雨上がりのブレイクタイム

九鈴小都子

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山へ行ってみよう

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行こう、と考えたら笹花はさっそく立ち上がりカフェをあとにした。歩いていける距離に大型複合店があり、足取りも軽く向かった。
店内の人の波を縫うように通り抜け、到着したのはスポーツ用品店だ。今までほぼお世話になることがなかった施設で、笹花は恐る恐る店内に入った。物珍しげに眺めて周りながら、スマホで抜け目なく山で必要な装備を検索する。

まず必要なのはやっぱり衣服だ。暑くても半袖ではなく虫や葉によるかぶれの心配もあることから長袖がいいらしい。


「じゃあ通気性は外せないってことか」


笹花が考えているよりも随分と可愛くてオシャレなウェアがあると感心しながらTシャツと撥水・UVカット効果のあるウィンドブレーカー、レギンスにスカート風のキュロットと、手頃なリュック、帽子と順調に選んでいく。

最後に立ち寄ったのは靴のコーナーで、ここで笹花は随分とうろうろした。スマホには山に行くならトレッキングシューズがいいとある。しかし、笹花としてはただブラブラと歩く程度のつもりだった。そうすると、わざわざ専用シューズを買うより普段使いもできるちょっと頑丈なスニーカーを購入したほうがいいのではと思ったのだ。
トレッキングシューズは足首まであるタイプで靴自体も重く、普段使いとは言い難い。

うーんと立ち止まっていると、後ろから声をかけられた。


「登山靴お探しっすか」


振り返ると、スポーツ用品店の店員なのか?と疑問に思うような、でも行き過ぎてはいない、絶妙なチャラさの若い男性がにこにこと立っていた。


「あ、はい。まあ……」


笹花は若干引き気味に答える。こうして選んでいるときに接客をされるととても選びずらいと感じてしまうのだ。


「てっぺんまで登ります?それともトレッキング?」
「トレッキングです」
「近くの山っすか」
「はい」


ぽそぽそと答えているが、店員は全くきにすることもなくにこにこと聞いてくる。


「あんま登ったこともない感じっすか」
「はい、初めてで」
「あーだったらちゃんとしたトレッキングシューズのほうがいいっすよ」
「そうなんですか」
「はい、ランニングシューズで走って登るような人もいますけど、初心者は取り敢えず足首固めて捻らないようにしたほうが無難っす。ちょっと重いですけど、重い方がしっかり歩けるんで」


笹花が知りたいことを簡潔に教えてくれた店員は、「これなんかどうです?」と靴を手渡してきた。デザインも可愛く、値段もそれほど高額ではない。笹花はだいぶ気持ちがトレッキングシューズに傾いていたが、ここは冷静にと質問をする。


「トレッキングといってもホントに散策程度なんですけど、それでもやっぱりこっちのほうがいいんですか?」
「こっちのほうがいいっすよー!足の疲れ方違うし、この靴で歩き方覚えたほうがいいっす。それにね」


店員はとても面白いことを話すように声を潜めた。


「山に行く人ってね、だいたいはまっちゃうんすよ。最後には一番上まで行きたくなりますよ」


だから今からこの靴を買っておいたほうがいい、と店員はまるで笹花もそうなるとでも言うように笑った。
きょとんとした笹花は、たいして運動もしていないのにあがりたくなるだろうかと思いつつも、丁寧な店員に最初感じた拒否感はなくなり、「じゃあこれにします」と言って微笑んだ。
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