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秋野の思い出巡り計画 3
しおりを挟む秋野の部屋は、思っていたよりもシンプルな部屋だった。
家具はそこまで多くはないが、ぬいぐるみなどはいくつか見られる。
カーペットや一部の家具にピンク色が使われているため、シンプルながらも女の子らしい部屋になっていた。
幼少期も、秋野の部屋に入ったことはなかった気がする。つまり、これが初だ。ぶっちゃけ緊張している。女の子の部屋になんて入ったことがないのだから。
「綺麗だな、部屋」
「でしょ? ほら、座って座って」
ゴミ箱の中に埃をくっつけて捨てたであろう掃除用具が見える。おそらくこれで部屋中の埃を掃除したのだろう。
そこまで気を使わなくてもいいのに。一之瀬の部屋なんて埃の塊が落ちてるんだぞ。
「それで思い出巡りだったな。どうして部屋に呼んだんだ?」
「杉坂くんの話が聞きたくて。昔からここに住んでるんでしょ?」
俺はてっきり小学生の頃の卒業アルバムでも見るものだと思っていたのだが違うらしい。
というか、見れるのならすでに試しているはずだ。今アルバムを読んで俺の名前が載っていたらややこしいことになるし、素直に過去の話をしよう。
「あー、それなんだが。俺な、一回転校してるんだ。小学生の頃に」
俺が転校の話を出しても、秋野は特に気にする様子もない。
記憶喪失とはここまでなのか。これならば、俺が知り合いであるヒントを出すことなく過去の話ができそうだ。
「えっ、そうなの? じゃあ、転校する前までの話聞かせてよ。よく遊んだ場所とかさ。もしかしたらあたしたち会ってるかもね!」
ビクッと反応してしまった。俺が反応するのか。
「どうだろうな。よく遊んだ場所か……この辺りだと、公園でよく遊んでいた。小学校の裏にあって、いろんなグループの小学生が集まってたからお前もそこにいたかもしれない」
小学校の頃、外で遊ぶ定番と言えば公園だった。
友達と集まり、かくれんぼをしたり鬼ごっこをしたり、遊具で遊んだりしていた。
秋野とも何度もそこで遊んでいたので、そこに行けば思い出すかもしれない。
しかし、そんな簡単にいくだろうか。
「公園……ね。他には?」
何やらスマホでメモをしているようだ。
今度行く場所を今のうちに決めておくということだろう。
「駄菓子屋だな。ここからなら、公園よりも近くにあったはずだ。みんながお小遣い持ってきて、やれ当たっただの外れただの言い合ってた」
駄菓子屋と聞いたら親の世代かそれより前の話と思う人もいるかもしれないが、意外と残っていたりするのだ。
と言っても数があるわけではないので行く場所も限られる。実はその駄菓子屋、俺と一之瀬もたまに行くのだ。
常連と言うほどではないが気まぐれでお菓子を買っては一之瀬の家で食べている。なので店が潰れている心配はない。
「駄菓子屋! この近くにあったんだー」
「まだやってるはずだからそれも今度行くか」
「だね。公園と駄菓子屋と……まだある?」
「他には……ああ、それこそ学校だな。公園とはまた違った遊具があったり、広い校庭を走り回れたりするから集まることも多かった」
小学校。秋野の思い出を巡るのなら避けては通れない場所だ。
体育の授業で使う鉄棒などがたくさんあるので動き回るにはもってこいの場所だった。
秋野の場合は教室や、あまり動かなくても使える遊具などが思い出巡りにはいいだろう。
「小学校かぁ。今でも入れるかな?」
「昔通ってたし、大丈夫だろ。放課後なら先生に話を通せば入れそうだしな」
俺は卒業していないが、秋野が卒業生ですと言えば快く許可をしてくれるはずだ。
そうすれば放課後に教室を回ったり、校庭を歩き回ることだってできる。
一応、これでも俺は元人気者なので先生の中に覚えている人がいるかもしれない。あの頃いた先生はまだ残っているのだろうか。
「思いつくのはこんなところだな。後はまあ、友達の家とか、学校の周辺だけど……優先順位は低いだろ」
友達の家に関しては行っても意味がない。秋野が行ったことのある友達の家は俺の家くらいだからだ。
学校の周辺は……適当に歩いていたら到着するのでそこまで思い出す期待はできない。
それ以外だと、秘密基地か。だがあそこを提案するのは流石に躊躇われる。使っていたのは特定の人数だけだと予想がつくし、ここで提案したらその中に秋野が入っていたと言っているようなものだ。
あの頃のメンバーは誰だったか。かなりの人数がいたはずだが……数人の名字が思い出せるくらいか。他は思い出せない。あいつらは今何をしているのだろう。
「それじゃ、公園、駄菓子屋、小学校……ひとまずはここに行くってことで決まりね!」
「そうなるな。で、話終わっちゃったけどどうする?」
思い出巡りの場所なんて、どうしても限られてくる。
俺がポンポンと提案していけばどこに行くのかもすぐに決まってしまうのだ。
気付いた秋野はぽかんとしたあと、バンッとテーブルに手を突きながら勢いよく立ち上がった。
「えーっと、飲み物! 飲み物取ってくるね! せっかく来たんだしゆっくりしていってよ」
「おー、お構いなく」
部屋を出て行ってしまった秋野。それにより俺は女の子の部屋で一人という状況になってしまった。
どこに目線を向ければいいのかも分からずきょろきょろしていると、本棚が目に留まった。
そういや、昔の秋野は本をずっと読んでいたな。今はどんな本を読んでいるのだろうか。
人の本棚を勝手に漁るのは良くないというのは分かるが、隠されているわけでもないので好奇心に負け本棚を見る。
まず目に入ったのは、『人に好かれる方法』『友達の作り方』だった。
「マジかぁ……」
見てはいけない物を見てしまった罪悪感に苛まれながら、俺はそっと本棚から目線を外した。
再びテーブルの前に戻り深呼吸をする。落ち着け落ち着け。
なんて思っているとガチャっとドアが開いた。ビクゥッと今日一番の反応をしてしまう。
「おまたせー、はいお茶」
「お、お、おう。ありがとな」
「?」
不自然にテンパってしまい流石に怪しまれたが、俺はお茶を飲み何とか心を落ち着かせた。
その後はいつそこに行くのかなどを話し合った。
公園は少し遠いのでまた今度、小学校も手続きが面倒くさそうなのでまた今度。
残るは駄菓子屋。軽く買い物するだけなので時間も掛からないはずだ。
行動の早い秋野はそうと決まればと、今から駄菓子屋に行こうと言い出した。
誘われてしまったら断れない。善は急げだ。
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〈注〉
このお話は「婚約者が記憶喪失になりました。」と「元騎士の歳上公爵様がまさかの××でした!?」の続編になります。
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