1 / 11
プロローグ
しおりを挟む
一口食事を口に運んで、本日の主役である野バラは顔を盛大にしかめた。
「皿をさげて」
使用人が下げるのを忌々しそうに野バラは見送る。
「国王に親しい者たちのみ」が集まった晩餐の席でとった態度に、周囲は反感を覚えたのか礼儀のなっていない下賤な者、と野バラに聞こえるように隣同士でささやき合う。近くには野バラと結婚するという予定らしい国王の姿もあったが、彼らの嫌味をいさめるどころか彼女を不快と思っているのか顔をしかめていた。
(食べられないと言ったものを出すなんて礼儀がなってないのはどっちよ。こっちはわざわざ来てやってるんですけど?)
不満たらたらで唯一食べられそうなフルーツを口にしながら、あからさまに溜息をついた。それを見た周囲はぎょっとした顔をするが野バラは気にしない。
(こんなとこ、絶対さっさと出て行ってやるんだから)
フルーツを食べたら「このような会はもう結構です」と夫となるらしい存在に言い捨てて退出をしようと立ち上がる。使用人が慌ててとめようとするが「どいて」とドスの効いた声ではねのけ、一人で部屋へ自室へのしのしと帰っていった。
自室へ戻ると、野バラの世話係であるスアラが慌てて近づいてきた。
「お方様、まだ晩餐の途中では?」
「抜けてきましたの」
「ぬ、抜けた!?あれはお方様の歓迎会では」
「わたくしの歓迎会であんな食事を出すっていうの?歓迎する気なんかまったくないじゃない」
脱がせて、と言うとスアラは手早くドレスを紐解き、編み上げた髪もほどいていった。エメラルドを砕いて流し込んだような緑の髪と蜂蜜色の瞳、このような配色は珍しく彼女が「喰花族」であることを示していた。
野バラにとっては見慣れているが、この国の人間にとっては物珍しかったらしい。そのせいで、おかしなやからに取っ捕まりこのように誰とも知らぬ王というものと結婚させられるはめになったのだから。
そのあと湯につかった彼女はゆったりとしたワンピースをまといほっと息をついた。気を利かせたスアラが紅茶を出し、数々の花やハーブ、草を綺麗に盛り付けた皿を出した。野バラはまあ!と顔を輝かせた。
「晩餐を食べてなかったらお腹を空かせていらっしゃるのではないかと思いまして」
「そうなの!サラダとフルーツしか食べてないのよ。スアラは本当にお仕事ができる使用人ね」
「お方様のお世話係として当然のことです。それにしても、晩餐会の食事はどうなっていたのです?こちらからは生き物や卵など動物性のものは排除するよう伝えておいたはずですが」
「でてきましたわ、魚も肉も玉子も。本当に最悪、見た目は本当に美しいしもしかしたら動物に見える植物かと思ったのだけど、やっぱりクソ不味うございましたわ」
「クソなどという言葉を使ってはいけません。しかし、いったいどういうことでしょうね……曲がりなりにもこちらからお迎えした方ですのに」
「どうせ嫌がらせの一環ですわ、返す返すも嫌なところに来てしまったものね」
その名の通り野バラのように可愛らしくも美しい見た目に反して、彼女は口が悪い。王城内での立ち位置などなんのその、高貴な者たちの立ち振る舞いなどまったくせずに敵を増やし続けている。
真ん中で大きく彩るバラを指でつまんでパクリと食べる。
「んん~、やっぱり花が一番おいしい」
「お花を召し上がるなんて、いつ見ても本当に不思議です。苦くないのですか」
「苦味は全く感じないわね、植物によって甘味やさわやかさ、重厚な味わいと様々ね。わたくしにとってはお肉やお魚を食べるなんて狂気の沙汰なのだけれど。まあ種族が違いますもの、仕方がありませんわ」
今度はミントをしゃくしゃくと噛み、野バラは人差し指を口元にあてて首をかしげた。
「それにしても、これからどうしてくれようかしら」
「皿をさげて」
使用人が下げるのを忌々しそうに野バラは見送る。
「国王に親しい者たちのみ」が集まった晩餐の席でとった態度に、周囲は反感を覚えたのか礼儀のなっていない下賤な者、と野バラに聞こえるように隣同士でささやき合う。近くには野バラと結婚するという予定らしい国王の姿もあったが、彼らの嫌味をいさめるどころか彼女を不快と思っているのか顔をしかめていた。
(食べられないと言ったものを出すなんて礼儀がなってないのはどっちよ。こっちはわざわざ来てやってるんですけど?)
不満たらたらで唯一食べられそうなフルーツを口にしながら、あからさまに溜息をついた。それを見た周囲はぎょっとした顔をするが野バラは気にしない。
(こんなとこ、絶対さっさと出て行ってやるんだから)
フルーツを食べたら「このような会はもう結構です」と夫となるらしい存在に言い捨てて退出をしようと立ち上がる。使用人が慌ててとめようとするが「どいて」とドスの効いた声ではねのけ、一人で部屋へ自室へのしのしと帰っていった。
自室へ戻ると、野バラの世話係であるスアラが慌てて近づいてきた。
「お方様、まだ晩餐の途中では?」
「抜けてきましたの」
「ぬ、抜けた!?あれはお方様の歓迎会では」
「わたくしの歓迎会であんな食事を出すっていうの?歓迎する気なんかまったくないじゃない」
脱がせて、と言うとスアラは手早くドレスを紐解き、編み上げた髪もほどいていった。エメラルドを砕いて流し込んだような緑の髪と蜂蜜色の瞳、このような配色は珍しく彼女が「喰花族」であることを示していた。
野バラにとっては見慣れているが、この国の人間にとっては物珍しかったらしい。そのせいで、おかしなやからに取っ捕まりこのように誰とも知らぬ王というものと結婚させられるはめになったのだから。
そのあと湯につかった彼女はゆったりとしたワンピースをまといほっと息をついた。気を利かせたスアラが紅茶を出し、数々の花やハーブ、草を綺麗に盛り付けた皿を出した。野バラはまあ!と顔を輝かせた。
「晩餐を食べてなかったらお腹を空かせていらっしゃるのではないかと思いまして」
「そうなの!サラダとフルーツしか食べてないのよ。スアラは本当にお仕事ができる使用人ね」
「お方様のお世話係として当然のことです。それにしても、晩餐会の食事はどうなっていたのです?こちらからは生き物や卵など動物性のものは排除するよう伝えておいたはずですが」
「でてきましたわ、魚も肉も玉子も。本当に最悪、見た目は本当に美しいしもしかしたら動物に見える植物かと思ったのだけど、やっぱりクソ不味うございましたわ」
「クソなどという言葉を使ってはいけません。しかし、いったいどういうことでしょうね……曲がりなりにもこちらからお迎えした方ですのに」
「どうせ嫌がらせの一環ですわ、返す返すも嫌なところに来てしまったものね」
その名の通り野バラのように可愛らしくも美しい見た目に反して、彼女は口が悪い。王城内での立ち位置などなんのその、高貴な者たちの立ち振る舞いなどまったくせずに敵を増やし続けている。
真ん中で大きく彩るバラを指でつまんでパクリと食べる。
「んん~、やっぱり花が一番おいしい」
「お花を召し上がるなんて、いつ見ても本当に不思議です。苦くないのですか」
「苦味は全く感じないわね、植物によって甘味やさわやかさ、重厚な味わいと様々ね。わたくしにとってはお肉やお魚を食べるなんて狂気の沙汰なのだけれど。まあ種族が違いますもの、仕方がありませんわ」
今度はミントをしゃくしゃくと噛み、野バラは人差し指を口元にあてて首をかしげた。
「それにしても、これからどうしてくれようかしら」
0
あなたにおすすめの小説
愛する人は、貴方だけ
月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
下町で暮らすケイトは母と二人暮らし。ところが母は病に倒れ、ついに亡くなってしまう。亡くなる直前に母はケイトの父親がアークライト公爵だと告白した。
天涯孤独になったケイトの元にアークライト公爵家から使者がやって来て、ケイトは公爵家に引き取られた。
公爵家には三歳年上のブライアンがいた。跡継ぎがいないため遠縁から引き取られたというブライアン。彼はケイトに冷たい態度を取る。
平民上がりゆえに令嬢たちからは無視されているがケイトは気にしない。最初は冷たかったブライアン、第二王子アーサー、公爵令嬢ミレーヌ、幼馴染カイルとの交友を深めていく。
やがて戦争の足音が聞こえ、若者の青春を奪っていく。ケイトも無関係ではいられなかった……。
私は彼に選ばれなかった令嬢。なら、自分の思う通りに生きますわ
みゅー
恋愛
私の名前はアレクサンドラ・デュカス。
婚約者の座は得たのに、愛されたのは別の令嬢。社交界の噂に翻弄され、命の危険にさらされ絶望の淵で私は前世の記憶を思い出した。
これは、誰かに決められた物語。ならば私は、自分の手で運命を変える。
愛も権力も裏切りも、すべて巻き込み、私は私の道を生きてみせる。
毎日20時30分に投稿
【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております
紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。
二年後にはリリスと交代しなければならない。
そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。
普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…
半竜皇女〜父は竜人族の皇帝でした!?〜
侑子
恋愛
小さな村のはずれにあるボロ小屋で、母と二人、貧しく暮らすキアラ。
父がいなくても以前はそこそこ幸せに暮らしていたのだが、横暴な領主から愛人になれと迫られた美しい母がそれを拒否したため、仕事をクビになり、家も追い出されてしまったのだ。
まだ九歳だけれど、人一倍力持ちで頑丈なキアラは、体の弱い母を支えるために森で狩りや採集に励む中、不思議で可愛い魔獣に出会う。
クロと名付けてともに暮らしを良くするために奮闘するが、まるで言葉がわかるかのような行動を見せるクロには、なんだか秘密があるようだ。
その上キアラ自身にも、なにやら出生に秘密があったようで……?
※二章からは、十四歳になった皇女キアラのお話です。
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
モブの私がなぜかヒロインを押し退けて王太子殿下に選ばれました
みゅー
恋愛
その国では婚約者候補を集め、その中から王太子殿下が自分の婚約者を選ぶ。
ケイトは自分がそんな乙女ゲームの世界に、転生してしまったことを知った。
だが、ケイトはそのゲームには登場しておらず、気にせずそのままその世界で自分の身の丈にあった普通の生活をするつもりでいた。だが、ある日宮廷から使者が訪れ、婚約者候補となってしまい……
そんなお話です。
寵愛の花嫁は毒を愛でる~いじわる義母の陰謀を華麗にスルーして、最愛の公爵様と幸せになります~
紅葉山参
恋愛
アエナは貧しい子爵家から、国の英雄と名高いルーカス公爵の元へと嫁いだ。彼との政略結婚は、彼の底なしの優しさと、情熱的な寵愛によって、アエナにとってかけがえのない幸福となった。しかし、その幸福を妬み、毎日のように粘着質ないじめを繰り返す者が一人、それは夫の継母であるユーカ夫人である。
「たかが子爵の娘が、公爵家の奥様面など」 ユーカ様はそう言って、私に次から次へと理不尽な嫌がらせを仕掛けてくる。大切な食器を隠したり、ルーカス様に嘘の告げ口をしたり、社交界で恥をかかせようとしたり。
だが、私は決して挫けない。愛する公爵様との穏やかな日々を守るため、そして何より、彼が大切な家族と信じているユーカ様を悲しませないためにも、私はこの毒を静かに受け流すことに決めたのだ。
誰も気づかないほど巧妙に、いじめを優雅にスルーするアエナ。公爵であるあなたに心配をかけまいと、彼女は今日も微笑みを絶やさない。しかし、毒は徐々に、確実に、その濃度を増していく。ついに義母は、アエナの命に関わるような、取り返しのつかない大罪に手を染めてしまう。
愛と策略、そして運命の結末。この溺愛系ヒロインが、華麗なるスルー術で、最愛の公爵様との未来を掴み取る、痛快でロマンティックな物語の幕開けです。
離婚した彼女は死ぬことにした
はるかわ 美穂
恋愛
事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。
もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。
今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、
「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」
返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。
それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。
神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。
大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる