ヒロインに転生した元悪役令嬢、現悪役令嬢のヤリ口に古傷を抉られる

九鈴小都子

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丹精込めて作った自慢の作物です

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来訪者たちを家の中へ招き、ミシェイルは4人掛けのテーブルへ案内した。

「狭いところで申し訳ないですが、こちらへどうぞ」

すぐさま侍従が動き椅子を引き、レナリアをガラス細工のようにそっと抱き上げ椅子に座らせた。

こちらも負けじとばかりにシェーナが椅子を引き、ジュダスがささっと踏み台を足場に置くと、
ミシェイルはそれを使ってぽすりと座った。

その様子を見ていた侍従はとても不満げに、さらにレナリアは悔しそうに唇をかみしめており、
おおよそ見当をつけているミシェイルはこれは困ったなとほほをかいた。


「ハラ料理長、座らない?」
「滅相もない、俺は立ったままで十分です」


ぶんぶんと顔を横にふる彼に、まあそうだろうなとミシェイルはうなずいた。
侯爵家のお嬢様と農民の娘、それが対面に座っているのだ、そこへのこのこと飛び込んで
くるようなことは何の得にもならないだろう。


「お父さん、お母さん」
「ここにございます」


ミシェイルが「今日紹介する野菜を持ってっ来てほしい」とお願いするまでもなく
二人はすでに籠を抱えていた。
顔を引くつかせながら「ありがとう」と伝え、テーブルの上に置いてもらう。


「レナリアお嬢様から向かって右側のかごが、今旬のお野菜や果物。
左側のかごが、私一押しのお野菜や果物です」


レナリアは物珍しそうにながめながら頷く。ハラ料理長も腕を組んで目を輝かせている。


「よかったら食べてください」


ミシェイルが進めると、「では失礼して」とハラ料理長は芽キャベツをつまんでぱくり。
しゃく、しゃく、とかみしめ「うぅぅん」とうなっている。
それを目で追っていたレナリアは、自分もやりたそうに野菜に目を落とすが、
侍従の「そのまま手づかみで食べるなどなんと野蛮な」という嫌悪の言葉に
動けないでいるようだった。



侍従は普通の3歳児よりよほど賢いお嬢様に心酔しているのだろう。ミシェイルのような
薄汚い農民など取るに足りないと思っているに違いない。

そしてレナリアは完全に転生における視野狭窄ゾーンに入っている。

ミシェイルにも記憶があるのだ、自分と対となるのはヒロインであり、
ヒロインよりもあらゆる面において優れていなければならないという強迫観念。

実際ある面においては正しかった。断罪は結局行われてしまったわけで、
長年の努力の成果から破滅を回避することができた。

しかし、最善だったのか?と言われると次善策を懸命に推し進めていた感は拭えない。
自身の保身のみに執着したせいで結果的に多くの人間を傷つけた。

ミシェイルには大人だった時の記憶があり、彼らは成長途中の子供だった。
ミシェイルが優れているのは当たり前なのだ、人生をやり直すとは大変なアドバンテージなのだから。





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