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39話 ブリエンとアルウィンの混乱
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「……………」
「……………」
スラムから離れた、小さな村の宿で。
ブリエンとアルウィンは、互いに沈んだ顔のまま未だに眠っているカルツを見つめていた。
夜であの騒ぎがあった後、ブリエンがさっそく帝国軍を呼んでカルツを運んでもらったのだ。夜が明けても、カルツが起きる気配は見えなかった。
「……ねぇ、アルウィン」
そして、二人が目にした光景と根付いてしまった疑いは、時間が経つにつれてどんどん濃くなっていった。
「はい、ブリエンさん」
「昨日の事件、どう思う?」
口にすべき話題ではないと、分かっていながらも。
ブリエンは耐えきれず、その言葉を口にする。アルウィンはビクンと肩を跳ねさせて、ブリエンを見つめた。
「それって、どういう……」
「正直に言うとね?私は、あの悪魔がウソをついているようには見えなかったの」
「ぶ、ブリエンさん!」
「あなたもそう思うでしょ?どう考えてもおかしいもの。あの施設をクロエが一人で作り上げたとはとても思えないし、なによりクロエはそういう性格でもないわ。あの子、冷たくて冷静なところはあるけど……優しいじゃない」
アルウィンは優しい、という言葉に何も言い返せなかった。
ブリエンの言う通りなのだ。今まで重ねてきた時間が教えてくれている。クロエがそんなことをするはずがないと。暗殺者だけど、秘密も多かったけど。
でも、彼女は仲間想いで苦笑がよく似合っていた、素敵な人だったから。
「……ということは、すなわち。ブリエンさんはあの施設を作ったのが本当に……ゲベルスさんだと言いたいのですか?」
「……アルウィン」
「私は、私は受け入れられません!だって、そうなったら……なんのために戦うのか、分からなくなるじゃないですか……」
言葉尻がどんどん弱くなっていく。アルウィンの顔には、もはや泣き出す寸前の憂鬱さが浮かんでいた。
エルフのブリエンは森の出身だから、冷静にいられるかもしれない。でも、自分は帝国で生まれて、帝国の民を救うために勇者パーティーに入ったじゃないか。
なのに、その帝国が実は、悪がのさばる悪者たちの巣窟だなんて……あんな残酷なことをしたのはゲベルスだけだと信じたいけれど、アルウィンの頭にはずっとカイの言葉が残っていた。
この国は地獄だ、という一喝が。
「アルウィン、よく聞いて」
「……ブリエンさん」
アルウィンの姿に耐えられなくなったブリエンは、彼女の両手をぎゅっと握りながら口を開く。
「今の状況で先ず確かなのは、クロエは無実ってことよ。どう考えてもあの子があんな真似をするとは思えないし、あの子にはあの規模の施設を作れるほどのお金も時間もいなかったもの。そもそも……あの子、昔ある収容所の出身だと言ってたでしょ?」
「………」
「彼女から詳しい話は聞いてないけど……彼女は一種のトラウマを持っていたはずよ。とにかく、クロエに罪はないと思うの。そして……私はね?個人的に、悪魔の言葉が真実に思えてくるわ」
「ぶ、ブリエンさん……!!」
「しーっ、カルツが起こったらどうするのよ。とにかく、あなたも薄々そう感じているでしょう?昔からこの国で流れていた、孤児を連れ込んでいるという森の収容所の噂。そして、今回の事件とゲベルスの死体……説明がつかないことばかりだけど、悪魔の言う通りだと辻妻が合うわ」
「でも、ブリエンさん!相手は悪魔です!私たちの敵なんですよ!?」
「………それは」
「もちろん……っ!もちろん、私たちを助けてくれましたけど。それは、間違いないんですけど……!」
ダメだ、頭が複雑すぎてなにも考えられない。アルウィンは、今起きている出来事を受け入れるだけでも精一杯だった。
カルツに暴力を振るっていた時の少年の姿は、まごうことなき悪魔だった。だけど、その次に―――自分たちの番が回った時に、彼はなにもして来なかったのだ。
頼まれたことがあればせいぜい握手をしたくらいだけど、あの後に体内の魔力を点検したところ、なんの異常もなかった。
あの悪魔は本当に、自分たちになんの危害も与えなかった。そして、それは今まで募ってきた悪魔への偏見にヒビが入るような出来事で。
「……アルウィン。もちろん、私たちの敵は悪魔よ。それが間違いだとは思わないの」
「ブリエンさん……」
「もちろん私だって悪魔たち―――影を100%信頼しているわけじゃないの。何らかの手を使って、あの子たちが実験室を作ったかもしれないしね。だけど……もしかしたら、敵は他にもいるかもしれないわ」
「……………」
「あの実験室を作ったのが、悪魔の仕業ではないとするなら――――」
そこで、ブリエンは今までにないくらいに低い声で、言い放った。
「私たちの敵は、その施設を作った者たちになるべきよ」
「……………」
スラムから離れた、小さな村の宿で。
ブリエンとアルウィンは、互いに沈んだ顔のまま未だに眠っているカルツを見つめていた。
夜であの騒ぎがあった後、ブリエンがさっそく帝国軍を呼んでカルツを運んでもらったのだ。夜が明けても、カルツが起きる気配は見えなかった。
「……ねぇ、アルウィン」
そして、二人が目にした光景と根付いてしまった疑いは、時間が経つにつれてどんどん濃くなっていった。
「はい、ブリエンさん」
「昨日の事件、どう思う?」
口にすべき話題ではないと、分かっていながらも。
ブリエンは耐えきれず、その言葉を口にする。アルウィンはビクンと肩を跳ねさせて、ブリエンを見つめた。
「それって、どういう……」
「正直に言うとね?私は、あの悪魔がウソをついているようには見えなかったの」
「ぶ、ブリエンさん!」
「あなたもそう思うでしょ?どう考えてもおかしいもの。あの施設をクロエが一人で作り上げたとはとても思えないし、なによりクロエはそういう性格でもないわ。あの子、冷たくて冷静なところはあるけど……優しいじゃない」
アルウィンは優しい、という言葉に何も言い返せなかった。
ブリエンの言う通りなのだ。今まで重ねてきた時間が教えてくれている。クロエがそんなことをするはずがないと。暗殺者だけど、秘密も多かったけど。
でも、彼女は仲間想いで苦笑がよく似合っていた、素敵な人だったから。
「……ということは、すなわち。ブリエンさんはあの施設を作ったのが本当に……ゲベルスさんだと言いたいのですか?」
「……アルウィン」
「私は、私は受け入れられません!だって、そうなったら……なんのために戦うのか、分からなくなるじゃないですか……」
言葉尻がどんどん弱くなっていく。アルウィンの顔には、もはや泣き出す寸前の憂鬱さが浮かんでいた。
エルフのブリエンは森の出身だから、冷静にいられるかもしれない。でも、自分は帝国で生まれて、帝国の民を救うために勇者パーティーに入ったじゃないか。
なのに、その帝国が実は、悪がのさばる悪者たちの巣窟だなんて……あんな残酷なことをしたのはゲベルスだけだと信じたいけれど、アルウィンの頭にはずっとカイの言葉が残っていた。
この国は地獄だ、という一喝が。
「アルウィン、よく聞いて」
「……ブリエンさん」
アルウィンの姿に耐えられなくなったブリエンは、彼女の両手をぎゅっと握りながら口を開く。
「今の状況で先ず確かなのは、クロエは無実ってことよ。どう考えてもあの子があんな真似をするとは思えないし、あの子にはあの規模の施設を作れるほどのお金も時間もいなかったもの。そもそも……あの子、昔ある収容所の出身だと言ってたでしょ?」
「………」
「彼女から詳しい話は聞いてないけど……彼女は一種のトラウマを持っていたはずよ。とにかく、クロエに罪はないと思うの。そして……私はね?個人的に、悪魔の言葉が真実に思えてくるわ」
「ぶ、ブリエンさん……!!」
「しーっ、カルツが起こったらどうするのよ。とにかく、あなたも薄々そう感じているでしょう?昔からこの国で流れていた、孤児を連れ込んでいるという森の収容所の噂。そして、今回の事件とゲベルスの死体……説明がつかないことばかりだけど、悪魔の言う通りだと辻妻が合うわ」
「でも、ブリエンさん!相手は悪魔です!私たちの敵なんですよ!?」
「………それは」
「もちろん……っ!もちろん、私たちを助けてくれましたけど。それは、間違いないんですけど……!」
ダメだ、頭が複雑すぎてなにも考えられない。アルウィンは、今起きている出来事を受け入れるだけでも精一杯だった。
カルツに暴力を振るっていた時の少年の姿は、まごうことなき悪魔だった。だけど、その次に―――自分たちの番が回った時に、彼はなにもして来なかったのだ。
頼まれたことがあればせいぜい握手をしたくらいだけど、あの後に体内の魔力を点検したところ、なんの異常もなかった。
あの悪魔は本当に、自分たちになんの危害も与えなかった。そして、それは今まで募ってきた悪魔への偏見にヒビが入るような出来事で。
「……アルウィン。もちろん、私たちの敵は悪魔よ。それが間違いだとは思わないの」
「ブリエンさん……」
「もちろん私だって悪魔たち―――影を100%信頼しているわけじゃないの。何らかの手を使って、あの子たちが実験室を作ったかもしれないしね。だけど……もしかしたら、敵は他にもいるかもしれないわ」
「……………」
「あの実験室を作ったのが、悪魔の仕業ではないとするなら――――」
そこで、ブリエンは今までにないくらいに低い声で、言い放った。
「私たちの敵は、その施設を作った者たちになるべきよ」
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