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一之瀬湊の暴走 6
しおりを挟む「ホームランだあああああああああああああああ!!!!」
一之瀬の叫びで我に返る。
入った。入ったのか?
「何してるの、一周してきなよ。ホームランなんだからさ」
「え、あ、はい……じゃあ、行ってきます」
キャッチャーの先輩に背中を押され、俺はバットを置いて一塁へ向かう。
走っていくうちに、自分があそこまで球を飛ばしたという自覚が芽生えてくる。
ああ、気持ちいい。野球の面白さを一つ知れた気がする。
「杉坂くん!」
「やったわね!!!」
ホームベースに戻ると、秋野と沢野が駆け寄ってきた。
遅れて大はしゃぎしている一之瀬も駆け寄ってくる。
「杉坂ぁ! やったなお前!」
「おう。というか俺が打てなかったらどうするつもりだったんだよ」
「知らん! その時は謝る!」
「はぁ……暴走もほどほどにしとけよ?」
今回はどうにかなったが、もし俺が打てずに終わっていたら秋野があの先輩に付き合わされていたかもしれないのだ。
行動力は素晴らしいが後先を考えないからこうなる。普段は計算して行動するんだけどな、衝動的に動いたら雑になるのが一之瀬クオリティ。
「ぐ、偶然だ! そんなわけねぇ、ホームランだと……?」
「お前、最後曲げただろ。それであそこまで飛ばされたんだ、完敗だぞ」
「で、でもよ!」
この期に及んでまだ認めようとしない岸田先輩。
だが球はフェンスを越えホームランになった、その事実は変わらない。
誰かが不正をしたわけでもない、もうどうにもならないのだ。
「負けは負けっすよー岸田先輩。この勝負、僕の勝ちっすねー」
「お前打ってないだろ」
ホームランを打っていない一之瀬が岸田先輩を煽る。
「……まあそういうことなんで、約束通り秋野に謝ってください。土下座で」
「はいはい負けました、ごめんなさい。これでいいだろ? 約束とか知らねーよ、土下座なんてするかよ」
どこまでもムカつく人間だ。
初めから土下座なんてするつもりはなかったのだ。
「どう思う、秋野」
「約束は……守らないとダメだと思う」
「あ?」
約束は守らないとダメ……?
許せないとかじゃないのか。でもまあ、同じ意味か。
「そうだそうだー! かっこ悪いっすよ先輩!」
「謝れよ岸田。事情は知らないけど、そもそも勝負は関係なく謝るべきなんだろ、それ」
「なんでオレが土下座なんかしなくちゃいけねぇんだよ!」
「お前さぁ……いい加減にしないと先生の車にイタズラしてたことバラすぞ、おい」
その言葉を聞いて、岸田先輩はあからさまに焦り始めた。
え、イタズラしてたの? レベルは低そうだが、まあ問題にはなる行為だな。
内申にも響いてくるだろう。三年生としては避けたい問題だ。
「はっ!? それとこれとは関係ないだろ!」
「あるよ。お前の性格には困ってるんだ。部活仲間としてこれ以上は見過ごせない。今までの問題とか、全部言うからな」
これは……小学生でよくある「いけないんだー、先生に言っちゃおー」ってやつか。
え、違う? でもそれに近いよな。
岸田先輩の様子からして、明るみに出ていない問題はかなりの数があるのだろう。
「ど、土下座な。おう、すればいいんだろ?」
「ほら早く」
先輩に言われ、岸田先輩は悔しそうに地面に膝をつく。
そして、地面に手をつき、秋野に向かって頭を下げた。
「あ、秋野。その、悪かった」
「何がどう悪かったんだ?」
「……ビッチ呼ばわりをして、悪かった」
「頭を地面につけろよ」
「……」
言われるがままに、岸田先輩は額を地面に触れさせる。
完璧なまでの土下座。俺はそれよりも、指示を出し追い詰める先輩のほうが気になっていた。
「らしいけど、どう? 秋野ちゃん?」
「もういいです。でも、もう二度と話しかけないでください」
「……ああ」
そこで、ピコンと音が鳴った。
音の正体は、先輩のスマホだった。
そう、追い詰めていた先輩はスマホで録画をしていたのだ。
俺はそれを見て軽く引いてしまい、見ていることしかできなかったのだ。
「……は?」
「今の録画したから、欲しい人は言って。あ、悪用はしちゃだめだよ?」
「お、おい! どういうつもりだ!?」
「どういうって……証拠がないとでしょ? また言った覚えはないとか言い出したら面倒だし」
ああ、なんか想像できる。
前科があるので、岸田先輩も何も言い返せないようだ。
「先輩! 僕それ欲しいっす!」
「了解、送っとく。他のみんなは一之瀬からもらってね」
……俺も受け取っておくか。
もちろん、これを他の生徒に流したりはしない。そこまでしたらこの先輩と同レベル、またはそれ以下になってしまう。
「あと、岸田。これまでのことを先生に言うって話。あれまだ無くなってないから。ゴールデンウィーク終わったらチクるよ」
「や、約束がちげぇぞ!?」
「いつ約束したの? 言ってみろよ」
「それは……そんな……!」
あっ、この先輩には逆らっちゃいけないんだな。
普通に接している分にはいい人なのだろう。だがやはり人間は怖い。
先輩も、岸田先輩のためを思ってやっているのだ。尚のこと恐ろしい。
「それじゃ、これ以上ここに居たくないだろうし下級生のみんなは帰っていいよ」
笑顔でそう言ってきた先輩。俺たちは言われるがまま、その日は解散となった。
後、一之瀬から送られてきた土下座の動画はしっかり保存した。
* * *
「あぁぁぁぁ……づかれだぁ」
「お兄ちゃんどうしたの? 死にそうな声出して」
「運動したんだ、身体痛い……」
「珍しいね、お兄ちゃんが運動なんて」
「ああ。でもな、すごい楽しかったぞ。それに気持ちよかった」
「気持ちよ……!? え、だ、誰とやったの?」
「一之瀬と、先輩だ」
「先輩!? そそそ、その先輩って、どんな人?」
「一之瀬は無視か。えーっとな、三年生の野球部だな」
「男!?」
「ん? おう、そうだけど……?」
「お、お兄ちゃんは男の人が好き……なの?」
「え?」
「え?」
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〈注〉
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