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エピローグ
しおりを挟む夢を見ていた。
それは、遠い昔。小学校に上がったばかりの頃の記憶。
俺たちの関係が、始まった記憶。
「ねえ、きょうはあそべる?」
「きょうは、おかあさんと買い物にいく日だから……ごめんね」
「そっかぁ」
いつものように、友達を遊びに誘おうとした。
しかし、一人目を誘ったときに断られてしまったので、その日は珍しく遊ばずに散歩をしようと思ったのだ。
クラスメイトたちは皆一様に下校し、教室にはぽつぽつと生徒が残るのみだ。
あの頃の俺は、入学したばかりなのに遊ぶ友達が多い人間だった。
知り合いの知り合いから関係が繋がることが多いため、同じ幼稚園の友達から一気に友達を増やしたのだ。
今ではその友達の多い友達がそもそもいないため、その手段を取ることすらできないが。
「ひっぐ……えっぐ……」
最後に教室に残っていたのは、椅子に座りながら泣いている女の子と……沙織と俺だけだった。
泣いている女の子を前に俺は放っておくこともできず、話しかけることにした。
「どうしたの?」
女の子は顔を上げると、俺の顔を見て驚いた様子を見せた。
可愛らしい顔つきをしている。少し自信なさげな表情が暗さを出してしまっているが、それでも顔のパーツは綺麗で将来有望な少女だった。
そして、その顔には見覚えがあった。同じ幼稚園出身で、何度か話し、遊んだことがあったのだ。
「ゆーじくん……?」
小さく名前を呟く。どうやら覚えてくれていたらしいと、心配しながらも嬉しく思った。
「わ、わたし……」
「いじわるされたの?」
怯えたような眼をしていたため、俺はその時いじめられているのではないかと考えた。
幼稚園でも、男の子が女の子にいたずらをすることは多かった。その被害に遭ったのではないかと思い、聞いてみた。
「ちがう……」
「じゃあ、なんで?」
「その……おかあさんが、ともだちをつくりなさいっていってて……でも、うまくいかないの」
「ともだちがほしいの?」
「うん、ひとりだとさびしいもん」
栞里さんから友達を作りなさいと言われた沙織は、友達を作ろうと努力したのだ。
しかし上手くいかず、失敗し、泣いていた。どうすればいいのか分からない。そういう気持ちが大きくなって泣き出してしまったということだ。
「さおりちゃん。“しんゆう”になろうよ」
「しんゆう?」
「ともだちのもっとうえだよ!」
テレビだろうか、絵本だろうか、俺はどこから聞いた『しんゆう』というフレーズを発していた。
ただ、寂しそうな女の子を助けたかっただけかもしれない。『しんゆう』を本当に理解していなかった俺は、軽率にそんなことを言ったのだ。
だが、沙織はそのことに気付かない。友達よりも上と聞いて、目を輝かせる。
「わたしが? いいの……?」
「もちろん! よかったら、いっしょにあそぼうよ!」
「あそびたい! でも、わたしあんまりうごけないよ?」
「なら、おうちであそぼう!」
公園で走り回ることができないのなら、家で遊ぼうと考えた俺は、おうち遊びを提案した。
「わたしのおうち、くる? おかあさんに、ゆーじくんのことおしえたいの」
「いきたい!」
そこからが、沙織とズブズブの関係になる始まりだった。
* * *
「あらー、裕司くんっていうのね。沙織の母です。よろしくね」
記憶に残っている栞里さんは、若干若く見える程度で、今とほとんど変わらないように見える。
「沙織、お友達出来たのねー。よかったわー」
「ゆーじくんは、ともだちじゃないよ?」
「え?」
友達ではないと聞いて、栞里さんは困惑する。
家に男の子を連れてきて、友達ではないと言うのだ。理解が追い付かなくて当然だろう。
沙織に続いて、俺は困惑する栞里さんにドヤ顔で説明する。
「さおりちゃんとは、しんゆうなんです!」
「まあっ! 沙織に親友なんて! 嬉しいわねぇ……」
思えば、あの時の栞里さんが俺へ向ける視線は鋭かった気がする。
まさか、あの頃から俺と沙織をくっつけようと考えていたとか……いや、考えすぎか。
これを機に、俺は沙織の家に行くことが多くなった。逆に、沙織が俺の家に来ることもあった。
友達とも言えないような関係から、次第に打ち解けていき本当の意味での親友になっていく。
俺は、少しずつ少しずつ普段は暗い沙織が俺だけに見せる笑顔に魅了されていた。
三年生になったある日、俺は『しんゆう』の意味をはっきりと理解し、改めて沙織に伝えようと考えた。
「沙織、親友になろう」
「え? 急に、どうしたの?」
何をいまさら、とでも言いたそうな顔で沙織は本を読んでいた手を止めてこちらに顔を向ける。
「親友って、友達よりも上って言ったろ? でも、昔の俺と沙織は他の友達よりも関りがなかったから、本当は親友じゃなかったんじゃないかって思ってさ」
「親友じゃ……なかったの……?」
目に涙を浮かべ、今にも泣きだしそうになる沙織。
「わあっ! 泣くな泣くな! 最初だけな! 仲良くなりたかったのは本当だって!」
「そ、そっか……よかった」
「とにかく、今では俺は沙織のことを本当の意味での親友だと思ってるんだ。だから、伝えたかった」
「じゃあ、うん。親友になろ!」
「おう!」
それが、親友としての始まり。さらに仲良くなるための一歩だった。
それからというもの、遊ぶ頻度が増え、本格的に友達の中で沙織が一強となっていったのだった。
* * *
「――じ、お――て」
体を揺すられている。心地いい揺れに眠気が増していく。
「ゆーじ、起きて!」
耳元での声に仕方なく顔を上げると、そこには黒髪ショートになった沙織がいた。
昔の面影そのままに、ギャルのような時の性格も残り、さらに魅力的な女の子になっている。
「結婚しよう」
「な、な、な、何言ってるの……!?」
最近では、沙織を照れさせるのが日課になってしまっている。
顔を真っ赤にして照れる沙織。これが楽しいのだ。
あまりにいじめすぎると彩斗さんが怒るのでほどほどにしないといけない。
「平和だな」
「だねー……ゆーじ」
「うん?」
「好きだよ」
「……おう」
一之瀬と沢野の視線を気にせずに、俺はそらの作ってくれた弁当を取り出す。
恋人であり親友でもある沙織と、親友二人に囲まれて過ごす学校生活は、俺の記憶の中で一番の幸せだ。
責任を持って、沙織を幸せにする。そのためには、いつか、結婚も本格的に考えなくては。
そんなことを考えながらも、もう二度とそんな幸せな記憶を忘れないよう、俺は記憶の奥底に深く刻み続ける。
『再会した幼馴染が記憶喪失になっていた。しかも原因が俺にあるようなので責任を取りたい』
~完~
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〈注〉
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