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秋野の思い出巡り計画 2
しおりを挟む記憶を思い出したら親友になるという約束をした俺は、その後あの先輩についてなどの話を聞いた。
女友達に誘われたときにカラオケに参加した一人らしく、さらに薄い関係らしい。要するに少し知っているだけの他人だ。
そんな相手がそれなりの数いるので、今後は軽い気持ちで女友達と遊べなくなり、付き合いも悪くなってしまうとかなんとか。
秋野は本心からみんなと仲良くなりたかったらしい。
だが人間関係とは難しいもので、友達の友達でのいざこざがあり気まずくなることは多い。
だから、全員が、みんな仲良くなんて理想は初めから無理なのだ。
俺も、転校して孤立していなかったら周りの友達が増えて、そういったいざこざに巻き込まれていたかもしれない。
「そういうわけだから、今後は二人と絡むね」
「……それはいいが、他に信頼できる女友達はいないのか?」
「正直、まだ分からないんだ……全部の関係をリセットする気もないし」
俺のように転校して突然目の前からいなくなればリセットすることは可能だが、クラスメイトとの関係をやり直すのは難しい。というか、不可能だ。
大方、今までよりも遊べなくなるだとか説明して関係を保つといったところだろう。
これからは友達の線引きをしなければならない。お互いに信用できるかなんて急がなくてもいい。
「ま、それはそのうち探せばいい。じゃあとりあえず、今後は友達作りの相談と思い出巡りに付き合えばいいんだな?」
「うん、そういうこと」
まさか俺が秋野の友達作りと思い出巡りに協力することになるとは。
友達の少ない俺が友達作りの協力? スタートから不安になってきた。
「一之瀬の奴はどうする? 正直俺は遊び慣れてないから、思い出巡りならあいつが役に立つかもしれない」
「一之瀬くんの性格もあるし、たまに付き合ってもらうくらいでいいんじゃない?」
「あー、そうだな。どのくらい協力してくれるかも分からんしな」
あいつは悪いやつではないので事情を知れば協力してくれるだろう。
しかし一之瀬は長期的なものになると自分のペースで進め始める。参加しなかったり、勝手に別の計画を進めたりと、不安要素が多い。
なのでたまーに参加するくらいがちょうどいいのだ。
「それで早速なんだけど……今日うち、来ない?」
「……はえ?」
頭が真っ白になった。
* * *
秋野に連れられ、俺は秋野の家に行くことになった。
場所は小学校の近くにある住宅街。俺の家から五分ほどで到着する距離にあり、庭が広めな一戸建てだ。
「ここだよ」
知っている。来たことも何度もある。が、言えるはずもない。
家に入ると、秋野のお母さんが出迎えてくれた。
いつもニコニコしており、おっとりした性格。昔はやはり母親なだけあって似ていると思っていたことを覚えている。
「あら、沙織。お友達?」
そんな秋野のお母さんは、俺を一瞥すると半目でこちらを見つめ、微笑んだ。
気付いている? 確かに俺は容姿自体はそこまで変わっていないので、あの頃仲良くしていた秋野の両親には覚えられているかもしれない。
だがここで俺と秋野のお母さんが知り合いだとバレると面倒なことになる。
「うん。あっ、部屋掃除してくるから待ってて!」
え、部屋行くの……?
よく考えたら、母親がいる状況でリビングに通されるのもおかしな話だ。
それこそ小学生の頃はリビングで遊んでいたのだから。
部屋の掃除をするらしい秋野は階段をドタドタと駆け上がっていく。
玄関前で秋野のお母さんと二人きりという不思議な状況になってしまった。
「あの、こんにちは。杉坂です」
「久しぶりねぇー裕司くん」
「覚えてましたか」
「もちろんよー」
俺のことを忘れているのは秋野だけらしい。
しかしそうなると秋野には俺の話をしていないということか。記憶はなくても名前を知っていたら自己紹介の時に気付くはずだ。
「えっと、秋野には俺のことは……」
「話してないわよー?」
ホッとした。これで俺の話をしていたのだとしたら恐怖しかないからだ。
「秋野が記憶を失った原因って、心当たりありますか?」
「……裕司くん、かしらねー」
「そうですか……」
原因は、俺。そう言われたのだ。
薄々気付いてはいた。ただ、目を背けていただけだ。
当時の俺は秋野と毎日遊ぶような仲だった。クラスの人気者だった俺があの頃誰と一番親しいかと聞かれたら秋野と答えるほどに。
そんな相手が転校したのだ。そのショックで、記憶を失ったとも考えられる。
他にショックを受けるような心当たりがないのなら、原因は俺だと考えるのが妥当だろう。
「ねぇ裕司くん。どうして、転校の話を周りに話さなかったの?」
「あの頃の俺は単純で、馬鹿だったんです。元々、しばらくしたらこっちに帰ってくる予定でしたから、ちょっとみんなを驚かせてやろうなんて思って、伝えずにいて……」
俺が学校を転校した理由は、妹が大きな病院に移動することになったからだ。
妹は生まれつき身体が弱く、入院生活が続いていた。そして俺が小学校低学年の頃、大きな病院にしばらく入院することになった。
当初の予定では数ヵ月ほどで戻ってくるはずだった。だが、その入院が長引き、良くなるまでに数年間を要することになった。
軽いいたずらのつもりだった。数ヵ月後に帰ってきて、またみんなと笑う予定だった。
ただ一言、戻ってくると秋野に伝えていればこんなことにはならなかったかもしれない。
「謝って済むことじゃないかもしれません。ですが謝らせてください。本当に、すみませんでした」
「……頭を上げて。謝るためにここに来たわけじゃないでしょう? 裕司くんがここに来た理由は何?」
「はい……実は――――」
俺は秋野の記憶を思い出させるために思い出巡りをすることと、友達を作ることに協力することを話した。
なるべく簡単に、詳しい話まではせずにだ。
「そういうことなのねぇー。きっと、責任を感じているでしょう? 罪滅ぼしだと思ってくれても構わないわ、全力で協力してあげて。それが難しそうでも、できるだけ傍にいてあげてほしい。お父さんがなんて言うかは分からないけれど、私はそうして欲しいわ」
「はい……分かりました」
秋野のお父さんか。あの人は、どちらかと言うと今の秋野に似ているかもしれない。
いい人だった記憶があるが、俺は娘の人生を狂わせた男なのだ。殴られる覚悟くらいはしておこう。
今後の学校生活の予定が決まった。秋野の記憶を絶対に思い出させる。それが無理でも、友達、作りに協力し楽しく過ごせるようにする。
俺にできることは、何でもしよう。
そこまで覚悟を決めたところで、二回から聞こえていた物音が止まった。
片付けが終わったらしい。随分と散らかっていたようだ。
ドタドタと階段を下りた秋野は、真剣な顔をする俺とほほ笑む母親を見て不思議そうな顔をした。
「お母さん、杉坂くんと何の話してたの?」
「何でもないわよー。あっ、そうだ。お義母さんって呼んでくれてもいいのよー?」
「ちょっと! 何言ってるの!?」
それは遠慮しておきます、と言うと代わりに名前で呼んでほしいと言われた。
秋野のお母さんは、秋野栞里という名前らしい。今後は栞里さんと呼ぼうか。
そう決めた俺は、急かす秋野に背中を押されて階段を上った。
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