ヒロインに転生した元悪役令嬢、現悪役令嬢のヤリ口に古傷を抉られる

九鈴小都子

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悪役令嬢がスカウトにやってきた

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「お嬢様にはカットしたものをご用意しますね」

シェーナはそういうと、すぐに台所へ向かい全て一口サイズに切って皿にセンス良く持っていく。
自家製のドレッシングをさっと回しかけ、レナリアの前に差し出した。

フォークを受け取ったレナリアは、お行儀よく野菜を刺して小さな口へ運んだ。
音を立てずに嚙み砕いて飲み込み、ほんのりとほほ笑む。

「甘くて美味しい」

(そうでしょうとも!!!)
ミシェイルはガッツポーズをしたい気持ちを懸命に抑え、お澄まし顔でほほ笑んでみせた。

お付きの人々が何か複雑そうな顔をしているが、いったいどうしたというのか。

「野菜が苦手なお嬢様が……」

ぽつり悔し気に呟く侍従に、ミシェイルはなるほどとうなずいた。
こんな農民が作った、調理もしていない野菜を、野菜が苦手なレナリアが食べている。
それはさぞかし悔しかろう、自分たちの力では野菜克服が叶わなかったのだから。

しかし、前の記憶を持ったミシェイルにはレナリアの気持ちがよくわかる。

野菜のえぐみというか、くさみというか、とにかくさほど品種改良されてない原生種のような野菜ばかりだから、かつて食べていた癖のない野菜と比べとにかく食べにくい。

絶対食べやすいものを作ってやると意気込んでいたミシェイルは、前々世の知識を活かし、前世でこそこそと品種改良に励み、今世でようやく納得のいく味にたどり着けたのだ。


その後もレナリアはゆっくりと味わって止まることなく食べ続け、皿の上は見事きれいになくなっていた。

それぞれにお茶を入れて(自家栽培のハーブ)一息ついたころ、シェーナがここぞと切り出した。


「それで、お嬢様は本日どのようなご用向きでいらっしゃったのですか?」


それまでほっこりとしていたレナリアは、はっとして姿勢を正した。


「実は、こちらで素晴らしいお野菜を育てておられるのがわたくしと同じぐらいのお歳の方と聞きまして。その素晴らしい知識とご経験をぜひ我が家で発揮してはいただけないかと思いましたの」


レナリアはここが正念場と言わんばかりに背筋をぴんと伸ばし、小さな手をお膝に揃えて姿勢が崩れぬようあごを引いた。


「こちらの素晴らしいお野菜は、ハラ料理長の腕も相まってすでに貴族の間で広まっておりますの。いつ、ミシェイルさ……んの居場所を知ってさらっていこうとする者が現れてもおかしくありませんわ」


もう広まったのか、とミシェイルはがっかりした。もとよりこの生活を長く続ける気はなかったが、植物は目に見えた成果がわかるので野菜作りを気に入っていたのだ。ミシェイルの家は野菜を高額で買い取ってもらえるためそこそこ小金持ちだし、住んでいる土地は公に明かされていないがミシェイル個人が所有している。あまり不便に感じていないのだ。


「ですから酷いことになる前に、我が家へいらっしゃるようお誘いにきたしだいです」


レナリアの言葉に、お付きの者たちは苦々しそうに、逆にミシェイルの両親は「公爵家ならば申し分ないな」と不敬極まりないことをこそこそと耳打ちして頷きあった。
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