30 / 31
秋野沙織の告白
しおりを挟む「沙織」
「っ……」
俺が秋野……沙織を呼ぶと、沙織はビクッと身体を震えさせた。
頭痛は落ち着いたようで、涙の浮かんだ目でこちらを見つめてくる。
その瞳は怯えたような色をしていた。そう、昔の沙織のような瞳だ。
「ゆーじ……?」
「ああ、そうだ」
「本当? 本当に、ゆーじなの……?」
「当たり前だろ」
思い出したことにより、記憶が混濁しているのだろう。
当時の喋り方そのままに、俺の名前を呼び続ける。
「二人で話しとけ、オレは離れとく」
「ありがとうございます……」
背伸びをしながら、彩斗さんは一之瀬たちのいるベンチに向かった。
本当は、彩斗さんも心配なのに二人きりにしてくれたのだ。
「沙織、全部思い出したのか?」
「うん、全部。わたし、ゆーじがいなくなったのがショックで、すごく辛くて、頭が真っ白になったの。もしかしたら、その時に……」
記憶喪失になってしまったのではないか、か。
「ほぼ確実にそうだろうな……沙織。あの時は、本当にごめん。引っ越しのこと、話せなかった」
「許すよ。わたしも、気持ちが弱かったから、こうなっちゃったんだし。ねえ、ゆーじ。あの時の約束……覚えてる?」
あの時の約束……それは、最後に会ったとき公園でした約束だろうか。
「俺以外の友達を作るだとか、みんなと話せるようになる……とかか?」
「うん。具体的には、ゆーじみたいになる、って約束」
「そう、だったな」
「それで……どう、かな? わたし、できてた?」
沙織は、ずっと俺になろうと努力していた。
昔の俺は、沙織の目から見て誰とでも仲のいい明るい人間に映っていたのだろう。沙織はそれを目指して交友関係を広げたのだ。
俺の目から見ても、いや、誰の目から見ても、沙織は当時の俺よりもしっかりと友達を作っていた。
多少浅い関係になろうが、交友関係を持つことが難しい中学高校でここまでやって見せたのだ。
「もう、俺なんか追い越してるくらいだ。昔の俺は、ただ無邪気なだけだったからな……すごいよ、沙織は」
「ほ、本当!?」
「本当だ。よく頑張ったな。頑張りすぎて、大変だったよな。ごめん、俺のせいでこんな……本当にごめん」
俺のせいで沙織が無理をしてしまった。その謝罪をするべく、俺は頭を下げる。
「わ、わたしは別に……もう気にしてないよ」
「……本当か? 後悔、してるだろ?」
今、沙織は思い出して俺が理由で交友関係を広げていたことを知った。
俺の言うことを聞いていなければ、なんてことを考えてしまっているかもしれない。
そう考えても仕方のないことだ。本来ならば、もっと楽しく学校生活を送れたはずなのだから。
「してないよ」
そう言い切った沙織は真剣な表情をしてた。
真っ直ぐに俺の目を見て、意志を伝えようとしている。
昔は俺と目を合わせることすら上手くできなかった沙織が、物怖じせずに目を合わせている。
「むしろ、良かったと思ったの。確かに、辛いこともたくさんあった。でも、こうして勇気を出せるようになって、話せるようにもなったんだよ? むしろ、感謝してるくらいで……」
「か、感謝?」
「うん。やっぱりゆーじがいなかったら、今のわたしはいないから、だから……ありがとう」
ありがとう。
聞くことはないと思っていた言葉が、沙織の口から飛び出した。
「……そうか。でも、それでも俺は沙織に知り合いだって、幼馴染だって黙ってたんだぞ。それは、どう思ってるんだ?」
「理由があるんだよね?」
「それは、そうだが……もっと早く言ってほしかっただとか、思ってないのか?」
「お父さんとお母さんが話してくれなかったから、仕方ないかなって思う」
「俺さ、ずっと怖かった。沙織に拒絶されるんじゃないかって。理由はあったけど、話そうと思えば話せたんだ。もっと、俺が知り合いだっていうヒントを出すことができたはずなんだ」
俺は沙織に思い出してほしくて、でも思い出してほしくないという気持ちもあるという複雑な気持ちだった。
当然、本当は思い出してほしい。でも、それで関係が壊れるくらいならば思い出さない方が……などと考えてしまうことも多かった。
「わたしはゆーじを拒絶しないよ」
真っ直ぐにこちらの目を見てくる沙織。俺はそんな力強い瞳から、目を離せなかった。
「わたしね、もう嫌だよ。ゆーじが離れちゃうのは。確かに一人でも大丈夫なように頑張ったけど、やっぱり駄目だった。わたしにはゆーじが必要なの」
「俺も、沙織が離れるのは嫌だ。沙織だけじゃない、もう近しい人が離れていくのは嫌なんだ」
人と関わるのが怖くなったのは、人と別れるのが怖いから。
親しくなればなるほど、別れが怖くなっていく。だから、躊躇う。
「わたしは、ゆーじから離れるつもりはないよ。今後一生、離れなくてもいいとも思ってる」
「え……? 本当に?」
一生離れなくてもいい、つまりそれは……一生一緒に居たいということ。
告白……に聞こえるが、実際は違うかもしれない。それは分からない。
しかし、一つ言えることは。
「うん。ゆーじは?」
俺も同じ気持ちだということだ。
可能ならば、ずっと一緒に居たい。
「俺も、沙織がいいのならずっと一緒に居たいと思ってる。また昔みたいに、大人数とは言わなくても、友達とも一緒に遊んで、笑いたいと思っている」
沙織が俺を受け入れてくれるのなら、また昔みたいに一緒に居たい。
きっと、それなりに楽しかった日々がもっと楽しくなる。
「やった! え、えっと……それじゃあわたしたちって、恋人……になったのかな?」
「……そう、なんじゃないか?」
いまいち実感が湧かない。
沙織のことは好きだ。しかしそれは昔のような友情の部分が大きい。
普通にドキドキしているため、恋愛感情がないと言うと嘘になるがそれでも恋人になった気はしない。
「え、えへへ……恋人かぁ……」
「正直、まだ実感はないけどな……というか本当に俺で良かったのかよ」
「怒るよ? ゆーじは、わたしが他の男と付き合ったらどう思う?」
「……嫌だな。めちゃくちゃ嫌だ」
「だよね。わたしも、ゆーじが他の女と付き合ったらすごく嫌だよ」
「そう、か……なら、そうなんだろうな」
沙織のおかげで少しは実感が湧いてきた。
単なる独占欲かもしれないが、独占欲も恋愛感情の一つだ。
「あっ、でもわたしが思い出したら親友になるって約束だったよね……どうしよう?」
「どっちもでいいんじゃないか? 恋人で、親友。どうだ?」
「それいいね! はぁ、なんだかすごくスッキリしたよ……」
俺の提案にグッドを出した沙織は、そのまま力を抜きながらため息をつく。
俺も、ずっと抱えていた重荷が取れたような感覚だ。ここまですっと取れるとは思わなかったけども。
「だな……というか、まさかこんなに上手く話が進むとは思わなかったんだが」
「きっと、最初から簡単なことだったんだよ。わたしが早い段階で思い出しても、ゆーじには告白していたし、委員長もとも、関わってたと思う」
つまり、沙織が出会ったとき、掃除のとき、話すようになったときに俺を思い出しても結果は変わらないということだ。
いっそ、卒業間際まで思い出さなくても、同じ結果になっていたことだろう。
「難しく考えすぎてたんだな、俺」
「うんうん。でも、これからはもっと上手くいくよ」
「ああ。とりあえず、あそこで心配してるみんなに説明するか」
「うん!」
案外簡単にモヤモヤが解消し、俺と沙織は元の関係に戻った。
正直、まだ不安は多い。しかしそれも時間が解決してくれることだろう。
そう結論付け、みんながいるベンチに向かい全ての説明をしたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
小さい頃「お嫁さんになる!」と妹系の幼馴染みに言われて、彼女は今もその気でいる!
竜ヶ崎彰
恋愛
「いい加減大人の階段上ってくれ!!」
俺、天道涼太には1つ年下の可愛い幼馴染みがいる。
彼女の名前は下野ルカ。
幼少の頃から俺にベッタリでかつては将来"俺のお嫁さんになる!"なんて事も言っていた。
俺ももう高校生になったと同時にルカは中学3年生。
だけど、ルカはまだ俺のお嫁さんになる!と言っている!
堅物真面目少年と妹系ゆるふわ天然少女による拗らせ系ラブコメ開幕!!
隣人の幼馴染にご飯を作るのは今日で終わり
鳥花風星
恋愛
高校二年生のひよりは、隣の家に住む幼馴染の高校三年生の蒼に片思いをしていた。蒼の両親が海外出張でいないため、ひよりは蒼のために毎日ご飯を作りに来ている。
でも、蒼とひよりにはもう一人、みさ姉という大学生の幼馴染がいた。蒼が好きなのはみさ姉だと思い、身を引くためにひよりはもうご飯を作りにこないと伝えるが……。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
まずはお嫁さんからお願いします。
桜庭かなめ
恋愛
高校3年生の長瀬和真のクラスには、有栖川優奈という女子生徒がいる。優奈は成績優秀で容姿端麗、温厚な性格と誰にでも敬語で話すことから、学年や性別を問わず人気を集めている。和真は優奈とはこの2年間で挨拶や、バイト先のドーナッツ屋で接客する程度の関わりだった。
4月の終わり頃。バイト中に店舗の入口前の掃除をしているとき、和真は老齢の男性のスマホを見つける。その男性は優奈の祖父であり、日本有数の企業グループである有栖川グループの会長・有栖川総一郎だった。
総一郎は自分のスマホを見つけてくれた和真をとても気に入り、孫娘の優奈とクラスメイトであること、優奈も和真も18歳であることから優奈との結婚を申し出る。
いきなりの結婚打診に和真は困惑する。ただ、有栖川家の説得や、優奈が和真の印象が良く「結婚していい」「いつかは両親や祖父母のような好き合える夫婦になりたい」と思っていることを知り、和真は結婚を受け入れる。
デート、学校生活、新居での2人での新婚生活などを経て、和真と優奈の距離が近づいていく。交際なしで結婚した高校生の男女が、好き合える夫婦になるまでの温かくて甘いラブコメディ!
※特別編7が完結しました!(2026.1.29)
※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。
※お気に入り登録、感想をお待ちしております。
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
**2026.01.02start~2026.01.17end**
隣人はクールな同期でした。
氷萌
恋愛
それなりに有名な出版会社に入社して早6年。
30歳を前にして
未婚で恋人もいないけれど。
マンションの隣に住む同期の男と
酒を酌み交わす日々。
心許すアイツとは
”同期以上、恋人未満―――”
1度は愛した元カレと再会し心を搔き乱され
恋敵の幼馴染には刃を向けられる。
広報部所属
●七星 セツナ●-Setuna Nanase-(29歳)
編集部所属 副編集長
●煌月 ジン●-Jin Kouduki-(29歳)
本当に好きな人は…誰?
己の気持ちに向き合う最後の恋。
“ただの恋愛物語”ってだけじゃない
命と、人との
向き合うという事。
現実に、なさそうな
だけどちょっとあり得るかもしれない
複雑に絡み合う人間模様を描いた
等身大のラブストーリー。
拝啓、愛しの侯爵様~行き遅れ令嬢ですが、運命の人は案外近くにいたようです~
藤原ライラ
恋愛
心を奪われた手紙の先には、運命の人が待っていた――
子爵令嬢のキャロラインは、両親を早くに亡くし、年の離れた弟の面倒を見ているうちにすっかり婚期を逃しつつあった。夜会でも誰からも相手にされない彼女は、新しい出会いを求めて文通を始めることに。届いた美しい字で洗練された内容の手紙に、相手はきっとうんと年上の素敵なおじ様のはずだとキャロラインは予想する。
彼とのやり取りにときめく毎日だがそれに難癖をつける者がいた。幼馴染で侯爵家の嫡男、クリストファーである。
「理想の相手なんかに巡り合えるわけないだろう。現実を見た方がいい」
四つ年下の彼はいつも辛辣で彼女には冷たい。
そんな時キャロラインは、夜会で想像した文通相手とそっくりな人物に出会ってしまう……。
文通相手の正体は一体誰なのか。そしてキャロラインの恋の行方は!?
じれじれ両片思いです。
※他サイトでも掲載しています。
イラスト:ひろ様(https://xfolio.jp/portfolio/hiro_foxtail)
ストーカーに狙われたので歳上騎士様に護衛をお願いしました。
ねーさん
恋愛
「氷の彫刻」と呼ばれる美貌の兄を持つ公爵令嬢のクラリッサは不審な視線に悩まされていた。
卒業を二日後に控えた朝、教室のクラリッサの机に置かれた一通の偏執狂者からの手紙。
親友イブを通じてイブの婚約者、近衛騎士団第四分団員のジョーンズに相談すると、第四分団長ネイトがクラリッサのパートナーとして卒業パーティーに出席してくれる事になって───
〈注〉
このお話は「婚約者が記憶喪失になりました。」と「元騎士の歳上公爵様がまさかの××でした!?」の続編になります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる