雨上がりのブレイクタイム

九鈴小都子

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散策で出会った人

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ひょろりと背が高い男性だった。年齢は三十代半ばくらいか、少し長めの髪を適当に括り、双眼鏡を首から下げて、大きな一眼のカメラをブレもせずに構えている。飛んでいる蝶は普通の小さな蝶に見えるのだが、何か特別な種なのだろうか。

笹花が思わずじっと見ていると、カメラをのぞいていた目が不意にこちらを向いた。あっ、と思ったときには目を反らすタイミングを逃し、見つめ合うかたちになる。すると男性はにこっと小さく笑った。


「ミドリシジミッていう種類の蝶なんですよ」
「ミドリシジミ?」


大きさは確かにシジミと同じくらいだが、どこにミドリの要素があるのか。少しだけ近づいてみる。ひらひらと羽ばたく小さな翅をよく見てみると。


「あ!きれい」


翅の外側の面は灰色のような地味な色をしているのに、内側は金がかったエメラルドグリーンだ。どうやったらこんな色になるのか、笹花にはとんでもなく美しい色に見えた。


「色が違う?」
「片方は雌なんですよ」
「へぇ、雌のほうが地味なんですね」


笹花はなるほどと頷きながら、ちらちりと男性を横目で観察した。男性からは、この蝶の良さを分かち合おうとする純粋な気持ちを受け取ることができた。あまりにも自然に話しかけられたので、当たり前のようにこちらも話していた。
素敵な人だなと思いながらも、あまり長居をしては邪魔になるだろうと先へ進むことにした。


「教えていただいてありがとうございます」
「どういたしまして」


笹花は頭を下げて、ブナ林の奥へ足をすすめた。



水が豊富というだけあり、テレビのCMに出てきそうな木々の間に流れる小川があった。寝るときにこの音が流れていたらきっとリラックス効果があるだろう。空気も大変よくて、笹花は自分の中に溜まっている毒素を吐き出すつもりで深呼吸をしながら、動画を撮ったり写真を撮ったり、先程の男性に触発されて生き物も撮影したりと図鑑のための素材集めにいそしむ。

二キロ先でゴール地点についた時には、思ったよりも疲れておらず汗を流して清々しい気持ちでいっぱいだった。

帰りも順調に戻り、パーキングでバスを待っている間、あの男性にもう一度会えないかと通りがかる人をきょろきょろと見るが、出会うことはできなかった。


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