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杉坂そらの嫉妬 1
しおりを挟む一之瀬の暴走事件が終わり、ゴールデンウィークに入る。
ゴールデンウィークはみんなで集まって秋野の思い出巡りを進めていくのだが、初日は昨日の野球で疲れているということで休みになった。
俺は昼頃に起きてゲームをするという怠惰な生活をする。
夜になり、テレビを見ていると妹のそらが服の裾を引っ張ってきた。
「どした?」
「お兄ちゃん、ゴールデンウィークってどこか行くの?」
「おう、明日は友達と出掛ける予定だ」
「明後日は?」
明後日か、まだ決まっていないが明日思い出さなかったら明後日も出掛けることになるだろう。
「明後日も出掛けると思う」
「……友達って?」
「一之瀬とかだ」
秋野と沢野は知り合いではないので話しても分からないだろう。
ああ、秋野は名前くらいは知っているかもしれない。入院中のそらに話した記憶がある。
「女の子いる?」
「……いるけど」
「じゃあそらも一緒に行く」
なんだなんだ、女の子の友達が欲しいのか。
そらはお兄ちゃんに似て友達が少ないから心配なんだよな。
秋野たちと交流を深めるのは賛成だが、明日行く場所は小学校だ。
そこに参加しても楽しくないと思う。知ってる人が一之瀬だけってのも問題だ。
「えっとな、俺たちは小学校に行くんだ。あんまり面白くないかもしれないぞ」
「え、なんで小学校?」
これは話すべきだろうか。
しかしそらが転校の理由なので、それで責任を感じてしまう可能性がある。
それはいけない、もし話すのなら秋野もいる場所で真面目に伝えよう。
「……昔を思い出そうってなってな。それでも行きたいか?」
「うん! 行きたい!」
「了解、伝えとく」
俺はチャットで妹も参加するけど大丈夫か? と送った。
全員から承諾が取れたのでそらも参加することになる。
一之瀬がメンバーの中にいるのでそこだけが心配だ。最低限の会話はしてあげてほしい。
* * *
翌日。曜日で言うと日曜日。
ゴールデンウィークだというのに先生は学校で仕事をしているらしい。
小さい頃は気付かなかったが、教員って大変なんだなって改めて思った。お仕事お疲れ様です。
「そらちゃん久しぶり!」
「……」
すっと、そらは俺の背後に隠れる。
無視はしていないがこれはこれでダメージがありそうだ。
「なんで隠れるの!?」
「お兄ちゃん他の人は?」
「もうすぐ来ると思うぞ」
「僕は!? 無視しないでって!!!」
「うるさいです」
「喜べ一之瀬、反応してくれたぞ」
「嬉しくねーよ!!!」
現在俺たちは校門の前で秋野と沢野を待っている。
そらは一之瀬への当たりが強いが、平常運転だ。
ちなみに嫌われてる理由は過度なスキンシップだ。俺からもやめてほしいと思っている。殺すぞ。
そんなやり取りをしていると、沢野が歩いてくるのが見えた。
「よっ、沢野」
「こんにちは杉坂くん、一之瀬くん。そらさんだったかしら。初めまして、沢野佳世よ」
「はっ、はじっ、初めまして!」
真面目に挨拶されたそらは、コミュ障を発動させながらも挨拶を返す。
それを見た沢野は、目を薄くし口元を歪ませながらそらを見る。
その視線危なくないか。大丈夫か。
「可愛い……」
「え、えっ?」
「あっ、ええと。写真で見るよりも可愛らしいわね」
「だろ?」
ギリギリ変態が飛び出ずに済んだようだ。
あと少し踏み出ていたらドン引きされていたんだろうな。
「あっ、ありがとうございます? お、お兄ちゃんこんな人と仲良くなってたの?」
「最近な」
「おっ、秋野ちゃんも来た!」
四人が集まったところで、五人目である秋野がこちらに小走りでやってくる。
どうやら自分以外の全員が集まっているのを見て焦っているようだ。まだ集合時間じゃないから遅れてないのに。
「ご、ごめん待った?」
「大丈夫だ。まだ集合時間まで五分ある」
「よ、よかったぁー……」
汗を搔きながら呼吸を正していく秋野。
これで全員集まったな。
そろそろ入るかと思っていると、秋野がそらに気付く。
「あ、妹ちゃん? 可愛い! そらちゃんだっけ?」
「ははは、初めまして!」
「初めましてー、秋野沙織だよ。よろしくね!」
「沙織……あ、よ、よろしくです!」
沙織という名前で思い出したのか、一瞬表情が曇る。
しかし別人だと思ったのか、そらはすぐに切り替えて挨拶をした。
「沙織さん……いやいや、まさかね」
そらは校内に入るまでの間も、うんうんと考え込んでいる様子だった。
……とりあえず、近いうちに秋野のことは話したほうがいいかもな。
校内に入り、職員室に向かう。
すでに懐かしい、よく覚えている。
今回学校に許可を取ったのは沢野なので、沢野が代表として許可証を受け取りに行く。
戻ってきた沢野から許可証を受け取る。
俺たち首から下げるタイプの許可証を付けていく。初めて付けたなこれ。
「あの、先生が皆さんと話をしたいそうよ」
「あー、まあ珍しいからな俺たちみたいなのは」
高校生になった卒業生が小学校の見学に来る。
なかなか聞かない話だ。いるにはいるだろうが、先生としても物珍しいのだろう。
それに、当時のことを覚えている先生もいるかもしれ……
まずい!
そうだ、当時を知っているのなら俺と秋野のことも覚えているはず。
さ、流石に大丈夫だよな? 今の秋野を見て気付くとか、ないよな。
なるべく黙っておこう、そうしよう。
そう決めた俺は、失礼しますとつい癖で言いながら職員室に入るのだった。
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