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冒険者編

甘いものこそ至高

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 工場見学を終えた俺たちは、特に行きたい場所もないため、夜になるまでひたすら街を散歩することにした。
 他の大陸にはない技術だったな、いろんな機械が見れてよかった。
 未来に期待だな。

「お店とか結構揃ってるんだねぇ」
「露店が多いよな、武器屋とかの」

 剣や盾を屋台で売っている様はまさにファンタジーの世界に相応しかった。
 某ドラゴンを倒すクエストをするRPGに出てくる街にはこんな店が多かった気がする。
 実際機能性はいいらしい。
 雨の日はキツいらしいが。

「ユウト! あれなに?」

 ミントが指さした屋台には大きな鉄板が置かれていた。
 近くの箱にはいちごやブルーベリーなどの果物、クリームのようなものもある。

「なんだろ……まさかクレープか?」
「くれーぷ?」

 説明しよう、クレープとは薄く伸ばして焼いた生地にホイップクリームや果物などをのせて食べるナウいヤングにバカウケなスイーツなのである!
 ナウなヤングにバカウケとか死語だな。

「お? 興味ある?」

 女の人が接客しているようだ、クレープは女子のスイーツってイメージあるからな、おっさんが作ってるよりはいいよな。

「お姉さん! これなんですか?」
「クリィープだよ、買う?」

 クレープじゃねぇか。
 クレープが訛っただけじゃねぇか。

「ホイップクリームにラクトアイス。いちごやブルーベリー、ラズベリー。それにハチミツもあるよ」

 ラクトアイス、牛乳のアイスだな。
 これは氷魔法で簡単に作れるからさほど意外でもない。
 だがハチミツ、どこで生産してるんだそれは。

「じゃあねぇじゃあねぇ……ホイップクリームとアイスといちご!」
「俺はクリームとラズベリーとハチミツで」

 無難なチョイスだ。
 おかずクレープとか邪道ですよ邪道。
 まあそんなの置かれてないんだけどね。
 チョコがないのが悔やまれるな。

 屋台は女の人が二人で経営しているようだ。
 炎魔法と氷魔法がそれぞれ得意なコンビで、かなり息もあっているようだ。
 片方が炎魔法で生地を焼き、もう片方が氷魔法でトッピングやクレープを冷やしたり、アイスを作ったりしている。
 しまった、俺もアイスつけとけば良かった。

「お待たせ!」
「ありがとうございます!」

 俺も小さくどうもと言いながらお金を渡し、クレープを手に取る。
 クリームや生地からして、日本の完璧なクレープとは言えないが、それは正真正銘、ファンタジーに似つかわしくないクレープだった。
 久々の甘いものだ、俺甘いもの大好き。
 甘味かんみのことをあまみと読んでいたほどだ。
 それはただの勘違いだ。
 旨味のことをうまあじって読むようなもんだ。
 そんなやついるのか。

「クレ……クリィープは何年くらい前に開発されたんだ?」
「大英雄様がいろんなことを広めたんだよー、その中にあったのがクリィープ」
「へぇ?」

 ミントが俺をニヤニヤしながら見てくる。
 完全に忘れていた、クレープの作り方を教えたのは俺だったのか。
 そういえば日本の文化とかを広めたりしてたっけ、ほとんど記憶にございません。

「そ、そか。ありがとな。行こうぜミント」
「まいどありー!」

 これ以上ニヤつかれるのも癪に障るので、一旦その場を離れる。

「あっ……」

 ミントと手を繋いだので当然ミントもとてとてと俺についてくる。
 よーし、ニヤつく顔が戻って……ない!?
 なんでよ、まだ何かあるのかよ。
 ある程度離れたところで手を離す。

「手が……」
「クリィープ食べにくいだろ?」

 手を繋いだまま二人ともなにか食べてるなんて危険すぎる。
 両手がふさがれるってのは危険なんだ、これは経験談だ。
 あの日、まだ転移魔法などを手に入れてない頃。両手を拘束されて剣で斬られる記憶。
 何個目の世界だったか、思い出せないが序盤のうちはよくあることだった。

「美味いな、これ」
「美味しいけど……太りそうだなぁ」

 生地に包まれたホイップクリームは甘く滑らかな舌触り、ラズベリーの酸っぱさとクリームの甘さが喧嘩せず、お互いを協調しあっている。
 そこにさらに甘さを引き立てるハチミツだ。
 甘いって幸せ。

 ……ミントのクレープも美味しそうだな。

「ちょっと貰っていい?」
「うん! ……ふぇ?」

 了承を得たのでミントの手にあるクレープに顔を近づけて、一口カプリ。
 いちごうめぇ……アイスも冷たくて美味い。

「美味いな」
「な、な……!」
「食わないのか?」

 間接キスなんかで動揺する俺ではないわ。
 ミントはちょっと恥ずかしいという感じかな? 俺の質問に肯定したミントが悪い。

「な、なら私もユウトの食べる!」
「ほい」

 俺のクレープをミントの顔に近づける。
 おー赤くなってる赤くなってる、面白い。

「ふぇ? ええ!?」
「食べるんだろ?」

 自分で言っといて照れるとか子供か。
 ミントはまだ子供か。
 左手でガッツポーズをすると、ミントは目を瞑って俺のクレープにかぶりついた。

「はむっ……おいひぃ」
「そりゃよかった」

 クレープを自分の前に戻す。
 うげっ、結構食われたな、目なんか瞑ってるからだぞ。
 お、ミントが俺の歯型のついた部分を見つめてプルプルしている。
 なにそれ面白い。

「ふにゃぁ……」

 早く食え。
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