トップランカーだったゲームに転生した俺、クソみたいな国を滅ぼす悪役集団の団長になる。

黒野マル

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51話  真実を知りたい?

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5人の十字軍が派遣された、翌日。

執務室で、教皇は報告を聞いて顔を歪ませていた。


「まだ帰ってきていないだと……!?一体なにが起こっているんだ!」
「げ、現状では把握することができません!未だになんの連絡も来ない状態でして……」
「ラウディ商会が十字軍を殺したとでも言うのか!くそ……もう誰も聖水を買わなくなったぞ!一刻でも早くパワーエリクサーの製造法を手にすべきなのに……!」
「しょ、商会の錬金術師たちを脅すのはいかがでしょう?それなら、目的は達成できて―――」
「バカめ、知らしめないとダメじゃないか。教会に歯向かう、神聖なる神の力に対抗する者たちの末路がどうなるのか、人々にきちんと教え込むべきだろ!あいつらを見せしめにしなきゃいけない!」
「は、はい!では、追加の十字軍を派遣させた方がいいでしょうか!?」
「そうだな……チッ、本当に何が起きているんだ」


日付が変わっても帰ってきていないなんて、状況がおかしすぎる。秘書役の神父が出て行って、教皇は一人で頭を抱えながら考える。

まさか、十字軍が殺された?いや、そんなはずはない。いくらラウディ商会とリエルが教会に反感を持っているとしても、十字軍に手を出すのは宣戦布告だ。

この国を丸ごと敵に回すような行為なのだ。人々の評判と交渉が命である商会が、そんな真似をするはずはない。

なら、軟禁か?いや、そもそも十字軍に勝てる護衛兵士が商会にいるのか?一体、なにがどうなってるんだ……。


「クソ……あの娘、ここまで状況をややこしくするなんて。最悪の屈辱を味合わせなきゃ」


お前もコレクションに入れてやろう。さんざん弄んで、魂も体も徹底的に汚し尽くした後に、火あぶりにするのだ。

そうしないと、辻妻が合わない。ここまで俺の頭を煩わしくするなんて。


「ヒムラー様、アルウィンです。入ってもよろしいでしょうか?」


その時、ノックの音と共に聞こえてきた少女の声に、教皇はビクンと肩を跳ねさせた。


「はい、アルウィン。どうぞ中へ」
「ありがとうございます」


間もなくして薄い茶色の髪をした少女が中に入り、教皇はさっきと打って変わって優しく微笑みかける。

勇者パーティーのヒーラーは、嬉しそうにしながら教皇の前に座った。


「また、カルツ様と一緒に旅に出るんでしたっけ?今回の目的地はどこですか?」
「ここからけっこう離れているAランクダンジョンに挑戦したいとおっしゃってたので、明日からそちらに行くことになってます」
「ほう、もうAランクダンジョンですか……さすがはカルツ様、成長が早いですね」
「はい。まるで取りつかれたように、訓練だけを重ねていらっしゃいますから……」


教皇は微妙な顔で頷く。アルウィンに聞いた限りだと、カルツは精神的にかなり参っているみたいだった。

元々柔軟性のある性格ではなかったが、スラムでの一件を経てその頑固っぷりがさらに酷くなったと言う。

おかげで、彼に合わせているアルウィンとブリエンが大変な思いをしていると。


『ふふっ……まあ、勇者のことなんかどうでもいいけど』


カルツを勇者として選んだ理由は簡単だった。凄まじい才能と、その才能に全く見合わない破滅的な知性を持っているから。

要するに、帝国側からしたら利用しやすいと思ったわけだ。聖剣が彼を選んだのは決して意図したことではないが、彼が利用しやすいバカであることに変わりはない。

だから、アルウィンまで派遣して一緒に行動するようにと言い伝えているのだ。

彼女もまた、随一と言っても過言ではない才能を持っているから。


『もし、その神聖力じゃなかったら、この子も閉じ込めて……ふふっ、いや。今更そうすることは不可能か』


アルウィンの疲れたような表情を見て、教皇は心の中でうっすらと笑う。

彼女を拾ったのは本当に偶然のことだった。ある日、教会の正門に赤ん坊が泣いていると言って、性別を確かめてから仕方なく引き取ったのがアルウィンだったのだ。

その溢れんばかりの神聖力じゃなかったら、彼女も他のシスターたちと同じ扱いをされていただろう。

しかし、ただのおもちゃとして置いておくには、彼女のポテンシャルが凄まじすぎた。だから、彼女を弟子として迎え入れ、育てることになったのだ。

幸い、彼女は元々疑い深い性格ではなく、自分たちが抱えているやましい部分に気づくことはなかった。だからこそ、彼女が今まで無事にいられたのだ。


「最近、ヒムラー様の顔色が悪いですね。時にはゆっくりと休んだ方がいいんじゃないですか?」
「いえいえ、アルウィン。私はこの国の教皇。人々を正しい方向へ導き、死後の天国まで案内しなきゃいけませんので」


教皇は知っている。アルウィンは、自分にかなりの信頼を寄せていた。

彼女からしたら、教皇は行き場のない自分を引き取って家を与え、色々なことを教えてくれた恩人なのだから。


「それでも、健康が一番ですよ?ふふっ、神聖魔法でもかけましょうか?」
「ははっ、アルウィンのその優しい言葉だけでも力が湧きました。さぁ、早く行ってください。カルツ様が待っていますよ?」
「……………………はい」


アルウィンは気まずそうな表情をした後に、お辞儀をしてから部屋を出て行く。

教皇はニヤッと笑いながら、アルウィンの姿を思い出した。


「ああ……惜しいな、アルウィン。お前のことを、一度は抱いてみたかったのだが……」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



―――アルウィンの気持ちは曇っていた。

明日からまた1週間、いや2週間ほどの戦闘が待ち受けている。スラムでの事件があった以来、カルツはとうとう羽目を外すことになった。

自分が正義だ、自分の信念が間違っているはずがない。そういう言葉をぶつぶつ言いながら、やや狂気じみた様子で戦うようになったのだ。

それにつれて、ブリエンや自分に対する当たりも強くなったじゃないか。

どうしていつも休もうとするんだ。肉体的な疲労は心意気と信念で克服できる領域だ。この程度で本当に、悪魔を倒せると思うのか……と。


「…………ふぅ」


分かっている。あの時、自分たち3人は悪魔に手も足も出せなかった。

カルツはボコボコにされていたし、ブリエンと自分は本能的な恐怖を感じて、あの少年の言葉に従順に従ってしまった。

その事実が、カルツにとってはとてつもない屈辱だったのだろう。その羞恥心を少しでも拭うために頑張っているのは分かるが―――これはちょっと、歪すぎる気がする。


「……クロエさん」


前は、こんなんじゃなかった。前は、クロエがいたからだ。

彼女はいつだって、自分やブリエンの代弁者だった。カルツに向かって堂々とものを言い、行き過ぎた行動にはきちんと注意をしながら、パーティー全体を上手く転がす潤滑剤のような存在だったのだ。

だからか、今の3人しかいない勇者パーティーはギシギシと、不吉な音を上げている。

ブリエンはもう疲れ切って、カルツに何を言われようがめんどくさそうな反応をするようになったし。

アルウィン自身だってそれを仲裁する過程で……けっこう、ストレスを感じているのである。


「……神よ、教えてください」


幼い頃からずっと使っていた、狭い祈りの部屋。

アルウィンはそこで跪いて、両手をぎゅっと握りしめながら切実な声で言った。

少しでも、答えを知るために。


「私が今歩んでいるこの道は、本当に正しいものですか……?私はあなたの言葉を、聖書を根拠にしてずっと生きてきました。教えてください、神よ。悪魔の力はあまりにも強大で、100年が経っても勝てるようにはみえませんでした」


告解をすると、少しは気持ちが軽くなる。

しかし、これから口にする質問がアルウィンの心をもっと、重くさせた。


「しかし、神よ……悪魔は、本当にその少年少女だけなんですか?」


自分は見てしまったから。スラムの森の中にあった、あの残酷な実験室を。


「この国にも悪魔がいるなら、いえ……この国のもっとも高貴なる方々がもし人間じゃない悪だとしたら、私は一体なんのために戦っているのですか?教えてください……あなたの従者が、答えを求めています。神よ、神よ……私は、真実が欲しいです」


いっそのこと、なにも知らない方がよかったと思う。そうしたら、こんな苦しい思いをせずに済んだのだから。

だけど、スラムで帰ってきてから芽生えた混乱は段々と膨らんで、いつの間にか自分の心を飲みつくしていた。迷いが生じてしまった。

正直に言うと、今のカルツは悪魔を倒せる勇者にも見えなかったし、この帝国が善だとも思えなかった。

だから、アルウィンは毎日神に祈ったのだ。答えを教えてくださいと、なにがあなたが決めた善なのかと。


「…………………ふぅ」


しかし、そう簡単に答えが出るわけがない。諦めて、アルウィンは立ち上がって部屋から出て行こうとする。

だけど、その瞬間。


「アルウィン」
「………………………………………………え?」


聞こえるはずのない声が、ドアの向こうから聞こえてきた。

懐かしい声色。心から信頼した仲間の声。気が付けばアルウィンはすぐさまドアを開けて、その声の主を確かめていた。


「……クロエさん!!」


そして、黒髪をしている大人びた少女は、苦笑を浮かべながら言い放つ。


「真実を、知りたい?」
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