで落ち着け」と言った。「大輔……」俺はそう言い缶ジュースの蓋(ふた)を開けた。俺はそれを飲み心を落ち着かせた。そして「俺達は黙り無言になりやがて大輔が「オレさ……本当は自信無いんだ……」と言った。
「え?」
「周りの奴らはオレのこと天才だとかもてはやすけどオレはそんなに天才でもないし凄い奴でもない。今のオレがあるの人の何倍も努力しただけなんだ……」と言い「だから奨学金貰って大学に行っても成果が出せなかったらと、思うと怖いんだ」と大輔は言った。「オレ本当は意気地(いくじ)なしで逃げてるだけなんだ。もっともらしい理由つけて。皆の前では余裕ぶってるけど……」と言った。俺は親父の言ったことを思い出した。『もっとその人をよく見なきゃ』という言葉を……。俺は大輔と付き合いが長いから大輔のことを全て知った気になっていた。でも本当は何も解っていなかった。――だけど……、
「そんなことない!」
「!?」
「大輔は忙しいのに俺の勉強を見てくれるし相談にも乗ってくれるししっかりしてるし。それから……え~っと、とにかく俺にとっては憧れなんだ!」と言い「それに大輔は天才じゃん! 努力の!」と言い大輔が呆気にとられポカンとしやがてぷっ! と笑い大声で笑い出した。「お前なぁ……そんな恥ずかしいことよく言えるなぁ!」と言い俺は顔を赤らめて「だ……だって……」と俺は言い淀むと「……だな、逃げてちゃ何も変わんないな……」と言い「オレ……考えてみるよ」と言った。
 空は晴れ雲の隙間から晴れ間が見えていた。





「この果てしない青い空~」
 昼休み、俺は音楽CDを聴きから歌をノリノリで歌っていた。その時大輔が何か言ったので俺はイヤホンを外し大輔に何を言ったかと聞くと「オレ大学行こうと思うんだ……」と言い「自分の実力を試したいんだ、どこまで通用するか解らないが……」と言い俺は自分のことのように嬉しくなった。
「よ~し、よくぞ決めた! 流石俺の友」と言い背中をバンバン叩いた。「いてぇって」と大輔は苦笑いで言い「そういやお前さっきから何聴いてんだ?」と大輔が聞き俺は頬を赤らめ「親父の……バンドの……曲」と口ごもりながら言い「Arcanaっていうバンド名でお袋の部屋の棚に置いてあったんだ」
 大輔に昔親父がバンドやってたことを前に話し最初大輔は驚いた感じだったが今では自然に受け止め「そか。本当に好きだったんだな、おばさん」大輔の言葉に俺は赤面した。「おまっ、恥ずかしいこと言うなっ!」俺の言葉に大輔は「っか、音楽にハマってんのってこれが原因?」大輔の言葉に俺は「う……」と言葉に詰まった。そう、俺はこれを聴いて以降この音楽に感銘(かんめい)を受け最近歌に興味を持ち音楽を聴き始め音楽にハマっている。そして最近は一人カラオケ通称ヒトカラをやっている。
「血は争えないか……」と大輔はぼやいた。
「大輔~、今日暇?」俺の誘いに大輔は「いや、バスケの練習だし……」と冷静に却下(きゃっか)した。大輔はあの試合の後正式にバスケ部に入部した。三年近くブランクはあるものの最初のうちは少し手間取ったが今では部活に付いており今ではいきなりレギュラーだ。
(やっぱり大輔ってスゲー! ブランクあるけど入部してすぐレギュラーなんて!)
 大輔の練習を邪魔したくない俺は一人で放課後カラオケに行くことにした。
 放課後カラオケセンターに行こうとするとその時一人の男子生徒とぶつかり男子生徒は「ご……ごめんなさい! 急いでて……」そう言うとお礼もそこそこに立ち去ってしまった。
「変な奴……」俺はそうぼやきカラオケセンターに向かった。
「この恋は~、一生の~」と俺はノリノリで選曲した歌を歌い次から次へ選曲した歌を歌い残り時間が少なくなった頃「これで最後にしよっと」と言い選曲して曲のイントロが流れやがて歌詞が表示され「替わる世界~、星の瞬(またた)き~、それは――」と曲がサビに向かう頃ドアが開き「遅れました!」と見覚えのある男子生徒が入室してきた。その生徒は放課後俺とぶつかった男子生徒だ。男子生徒は周囲をキョロキョロして「あれ?」と言い部屋番を見たら「嘘っ! 隣!」と言い「し……失礼しました……」と言い退散しようとすると男子生徒が来て「どうした? 律樹(りつき)」とストレートバーマの少年が言い「あ? 和馬(かずま)部長! ちょっと屋間違えちゃって……」と律樹が申し訳なさそうに言うと「またか……お前そそっかしいなぁ」と和馬は言い「ところでお前東蒼(ウチ)の高校の生徒だろ? 歌好きなん?」と和馬は俺に馴れ馴れしく聞いて来たので俺は内心ムッとしながらも「まぁ人並みには……」と答えると「じゃあさ俺の前で一曲歌ってくんない……俺をうならせたらここのカラオケ代半額出すから」と言って来た俺は和馬にムカついたが半額と言葉につられて一曲歌った。歌い終わると和馬が目を輝かせ俺の両手をガシッと掴(つか)み「見つけた……ダイヤの原石~!」と言い俺は隣の部屋へ連れ込まれた。
 隣の部屋には東蒼(ウチ)の高校の軽薄(けいはく)そうな男子生徒が一人おり「誰? そいつ?」と言い和馬は「ダイヤの原石!」と言い「そういやお前名前は?」と聞いたので「誠一。宮野誠一です」と返答した。
 俺はよく解らず男子生徒の話を聞いた。
 この三人は東蒼(ウチ)の高校の軽音楽部だがギターの和馬とボーカルの女生徒が喧嘩してしまいボーカルが抜けてしまい今困っていた。
 一ヶ月後には文化祭なのにボーカル不在でライブが出来ませんなんてことになったら軽音楽部の評判はガタ落ちだ。その為今ボーカルを募集しているのだが中々生徒は来ず来ても和馬のお眼鏡に適った者はおらず軽音楽部はますます境地に立たされていた。そこに歌の上手い(和馬曰くダイヤの原石)の俺が現れ俺を軽音楽部にスカウトした、ということだ。俺は迷った。確かに歌うのは好きだがそれは一人で気にせず歌うからであって人に聞かせる為じゃない。かと言って断るのも。
「一日時間くれないか……」と言い和馬は「解った。じゃあ、明日部活(ぶかつ)練(れん)の二階の音楽室で」と言い俺は別れた。
「う~ん」俺は悩みながら大輔の家で晩御飯を食べた。俺は想像した。ステージの立って歌う自分姿を。だけど――、
「何がうんうんなんだ?」大輔が俺に聞いて来た。「あ? 大輔。聞こえてた?」俺の言葉に「聞こえねぇわけねぇだろ」とツッコみ「っていうより白々(しらじら)しい独り言やめろ」と言い「――で、今回はなんだ?」と大輔が聞いて来たので俺は話すと大輔は溜息を吐き「なんだ……そんなことか……」と言い「そんなことってスカウトだよ! スカウト!」俺は興奮して言うと「あ~、解ったから落ち着け……」と大輔は言い「――で、お前はどうしたいんだ?」と俺に聞いて来た。「え? どうしたいって?」俺の言葉に大輔は「お前はやりたいのかやりたくないのか?」と聞き俺は「まだ決めてない……」と「自分で決めろ。オレに言ったみたいに」と言い俺は晩御飯を食べ家に帰りベッドにヨコになりArcanaのCDを聞き(親父達はどんな気持ちで歌ってたんだろう?)と思い俺は「俺は……歌っている時は楽しかった。合コンよりも……」と呟き「なら決まってんじゃん!」と言い俺は拳を上に就き出し「軽音楽部に入る」と決意を固めて言った。
 翌日、放課後。
 俺は軽音部の部室のドアを引き「俺軽音部入ります!」と大声で言った。部員達は呆気にとられ和馬が「よっしゃー! ボーカルゲットー!」と言い「じゃ自己紹介するわ。まず俺から……」と和馬は言い「俺は三年ギターの柊(ひいらぎ)和馬(かずま)。部長だ。で――」と言うと律樹は「い……一年ベ……ベース担当の長谷川(はせがわ)律樹(りつき)です」と名乗るような小さな声で言い軽薄そうな男子使生徒が「で、俺がドラム担当の中島(なかじま)悟(さとる)。三年だ」と自己紹介をしたので俺も「二年三組、宮野誠一です」と改めて自己紹介をした。「――っていうかキミ歌上手いじゃん! もしかして中学時合唱部とかだった?」と和馬が聞いて来たので「いやテニス部」と答えるとじゃあバンドやってたとか?」悟の問いに「いや歌とはほぼ無縁だった」と言い和馬は「マジ?」と言い俺は「マジ……」と言い和馬は膝をついた。その時律樹が「でも上手ですよね! 人を惹(ひ)きつけるような」と言い和馬が起き上がり「あ、それ俺が今言おうと思ってたこと」と言った。
「じゃとりあえず音合わすけど何の曲がイイ?」和馬が聞いて来たので俺は「星空の恋」と言い俺は歌を歌い他の三人が音を合わせてくれたの結構すんなりいった。
「……マジで」と和馬は言い「一発であっちゃいましたね」と律樹。「すげぇわ!」と更に悟。そして「コイツは期待の新星だ! これから磨けばもっと光るぞー!」と和馬が言い俺は「皆で歌うって気持ちいいー」と俺は呟き余韻(よいん)に浸っていた。
「じゃあボーカルも決まったし次は曲名だ。」と言い和馬から俺等三人にCDが出された。
「完全創作音楽だから各自音楽に耳を通すように」と和馬が俺達に言い俺達は曲を聞いてみた。ダイナミックな曲で魅力的な曲だった。
「これ歌詞と題名は?」悟の質問に和馬は黙り「今……考え……中……」と和馬が黙り「え?」と俺達は言うと「考え中だよ! あ~、お前らアイデアだせっ! その為にCD渡したんだよ!」と和馬はキレて俺以外の部員が「やっぱり……」と言った。
「やっぱり?」俺は律樹に聞くと律樹は「部長は曲作りは天才なんですけど題名とか歌詞を決めるの苦手なんです」と言った。(あぁだから『やっぱり』か)俺はぼんやりそう思い俺達は色んな案を出し合ったがいい案は思い浮かばず悟が「そうだ!」と何か思い浮かべたのか声を上げ「だったらこうしたらどうだ! 題名と歌詞を全部誠一(コイツ)に書いてもらうのは?」と言って来た。俺は最初「はぁ?」と素っ頓狂な声を上げた。「それでよかったら本採用。要するにテストだ!」と言い和馬が「確かにそれいいかも……」と言った。「ちょちょちょちょっと待って! 俺歌詞なんて書いたことない!」というと和馬「詩と同じだよ!」と言うと「いや、俺本当無理! 成績最低だし詩も書いたことないっ!」と言うと和馬が笑顔で「やれ」と言い断れず俺は渋々(しぶしぶ)了承(りょうしょう)した。
 俺は帰り道でぼんやり歌詞を考えた。
(歌詞かぁ……俺に出来るのかなぁ……)と。その時「宮野せんぱーい!」と後ろから声がした。振り向くと律樹が走って来た。「律樹……」律樹は息を切らし「はぁ、やっと追いついた」と言い「何か用?」俺の言葉に「いえ……用って……程じゃ……ないん……ですけど……」と途切れ途切れに言い呼吸を整えて「僕も家がこっちなんで途中までどうでしょうか? と思いまして……」と言い俺は「んー、まぁいいか」と言い俺達は道中話をし俺はふと前から気になっていたことを聞いた。
「なんでボーカルの人止めたの?」と聞くと律樹は歯切れが悪そうに「ん~、私情(しじょう)のもつれってやつですかね……」と言い「どゆこと?」俺の言葉に「ボーカルの人二年の女の先輩だったんですけど和馬先輩と付き合ってたんですよ。だけど、付き合ってる時にバンドの方向性の違いで揉めて別れる時は揉めに揉めて最後は泥沼状態で結果は……」
「要するに、バンドのお約束ってやつか……」俺の言葉に律樹は苦笑いを浮かべた。「そう言えば歌詞任されましたよね」律樹の言葉に「あ~、まぁ」と俺が言うと「災難かもしれませんけど本人達は悪気があってやったわけではないんです。試してるんですよ。宮野先輩の本気を……」と言った。「俺の本気か……」
(そう言えば俺滅多(めった)に本気になったことねぇわ……)と思い昔を思い返した。頑張るとか努力とかがかっこ悪くていつも適当だった。(確に試されるのは必然かもしれない)と俺は思い「そういえば歌詞のコツですけど自分の言いたいことを書けばいいんですよ。伝えたいこととか想いとか!」と言い「伝えたいこと……」俺は胸に手を当てて考えた。「じゃ、僕こっちなんで!」と言い別れ際「あっ、ねぇ!」俺は律樹を呼び止め「別に俺に敬語(けいご)使わなくていいよ! 俺、部活では新参者(しんざんもの)だから!」と言うと律樹は「解った、誠一さん!」と律樹は返答して俺達は別れた。
 自宅に帰りベッドにヨコになり(俺の伝えたいこと……想い……か)とぼんやり思いその時何故か急に大輔のことを思い浮かべ首をブンブン振った。
(な……何考えてんだ俺? なんで大輔のことを思い浮かべてんだ……!?)
 俺は自問自答し体が熱くなるのを感じ体を冷やす為ベランダに出た。
「ふ~、九月なのにまだ暑いねぇ~」俺が独り言を呟くと「だな……」と隣から声が聞こえた。俺が振り向いて横の家を見ると大輔が自宅のベランダに出てラムネを飲んでいた。
「大輔!は俺が振り向いたのに気付くと「よう!」と返事をし「ラムネ飲むか?」と聞き俺はラムネを一本頂戴(ちょうだい)した。口の中でラムネが弾けて爽快(そうかい)な気分になる。
「く~! うめぇ!」俺の言葉に大輔が「親父臭いぞ」とツッコみ俺は「俺は外でシティーボーイだけど内と外は違うの!」と反論した。「あ~、はいはい」と大輔は手をひらひらさせて言った。「む~」俺は頬を膨らませた。俺は改めて大輔を見た大輔はノースリーブのタンクトップに黒のスウェットで髪の毛の先が少しばかり濡れていてそれが色っぽさを引き立てている。
「大輔……もしかしてお風呂入ってた?」俺の問いに「ん? あぁ」と平然と答えた。俺は今大輔を直視(ちょくし)出来ない。セクシー過ぎるからだ。そして何故かドギマギする。
(な……なんだ? この胸の高鳴りは? 落ち着け落ち着け。コイツは男だぞ!)
 俺は自分を落ち着かせようとするが落ち着かない。その様子を見ていたのか大輔が「おい、平気か?」と俺に聞いて来た。それに対し俺は空元気と作り笑顔で「へっ平気っ! ちょっと今バンドの歌詞を考えてて! そっ! ただの知恵(ちえ)熱(ねつ)だから! 平気ッ!」と言い「あっ、なんかもう冷えて来たから部屋に戻ろう!」と言い部屋に戻ろうとすると大輔が「あんまり無理するなよ」と言ったので「うっ……うん! ありがとっ!」と返事をし部屋に戻りベランダのドアをぴしゃりと閉めその場にへたり込んだ。そして、俺は顔を押さえた。顔が火照(ほて)ったように無茶苦茶暑い。もしこれがマンガだったら頭の熱でヤカンに入った水がすぐに沸騰(ふっとう)出来る。それぐらい暑い。部屋には冷房は効いているのにちっとも涼しくない。俺は冷房が壊れてるのかとリモコンを見るとちゃんと表示されており壊れてない。
「なんなんだよ……もう……」俺は頭の中がぐちゃぐちゃになり呟いた。

「――の。宮野!」
 俺は目を覚まし声の方を見た。そこには数学の担任里中が恐ろしい形相で俺を見ていた。
「俺の授業で寝るとイイ度胸だな。そんだけ余裕なら今の公式を用(もち)いた問題も解るんだろうな?」と言って来たので俺は下を向き「……すいません……聞いてませんでした……」と言い里中はキレて「立ってろ」と言った。
 休み時間、俺と大輔と数人のクラスメイトで話をした。
「――ったく、里中のヤロー!」俺の愚痴に大輔が「寝ていたお前に非があるだろ……」と冷静にツッコんだ。「だってさー」と俺は大輔の方を見て昨日の光景を思い出した。鍛(きた)え抜かれた体格に少し濡れた髪の毛。ハッキリ言って色気抜群(ばつぐん)だ。いやそれ以前に抱かれたくなる。そして俺は冷静になる。
(いや……っていうか何言ってんだ俺!? 相手男で俺も男だぞ! なんで俺抱かれたいんだ!?)
 俺が考えていると「誠一―、お前平気かー? さっきから百面相(ひゃくめんそう)して……熱でもあんのか?」と言い大輔は手を俺の額に当てた。俺はドキッ! とし顔を赤くした。「ん……熱はないな」と言い大輔は俺から手を離すと俺の胸のドギマギは消え代わりに落ち着いた。
「いくらバカは風邪ひかないと言ってもひき始めかもしれない。用心しろよ」と言い大輔は俺に念を押すように言うと教室の外に出て「クラスメイトの一人が「どこに行くんだよ?」と聞くと大輔が「バスケ部のミーティングだ」とい言い教室を後にした。
「しかしスゲーよなぁ大輔って。ブランクがってもすぐレギュラーなんて……」
「その上テストの成績は学年トップ! スポーツ万能! 更にイケメンと来たもんだ。対して――」とクラスメイトは俺を見て「はぁ……」溜息をついた。「なんだよ! 俺にだって取り柄はあるぞ!」というと「あぁ、あるな……顔だけな」とクラスメイトの一人が言うと「ちっげーよ! 他にもあんだよ!」というと「じゃ言ってみろよ」とクラスメイトの一人が言ったので俺は堂々と「女の子が大好き」と言うとクラスメイトの一人が「それは取り柄とは言わん!」とツッコんだ。その時俺の胸の奥がチクッとした。
(あれ? なんで?)と思った。何かイヤな気分になった。俺、嘘は言ってないのに……。
放課後軽音楽部の部室で律樹に相談した。
「その人のことばかりを考えて胸が苦しくなる……ですか……」
「お……俺じゃないぞ! 俺の友人がだな!」俺は取り繕(つくろ)って言い律樹は苦笑いで「はいはい」と言い「う~ん。喘息(ぜんそく)でしょうか? にしては……」と呟くように言うと「あま~い!」と部長こと和馬が部室のドアをスパンッ! と開けて現れ「甘い! 甘すぎる! 生クリームたっぷりのケーキより甘い!」と言い俺は「何言ってるか解んないんですけど」と言うと和馬は「君は本当にそれを病気だと思っているのかい! いや確かに病気だ! それは恋という名の!」
 俺は固まりやがて「こっこっこっ恋ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!?」と驚き驚愕(きょうがく)の声を出した。その瞬間俺の脳は大混乱を起こし脳会議が行われた。一人の俺が『解ってよかったー』と安堵(あんど)する一方で『でも大輔は男。お・と・こ!』と言いもう一人に至っては『ちょっと待て! 大輔は親友だ!』と言い更にもう一人は『諦めた方がイイ! 今のままの関係でもいいじゃないか? もし失敗したら関係が壊れてしまうかもしれないよ!』と言い最早(もはや)脳は爆発寸前だった。
(嘘……だろ? 俺がヤローに恋すなんてしかも相手は幼馴染で大親友の大輔……)俺はおぼつかない足取りで「早退します……」と力なく言い家に帰った。
 家に帰ると俺はベッドの布団にくるまり目を瞑った。その時少し昔の夢を見た。俺がいじめられっ子に女顔と言われてバカにされていると大輔が颯爽(さっそう)と現れいじめっ子を成敗(せいばい)している夢を。
 がさがさ! ごとっ! ごとっ! という何かの音で目を覚ました。
「ん?」
「起こしたか?」
 俺は少し眠っていたようだった。目の前にはコンビニのビニール袋をぶら下げた大輔がいた。
「だっ大輔! なんでウチに!」俺が驚くと「別に今更じゃねぇか? 勝手知ったる他人の家って奴だ……」と大輔は呆れたように言った。
(今大輔に会いたくない……)俺はふてくさたように布団に転がり「――で、なんでいるの?」と聞くと大輔が「警音楽部の奴がお前が体調悪そうだって聞いたから部活切り上げて早く来たんだよ!」と言い「ま! あんだけ大声出せるなら大丈夫か。一応スポーツドリンクと栄養――」と大輔が買った商品を見ながらテーブルの上に置き言い掛けていると「なんだよ、それ?」俺の言葉に大輔は一瞬きょとんとし「何がだ?」と聞くと「俺の為に部活切り上げたってなんだよ?」と俺は聞き返し「別にただ俺はお前が心配で……」「うぜぇーんだよ!」と俺は大輔の言葉を遮るように怒声を放ち「お前は何だよ!? 俺のオカンかよっ!?」と言った。違う俺はそんなこと言いたいんじゃない。ありがとうって言いたいのに言葉がでない。出てくるのは悪態(あくたい)ばかりで「お前はいいよな! 勉強もスポーツも出来て! それなのに何で俺みたいな劣等生(れっとうせい)といるんだよっ!? 憐(あわれ)みかよ!? 引き立て役かよ!? あぁ、そうだよな俺みたいな出来損ないが居たらお前のステータスが上がるもんな!」と言いたい放題言った。大輔は黙りやがて「――オレは……お前が羨(うらや)ましかった」と言った。「は!?」俺は驚いた。大輔が俺のこと羨ましがってた。俺のどこに?
「人懐っこくて誰とでもすぐ仲良く出来て場を和ませるお前が羨ましかった。オレは人見知りで人とすぐ仲良く出来ない。保育園の時一人だったオレに初めて声を掛けて来たのが誠一……お前だった」と昔を懐かしむ様に言った。俺は思い出した。確か保育園で誰が一番モテルかで多くの女子園児たちが大輔のことをカッコいいと言いそれに対して俺が嫉妬(しっと)して勝負を挑んで負けた時のことだ。
(よくそんな昔のこと覚えてるなぁ……)俺は感心した。そして大輔は続ける。「嬉しかった。誰も相手にしないオレと対等に話してくれたことを……」
(大輔は思い違いをしているが黙っとこ……)俺はぼんやり心の片隅(かたすみ)で思った。
「オレはお前の一番の親友だ。だから助ける。それだけだ」そう言い大輔は部屋を出て行った。俺は呆然とし大輔が持って来たスポーツドリンクをコップに注ぎ飲み頭が冷え「謝らなきゃ……」と言い俺は大輔を追っかけ一階に降りた。大輔は玄関のドアを今開けて帰ろうとしていた。
「大輔っ!」俺は大声を出して大輔を呼び止めた。大輔が驚いて俺を見た。そして「出歩いて平気なのか?」と口を開いた。俺は「うん」と力なく言い頭の中はパニック状態だった。なんで俺がそうしたいか解らないからだ。謝る為に呼び止めたのにいざ謝ろうとしようとすると恥ずかしく自分が情けないからだ。そんな俺の様子を見て大輔が「オイ本当に平気か?」と俺に手を伸ばしたが俺は反射的にその手を払ってしまった。
「あ……」と俺は声を漏らした。
 大輔はポカンとし俺はますます頭の中がパニックを起こした。そして大輔は笑顔で「それだけ元気ならもう平気だな?」と言い家を出ようとした時俺は反射的(はんしゃてき)に大輔の腕を掴み大輔が俺の方を振り向いたと同時に俺は大輔の唇にキスをした。
 初めてのキスはほんのりタバコの味がした。少し苦くて切ない味だった。その瞬間は一瞬だったけど永遠に感じた。
 俺はやがて口を離し二人の口から銀色の糸が引かれた。
 大輔は呆然とし口を押さえて顔を赤らめている。ただ今は先程のことで混乱しているようだった。
 やがて、俺はぐしゃぐしゃの気持ちを整理する為家に閉じこもり玄関に蹲り嗚咽交じりに泣き叫び始めた。そして「最低だ……俺……」と呟いた。
 ふと雨音が聞こえたので外をみると雨がぽつりぽつりと降り始めておりやがて土砂降りになり俺の泣き声は雨音に消えた。





 翌日は快晴で昨日の夕立が嘘の様だった。
 俺は昨日のことがあり憂鬱な気分ながらも学校へ向かった。
 学校はもうすぐ近づく文化祭に浮足立っており学校はもはや文化祭一色だ。しかし、俺は憂鬱だった歌詞が出来てない。加えて昨日の事。
 「はぁ……」俺は溜息を漏らした。その時大輔が入って来て俺と目が合い俺が遠慮気味に「だ……大輔……」と声を掛けると大輔は無言で俺から顔を逸(そ)らした。それから今日は一言も大輔と口を聞かないままだった。
 解ってはいた。解ってはいたさ。そうなんだ。俺は大輔に(ほぼ)無理やりキスをしたのだ。ハッキリ言ってこれはどう考えても犯罪行為だ。(しかも前になんかのテレビで酔った男性が女性に無理やりキスしたら男性が暴行罪で訴えられたことがある)。俺は最悪な事態を想像した。
 でも、相手は男性だ。同性だ。だけどセーフではない。
 こうして俺は大輔と口を聞かないまま悶々(もんもん)とした日々を過ごした。
「お前、大輔と喧嘩でもしたのかー?」クラスメイトの一人に俺は「ん~、一応」と心ここにあららずと言った返答をした。「珍しいな~、お前らが喧嘩するなんて……」クラスメイトがそう言い「早く仲直りしろよ」と言いこの場を離れた。俺は大輔の席を見た。大輔は部活のミーティングでいない。俺は(俺……なにやってんだ?)と自分に対して溜息を吐いた。その時クラスメイトの一人が俺の肩をトントンと叩き「誠一、お前に用事がある人が来てるよ」と言い俺は呼び出した人の所へ行った。
 呼び出した相手は三人組の同級生で俺は校舎裏に連れ込み俺にいちゃもん付けて来た。内容は大輔に対するものだった。俺はぼんやりと(あ~、よくある。これ……)と思い三人組の話(というより愚痴を聞かされた)。
「大輔(アイツ)ムカつくわけよ! 新入部員のくせに活躍して!」「更にいきなりスタメン入りだぜ」「親がプロだかなんだか知らねぇがいい気になり過ぎだぜ」
 俺は自分のことを言われてないのに無性(むしょう)に腹が立ち「大輔の事悪く言うなっ! 大輔のことなにも知らないくせにっ!」と怒鳴った。「大輔は人の何倍も努力してバスケが上手くなったんだ! それをなにも知らないお前らがとやかくいう資格はないっ! このクズッ!」と言うと三に人組の一人が俺の胸倉を掴んで頬を殴って来た。俺は地面に転がり三人組の一人が「オイ、暴力はやめろよ……内申に響くぜ」と遠慮がち言うと「あぁ、知るかよ!」と言いリーダー格の男が屈み俺の顔を見て「っか、コイツよく見たら結構かわいい顔してんじゃん」と言い達は目配せして途端ん男の二人が俺を押し倒しリーダー格の男が俺の上ののしかかりいきなり乱暴に制服の下に着ていたバーカーをめくり上げた。
「なっ? 何すんだ?」俺の言葉に男の一人が「なにって決まってんじゃん? 言っちゃう? 言わせちゃう?」と愉快そうに言うとリーダ格の男が「おい、スマホ。しっかり撮れよ!」と言い男がバッチリスタンバイしてましたと言わんばかりにスマホ用意しており「じゃあ始めるぜ……」俺は身の危険を感じ暴れるが三人がかりで男達はがっちり俺の身体を掴みリーダー格の男は俺のパーカーを上げ二人がかりであっという間に脱がされそのパーカーで俺の腕を前に縛り上げ俺は何とかこの窮地(きゅうち)を脱しようともがくが男達はそれが滑稽(こっけい)なのかゲラゲラ笑い俺は悔しくて瞳(め)に涙を浮かべた。こんな時大輔がいつも守ってくれて俺のことを心配してきた、そして俺は「……大輔……」と呟くように言いやがて「大輔ぇ~っ!」と叫んだ。それを聞いた男の一人が「コイツダッセー! 友人に助けを求めて!」すると「そのダサいのはオレの親友なんだがな……」という声とともに男を殴り飛ばした。
「だ……大輔ぇ……」俺は涙を浮かべて大輔を見たが大輔は今恐ろしい顔をしており男達は大輔に恐れおののき強(し)いて言うなら般若(はんにゃ)も泣いて逃げ出すような状況だった。
 大輔は男達を見下ろしあまりの恐ろしさにすっかり腰の抜けた男の一人からスマホ奪い先程の俺のレイプされていた画像を消去し放り投げリーダー格の男を一発渾身(こんしん)の一撃で殴り「次はない」と言い俺達はこの場から離れれ屋上に向かい俺はまだずびずび泣いていた。
 大輔が黙って子供をあやすように背中を優しくトントンと叩き俺はだいぶ落ち着いた。そして大輔が「落ち着いたか?」と優しく聞いたので俺は小さく頷いた。すると大輔は自販機の方へ行きミネラルウォーターを買い俺の頬へ押し当てた。「ひゃっ!」と俺は変な声で悲鳴をあげ「なっ何すんだよぉ?」と俺は大輔に聞くと「よしっいつも通りだな!」と大輔は言い俺は黙りやがて「あのさ……」と俺が言い掛けると大輔が「あの時のことだったら謝ったら怒るぞ」と言い俺は黙った。あの時はキスのことだろう。そして大輔は続ける。「あれは事故だ。お前あの時熱があったんだから弱気になってたんだろ? だから気にするな……」と言ったので俺は空元気で「そ~なんだよ、俺! 俺あの時弱ってて! バカは風邪引かないっていうのにさ! ありゃ嘘だな! はは!」と言いそれを聞いた大輔は「そうだ。じゃこの話は終わりだ」と言いオレからもイイか?」と言ったので俺は大輔の話を聞くことにした。「オレ……さ、好きな奴がいて……だけど、この間女子に告白されたんだ……付き合って欲しいって……」大輔は気まずそうに言い「一応文化祭まで待ってくれるって本人は言ってるけど……だけどオレは彼女のことよく知らないしずっと前から好きな奴のことが好きだから……第一この恋はどうやっても報(むく)われない恋だからどうしようかって悩んでるんだ……」と大輔は言った。
「え? 大輔好きな奴いたの?」俺の言葉に大輔は「ああ」と言い「子犬みたいな奴だ」と言い「んで、自称モテ男のお前だったらどうする?」と俺に聞いて来たので俺は悩んだ。これが大輔じゃなかったら「お試しで付き合っちゃえよ」と言えるんだが俺がそれを大輔に言うのは嫌だ。というより大輔が他の人とくっつくなんて嫌だ。だけど、大輔は俺だけのもんじゃない。その時、予鈴が鳴り大輔が教室に戻る時「頬(そこ)冷やしとけよ」と言い教室に戻り俺は心の中で(俺のバカ……)と呟いた。
 放課後軽音楽部に行き律樹が「歌詞出来た?」と聞いて来たので俺は首をヨコに振り和馬が「う~ん」と悩み「折角ダイヤの原石を見つけたのに歌詞が出来ないと……」と言った。するとドラムの悟が「じゃあ、最終手段ハミングでどうかな?」と言って来た。「ハミング……かぁ」と和馬は言い「仕方ないそれでいくか」と言い俺達は曲を一通り通して練習を終わらせその日は帰路に着いた。
「本当に伝えたいことないんですか?」
「えっ?」
 律樹の質問に俺は食べていた肉まんを落としそうになった。
「……伝えいことはあるけど……伝えられない……」俺の言葉に「何かあったんですか?」と律樹が聞くと俺は要点をかいつまんで説明した。
「俺……好きな奴がいて……普段からしっかり者で……俺の面倒を見てくれて……気付いたら本気で好きになってたんだ。だけど、そいつには好きな奴がいて……俺……失恋したんだ。だけど、まだ、そいつのことが好きで……」俺の言葉を聞いていた律樹は「ならその想いを歌にすればいいじゃないですか?」と言って来た。
「え?」俺は一瞬ポカンとした。そして律樹は言う。「昔からラブソングって言うのはありましたし、昔は詩をラブレターにして送ったって話はありますし!」と言った。「あぁ、そう言えば古典にあったなそういうの……」俺はそう言いぼんやりと古典を思い出した。やがて俺は律樹と別れ家へ帰りベッドにヨコになり目を瞑った。思い起こせば俺の傍にはいつも大輔がいて何をするにも大輔が一緒だった。ピンチの時にはいつも大輔が助けてくれて……。俺はあの時……大輔にキスしたことを思い返し唇を押さえた。
(あの時俺は何を考えてた? どうして大輔にキスしたんだ?)と考え(解ってる……大輔ことが好きだからだ……)と自問自答しあの時、俺は大輔が来たことには本当は嬉しかった。だけど俺は酷い言葉で大輔を傷つけた。理由は簡単だ。自分の情けない姿を見せたくないからだ。カッコ悪い姿を見せたくないからだ。幼馴染みの親友の大輔に恋愛感情を抱いているということを悟られたくなかったからだ。
 俺は卑怯(ひきょう)だ。親友に本当の気持ちを隠して嘘ついて恋を応援するふりをして……。いつもこうだ。いつも周りにイイ顔して自分の評価を下げないようにしてそれでいつも後悔する。それを、大輔はフォローしてくれる。だけど今回の悩みは大輔だ。俺にはどうにも出来ない。
(そもそも大輔の好きな奴って誰なんだ? 子犬の様な奴って言ってたけど……俺の知っている奴かな?)俺はそう思いクラスメイトを思い浮かべた……が誰も該当(がいとう)しない。となると他のクラスと思い俺は明日一日大輔を観察することにした。
 翌日。学校は翌日文化祭の為学祭ムードで今日は一日授業は潰(つぶ)れて文化祭の準備に宛てられた。勉強が嫌いな俺には嬉しかったが今はそんなことより大輔の好きな奴探しだ。俺は注意深く大輔を観察した。学校に入るなり大輔はクラスメイトに話しかけられ俺のクラスの催(だ)し物はコスプレ喫茶でそれの最終調整を話し始めた。俺には解んねーしそれよりも大輔の様子を見た。大輔は相も変わらずいつも通りのポーカーフェィスで話を始めている。途中大輔に気があるという女子が大輔に話しかけたが大輔は無表情でコスプレ喫茶の話を進めている。それからも、大輔は数人の女子生徒から話しかけられているが無表情で俺は益々解らなくなりクラスメイトの男子にそれとなく聞いてみた。するとクラスメイトは「なぜ解らん……」と言い終いには大輔をよく見ろ」と言い大輔を見た。すると隣のクラスの金城(かねしろ)と笑顔で話していた。(大輔の好きな奴って金城?)と俺は思い金城をよく見た(そう言えば栗色の髪で小柄で笑顔がトイ・プードルみたいでカワイイ……)俺は心中で(見つけたー!)と叫ぶと同時に寂しさを覚えた。――が(よしっ! 俺は大輔の一番の親友だ。だったら全力で応援するぜ!)俺はそう想い大輔を応援する為俺はクラスから離れ軽音楽部の部室へ向かった。
「は~」俺は椅子に座り項垂れ深い溜息を吐いた。
「どうしたんだ?」と和馬が聞くと悟が「失恋でもしたか?」というと俺は「当たり……」
と言い和馬が「ま、だわな」と解ったように言い「俺にもあるよ……ボーカルの彼女と別れた時一週間何も出来なかったし……」と言い「ま、その恋はいつかいい思い出になり美化されるんだ。その時を待て」と和馬の言葉に律樹が「部長……ある意味すごい酷いこと言ってますよ……」と言い「だってホントのことだろ! 思い出は記憶を美化させるしそれが恋じゃ尚更(なおさら)じゃん!」と言った。確かにそうだ。思い出は記憶を美化させるしそれが恋なら尚更だ。俺はぼんやりとしてパァン! と両方の手で頬を叩き(ダメだろ俺! 俺は大輔を応援するって決めただろっ!)と言いきかせ歌詞作りをスタートさせたが大輔と金城が笑顔で話していた姿がちらつき歌詞作りに集中出来ず結局お開きになった。
 俺は家へ帰りベッドに倒れ込みぼんやりと大輔の事を思った。
(大輔に好きな人か……そうだよな大輔だって健全な男子高校生だ。好きの人が出来たっておかしくない……)と思い(もし大輔に彼女が出来たら今迄みたいに一緒に居られなくなるのかな?)とも思い「俺……物凄い嫌な奴だ……」と小さく呟いた。
 
 気付くと俺は校舎裏にいた。各ラスで文化祭の片づけを行われ文化祭が終わったこと解る。夕暮れ時に俺は大輔に校舎裏に呼び出され俺が校舎裏に着くと大輔がいて大輔が気まずそうに「誠一に話があるんだ」と言い校舎裏から誰かを呼ぶ仕草をし校舎裏から金城が現れ「誠一には俺の好きな人を知っておいて欲しいんんだ」と言い「俺の恋人の金城だ」と言い俺はぎこちなく「お……おめでと」と言い大輔が「だからお前とはもうこれ以上一緒に居られない」と言い俺は呆然と立ち尽くし「そ……そうだね」と言葉を出すのが精一杯で大輔が「じゃあ後夜祭に行こうか」と言い二人は俺に背を向け校舎裏から遠ざかり俺はその場に残されやがて膝を付き嗚咽交じりに泣き始めた。やがて――
 ジリリリリリリッ! と目覚まし時計が鳴り目を覚ました。どうやら俺はあのまま寝ていたようだ。そして、第一声は「なんつー悪夢だ……」と言いやがて頬が濡れていることに気付いた。
 学校は文化祭当日と言うこともあり大いに盛り上がり俺のクラスの催し物コスプレ喫茶も気合が入っていた。
 大輔は狼男姿のウェイターで俺はというと「ねぇ……なんで大輔は狼男で俺は猫耳メイド姿なの!?」
 そう俺は猫耳メイド姿の恰好をさせられた。そしたら女子の一人が「仕方ないじゃん人数足りなかったんだから」と言った。「じゃあもっと別のでも良かったじゃん! なんで猫耳メイド? 執事でもいいじゃん!」と言い返すと委員長が「だって宮野君執事ってイメージないし……でも平気! 宮野君似合ってるから!」と言い俺は「嬉しくなぇーっ!」とツッコんだ。そうこうしてるうちに学祭は始まり生徒一同で円陣を組み「やるぞー! 二年三組! 狙うは優勝っ!」と言いクラスメイト全員が「おー!」と元気よく言い開店した。
「いらっしゃいませー!」
 俺は受付係になり最高の作り笑顔でお客様の受付をした。するとそこに別のクラスの友人がやって来て「おー! メイド姿似合ってるじゃん! 誠子(せいこ)ちゃん」と言い俺をからかった。(激しく死にたい)俺はそう思ってると別の方からも三人組の男子がやって来た。そして俺を見るなり「おー! 猫耳メイドォー!」と言い男子の一人が「キミ名前なんて言うの? 歳は? クラスは?」と言い完全に俺を女と思いナンパし始めた。すると男子の一人が「オイ、コイツ男じゃねぇか?」と言いナンパした生徒が「えっ? 男ぉっ!」と驚き俺をまじまじと見「まっ! 男でもいいかっ! 可愛いし!」と言った。俺は(よくねぇー!)と思っている隙に男が俺の腕を掴み俺を連れ出そうとした。その時ガシッ! と男の肩を掴み「当店はメイドのおさわりは禁止となっております」と物凄い形相と低い声を出した大輔が男達を威圧(いあつ)し男達をクラスに連れ込み「三名追加―!」と言い男達をカモにした。(これって恐喝(きょうかつ)なんじゃ……)と俺が思ってると大輔がクラスから出て来て「お前なぁ……少しは危機感(ききかん)持てよ」と溜息交じりに言い委員長が宮野君、中川君休憩入っていいよ!」と言い漸く俺はメイド姿から解放された。そして「じゃあ、行くか誠一。どこ行きたい?」と俺に聞いて来たが俺は今は大輔の傍に居たくないので「ご……ごめん! 別の奴と廻(まわ)る約束なんだ……」と嘘をついて「そ……か」と言い俺は即刻この場から離れて校内をぶらついた。校内はどこも活気にあふれており青春よろしくな空気だった。ただ俺だけが灰色の青春だ。その時「あれ? 誠一?」と聞き覚え覚えのある声がした。それは「親父っ!」だった。
「ん~、たこ焼き美味し~」と言い親父はたこ焼きを本当に美味しそうに頬張っている。「何しに来たんだよ?」俺の不機嫌な問いに「学祭を楽しみに来た」と答えた。
「それだけ?」俺の言葉に親父は「うん、それだけ!」とあっけらかんと言い俺は「病院は?」と聞くと「病院は今日は日曜日だから休診日だよ」と言い俺は「親父って呑気でイイよな……」と俺は呟くと親父が「ん~、そうでもないよ。大人なると誰にも悩みを言えず抱え込んでうつ病になったりストレスで体を壊しちゃう人いるし」親父の言葉に(流石心療内科医)と生まれて初めて親父を尊敬した。俺は溜息をつき「誠一……何か悩みがあるんじゃないかい?」と聞いて来た。「な……なんで解るんだよ?」俺の言葉に「いや、これ見よがしに何回も溜息ついたり憂鬱な顔すれば誰だって分かると思うよ……」と言ったので「俺……そんなに分かりやすい?」と親父に聞くと親父は「うん……かなり」と答えた。俺はまた溜息を吐きかいつまんで説明した。
「う~ん……恋煩(わずら)いねぇ……しかも。好きななった人は絶対好きになっちゃいけない人。まるでロミオとジュリエットみたいだね」と言い俺はリアルに俺がジュリエットで大輔がロミオのシーンを連想(れんそう)してしまった。親父は悩み、そして真剣な顔をして「そういえば誠一はバンドに出るんだって?」と俺に聞き「なんで知ってんのさ?」と俺が聞くと「彰が教えてくれてね!」と言い(敏腕(びんわん)秘書……)と俺は思い「でも、まだ歌詞が出来てなくて……」と俺は苦し紛(まぎ)れに言うとすると親父が俺の肩をポンッ! 叩き「だったら父さんに任せなさい!」と言い何処(どこ)かへと走り去った。
「任せなさいって……どういう事?」
 俺は呆然と立ち尽くした。
 そろそろ休憩時間も終わりなので教室に戻ると大輔がおらず委員長曰く「金城さんに連れて行かれた」らしい。
(やっぱり大輔は金城の事……)と思っているとクラスメイトが「なー、聞いてくれよ! 俺遂さっき彼女が出来たんだ! ライン番号もゲットして……って誠一何一人で黄昏(たそがれ)てんの?」とクラスメイトが言うと俺は力なく「失恋した……」と答えるとクラスメイトが怪訝な顔し「大輔……金城さんと付き合うんだ……」と俺が弱弱(よわよわ)しく呟くとクラスメイトの男子が「はぁ?」と言い「お前さぁ……本当に鈍いな?」と言い別の男子が「なになに? どったの?」と言い最初の男子が大輔が金城と付き合うと言うとしばし沈黙の後大笑いで「ないない! アイツにはもう恋人いるし!」と言い俺は「え? 誰?」と問い詰めるとクラスメイトの男子が「お前本当解んねぇの?」と言い脱力(だつりょく)し「はぁぁ~、マジかよ……」と言い項垂れた。
「な~、ホント誰だよ? 知ってるなら教えろよ!」と俺はクラスメイトの男子にせがむがクラスメイトが「子犬みたいに人懐っこい奴……」と大輔と同じ答えを言った。「それ大輔から聞いた」俺の言葉にクラスメイトが「あ、聞いたんだ。じゃあもう解るだろ?」と言うが俺は全然分からず「な~、もっとヒントくれよ。頼むから~」と俺はせがんだ。するとクラスメイトの男子の一人が「じゃあ大ヒント! 大輔より年上!」と言い俺は考え「解った! 美人で有名な三年のマドンナだ!」
 俺の言葉に三人はズッコケ「お・ま・え・なぁ~」と一人が言い「もうイイ。俺達校庭に行くぞ。軽音楽部がライブやるし……」と言い「あっ! そうだ! ライブやるんだった! 準備しなきゃっ!」と俺は言いこの場を後にした。
 校庭のステージ前には大勢(おおぜい)の生徒が集まっており俺達軽音楽部のライブを今か今かと待ち望んでいる。
(結局歌詞出来なかった……)
 俺は罪悪感にかられながらも内心緊張しビクビクしていた。
(ハミングでイイって言ってたけどこんな俺大勢の前で歌うのか……冷静に考えたら俺凄いことにチャレンジしちゃったかも……)と俺は思い足が震えて来た。
 文化祭の実行委員の司会の男子生徒が「それでは文化祭も終わりに近づいてきました! それでは軽音楽部にライブを行(おこな)っていただきます!」
 俺は緊張が最高潮(さいこうちょう)に達し心臓がばくばくし完全に頭がパニックを起こしかけて来た。が、その時、司会の男子生徒が「その前に飛び入り参加です! グループ名はArcanaさんです!」と言い飛び入り参加のグループが入って来た。そこには「親父!」と笹倉先生と鹿沼さん。そして、辻嶋さんがステージ衣装に身を纏(まと)って現れた。
「皆―、学祭楽しんでるかー?」と親父は大声で聞き生徒達は戸惑いながらも「オー!」と言い「俺達は飛び入り参加のArcanaというバンドチームだ! 今は解散したが今宵(こよい)は文化祭! 一夜限りの復活だー!」と言い「では聴いて下さい! 曲は『skyBlue』です!」そう言い親父達は歌い始めた。
 
 この果てしなき蒼い空~
 約束の大地に~
 
 親父達の歌はとても調律(ちょうりつ)がとれており聴いてる人達はその歌に引き込まれるように聴き惚(ほ)れやがて終わった後は校庭が拍手で埋め尽くされた。そして、親父は「皆さん聴いてくれてありがとうございました!」と言いメンバー全員が軽くお礼を言い俺達が待機しているステージ脇に来て「いや~、久しぶりだわ歌ったの!」と親父が言い「今やるとちょっと恥ずかしいよね!」と笹倉先生が言い「でも楽しかったよ!」と鹿沼さん。次々と言い「オイ、親父どういう事だよ? これは!? あとその衣装は何!?」俺の問いに親父は「心をほぐすことと歌詞を作らせる見本!」と言い俺は「ハァ!?」と言い「意味解んねぇよ!? 俺が歌詞を作ることと親父の歌がどう関係してくるんだよ?」と聞くと黙っていた辻嶋さんが「誠一君。飾る必要はない。自分の想いを正直に言えばいいんです……誠司さんはそう言いたいんです。あと衣装は演劇部の方から拝借(はいしゃく)いたしました」と言い「ほ~、演劇部からってそうじゃなくて自分に正直って……?」俺の問いに親父は「言いたいことがあるなら伝えたい想いがあるなら言ってみなよ。それを歌にして。そうすれば結構スカッとするよ!」と言い最後に「想いは人によって色んな形がある」と言い「じゃ、俺達は打ち上げだ! 頑張れよ!」と言い退散し「想いは人によって色んな形が……」俺は小さく呟いた。そして。俺は自分を思い返した。カッコばかりつけて自分が傷つくのが嫌で大輔に伝えていないことを。
「俺は何もやっていない……」と俺は気付き一つの決心が生まれた。和馬が「さっきのお前の親父? 随分若いなぁ……いくつだ?」と呟いたが俺はその言葉をスルーし「皆! 俺歌うよ!」と言うと和馬が「もしかしてお前歌詞出来てたの?」と聞き「なんだよ~、出来てたなら早く言えよ~」と悟が言うと俺は「今考えた……」と言い三人は「え?」と言葉を合わせて言い「えっ、え~! 今考えたぁっ!」和馬が驚き「そんな付け焼刃(やきば)な歌詞でいいのかよっ!」と悟が言い「勝手だってことは解ってる! でも俺は伝えたいんだ……俺の想いを……歌にして……」和馬と悟はう~んと考えこんだ。その時律樹が「いいんじゃないでしょうか? 何はともあれ歌詞が出来たんですから! そりゃ、ぶっつけ本番と言うのは不安ですけどそこをカバーしてこそのメンバーじゃないですか!」とフォローした。
「律樹……」
「そうだな! 俺達でカバーすればいいんだよな!」
「悟」
 そして「そうだ! 俺達は仲間だ! メンバー一丸(いちがん)となって誠一の想いを伝えよう。想い人に!」と和馬が言い俺達は団結(だんけつ)しステージに上がった。そして、俺達にスポットライトが当てられた。俺は(眩しっ!)と思ったけど段々照明に目が慣れて来て部長が簡単な自己紹介をして俺達は歌う準備を始め俺は「曲名は『恋(こい)花火(はなび)』 です! 聴いて下さい!」と言い俺達は歌を奏(かなで)た。

 キミに横顔に俺は見惚れる。
 澄んだ瞳で夜空を見上げるキミに。
 
 やがて、サビの部分に入った。
(ここが正念場(しょうねんば)だ!)

 夜空に花火が大輪の花が咲きキミの顔を照らす。
 俺の心も照らす。
 恋という名の花を。

 俺は歌いながら想った。
 大輔のことを。
 いつも一緒にいて、楽しい時は喜びを分かち合い又辛い時は苦しんでいる時逃げずに俺を助けてくれたことを。
 そして、気付くといつも目で追っていたこと。
 そう。
 俺は大輔が好きなんだ。
 恋愛対象として。
 だからこの想い、
(大輔に届けー!)
 
 キミに届け、この想い――!
  
 俺の言葉ともに歌が終わりやがて校庭からは割れんばかりの拍手が起こり大盛況(だいせいきょう)で終わった。
(俺大輔に伝えられたかな?)
 俺はぼんやりそう思った。
 例え、失恋しても大輔が解らなくてもイイ。俺が大輔が好きなことは変わらない事実なんだから。
 そして、学祭は終わりを告げた。

エピローグ


 文化祭が終わり順位が発表され俺達の催しものコスプレ喫茶は二位だった。(因みは優勝は三年一組の執事(しつじ)喫茶だった。)
 委員長はとても悔しがったが副委員長が宥(なだ)めた姿が目に入った。その時女子が「花火誰と見る?」と隣の女子に聞くと聞かれた女子は「ん~、彼氏のよし君と」と答えた。
 花火とは、この学校の後夜祭に打ち上げられる花火のことだ。この花火には言い伝えがあり想い合う男女が見ると結ばれるという眉唾物(まゆつばもの)の言い伝えがある。最も俺はそんな噂信じてないけど……第一俺が好きなのは大輔(男)だし。そして、ふと俺は思った。
(男同士でも効果はあるのかな?)と俺は思った
 教室内は打ち上げやらで賑(にぎ)やかになり中には校庭のキャンプファイアーを囲んでダンスを踊ったり男女が告白したり後夜祭は賑やかだった。
 失恋した俺にはハッキリ言ってこの青春よろしくの雰囲気はかなり辛いので俺はすぐに帰り支度を始め家に帰ろうとした。
(大輔は花火見るのかな? だとしたら誰と見るんだろう?)そう思い俺は昇降(しょうこう)口(ぐち)で靴を履き替えようとした時俺のスマホが鳴った。俺はスマホを見るとラインに一軒のメッセージが入っていた。大輔からだ。俺は『何?』と返信すると大輔から今から『屋上に来い』と送信があったので俺は『ここでいいじゃん?』と返信すると『イイから来い』と返されたので俺は渋々屋上へ向かった。
(今正直大輔の顔見たくない……)と思いながらも重い足取りで階段を昇りあっという間に屋上に着いた。
(屋上ってこんなに近かったっけ?)
 行きたくない物ほど距離は近く感じると言ったのはどこの誰だったか? とりあえず俺は覚悟を決めて屋上のドアを開けた。
 そこには大輔がおり手招きした。俺が傍に行くと打ち上げ花火が鳴った。
 そして、夜空に大輪の花が開いた。
「この花火をお前と見たくて……この花火を見ると想い合っている男女が結ばれるというけど男同士じゃ無理かな?」と大輔が言った。
「え? だって大輔は金城が好きなんじゃ?」俺の言葉に大輔は「はぁ? なんで金城が出てくる」と返答し「金城とは実行委員なだけで俺が好きなのは昔からお前だけだ!」と言った。
「え? でも女子に告白されたって……」俺の質問に「それは文化祭の前日に断った。好きな奴がいるのに遊び半分で付き合う気はないし……」
「でもクラスの奴が年上って……」それに……」俺の言葉に「お前の誕生日は?」大輔家の質問に「へ? 六月二十九日」と答え大輔は俺は「は? 八月三十日だろ? バカにしてんのか? って、あ!?」そう俺は気付いた、確かに俺は大輔より……「誠一の方が年上だろ?」と言い「それに――」
「それに?」
「俺が好きな奴っていうと誠一と言わなくても理解してくれた」
「はぁ!?」
 俺は絶句した。
「誠一は昔から子犬みたいで人懐っこくて可愛くて――」「わー! いい! いい! 恥ずかしいから!」俺は大輔の言葉を遮り強制的に大輔を黙らせた。
(ったく、こいつ恥ずかしいって気持ちないのか?)と俺が思っていると「俺は誠一! お前が好きだ! 本当に好きだから本当の恋人になりたい!」大輔は言い俺は黙り俺は顔を赤らめて「俺も……」と言い一旦力を込めて「本当に大輔が好きだー!」と大声で言い俺は息を整えて「俺も……俺も……大輔が好きなんだ!」と体中の体温が上がる感覚がした。
「お母さんみたいに昔から俺の面倒をよく見てくれて、それで困った時は助けてくれていつもピンチの時は守ってくれて……それで……あ~、もうっ!」
(何言ってんだ? 俺!?)
 俺はパニクりながらも大輔のいいところを全部言い「要するに大輔の全部が好きなんだっ! 恋愛対象として!」と言い切った。
「確かに俺は頼りないし情けないけど……大輔はこんな俺でも好きでいてくれるか?」俺の言葉に大輔はフッと微笑み俺を抱き寄せ口づけをした。その時間は一瞬だったけど俺には永遠に感じた。
 その時花火が打ち上げられ俺達二人を照らした。
 花火の光で俺達二人の影が重なる。
 やがて、お互い口を離し「そんなの今更だろ?」と大輔は微笑みながら言い俺は口元を押さえ体中が熱い。きっと、今俺の顔は紅いのだろう。
 俺は口元を押さえそして大輔に抱きついた。そして「ありがとう! 大輔!」と言い俺達は花火が照らす夜恋人となった。
 夜空には俺達二人を祝福する様に大輪の花火が咲き誇った。
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