トップランカーだったゲームに転生した俺、クソみたいな国を滅ぼす悪役集団の団長になる。

黒野マル

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33話  勇者の屈辱

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薄明かりがともっていた施設内が、一気に黒い魔力で覆われる。

赤い目を光らせたニアを見て、クロエを除いた勇者パーティーは驚愕するしかなかった。

この禍々しい魔力は、悪魔にしか出せないものだから。


「っ……!!俺たちを騙したのか、貴様!」
「どうして、仲間を信じないの?」
「は……は!?」
「あなたも、あそこにいる化け物と一緒」


ニアは沈んだ顔でクロエを見てから、もう一度言う。


「あなたは、化け物」
「………ふざけるな!!!」


ニアの魔力を確かめた瞬間、カルツは聖剣を持ったまま駆け出そうとする。

―――早い。さすがは聖剣に選ばれただけのことはあって、彼はすさまじい成長を成し遂げていた。

シナリオを元通りに進めるには、そこまで足りなくはない力。だけど。


「――――くはぁっ!?」
「か、カルツ!!」


エルフのアーチャー、ブリエンの悲鳴じみた声が響く。俺が飛び立とうとするヤツの腹に蹴りを入れたからだ。

予想してなかったのか、カルツはそのまま蹴り飛ばされ、ゲベルスの死体がある近くでようやく体勢を整えた。

その時、ヤツはゲベルスの死体を見て目を見開く。思ってた以上に醜いからだろう。

……まあ、醜いのはお前も同じだが。


「カルツ」


俺は体に纏わせていたダークサイトスキルを解除して、ヤツを睨む。


「てめぇは勇者なんかじゃない」
「ケホッ、ケホッ……き、貴様ら……!影だったな!!」
「てめぇはさ、選民思想の強い気違いなんだ、カルツ」
「お、オッドアイの化け物……!くっ、何をしてる、ブリエン、アルウィン!早くヤツを―――」
「動かないで」


カルツが二人に言いかけようとしたところで、ニアの声が鮮明に鳴り響く。


「関係もない人を殺したくない」
「……っ!」
「動かないで。これは命令であり、個人的なお願い」
「………」


悔しそうに顔を歪ませているブリエンも、怖気づいた顔をしているアルウィンもさすがに何も言い出せなかった。

だって、状況があまりにも不利なのだ。さっきまでスラムで激しい戦いをした後に、悪魔に出くわすなんて。

どう足掻いても勝算がないことくらい、二人もちゃんと分かっている。

下手に命を落とすより、ここは少女ニアの言う通りにした方がいいと、二人の仲では既に算段が立っていた。

それでも、カルツは。


「な……何をやっている!?ブリエン、アルウィン!!悪魔が目の前にいるじゃないか!!」
「…………」
「…………」
「くっ……どいつもこいつも臆病者ばかりいやがって……こうなったら、俺一人でも―――」
「ああ、上手くやってみな。一人で」
「くはっ!?」


またもや腰に蹴りを入れた後、俺はニアと視線を合わせてからゆっくり頷く。

俺の意図をすぐに察したニアは、両手を合わせて何本かの魔法槍を想像した後―――それを、カルツに向けて放った。


「っ!?!?」


反射的に体を転がして躱そうとするも、ニアの魔法はそう甘くはない。

結局、カルツの下半身は見事に、黒い槍に貫かれてしまった。


「くっ、くぁああああああああああああ!?!?」
「……」


これでもう、抵抗はできないだろう。俺はヤツにゆっくり近づいた。

カルツは、倒れたまま壁に背中を預けている。その顔には確かな闘志はあるものの、死に対する恐怖の方がもっと強かった。


「あのな、カルツ」
「ひ、ひっ……!?」
「お前、自分自身が絶対に正しいとか思ってるだろ?」


気づいたら、そんな言葉が漏れていた。こいつを言葉で説き伏せることができないと分かっていながらも、仕方がなかった。

俺だってゲームをプレイしているうちに、こいつに溜まったストレスがあるのだ。

それに、さっきの言葉とクロエに対する態度を見て、もう完全にキレてしまった。


「な、なにを……!」
「自分は選ばれていて、他の者とは各が違う。己の意志と思考だけが尊いものであり、勇者として俺があの下民たちを救わなければいけない」
「………………」
「とか、思ってるだろ?お前」


首を傾げた後、俺は立ち上がってもう一度蹴りを入れた。


「くはあぁあっ!?!?」


胸元に直撃した蹴りは、見事にカルツの体を縮こませる。俺は後ろに振り返ってから、クロエを見つめた。


「クロエ。あそこの二人と一緒に後ろ向いた方がいいよ」
「……カイ」
「愉快な場面じゃないから。特に、君にとっては」


クロエは複雑な顔をしつつも、二人に目配せをした後に背を向ける。

残りの二人はおずおずと震えながらも、言う通りに背を向けた。


「きっ、さまぁ……!俺のことなんだと思って……!」
「ああ~~それ聞いただけでももう反吐が出そうだわ。自分だけが特別とか考えているうぜぇヤツ、前世にも何人かいたんだよな~~」
「悪魔め……!初めて会った時に、お前をズタズタにするべきだった!!子供だから助けてあげたのに……!」
「ははっ、あははっ」


いけない、いけない。クロエに言い忘れたな。

耳も塞いだ方がいいって、言うべきだったのに。


「おい、カルツ」
「お、俺を名前で呼ぶな!!」
「ううん~~じゃクソって呼ぶわ。おい、クソ」
「な、なっ……!?」
「お前さ、マジでどうなってんだよ……クロエはな、お前のために頑張ってたんだぞ?」
「ふ、ふざけたこと―――ぷはっ!?」
「人が話してる時はちゃんと聞けよ、お前」


倒れているヤツのお腹辺りにパンチを利かすと、ヤツは無様に体を丸めながら喚く。


「ケホッ、ケホッ……」
「クロエはいつだってお前らのパーティーを考えて、最善の策を出そうと必死に頑張ってたんだ。なのにさ、お前はクソだからか頭がいかれたからか、全く周りのことを考えなかったんだよ。自分の理想だけ周りに突き付けて、なにかあったら自分は勇者だからとパワハラかまして。ヤバすぎるだろ、お前」
「きっ、さま……!それ以上俺を侮辱したら、お前を……!」
「うん?望むならこの拳でてめぇの顔を整形してあげてもいいけど?」
「……………あ、ぁ……」


さすがに整形は怖いのか、ヤツは途端に怯んだ顔で俺を見上げていた。

うん、いい具合だなと思いつつ、俺は辺りに散らばっている聖剣を取ってヤツを見下ろす。


「よく精査しないで、自分が見たいものだけ見て考えたいことだけ考えて。だから、お前が勇者じゃなくてクソなんだよ、カルツ」
「貴様に……俺の、何がわかるって―――あがあぁあっ!?」
「あ~~ごめん。剣の腹で叩かれるのもさすがに痛いよな?でもよ、クロエを殺すって?ゲベルスがそんなはずないって?あははっ、お前……マジでそう思ってるのかよ」
「っ!?う、うぁあああ!!!」


もう一度剣の腹でヤツの体を打った後、俺はしゃがんでヤツと目を合わせる。

さっきまで闘志に溢れていたその顔からは、もはや恐怖と屈辱感しか見いだせなかった。


「てめぇはただ、帝国は悪くないと考えたいからそう考えてるだけだろ?」
「な、なにを……!」
「帝国は悪だったら、自分の存在意義が揺れてしまうからな。絶対的な善である帝国のために戦う素敵な勇者~~とか思ってるだろうけど、ああ~~こちらをご覧ください。何十人の死体が転がっていて、人間の命を平気に弄んでたゲベルスというカスはあそこで化け物になっています~~」
「そ、そんなはずがない!!この施設は、すべてクロエが……!!」
「常識的に考えて、クロエにそんなことできると本気で思ってるのかよ?」


俺は口の端を吊り上げて、心底可哀そうにヤツを見つめる。


「これほどの施設、これほどの規模。けっこうなお金を持ってないと作れそうにないんだけどな……そう、正に皇太子ほどの財力を持ってないと、できなそうだけど」
「きさまぁああああ!!!!くはあっ!?」
「だからうるせぇんだよ、お前。それに、実験室は別にここだけじゃないぞ?爆発されたシュビッツ収容所はどうだ?子供を家畜のように扱って、倒れたら実験、倒れたら実験。顔がよかったら男たちの慰み者………この国は地獄なんだよ、カルツ」
「こ、皇太子様を侮辱するな!!あの方は、俺の命を助けてくださ―――くへっ!?」
「ああ、失礼。人間じゃなかったんだよな、お前」


ヤツの腹にもう一度パンチを食らわせた後、俺はヤツの肩をポンポンと叩きながら言う。


「しかし、命の恩人か~~寂しいな、カルツさんよ。俺もお前の命の恩人なのにさ」
「けへっ、げほっ……!ふ、ふざけ……!」
「いやいや、ふざけてないぞ?だって、ダンジョンの12階でエインシャントグールを倒したのは……俺とニアだから」
「…………………………は?」


その瞬間、苦痛に歪んでいたカルツの目が見開かれる。

呆然としているヤツに嘲笑を洩らしながら、俺は言葉を続ける。


「ほら、あの時。中間ボスが急に現れて、クロエを除いたお前らが全員気絶してた時。あの時助けたのは、俺とニアだぞ」
「な、なっ……!!そ、そんなはずがない!!」
「あははははっ!!常識的に考えてさ、クロエ一人でお前ら3人を背負って逃げ出せるわけないだろ!」
「それ以上俺を侮辱するなぁあ!!それ以上言ったら、お前を――ぐへええっ!?」
「まだ状況が把握できてないみたいだけどさ、クソ。帝国の犬であるお前には叫ぶ権利すらないんだよ」
「ぐぇ……げほっ、ぐぁえぇええ……」
「何度も腹パンされて痛いか?でも、お前は無実な人を殺そうとしたんだぞ?それも、命の恩人である大切な仲間を」
「げへっ、げほっ……」
「最後の警告だ。クソ」


俺はヤツの髪の毛を握りしめてから、クロエに聞こえないように声量を抑えてから言う。


「クロエの性格を考えてここでは生かしてあげるが……もう一度何もかも無視して勝手に暴れたら、その日は本当に承知しないからな?」
「う………ぁ……ぁあ……」
「そして、これは最後のアドバイスだけど」


もはや涙と唾液まで出ているヤツの顔を見ながら、俺はもう一度言い放つ。


「命が惜しけりゃ、この先クロエには指一本でも触れるなよ……?もし触れたら、文字通りズタズタにしてあげるからさ」


このままでは本当に死ぬかもしれないと思ったのか。

ヤツは俺の目を見た後に、唇を震わせながらも何度か頷くのだった。
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