雨上がりのブレイクタイム

九鈴小都子

文字の大きさ
5 / 10

図書館でみつける

しおりを挟む
笹花が以前まで通っていた図書館は街の中心部から少し郊外の静かな場所にある。周囲は整地され芝生や彫刻があり、散歩に歩いている人が多々見られた。

図書館は郊外に造られているだけあって規模は大きい。公共施設だけあって建物自体は四角四面だが、天窓から光が差し込むようになっていたり、児童書コーナーが靴を脱いでゆっくりとくつろげるようになっていたりと温かみがあった。

中に入ると、朝一なためか人はあまりいなかった。笹花はまずおすすめコーナーへ向かい、新刊や季節ごとのフェアをチェックする。

「あ、あの作家さんの新作が出てる。あれ、この本まだ続巻が出てたんだ」

次々と目移りしながら、笹花はあれもこれもと手に取った。貸出期間2週間で読み切れるかはわからない、でも借りたい。図書館で久しぶりの感覚を楽しみながら、笹花は「梅雨」をテーマにしたおすすめ図書へも意識を向けた。

雨をテーマにした絵本や小説はもちろん、真新しいのは表紙のみが飾られ、近くに大きなタッチパネル式の画面があり、電子書籍を紹介していることだろうか。しかも音までついているという。
備え付けられたヘッドホンを耳にあて、試しに『雨音・雨の言葉事典』をタッチすると、検索ワードや五十音順の索引項目がでてきた。検索ワードに「山  雨」と打ち込むと、「山雨」「私雨」山で降る雨の言葉がでてくる。
言葉をさらにタッチすると、言葉の意味や由来、写真、さらに山にふる雨の音が聴こえてきたのだ。


「素敵……」


思わず笹花は呟いた。

貸出方法は、図書館のアプリをインストールし、自分のIDを登録して本に貼り付けてあるQRコードを読み込めば貸出完了のようだ。2週間たったら読むことができなくなるという仕組みになっている。

笹花はさらに『カエルとカエルの鳴き声事典』や『いろいろ猫の鳴き方』『調理音は癒しの音』など、音付き電子書籍を次々選び、あっという間に貸出上限に達してしまった。新しいもの好きなことをさいかくにんしつつ、紙の書籍も借りてホクホクと図書館をあとにした。



図書館近くのカフェでお茶と軽食をとりながら、さっそくアプリを開く。ワイヤレスイヤホンを耳に装着し、言葉を検索したりただフリックしてページをめくったりしながら、夢中になって目を走らせた。
ふと我に返って、そういえば趣味を探しに出たはずであった、と今になって笹花は思い出した。しかし、とても心惹かれる出会いはあった。これを参考にできないかと考え……。


「私も音付きの自分図鑑を作ってみたらいいかもしれない」


笹花はとても凄いことを思いついたような高揚感を覚えた。


「イラストを入れて、できれば写真と音を入れて、言葉も」


思いつきをスマホのメモ帳に記入していく。しかし、途中で手が止まる。


「でもいったい何を図鑑にすればいいんだろう」


やるのはいいが趣味がないではないか、とまた降り出しに戻る。
何かヒントはないかともう一度図書館のアプリを開いて借りた本を見たとき、笹花は山の雨音をもう一度聴きたいと思った。山の雨音は、雨粒が地面を打つ音ではなく、背の高い木々の葉に雨が当たる音と、葉からパラパラとこぼれる雨の雫の音だ。さらに川の音も入っていた。

自然豊かなところには発見も多くあるのだろう、とぼんやりとでも思い当たった。

そこで笹花はとても安易に考えた。そうだ、自分も山に行ってみようと。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『☘ 好きだったのよ、あなた……』

設楽理沙
ライト文芸
2025.5.18 改稿しました。 嫌いで別れたわけではなかったふたり……。 数年後、夫だった宏は元妻をクライアントとの仕事を終えたあとで 見つけ、声をかける。 そして数年の時を越えて、その後を互いに語り合うふたり。 お互い幸せにやってるってことは『WinWin』でよかったわよね。 そう元妻の真帆は言うと、店から出て行った。 「真帆、それが……WinWinじゃないんだ」 真帆には届かない呟きを残して宏も店をあとにするのだった。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

25年目の真実

yuzu
ミステリー
結婚して25年。娘1人、夫婦2人の3人家族で幸せ……の筈だった。 明かされた真実に戸惑いながらも、愛を取り戻す夫婦の話。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

近すぎて見えない物

あんど もあ
ファンタジー
エルリック王子と一夜を共にした男爵令嬢。エルリックの婚約者シルビアが、優しく彼女に言った一言とは。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

処理中です...