花喰いの令嬢はバラを食む

九鈴小都子

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野バラが王宮にきた理由 5

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初めての上流階級の生活をした野バラは、その快適さに陥落寸前だった。
ふかふかのベッドで眠り、新鮮な野菜やフルーツ、花を食べ、文字の勉強をしたりイルミネの研究のために話をしたり。植物オンリーのおいしいお菓子もたっぷり味わい、夜は湯につかって全身オイルを塗り込み就寝。
もともと山にある村にいて、買い物をするときだけ町に降りるという生活をしていたため、こういった至れり尽くせりの暮らしをしていると以前は恐ろしく窮屈な生活をしていたことがわかった。

「あそこにいる時はそんなこと思わなかったんだけどなぁ」
「どうかされましたか?」
「なんでもなーい」

ドレッサーの前で野バラ専属としてやってきた使用人、スアラは野バラの若葉のような艶のある緑の髪をうっとりとしながらとかしていた。

「それにしても、見事な御髪でいらっしゃいますね」
「そうかしら?うちの一族はみんなこの色だから」
「わたしは見たこともない色です。これほどつややかなのはなにか理由が?」
「薬草を調合したものを髪に塗っていたの。スアラにもあげるわ」
「まあ!よろしいのですか」

スアラは素性のよくわからない野バラに対してなんのわだかまりも感じさせず気さくに相手をし、丁寧に世話をしてくれていた。野バラはすぐにスアラが好きになりおしゃべり相手にしていた。

「本日は野バラ様のお住まいに行かれるのですよね?」
「ええ、イルミネさんが行きたいって言うから」
「あの方も研究になると一直線になってしまうのですから」

ここへやってきたのも、家族の了承も得ずに勝手にでてきてしまったとのことだった。

「ささ、これで大丈夫ですわ。お気をつけていってらっしゃいませ」
「ありがと、スアラ。それじゃあ行ってくるわね」

白のブラウスに茶色いエプロン風の足首まであるワンピースを身に着けた野バラは、足取り軽く外へ向かった。


馬車に乗り込んだ野バラとイルミネはドランなど複数人の護衛とともに向かい、途中から降りて山の中腹まで歩くことになった。
一応喰花族が行き来をしていた道を通っているのだが、獣道のようなものだ。イルミネは随分歩きずらそうにしていたし、ドランはイライラと声をかけた。

「おい、本当にこの道で合ってるのか。とても人間が住んでいる気配がないじゃねえか」
「人間が住んでないようなとこだからいいんじゃない。わたしたちは隠れ住んでいたんだもの」
「しかし、はあはあ、これは、きついね」
「あなたは運動不足なんじゃないの」

軽口をたたきながら進んでいくと、突如空間が開けて居住地が並ぶ村に到着した。獣除けの柵が周囲をぐるりとかこみ、円形に穴を掘って柱を立て乾燥した植物で壁や屋根をおおう竪穴式の家が並んでいる。

「おお!やっと着いた……ん?」

嬉し気に村へ入ったイルミネは、すぐに様子がおかしいことに気が付いた。

「人が……いない?」

素早くあたりを見回して警戒しながらドランはいぶかし気に呟いた。

「荷や食料がまったくない……これは逃げ出したのか?どういうことなんだ」
「そう、逃げ出しの」

野バラは自分の家から荷物を持ち出して声をかけた。

「わたしたち、見つからないようにあちこちを転々としながら暮らしてるから基本的に身軽なの。ただ、わたしたち喰花族の教訓で仲間が誰かひとりでもみつかったら速やかに住まいを逃げ出すことになってるわ」
「しかし、仲間を置いていくのか?」
「結構合理的なのよね、最小の犠牲で大勢を守るっていうのを徹底してるから」

(それに、わたしたちにはいざとなったら奥の手もあるし)

それについては公言することなく、野バラは肩をすくめた。

「多分持ち逃げできなかった物もあると思うから、家探ししてみたら?そういうのも一応研究に必要なものだったりするんでしょ?」
「まあそれはそうだが。はあ、会って話がしてみたかったものだ」

イルミネは至極残念そうに顔を曇らせたあと、何かに気付いたように野バラを凝視した。

「野バラ、君、数日後にここへ案内したのはもしかして」
「そりゃあ時間稼ぎに決まってるでしょ」

あはは、と笑顔で答える野バラにイルミネは今度こそがっくりとうなだれてしまったのだった。
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