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村編
プロローグ
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俺こと神裂雄人は魔王を倒した。
剣から滴る血は黒ずんだ赤色をしている。
黒い石が敷き詰められた床に魔王の首がゴトリと落ちた。
俺は乱れた黒髪をかき上げながらその首を見つめる。
普通なら勇者が一度だけ目にするような光景だが、俺にとっては見慣れた光景だ。
それもそのはず、俺は今までに何十、何百の魔王の首を取ってきたのだから。
俺は日本で生まれ、日本で死んだ。
死因は確か、インフルエンザだったか。
知ってる? 人って簡単に死ぬんだよ、病気には気をつけようね。
俺が異世界に転生してから何があったか、思い出してみる。
あの時はだんだんと意識が薄れ、自分の体が衰弱していくのを感じた。
プッツンと何かが切れたかと思うと、目の前が真っ暗になった。
目を瞑った時のまぶたの先の光も消えた、何も見えない世界。
目の前が真っ暗になると同時に近くのセンターに運ばれるとかは無かったが、気配を感じた、目の前に人がいる。
何も見えない、真っ暗な世界で目の前にいる人物がこう言った。
『人の役に立ちたくはないか?』
常に通知表に静かでクラスに溶け込んでいる生徒です、と書かれるくらいに期待されていなかった俺はその誘いに乗った。
その結果、悪を倒す役目を果たすことになり、異世界に転生した。
最初の世界はかなり苦戦した、剣なんて使ったことがないのだから当然である。
そこからさらに、魔法を使えるときたもんだ、経験ゼロの俺は習得するのに数年掛かってしまった。
まあ最初の世界の記憶はほとんど忘れちゃったんだけど。
夢の異世界転生とは何だったのか。
俺がこの世界に来た理由は、魔王を倒して世界を救うためだ。
前の世界では確か……ドラゴンだったか。
次の世界はどんな所だろうか、炎の世界か、それとも氷の世界か。
どちらにせよ何度も行ったことがある世界なので、面白味なんてなかった。
世界が変わるたびに一からのやり直し、ということは無く、様々な世界で培った経験が蓄積されている。
炎の世界や氷の世界、はたまた毒の世界などは何度も行って、ある程度の耐性がついてしまった。
例えるなら、某カブゲーのレベル上限とステータス上限を消したみたいな感じだ。
わかりにくいね。
つまりチート・オブ・ザ・チートだ。
わかりやすいね。
俺は数々の世界で『英雄』と呼ばれてきた。
英雄ユウトである、ユウユウである。白書とかつきそう。
嬉しくないわけじゃないけど、やはり慣れない。
元々人に認められたい、人の役に立ちたいという気持ちで世界を救っていたのだ。
それが今はどうだろうか、まるで"作業"だ。
そしてその作業の中で分かったことがある。
人間側も、魔族側も、お互いに正義を持っているのだ。
俺は人間と魔族の共存を願った。
しかし、それは叶わなかった。
自分に許されているのは、目標となる標的を倒すこと。
その目的に背くことは許されていなかったのだ。
ターゲットの討伐に関係の無いことをしようとすると強力な頭痛が襲ってくる。
いや、正確には『目標の達成を諦めた時』だ。
頭痛を我慢して何度も命を落としそうになるが、精霊の加護で生き返ってしまう。
この精霊の加護っていうのはなかなかに凄く、不意打ちを食らい頭と体がセパレートしてしまっても生き返る優れものだ。
なんという生き地獄、これで病んでいない自分に驚きである。
仕方なく、俺はターゲットを倒し続けた。
次の世界に行き、また標的を倒す。
きっとそれは永遠に続くのだろう。
と、ここまでが俺が異世界に転生してからあった事だ。
よく覚えていないが、かなり長い年月を過ごしたのは確かだろう。
つまり見た目はショタで精神年齢はオッサン、またはおじいちゃんということだ。
……17歳はショタなのか?
そんなことを考えていると足元が光り出した。
転移の光だ、この光に飲み込まれて次の世界に転移させられるのだ。
……おかしい、いつもはターゲットを倒してから数時間は掛かるのに。
まあいい、この光に飲み込まれるのを待とう。
目を開けると真っ白な光りの中にいた。
ひかりのなかにいる、ってやつだな。
それは石か。
それにしても遅い。
いつもなら光の中に入ってすぐに次のターゲットを知らされるのに。
指示を出されないまま数分漂っていると、いっそう光が強くなった。
次の世界に転移する瞬間である。
だがまて、指示はどうした、次は何を倒せばいいんだ。
何がどうなっているかわからないまま、視界が黒く染まった。
* * *
目を覚ますと森の中にいた。
ふむ、今回の世界は普通の世界だな、毒とか炎とかの世界じゃなくて助かった。
で、俺は何をすればいいの?
奴の声なんてしなかったし……。
仕方ない、どこか村を探そう。
そう漏らしながら立ち上がり、振り向くとそこには村があった。
「転移して目の前に村か……」
某ブロックゲームならかなりのアドバンテージになるな。
まあ、俺には鍛えられた魔法があるからアドバンテージなんてないようなものだけど。
よし決めた、俺はこの世界で平和に暮らしてやる。
平和に過ごすために、居るのかは分からないが、魔族と人間の争いを止めてやる。
そう、全ては俺が平和に過ごすためだ。
指示がない今、俺は自由にさせてもらう。
命令を受けていない今、何を考えようが頭痛は襲ってこない。
そう、俺は遂に自由を手にしたのだ。
誰にも縛られない世界、もしかしたらすぐにでも指示が来て自由がなくなってしまうかもしれない。
それでも今は自由なのだ、目的も何も無い、自分の意思だけで行動ができる。
俺は初めてバイトの給料を渡された日のような、ウキウキした気分で村に向かった。
剣から滴る血は黒ずんだ赤色をしている。
黒い石が敷き詰められた床に魔王の首がゴトリと落ちた。
俺は乱れた黒髪をかき上げながらその首を見つめる。
普通なら勇者が一度だけ目にするような光景だが、俺にとっては見慣れた光景だ。
それもそのはず、俺は今までに何十、何百の魔王の首を取ってきたのだから。
俺は日本で生まれ、日本で死んだ。
死因は確か、インフルエンザだったか。
知ってる? 人って簡単に死ぬんだよ、病気には気をつけようね。
俺が異世界に転生してから何があったか、思い出してみる。
あの時はだんだんと意識が薄れ、自分の体が衰弱していくのを感じた。
プッツンと何かが切れたかと思うと、目の前が真っ暗になった。
目を瞑った時のまぶたの先の光も消えた、何も見えない世界。
目の前が真っ暗になると同時に近くのセンターに運ばれるとかは無かったが、気配を感じた、目の前に人がいる。
何も見えない、真っ暗な世界で目の前にいる人物がこう言った。
『人の役に立ちたくはないか?』
常に通知表に静かでクラスに溶け込んでいる生徒です、と書かれるくらいに期待されていなかった俺はその誘いに乗った。
その結果、悪を倒す役目を果たすことになり、異世界に転生した。
最初の世界はかなり苦戦した、剣なんて使ったことがないのだから当然である。
そこからさらに、魔法を使えるときたもんだ、経験ゼロの俺は習得するのに数年掛かってしまった。
まあ最初の世界の記憶はほとんど忘れちゃったんだけど。
夢の異世界転生とは何だったのか。
俺がこの世界に来た理由は、魔王を倒して世界を救うためだ。
前の世界では確か……ドラゴンだったか。
次の世界はどんな所だろうか、炎の世界か、それとも氷の世界か。
どちらにせよ何度も行ったことがある世界なので、面白味なんてなかった。
世界が変わるたびに一からのやり直し、ということは無く、様々な世界で培った経験が蓄積されている。
炎の世界や氷の世界、はたまた毒の世界などは何度も行って、ある程度の耐性がついてしまった。
例えるなら、某カブゲーのレベル上限とステータス上限を消したみたいな感じだ。
わかりにくいね。
つまりチート・オブ・ザ・チートだ。
わかりやすいね。
俺は数々の世界で『英雄』と呼ばれてきた。
英雄ユウトである、ユウユウである。白書とかつきそう。
嬉しくないわけじゃないけど、やはり慣れない。
元々人に認められたい、人の役に立ちたいという気持ちで世界を救っていたのだ。
それが今はどうだろうか、まるで"作業"だ。
そしてその作業の中で分かったことがある。
人間側も、魔族側も、お互いに正義を持っているのだ。
俺は人間と魔族の共存を願った。
しかし、それは叶わなかった。
自分に許されているのは、目標となる標的を倒すこと。
その目的に背くことは許されていなかったのだ。
ターゲットの討伐に関係の無いことをしようとすると強力な頭痛が襲ってくる。
いや、正確には『目標の達成を諦めた時』だ。
頭痛を我慢して何度も命を落としそうになるが、精霊の加護で生き返ってしまう。
この精霊の加護っていうのはなかなかに凄く、不意打ちを食らい頭と体がセパレートしてしまっても生き返る優れものだ。
なんという生き地獄、これで病んでいない自分に驚きである。
仕方なく、俺はターゲットを倒し続けた。
次の世界に行き、また標的を倒す。
きっとそれは永遠に続くのだろう。
と、ここまでが俺が異世界に転生してからあった事だ。
よく覚えていないが、かなり長い年月を過ごしたのは確かだろう。
つまり見た目はショタで精神年齢はオッサン、またはおじいちゃんということだ。
……17歳はショタなのか?
そんなことを考えていると足元が光り出した。
転移の光だ、この光に飲み込まれて次の世界に転移させられるのだ。
……おかしい、いつもはターゲットを倒してから数時間は掛かるのに。
まあいい、この光に飲み込まれるのを待とう。
目を開けると真っ白な光りの中にいた。
ひかりのなかにいる、ってやつだな。
それは石か。
それにしても遅い。
いつもなら光の中に入ってすぐに次のターゲットを知らされるのに。
指示を出されないまま数分漂っていると、いっそう光が強くなった。
次の世界に転移する瞬間である。
だがまて、指示はどうした、次は何を倒せばいいんだ。
何がどうなっているかわからないまま、視界が黒く染まった。
* * *
目を覚ますと森の中にいた。
ふむ、今回の世界は普通の世界だな、毒とか炎とかの世界じゃなくて助かった。
で、俺は何をすればいいの?
奴の声なんてしなかったし……。
仕方ない、どこか村を探そう。
そう漏らしながら立ち上がり、振り向くとそこには村があった。
「転移して目の前に村か……」
某ブロックゲームならかなりのアドバンテージになるな。
まあ、俺には鍛えられた魔法があるからアドバンテージなんてないようなものだけど。
よし決めた、俺はこの世界で平和に暮らしてやる。
平和に過ごすために、居るのかは分からないが、魔族と人間の争いを止めてやる。
そう、全ては俺が平和に過ごすためだ。
指示がない今、俺は自由にさせてもらう。
命令を受けていない今、何を考えようが頭痛は襲ってこない。
そう、俺は遂に自由を手にしたのだ。
誰にも縛られない世界、もしかしたらすぐにでも指示が来て自由がなくなってしまうかもしれない。
それでも今は自由なのだ、目的も何も無い、自分の意思だけで行動ができる。
俺は初めてバイトの給料を渡された日のような、ウキウキした気分で村に向かった。
応援ありがとうございます!
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